芸術にふれる/アート/デザイン 2018.10.24

素直な感性を持っているうちに読んでほしい! 感度の高い名作絵本4選【ブルーノ・ムナーリ】

長野真弓
素直な感性を持っているうちに読んでほしい! 感度の高い名作絵本4選【ブルーノ・ムナーリ】

ブルーノ・ムナーリはイタリアのデザインの父とも言われる天才です。その彼が晩年、子どものための造形教育に力を注いだことは日本では意外と知られていないかもしれません。

彼が教育に目覚めたのは息子のために作った絵本がきっかけでした。デザインの天才が作る絵本ですから、それらはとても凝ったものです。

日本のある書店では“大人の絵本”というカテゴリーにおかれているほど完成度も高く、そんな感度の高いアート作品とも言える名作に、子どもの頃から触れることは感受性に大いに影響を与えうると思います。

今回はそんな彼の名作をご紹介します。

ブルーノ・ムナーリと絵本

息子(アルベルト・ムナーリ)が5歳の時、「プレゼントしたい本がないから自分で作ろう」と1945年に最初の絵本シリーズ「ブルーノ・ムナーリの1945シリーズ」(全10冊)が作られました。

当時は文章中心で絵は挿絵程度の絵本が主流だったそうですが、後に息子アルベルトが「まるでおもちゃのような絵本」と言っているように、ムナーリの絵本は子どもを楽しませるアイディアがたくさん詰まった画期的なものでした。今でいう仕掛け絵本なのですが、ストーリーの流れに沿ってページ構成を絶妙に変えて、読み進めていくと2次元の絵本なのに3次元の世界に引き込まれるように生き生きとした躍動感が感じられます。

凝った仕掛けと言ってもそれは複雑なものではなく、ムナーリのデザイン哲学を貫いたシンプルさで、霧の様子をトレーシングペーパーで表したり、距離や時間の変化をページのサイズで表現するなど、こだわり抜かれた絵本たちはまさにアートです。

これら子どものための実験的な彼の絵本は、「小さなノーベル賞」と言われる児童文学賞「国際アンデルセン賞」を1974年と84年に受賞するなど世界的にも認められました。

小学生におすすめの絵本4選

「たんじょうびのおくりもの」をはじめとする有名な1945シリーズは、ムナーリの息子への愛がとても感じられる絵本で、小さなお子様から楽しめます。

今回は少し背伸びして、小学生にオススメの4冊をご紹介しましょう。もちろん園に通う子どもたちでも楽しめますよ!

<1> 『きりのなかのサーカス』(フレーベル館)

ブルーノ・ムナーリ/作
谷川俊太郎/訳

ムナーリの絵本の中でも評価の高い洗練された1冊です。サーカスへ向かう道、サーカス見物、帰り道の3場面に別れていて、街にたちこめる霧はトレーシングペーパーを重ねることで表現されています。霧の中に浮かぶ電車や車、信号やカラスなどの機械的なシルエットは、どんよりした“重さ”となって「早くサーカスを見たい」もどかしさをも感じさせてくれるよう。

サーカス会場に到着すると一気にカラフルな世界! ピエロや動物、楽器など、様々な色とともにサーカスの世界が描かれます。所々にあいた穴から見える違う色は美しいコントラストを生み、穴から覗くモノは前後の流れを繋げる仕掛けにも。

そして、帰り道。行きとは違い、サーカスの余韻を楽しむように木々を抜け歩く穏やかな夕暮れが再びトレーシングペーパーで影絵のように映し出され、静かにお話は終わります。

言葉は少なく、“視覚から得た想像力で読む本”と言っていいでしょう。起承転結がある物語というよりは、一連の美しい映像を見せられたかのような完成度の高い作品で、この大人びた1冊が子どもたちの感性にどう響くのかが楽しみです。

 

<2> 『闇の夜に』(河出書房新書)

