あたまを使う/教育を考える/体験/英語 2019.7.19

5歳児が市場調査から販売まで! ビジネスの基礎を学ぶイギリスの「エンタープライズ教育」

吉野亜矢子
5歳児が市場調査から販売まで! ビジネスの基礎を学ぶイギリスの「エンタープライズ教育」

夏休み前の数週間、イギリスの小学校は楽しい行事が目白押しになります。6年生は全国統一の学力テストSATSを終え、再び体験型の学習が始まります。お天気に恵まれ、遠足や地元の自然観察が盛んになるのもこの時期です。

ある朝、学校にいくと4年生がみんなスーツケースを持っていました。

「どうしたの?」
「ニューヨークにいくの!」

教室のドアを開けたのは、フライトアテンダントさんの格好をした先生たち。前日からガイドブックを読んで観光名所を調べたり、歴史を調べたり……。飛行機での旅行を疑似体験する学習だったようです。あとで聞いたところ、授業中に「お飲み物はいかがですか?」と先生方がジュースを配ってくれたとか。

こんなふうに体験学習を得意とする下の子の小学校で、学年末に学校中の子供たちが参加するのが「エンタープライズ・ウィーク」。一週間丸々かけて、金曜日のエンタープライズデイのために準備をします。子供たちがとても張り切るエンタープライズデイは、一学年の終わりを飾るとても大切な行事です。

さて、一体どのようなことをするのでしょう?

子供がビジネスの基礎を学ぶ「エンタープライズ教育」

エンタープライズ教育は、子供にビジネスの基礎を学ばせるための教育です。国で定められているコア・カリキュラム(日本の学習指導要領のようなもの)には入っていませんから、どの程度重要視するかは学校によって違いがありますが、多くの学校で取り入れられています。

公民(シティズンシップ)の授業と絡めている学校や、お金のやり取りをすることで伸びる算数の能力を重視している学校もあるようですが、下の子供の学校では、様々な技能を組み合わせた総合的な学習の時間として、かなり重要な位置を占めているように思います。

一週間かけて、班ごとに事業計画を立て、売り物を準備し、当日の仕事の手分けを決めます。当日は2ポンド(約300円)分の小銭を持って買い物を楽しみ、決められた時間には自分の班に戻って売り子をするのです。

時計が読める年齢ですから、時計を見ながら時間配分を考えなくてはなりません。校庭まで含めた学校中に小さなお店が出ているのですから、時間管理ができないとあっという間に1日が過ぎてしまいます。

事業計画をたて、ものを作り、そして売る子供たち

週の終わりの金曜日にお祭りになるエンタープライズウィークですが、週のはじめの月曜日は事業計画作りから始まります。子供の手で作ることができるものを、子供たち同士が話し合って決めるのです。

1年生の頃は先生がかなり手伝って、ブレスレットを作っていました。材料はリボンと穴の空いたシリアル、Cheerios(チェリオス)。まさに「食べられるブレスレット」です。

イギリスの小学校一年生は4歳。年齢の低い子供でも作れるし、食べてしまっても問題がない。よく考えられた商品でした。一箱どこかの家庭が寄付したものを使ったようです。

もう少し年齢が上がると売り物も多様化してきます。空き箱で工作をして売り出す班もあれば、家庭から持ってきた布切れや輪ゴムを元に、使えそうなものを器用に作ってしまう高学年の班も。小麦粉や砂糖を手分けして集め、学校の調理室でカップケーキを焼いて売り出す子供達も現れました。

出来上がったものは10ペンスから50ペンス(15−75円程度)の値段がつけられます。

ものを売るだけがお金の稼ぎ方じゃない!?

色々と話し合っていた下の子の班は、最終的に「ものを売るだけがお金の稼ぎ方ではない」という結論に達したようです。

「それじゃあ、どうするの?」
「ママ、きれいなスポンジある? スポンジ投げをするの!」

よく日本の観光地にあるような、穴から顔だけ出すことのできるパネルを班全員で作り、班員がモグラ叩きのようにそこから顔を出す。水を含んだスポンジを投げて、顔に当たったら景品の紙で作ったおもちゃがもらえる──1回スポンジ3つで10ペンス。当たっても外れても大笑いです。

「先生が “まと” の役で顔を出してくれたらすごく盛り上がると思って、交渉したんだけど、うまくいかなかったの」

素晴らしいアイデアですが、それはさすがに先生も断るでしょう。

お菓子を作ることが得意な子供はお菓子を作り、楽器が得意な子供たちは集まって楽器を演奏し──と、「今の自分の得意なこと」を中心に考えながら、「他の人は何を楽しいと思うのか」聞いて回ったりと、初歩的ながらも市場リサーチのようなこともしたようです。

楽しいお祭りを通して、デザイン力・観察力・交渉力を育む

子供にとっては楽しいお祭りの一週間、「エンタープライズウィーク」。親の視点からは、そこにいかに多くの学びのチャンスが仕込まれているのかが、ありありと見て取れます。

ディスカッションを大切な技能だと考えるイギリスの小学校ではおなじみの光景ですが、みんなで話し合って制限時間内に計画を立てたり、自分の身近な場所にどんなニーズがあるのか探したり、どの程度の値段付けが適切なのか考えたり、と多岐にわたる技能が使われています。観察し、デザインし、交渉し、そして最後にお金のやり取り、計算をする

もうすぐ夏休みが始まり、しばらく学校から離れるこのタイミングでは特に、自分の身の回りにある商業活動が一体どのように成り立っているのかに目を向けることは重要だと思います。子供たちの意識を「机の上での学び」から「日常生活全体に応用できる学び」へと優しく導く、そんな効果もありそうです。

お互いを楽しませながら様々な知識や技能を身につけていくこと。学んでいると感じさえさせず、子供が活躍できる場所を作ること。親は入ることができない子供だけのお祭りですが、毎年「できること」が確実に増えていっていることに気づかされる、とても大切な節目でもあるのです。