2018.9.23

子どもの感性を刺激する「レオ・レオニ」の世界~アートと哲学がつまった傑作3選~

長野真弓
子どもの感性を刺激する「レオ・レオニ」の世界~アートと哲学がつまった傑作3選~

小さな黒い魚が主人公の絵本『スイミー』。小学校の教科書で読んだことがある方も多いでしょう

作者であるレオ・レオニは生涯で40冊近くの絵本を残しています。それらは、子どもにはもちろん、大人になった今手にとっても魅力的です。

可愛らしいお話に潜む世界観はとても深く、アート性に富んだ数々の絵はオリジナリティ溢れ、私たちの記憶に残ります。そんな色褪せないレオ・レオニの世界を改めて見ていきましょう。

レオ・レオニについて

レオ・レオニは1910年5月5日生まれ(こどもの日ですね!)。オランダで生を受け、オペラ歌手の母とアートコレクターの叔父たちの影響で、芸術が身近な環境で育ちました。オランダ王立美術館でデッサンするなど絵の勉強もしています。

その後、ベルギー・ブリュッセル、アメリカ・フィラデルフィア、イタリア・ジェノバなどを転々とします。イタリア時代には、ナチスの影響で閉鎖されたバウハウス(ドイツの美術・工芸学校)のアーティストたちをイタリアに呼び寄せ助けたりもしています。

ユダヤ人であった彼は、その後イタリアのファシズム台頭をきっかけにアメリカに亡命。フィラデルフィアで広告代理店、ニューヨークではグラフィックデザイナーや美術学校講師などで活躍した後、49歳の時『あおくんときいろちゃん』で絵本デビュー。これはお孫さんのために作ったものでした。52歳で再びイタリアに戻り、イラストレーターや彫刻の仕事をしながら絵本制作を続けました。

経歴からも彼は生粋のアーティストであることがわかりますね。

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レオ・レオニの世界観とその魅力

半世紀にもわたって愛され続ける彼の絵本の魅力はどこにあるのでしょうか。大きく2つの側面が挙げられます。

【魅力1:アート性の高い絵】

それは、まず「絵」にあります。水彩、色鉛筆、コラージュなど様々な手法を駆使して創り上げた作品は味わい深く、自然な色調がそれにマッチしています。

それでいて、ねずみやさかなの愛嬌あるキャラクターはこども心を掴んで離さない可愛らしさ。絵本に抽象表現を取り入れたのは彼が初めてだそうで、唯一無二のオリジナリティによってキャラクターたちは子どもの想像力を刺激し、心に刻まれるのです。

一枚一枚からイマジネーションは広がり、ほんわか優しい気持ちにさせられる彼の絵は、時代を超えて愛されています。

【魅力2:読むたびに深まっていく世界観】

レオ・レオニの絵本の最大の特徴は彼の人生哲学がどの本にも潜んでいることです。3冊の絵本とともに、その魅力をお伝えします。

『スイミー 小さなかしこいさかなのはなし』(好学社)
レオ=レオニ/作
谷川俊太郎/訳

スイミー 小さなかしこいさかなのはなし

家族は皆赤いお魚なのに、一匹だけ真っ黒のスイミー。このシチュエーションだけでいじめられる展開が頭に浮かびますが、レオ・レオニはそういうストーリーにはしませんでした。家族がいなくなって一匹になっても生き抜こうとする強さ、新しい仲間の中で力を合わせることを説く優しさ、自分の特徴を生かす道を見つけ実行する賢さと勇敢さ。理不尽な世の中にあっても前向きに、自分を素直に見つめ考え成長していく物語は、こども心にも無意識に彼の思いが伝わるものでしょう。

『フレデリックーちょっとかわったねずみのはなし』(好学社)
レオ=レオニ/作
谷川俊太郎/訳

フレデリックーちょっとかわったねずみのはなし

冬に備えてせっせと食べ物集めに勤しむ仲間を尻目に、働かずぼーっとしているフレデリック。「お日様や色やことばを集めているんだ」と言います。そんな彼に仲間はちょっと怒り気味です。冬になり蓄えた食べ物も尽きかけ皆の心が荒んできた頃、フレデリックは集めた「光」や「色」や「ことば」を語り始めます。目を閉じて聞く仲間たちの心はどんどん癒され満たされていくのです。“物質的な豊かさ”だけではなく“心の豊かさ”の大切さを考えさせてくれるお話です

『ペツェッティーノーじぶんをみつけたぶぶんひんのはなし』
レオ=レオニ/作
谷川俊太郎/訳

ペツェッティーノーじぶんをみつけたぶぶんひんのはなし

主人公はなにか四角いもの、名前は「ぺツェッティーノ」。なんの形もなさない自分は何かの“部分品”に違いないと自分探しをする物語です。最後にぺツェッティーノは叫びます。「ぼくはぼくなんだ!」レオ・レオニの話の中でも特に哲学を感じる作品です。可愛らしいキャラクターが出てこない分、アート性も高く、子どもの想像性を高める素晴らしい本だと思います。プロテニス選手である大坂なおみ選手もおっしゃっていた「自分は自分」という人生で一番大事なこと(アイデンティティー)に気づかせてくれる傑作です。

***
レオ・レオニの作品は、いつまでも手元に残しておきたい絵本たちです。子どもの時は単純に可愛い絵を楽しめばいいと思います。文字が細かく多いものもあるので、お子さんが小さいうちは読み聞かせに最適、小学生になれば自分で読むのにいいでしょう。

時間が経ち大人になって読むと、レオ・レオニの哲学に気づき新鮮な思いになります。感じ取る世界観が成長とともに変化していき、何度も読み返すことで、深みを増していく彼の本は、“絵本”というジャンルのアートです。一生の宝になる一冊をぜひお子さんと見つけてください。

折しも、2018年夏から2020年春まで「みんなのレオ・レオーニ展」が日本全国を巡回中。貴重な原画などを見ることができる絶好の機会となりそうですね。

(参考)
みんなのレオ・レオーニ展
Wikipedia|レオ・レオニ
Internet Museum|レオ・レオニ 絵本のしごと
KARUIZAWA NEW ART MUSEUM|レオ・レオニの絵本の世界:『フレデリック』
AIGA the professional association for design|Leo Lionni