ブルーノ・ムナーリ/作
藤本和子/訳

こちらの絵本も紙の素材を生かした3部構成の1冊です。夜の街を歩く場面から始まります。真っ黒な紙に、浮かび上がる建物や人物はブルーのシルエットで描かれます。

暗闇の中に可愛いネコちゃんがチラチラ現れて可愛らしさを加えていますね。闇夜が終わりを告げる頃、草原へ。夜明けの薄明るいぼんやりした空気はトレーシングペーパーで表現。ページをめくるたびに草の陰から現れるカタツムリやカブトムシ、ムカデ、クモなどなど。可愛らしい場面だけではなく、死んでしまった鳥に群がるアリも描かれ、リアリティをも感じさせます

灰色の少しざらっとした手触りの紙やギザギザにあけられた各ページに連なる穴など、絵とページをめくる手から伝わる触感で想像力を掻き立てられる仕組みになっています。まるで映像を見ているかのような不思議な感覚。そして子ども達にとっては、草原の生き物や洞窟の壁画など、興味を誘い、学びにつながるような内容も魅力的です。

 

<3> 『Bruno Munari’s ABC』(Cronicle Books)

ブルーノ・ムナーリ/作

英語を学び始める時にぜひ手に取りたい1冊です。

軽妙軽快な絵とアルファベットごとにゴロ良く組み合わされた英単語は楽しく読めます。”an Ant on an Apple” “a Banana and a Book” “a Crow on a Cup”など、意味がわからなくてもリズムを取るように口ずさむことで、音読としての英語学習効果も望めそうです。可愛らしい絵も魅力的です。

 

<4> 『木をかこう』(至光社国際版絵本)

ブルーノ・ムナーリ/作
須賀敦子/訳

この本は、絵本というより、“木の観察と書き方を記した本”です。

他とは違い、言葉が多いのですが、優しい語り口調に引き込まれます。「枝は、幹から遠くなるほど、だんだん細くなる。」という不変の規則性を繰り返し登場させているのが印象的で、木をしっかり観察して、自由に描いてみようと促します。本には様々な形態の木が登場しますが、どれも基本は同じ。

「絵は苦手!」という人にも木を描かせようとアルファベットの“Y”を連ねさせて「はい、木がかけました」とするところは、凝り固まった頭をほぐすユーモアに思わず心がほどけます。

「ブルーノ・ムナーリ・メソッド」のベースとなった「観察」の大切さとおもしろさを説く原点がここにあります。親も子供と一緒に木の絵を描いたり、工作したくなってしまうはず。本を読むことで、行動と学びにつながるとても素晴らしい作品です。

***
ムナーリの本は何十年も前に書かれたものばかりというのが信じられないほど、古さを感じさせません。特殊な仕掛けなど、当時は出版も大変だったに違いありませんが、今日まで読み継がれてきた納得のクオリティです。そして彼は言葉の壁のない人だったそうです。「想像力と創造力」を何より大切にしていたムナーリに言葉は必要なかったのでしょう。言葉を介さない普遍性は、時と場所を超えて愛され続ける大きな理由の1つになったとも言えます。

日本版では、レオ・レオーニの作品も多く手がける詩人の谷川俊太郎氏が訳したものもあり、美しい日本語とムナーリの感性が響き合い絵本の世界観にしっくりと馴染んでいます

ムナーリの絵本は、出版数も少なく絵本としては少々高価なものもありますが、大人になっても大切にしたいと思わせる価値が確かにあります。読むたびに違う想いを抱かせてくれる特別な1冊になるでしょう。たまには、こんな少し大人びた絵本で感性に刺激を受けるのも良さそうですよね。

写真◎長野真弓

(参考)
美術手帖|ブルーノ・ムナーリって、何者?学芸員に聞く、ユーモアを忘れないマルチ・アーティストの創作の裏側
ホンシェルジュ|名言で読むブルーノ・ムナーリのおすすめ絵本5選
絵本ナビ|「ブルーノ・ムナーリ1945」がついに刊行!
みすず書房|ファンタジア
Wikipedia|国際アンデルセン賞
ブルーノ・ムナーリ作・須賀敦子訳(1982), 『木をかこう』, 至光社国際版絵本.
ブルーノ・ムナーリ著・藤本和子訳(2005), 『闇の夜に』, 河出書房新社.
ブルーノ・ムナーリ著・谷川俊太郎訳(2009), 『きりのなかのサーカス』, フレーベル館
Bruno Munari著(2006), 『Bruno Munari’s ABC』, Cronicle Books.