マウスにオペラを聞かせると、寿命が延びた。思わず「マジすか!」と言ってしまいそうですが、これは本当にある研究の話。こうした驚きの科学ネタを集めた『めくってオモロい マジすか科学』(Gakken)が、発売1年で7刷を突破し、いま子どもたちに人気です。
「うちの子は勉強嫌いで……」と悩む保護者は少なくありませんが、同じ子どもがクイズやなぞなぞには目を輝かせて食いつくもの。この差はどこから生まれるのでしょうか。
同書を監修し、筑波大学で15年間にわたり500名以上の子どもたちの課題研究を支援してきたサイエンスコーディネーターの尾嶋好美さんに、子どもが自分から学び出すとき、心のなかで何が起きているのかを聞きました。
取材・構成/こどもまなび☆ラボ編集部
【プロフィール】
尾嶋好美(おじま・よしみ)
サイエンスコーディネーター
北海道大学農学部卒業・修了。筑波大学生命科学研究科博士後期課程単位取得退学。博士(学術)。筑波大学で15年間にわたり小中高校生を対象とした科学教育プログラムを運営し、500名以上の生徒の課題研究を支援。食品科学を研究していたことと2児の母であることをいかして、『中学生の理科 自由研究』(Gakken)、『おうちで楽しむ科学実験図鑑』(SBクリエイティブ)、『本当はおもしろい中学入試の理科』(大和書房)など、家庭でできる科学実験本を執筆・監修。NHK「視点・論点」等、マスコミ出演も多数。2024年に「科学実験教室STEP」を立ち上げ、対面およびオンラインで子どもたちと一緒に科学実験をしている。
目次
専門家もまず疑った、「オペラとマウス」の不思議な研究
『マジすか科学』には、「マウスにオペラを聞かせると寿命が延びる」という研究結果が載っています。じつは私自身、この話を最初に知ったときは「そんなわけないじゃん」と思いました。それで一応、調べてみたんです。すると、イグノーベル賞を受賞していて、きちんと学術論文として発表されていました。
あくまでマウスの実験なので、人間にそのまま当てはめられるわけではありません。ただ、心臓の移植手術をしたマウスにオペラを聞かせると、聞かせない場合より長く生きたというのは、確かにデータとして出ていました。「そんなことあるんだ」と思いましたね。
面白いのは、同じ論文に、エンヤの曲を聞かせても寿命は変わらなかったと書いてあることです。聞かせない場合と同じ。オペラだと延びるのに、です。しかも、その理由はわからない。「やってみたら、そうだった」という研究なんです。
イグノーベル賞について補足すると、ノーベル賞が科学的に新しい発見や技術開発をした人に贈られる、ものすごい賞であるのに対し、イグノーベル賞はそのパロディーのような賞で、「ちょっとふざけているようで、じつは本物の研究」に与えられます。「バナナの皮は本当に滑りやすいのか」を確かめた研究が受賞したこともありますし、日本人も連続で受賞しているんですよ。
では、「なぜオペラだと寿命が延びるのか」は、永遠にわからないままなのでしょうか。私は、可能性はあると思っています。音を聞いて、それが寿命に影響するということは、脳のなかで何らかの処理が行われているはずです。脳を調べる技術は近年ものすごく発達していて、脳科学の分野は大きく進歩しています。数年後、数十年後には「どうしてか」がわかるかもしれません。
「マジすか!」と驚き、疑い、調べてみる。そして「なぜだろう?」と考える。じつはこの一連の流れこそが、この本がねらっている学びの入り口そのものなのです。
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クイズには食いつくのに、勉強は嫌いになる理由
「知らないことを知る」という意味では、クイズも勉強も同じ行為のはずです。それなのに、なぜ子どもはクイズには夢中になり、勉強は嫌がるのでしょうか。理由はいくつか考えられます。
まず、クイズはすぐに答えがわかります。そして、評価されません。勉強は、どうしても評価されますよね。子どもたちをずっと見てきて感じるのは、中学生、高校生になるにつれて、間違えることを恐れるようになることです。クイズは間違えてもいい。でも勉強で間違えると、たとえばテストの点数が悪いと、「負け」のようになってしまう。そういうプレッシャーがあるのだと思います。
