2018.5.19

子どもの「感受性」と「想像力」。絵本の読み聞かせ方を変えるだけで、その両方が同時に育つ?

景山聖子
子どもの「感受性」と「想像力」。絵本の読み聞かせ方を変えるだけで、その両方が同時に育つ?

こんにちは。life styleに「絵本の力」を取り入れ、楽に成果を出し、楽しい未来の選択ができるようになる方法をご提案している、絵本スタイリスト®景山聖子です。

以前「子どもが夢中になる絵本の読み聞かせ方」という講演で、東北へ行った時のことです。講演後、出版本のサイン会を通して、いろいろな方の声を直接うかがうことができました。その時に、こんな話をし、泣き崩れた方がいらしたのです。

私は30年以上も、読み聞かせボランティアをしてきました。その際、読み聞かせというものは、棒読みでなければいけないと教わりました。

ですから、読み聞かせをしていて「嬉しさ」や「悲しさ」のような感情が自然にわいてきても、いつもそれをおさえて、機械のように棒読みをしてきました。それが子どものためになると聞いたからです。

でも今日の講演で、読み聞かせは棒読みだけじゃないことを初めて知りました。もう少し早く知ることができたなら、この30年間をもっと楽しめたのに……。

実はこのように「絵本の読み聞かせは棒読みで行うべき」だと思っていらっしゃる方が、全国にはとても多いのです。もちろん棒読みは、読み聞かせ方の一つです。特に、子どもの「ある能力」を育むために、有効な方法になります。

しかし、効果的な読み聞かせ方は、これだけではありません。目的に合わせて、異なる方法を使い分けることで、子どもの様々な力を同時に育むことができるのです。今回は、目的別の絵本の読み聞かせ方についてお話しします。

子どもの「感受性を豊かにする」読み聞かせ方法とは?

ベストセラーの絵本に『おおきなかぶ』という作品があります。これは、おじいさんやおばあさん、孫、犬や猫までが、かぶを抜こうと皆で力を合わせて引っ張るというお話です。とても有名な絵本なので、皆さんも一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。

さて、私の絵本講座にいらしてくださるお二人の方に、この絵本を読み聞かせていただきました。

一人は保育士をしている21歳のSさん。普段のお仕事での経験を生かし、子どもとコミュニケーションをとりながら、楽しく読み聞かせてもらいます。絵本は、優しい絵が印象的な、いもとようこさんの『おおきなかぶ』を選びました。

おおきなかぶ
次はだれがやってくるかな? 今度は抜けるのかな?

こう話しかけながら、ワクワクするような感情と抑揚をふんだんに入れて、読み聞かせをしてくれました。

すると、終わってからこんなことが起こりました。バスタオルを真ん中にして、両側から綱引きのように、子どもたちが大勢でタオルを引っ張り合うゲームを始めたのです。まさに絵本のように、皆で力を合わせて引っ張ることを楽しんでいるかのようでした。

終わってから、Sさんに「どのような気持ちで読みましたか?」と聞くと、こんな答えが返ってきました。

みんなで何かするって、楽しい。

その後、子どもたちの熱気が静まってから、今度はお孫さんがいらっしゃる85歳のAさんに、1966年からの定番『おおきなかぶ』を読んでいただきました。

その際、「棒読みではなく、わいてくる自然な感情を入れて読み聞かせてください」とお願いしました。すると、何が起こったと思いますか?

なんと今度は、子どもたちが泣き出したのです。そして、口々にこのようにつぶやくのです。

がんばろうと思った……!

終わった後、Aさんに「どのような感情を込めたのでしょうか?」と聞いてみました。すると、こんなお話をされました。

「うんとこしょ、どっこいしょ」と、かぶの重さを表現する場面で、戦時中、食料の買い出しの時に背負った、荷物の重さを思い出しました。「いくら重くても、頑張って運ばないと生きていけない」と感じたその瞬間が、頭にふとよみがえったのです。

そして、かぶも同じように「なかなか抜けなくても、抜けるまで頑張って引っ張らないとね」と子どもたちに伝えたいと思いました。そこで読み聞かせの際は、そんな自然な感情を込めました。

