黒いペンで線を引いた2枚の紙。どちらも同じ黒に見えるのに、水につけると、片方だけ線がピンクと緑に分かれていく。「マジすか!」と、思わず驚いてしまいそうですね。
『めくってオモロい マジすか科学』(Gakken)の監修者、尾嶋好美さんへのインタビュー後編。取材の後半、尾嶋さんはおもむろに紙とペンとコップを取り出し、目の前で次々と実験を見せてくれました。
前編では、「知らないことを知るのは、人間の本能に近い」という話を聞きました。後編のテーマは、その本能をどう呼び覚ますか。家でできる驚きの実験と、わが子の興味の入り口の見つけ方、そして親が絶対にやってはいけない、たったひとつのことを聞きます。
取材・構成/こどもまなび☆ラボ編集部
【プロフィール】
尾嶋好美(おじま・よしみ)
サイエンスコーディネーター
北海道大学農学部卒業・修了。筑波大学生命科学研究科博士後期課程単位取得退学。博士(学術)。筑波大学で15年間にわたり小中高校生を対象とした科学教育プログラムを運営し、500名以上の生徒の課題研究を支援。食品科学を研究していたことと2児の母であることをいかして、『中学生の理科 自由研究』(Gakken)、『おうちで楽しむ科学実験図鑑』(SBクリエイティブ)、『本当はおもしろい中学入試の理科』(大和書房)など、家庭でできる科学実験本を執筆・監修。NHK「視点・論点」等、マスコミ出演も多数。2024年に「科学実験教室STEP」を立ち上げ、対面およびオンラインで子どもたちと一緒に科学実験をしている。
目次
同じ「黒いペン」なのに、水につけると色が分かれる
まず、私が、実験教室でよくやる実験をお見せしますね。紙に、黒いペンで線を引きます。もう一枚の紙には違う黒いペンで線を引きます。これ、いま区別がつきますか? 同じに見えますよね。では、水を染み込ませていくと、どうなるでしょうか。

片方は線がピンクや緑に、もう一方は青に分かれていくんです。紙は同じですから、ペンが違うということですよね。同じ水性の黒いペンなのにどうして水につけるとピンクや緑、青になるのでしょうか。ここがポイントなのですが、黒いペンの多くは、じつはいろいろな色を混ぜて黒をつくっているんです。黒だけの顔料でつくられているペンもありますが、複数の色を混ぜて黒くしているペンも多い。だから水につけると、混ぜられていた色が分かれて出てくるんですね。
ここからの広げ方もあります。「じゃあ、赤いペンはどうなるかな?」「自分の持っているペンでやってみて」と。やってみると、分かれるペンと分かれないペンがあるとわかります。カラープリンターのインクが基本的にシアン(水色)・マゼンタ(ピンク)・イエロー(黄色)の組み合わせでできているのも、同じ話です。あの数色で、すべての色をつくれるんですよ。
ほかにも、家でできる実験はたくさんあります。たとえばブドウジュースに、クエン酸を入れると赤っぽく、重曹を入れると濃い青緑っぽく色が変わります。では、その2つを混ぜると? シュワシュワと泡が出てきます。うずらの卵をお酢につけておくのも面白いですよ。殻の茶色い模様がどんどん剥がれて、表面に泡がついて、卵がくるんと勝手に回り出します。殻の炭酸カルシウムがお酢に溶けていくからで、最後には殻が取れて、薄い膜だけになるんです。
結果を知っていても、目の前で起こると人は驚く
面白いのは、こうした実験は、結果を知っていても、実際に目の前で見るとみんな「おおっ」と声をあげることです。本で読んで結果を知っていても、目の前だと違うんですよ。黒だったのに違う色になる変化や、そのスピード。自分の目の前で起こる変化は、知識とはまったく別の体験なんです。
たとえば、さきほどのブドウジュースの実験。クエン酸と重曹が反応して泡が出るとき、触るとすごく冷たいんです。反応のときに周りから熱を奪うからなのですが、この「冷たさ」は、ネットで動画を見ていてもわかりませんよね。「触ってみて」と言うと、みんな「冷たい!」と驚く。実物でなければ味わえない驚きがあるのです。
私が実験教室をやるときは、子どもたちに実験材料を少しだけ持ち帰ってもらうことがあります。ぶどうジュースの実験の後、同じように変化する紫いもの粉を渡して「おうちで、どんなもので色が変わるか試してみてね」と。すると、「レモンはすっぱいから、やってみよう」と、自分からつながっていってくれる。知識として「こうなります」と教わるより、ずっと記憶に残りますし、「思ったようにならなかったけど、なんでだろう?」と、次の疑問にも広がっていきます。実際にやるかどうかはともかく、そういうきっかけになればいいなと思っているんです。
「バカバカしくて面白い」が、子どもを本に向かわせる
『マジすか科学』にも、子どもが思わず手を伸ばしたくなる仕掛けがたくさん施されています。例えば、本書では気になる答えの部分が「??」で隠されており、ページをめくると初めて答えが現れる形式になっているんです。企画した編集者の方によれば、これは予想する楽しさとめくったときの驚きを演出するため。クイズの本というより、「めくると答えが現れる」という読書体験の面白さに軸を置いたのだそうです。ネタ選びも「バカバカしくて面白い」か「へぇ〜!と驚ける」かを基準に、真面目すぎるものや驚きの少ないものは外して厳選したと聞いています。
たしかに本書には、「電車の事故防止にライオンのうんこが使われたことがある」といった、一見なんだかバカバカしいものもあるんですよ(笑)
