こんにちは。life styleに「絵本の力」を取り入れ、楽に成果を出し、楽しい未来の選択ができるようになる方法をご提案している、絵本スタイリスト®景山聖子です。
先日、電車の中で、赤ちゃん連れの親子と同じ車両になりました。赤ちゃんは1歳くらいの男の子でした。電車の中は混雑していて、居心地が悪かったのでしょう。ベビーカーの中でだんだんぐずりだし、最後には大声で泣き出しました。
そこでパパがスマートフォンを手に取り、動画を見せ始めます。すると赤ちゃんは一瞬でぴたっと黙り、食い入るように画面を見つめます。
周りの人も、混雑時に大泣きされ、不快に思っていたのかもしれません。ホッとしたかのように、親子をじろじろ見るのをやめました。
ところがその時ママが、パパからスマートフォンを取り上げたのです。そして代わりに、絵本を開きました。でも赤ちゃんは動画を求めて、また泣き始めてしまいます。
そこで再びスマートフォンを差し出すパパと、それを遮るママ。最後には、夫婦げんかになってしまいました。
私は遠くからその様子を見ていて、なんともいたたまれない気持ちになりました。なぜなら、お母さんが手に取った絵本が、3歳頃のお子さん対象の絵本だったからです。
もし、1歳という年齢に合ったものだったら、動画だけでなく、絵本にも見入ってくれたかもしれません。または普段から、1歳児が一番楽しいと思える絵本を与えることを習慣化していたら、とっさの時のレスキューとして、絵本が役に立ったのかもしれません。
私が代表を務めるJAPAN絵本よみきかせ協会には、このような緊急時のお助け道具として、絵本を使うママがたくさんいます。年齢に適したものならば、絵本は、親御さんの強力な味方になるのです。
このように、絵本には「与えるのに適している年齢」があります。今回は、年齢別の絵本の選び方についてのお話です。
5分以内? 10分以内? 読み終えるのに必要な時間が「目安」
日本では「ミッフィー」の愛称で親しまれている、なじみ深いこちらの絵本。
1955年にオランダで制作され、日本に入ってきたのが1964年。今でも世代や国境を超えて、愛され続けている作品です。
この絵本が「うさこちゃんの絵本」として、シリーズ化されていることを知っている方は多いかもしれません。
でも、シリーズのすべての絵本がたったの12ページで、10分以内で読めてしまう量だということをご存知でしょうか? 実際は、どれも4分程度で読めてしまいますね。実は、これには理由があるのです。
「12場面の理由」幼児が読書をふくめた遊びで集中できる限界が10分ということに着目し、その間によみきれるページ数として割り出されました。
(引用:講談社 編集, ディック・ブルーナ 監修, メルシス社 監修(1999),『ディック・ブルーナのすべて』,講談社.)
幼児は、もともと10分程度しか集中できないことが自然なのだそうです。電車内でもレストランの中でも、子どもが長時間おとなしくしていられないことは、当然なのかもしれません。
ですから絵本も、小学校入学前の3~5歳児には、5分程度で読み終わるものを目安に、絵本を選ぶといいでしょう。いくら子どもの興味を引き付ける内容だとしても、長くても7分程度で読み終えることのできる絵本が適しています。
小学校1~4年生頃までは、10分程度までの絵本を選ぶのが妥当です。3~4年生頃は読むのに15分程かかる絵本でも聞いてくれる年代なので、伝える技術に自信のある方にとっては、腕の見せ所でもあります。
このように、絵本が子どもの年齢に合っているかを判断する上で、「読むのに何分かかるか」はわかりやすい目安になります。
年齢別おすすめ絵本は「6歳」がキーワード
6歳頃までのお子さんは、絵本の世界における体験を自分の「心の原風景」にします。詳しくは、連載第1回『私たちが知らなかった、幼少期に絵本の読み聞かせをするべき”本当の理由”』でお話ししました。
今「あなたらしさ」「あなたのままで」という言葉が大切にされていますね。心の原風景とは、まさにその「あなたらしさ」という自分のありのままの状態を意味します。