子どもには、読み手の「自然な感情」が伝わります。その人の想いや生き様が、読み聞かせに如実に反映されるのです。

保育士のSさんからは「みんなで何かをすることの楽しさ」。85歳のAさんからは「やりぬくことの大切さ」。同じ内容の絵本でも、読み手の想いによって、子どもたちに伝わるメッセージはこれほどまでに変わるものなのですね。

感情を込めて行う読み聞かせは、子どもたちに様々な想いを伝えることで、子どもの感受性を豊かにします

そして、さらに「あなたの経験」を、次世代の子どもに託すことができます。85歳のAさんはこの日、こんなお話をされました。

私の生きた証を、次の世代に手渡せたような感覚がわきました。嬉しいです。

このように、自然な感情を込めて読み聞かせを行うことで、聞き手である子どもの感受性を伸ばすだけでなく、読み手である自分自身のやりがいを高めることもできるのです。

この日、同じお話しか聞いていないのに、子どもたちは大満足でした。そして読み聞かせをした大人たちも、幸せな気持ちに包まれました。

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子どもの「想像力を育む」読み聞かせ方法とは?

後日このお二人に、別のお話会に集まった子どもたちに『おおきなかぶ』の2冊を読み聞かせていただきました。今度はお二人とも「自分の感情は表現せず、棒読みで読んでください」とお願いしました。

まずは前回同様、保育士のSさんに、いもとようこさんの優しいタッチの絵本で読み聞かせをしてもらいます。その時、子どもたちはどのように感じたのでしょうか? その場で耳にした、子どもの感想をご紹介しましょう。

おおきなかぶ
  • 絵がかわいい!
  • あんな大きなかぶがあるんだとびっくりした!
  • あの後、かぶはどうやって食べたのかな?

 
このように、今度は絵から想像したことや、ストーリーを聞いて頭に浮かんだことを、我先にと訴えるように話し出したのです。

次に、1966年からの定番の絵本を、85歳のAさんに棒読みで読み聞かせてもらいます。さて、子どもたちは、どんな感想を口にしたと思いますか?

  • あたしなら、ひっぱらず、シャベル持ってくる!
  • ネズミに声をかけるよりも、ライオンに声をかけたほうがよかったんじゃない?

 
こちらも、想像力をふんだんに働かせて、かわいらしい言葉を自ら紡ぎだしてくれました。

このように、棒読みで読み聞かせをすると、子どもの想像力が活性化し、子どもたちの頭に様々な考えが浮かぶようになるのです。ストーリーを元に、イメージする力が育まれるのですね。

どちらもあり! 違いを知り、両方とも与えてあげましょう

自然な感情を込めて読み聞かせをすると、子どもの感受性が育ちます。同時に、あなたがこの世に生きた証を、次世代を担う子どもたちに託すことができるでしょう。

一方、棒読みで読み聞かせをすると、子どもの想像力が育まれます。絵本の絵から直接は見えない部分、絵本を閉じた後のお話の続きの世界に、子どもなりに思いを馳せるようになるのです。

感情を込めるのも、棒読みも、それぞれ異なるメリットのある読み聞かせ方だといえます。両方とも実践することで、同じ絵本でも2倍の力を、子どもに与えることができるでしょう。

冒頭でご紹介した、30年間棒読みで読み聞かせをしてきた女性の、その後のお話です。

この30年間が無駄ではなかったことに気づきました。今までの棒読みでの読み聞かせを通して、私は子どもの想像力を育むことに貢献できたのですね。

自分の人生経験も豊かになった年齢なので、これからは、自然な感情を込めた読み聞かせも取り入れていきます。そして、いろいろな感じ方があっていいことを、子どもたちに伝えられたらと思っています。

このように、より生き生きと、2つの読み聞かせ方を実践しているそうです。みなさんも、両方のメリットを生かしながら、ぜひ楽しんでお子さんへの読み聞かせに取り組んでみてくださいね。

(参考)
いもとようこ(2007),『おおきなかぶ(いもとようこ世界の名作絵本)』,金の星社.
A.トルストイ 作, 佐藤忠良 絵, 内田 莉莎子 訳(1966),『おおきなかぶ』,福音館書店.