でも、小学生って、そういう話がめちゃくちゃ好きでしょう? わからないことばかりだと、子どもは読みません。好きなもの、親しみやすいものから入っていくことが大事なのです。各章末の「マジすか偉人伝」も、見出しはキャッチーですが、中身で扱っているのは、好奇心を追求する科学者たちの姿です。
それから、この本でひとつこだわったことがあります。わかっていないことや、本当かどうかがあいまいなことは、そのまま書くということです。今の科学ではどうしてもわからないことを、わかったかのように言ってしまうのは良くない、という思いがありました。
じつは、世の中には「経験的にそうなるから使っている」ものが、まだまだたくさんあるんです。漢方薬なんてそうですよね。なぜ効くのかわからないまま使われてきて、機器が発達して微量な成分も観測できるようになったことで、ようやく仕組みがわかってきつつある。わからないことがあるからこそ、それを知るための技術が発達して、わかることが増えていく。子どもたちには、科学のそういう姿も伝えたいと思っています。
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雑草、バッタの卵。興味の入り口は無数にある
筑波大学で500名以上の子どもたちの課題研究を見てきましたが、研究の入り口は本当にさまざまでした。
ある子は、お母さんが庭でお花を育てるのが好きでした。でも、雑草は抜いても抜いても生えてくる。そこからその子は、雑草の研究を始めました。トノサマバッタが好きな子は、「バッタの卵を冷蔵庫に入れたらどうなるのかな」と考えて、冷蔵庫に入れた卵と入れなかった卵で、孵化するかしないかをずっと調べていました。どの子も、「なんでこうなるんだろう?」という身近な疑問が出発点だったんです。
「うちの子は何にも興味がなくて」と悩む親御さんもいるかもしれません。でも、何にも興味がない子なんて、いないと思うんです。ネットでもゲームでもいい。その子が何を好きなのかを、見極めてあげられればいいんですよね。何を面白いと思うかは、多分、無数にあります。どれに食いつくかは、その子によって違うだけなのです。
親がしてはいけないのは、「ストップをかける」ことだけ
では、子どもが何かに食いついたとき、親はどう関わればいいのでしょうか。じつは私自身は、「好奇心を伸ばそう」と意識して子育てをしてきたわけではありません。ただ、ひとつだけ、絶対にやらないほうがいいと思っていることがあります。
さきほどのバッタの卵の話。もしあのとき、お母さんが「冷蔵庫にそんなもの入れないで」と言っていたら、あの子の探究はそこで終わっていたはずです。やりたいことにストップをかけてしまうと、子どもはそこでやらなくなってしまうのです。
「それってテストに出るの?」「それって何の役に立つの?」も、やはり良くないと思います。せっかく子どもが興味を持っているのに、「そんなことをやる意味はあるの?」と言ってしまったら、そこで止まってしまいます。一方で、「せっかくだから図鑑で調べようか」は、とてもいいと思っています。子どもが興味を持ったことを、親が一緒に調べてあげるということですから。親自身が、子どもの興味に、興味を持つことで、子どもとのコミュニケーションも生まれます。
親が押さえておくべきなのは、安全面だけ。今はネットで調べれば、実験のやり方はいくらでも出てきます。「思いっきり水素に火をつけたい」と言われたら「危ないよ」と止める。「バッタを頭からかじったらどうなるの」と言われたら「それはやめとこう」と言う(笑)。それくらいでいいんです。なるべくストップをかけずに、やらせてあげてほしいと思います。
理科が苦手なお母さんこそ、一緒に実験を
同じ実験でも、すごく盛り上がる子もいれば、「へー」くらいで終わる子もいます。人によっても、ものによっても、場によっても違う。学校でやるのと家でやるのとでも、きっと違うと思います。
私は基本的に、「お母さんと子どもで一緒に実験しましょう」というコンセプトで実験の本を書いてきました。自分が子育てをしてきて、子どもと一緒にいる時間が長いのは、やはり母親であることが多いからです。ただ、理科が好きなお母さんは、あまり多くないとも感じています。でも、こういう実験を一緒にしていくと、お母さん自身が理科に興味を持つようになる。そうすると、親子の会話のなかに、自然と「なんでだろうね」が増えていくと思うんです。
『マジすか科学』の読み方にも、正解はありません。好きなところだけ読んでくれて、全然いいと思っています。おならのページばかりでもいい。1つのネタは短いので、すぐ読み終わりますから(笑)。まずは親子で「マジすか!」と言い合うところから、始めてみてください。
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黒いペンが水のなかで色を分けていくのを見ながら、記者も気づけば「なんで?」と口にしていました。結果を知っていても、目の前で起こると驚く。その言葉どおりの体験でした。
親にできるのは、興味を「持たせる」ことではなく、子どもが食いついた瞬間に、ストップをかけないこと。冷蔵庫のバッタの卵を、笑って見守れるかどうか。試されているのは、子どもではなく親のほうなのかもしれません。
※前編では、「クイズには食いつくのに、勉強は嫌いになる理由」と、「知らないことを知るのは人間の本能に近い」という話を聞いています。
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