生後6年という限りのある時間。この最初の6年間は、我が子のこれからの人生すべてに影響を与える「心の原風景」として何を残してあげるかを、親自身が選ぶことのできる時期でもあります。
「年齢別絵本の選び方」と聞くと、各年齢の子どもが喜ぶ、絵本のおすすめ本を期待されるかもしれません。でも、今回はそのお話はしません。
なぜならば、今の時代、インターネット上で検索するだけで、この情報はすぐにわかるからです。それよりも、とても重要なことがあります。
今まで私は、絵本による、多くの子どもの変化を目の当たりにしました。そして、絵本そのものの心理学上の特色と、行動心理学に関する知見から、なぜ絵本で人の可能性が開かれるのかを検証してきたつもりです。
そこからお伝えしたいことは、ただ一つ。キーワードは「6歳」です。6歳頃までに、あなたが我が子に体験して欲しい世界が描かれた絵本を与えることです。
もちろん、それ以降も方法はあります。でもやはり、キーワードは6歳なのだと感じています。
そして6歳以降は、「ありのまま」の自分を大切にしながら生きていけるように、我が子を守る「知識・知恵の素」となる内容の絵本を選んであげてください。
お子さんへの「夢」を絵本に託して
どのような世界観を描いた絵本がいいのだろう? そう疑問に思う方もいらっしゃるかもしれません。でもこればかりは、親御さんによって異なるもの。一概には言えないのです。
こんなふうに親は、我が子に「こんな人になって欲しい」という夢をたくさん持っています。そしてそれは、それぞれの親御さんによって違います。
その夢が描かれた絵本をお子さんに与えることで、その子は、その世界にいることが自然だと思うようになるのです。
あなた自身がそう思える内容の絵本を与えてあげてください。
我が子を一生支えてくれる絵本のメッセージ
冒頭のミッフィーの絵本の作者、ブルーナさんは「安心」「あたたかさ」をテーマに生きた方です。
ロングセラーの「うさこちゃん」シリーズの絵本では、たとえ悲しいテーマを扱ったとしても、最後は安心した表情のうさこちゃんの、あたたかい絵で終わります。
実はこの世界観は、作者のブルーナさん自身が幼い時に読みたかった世界なのだそうです。自分がこんなふうに生きたかったのですね。
あなたが与えた絵本のお話や、絵本を通して伝わるメッセージは、永遠にお子さんの人生に影響を与えます。それは、命の順番が来て、あなたがこの世から離れた後も、愛する我が子が道に迷った時の道しるべになるのです。
人生のずっと先、我が子が困ったときに、今まで通りあなたに助言を求めたり、話を聞いてもらったりすることができなくなる日も、いつか訪れるでしょう。
あなたはその日のために、我が子に何を残してあげますか?
今のあなたにできるのは、あなたがお子さんに伝えたいメッセージのある絵本、そしてお子さんへの夢を体現した世界観が描かれた絵本を与えることです。
あなたとの絵本の思い出の中の数々のメッセージが、将来、あなたの代わりに、お子さんをしっかりと支えてくれることでしょう。
さて、14回にわたりお送りしてきた「絵本よみきかせコーチング」。いかがでしたでしょうか? 私がすべての回を通して一貫してお伝えしたかったのは、絵本は子どもに対しても大人に対しても、人生の質をまったく変える、大きな力を持っているということ。
そのことが、少しでも皆さまに伝わっていたとしたら、私はとても幸せです。実はおかげさまで、この連載はシーズン2が決まり、9月からまたお目にかかれることになりました。ありがとうございます。
夏の終わり、皆様のお役に立てる新たな情報を携えて、お目にかかれたら嬉しいです。
(参考)
ディック・ブルーナ 作, 石井桃子 訳(1964),『ちいさなうさこちゃん(ブルーナの絵本)』,福音館書店.
講談社 編集, ディック・ブルーナ 監修, メルシス社 監修(1999),『ディック・ブルーナのすべて』,講談社.