もうひとつは、勉強には積み重ねが絶対に必要だということです。アルファベットを知らないのに英文は読めませんよね。積み重ねが必要な勉強と、その場でわかる・わからないが決まるクイズとは、そこが違います。問題集で「一問一答」が流行っているのも、一問ごとにすぐ答えがわかるからでしょう。
ただ、クイズって、やってもずっと覚えていますか? 覚えていないですよね。つまりクイズには、「間違えてもいい」「忘れてもいい」という気楽さがあるのです。勉強は「ここでわからなければいけない」「覚えていなければいけない」。子どもにかかるプレッシャーが、まったく違うのです。
また、「こんなことして何になるの?」と子どもに言われたことがあります。そういうときは、これを学ぶと将来どうなるのかということが、目の前の勉強となかなかつながっていないのですね。たとえば分数の割り算。「これ、何のためにやるの?」と。分数の割り算を学ぶのは、「こう考えるんだ」「こうやれば答えが出るんだ」ということがわかるので、思考力を身につけるのにはとても有効です。でも、実際、私たち大人が日常で分数の割り算を使うかといえば、使わないじゃないですか。「これは自分にとってどう役立つんだろう」が見えていないとき、子どもは勉強に対して冷めてしまうのです。
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「知らないことを知る」のは、人間の本能に近い
では、「へー!」と驚いたり、新しいことを面白いと感じたりする感覚は、勉強が得意な子だけのものなのでしょうか。私は、みんなが持っていると思います。人間は生物として、学ばなければ生き延びられなかったわけですよね。「ここから逃げなければいけない」とか、そういうことを知らなければ死んでしまっていた。だから、知らないことを知っていくのは、本能に近いと私は思うのです。
じつはこの考え方は、『マジすか科学』のタイトルにも込められています。企画した編集者の方は、この本を「科学に対する好奇心の火付け役」にしたいと考えていて、タイトルには「マジすか」と言ってしまうネタが載っているという意味だけでなく、「子どもたちの『マジすか!』と驚く好奇心には無限のパワーがある」という意味を込めたそうです。本書の冒頭で「好奇心」という漢字に、あえて「マジすか」というルビが振られているのは、そのためなんですよ。
この「へー!」という感覚は、偉大な科学の発見とも地続きです。本書の「はじめに」でも紹介しましたが、フレミングは実験の失敗で生えてしまったアオカビの周りだけ細菌が増えていないことに「どうしてだろう?」と注目して、ペニシリンの発見につなげました。ノーベル化学賞を受賞した白川英樹先生は、子どもの頃にお風呂をまきで焚くお手伝いをしながら、「まき以外のものを入れると炎の色が変わる」ことを不思議がっていたそうです。白川先生とは、以前、筑波大学で一緒に実験教室をやらせていただいていて、そのご縁で共著「『ロウソクの科学』が教えてくれること」(サイエンス・アイ新書)も出しています。このお話はご本人から直接伺いました。
そして、その白川先生に『マジすか科学』をお送りしたら、「二つのコンセント差し込み口などに、細心の工夫が凝らされていることを知るのは新鮮な驚きでした」という、メールをいただきました。
ノーベル賞受賞者でさえ、身の回りには「初めて知ること」があり、「マジすか!」と驚く。「不思議だな」「なんでかな」と思えるかどうかが、やっぱり大事なのです。偉大な科学者と子どもたちの「へー!」は、本当に地続きなのですから。
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「そんなわけないじゃん」と疑い、調べ、「そんなことあるんだ」と驚く。取材で印象的だったのは、監修者である尾嶋さん自身が、誰よりも「マジすか!」を楽しんでいたことでした。ノーベル賞受賞者もコンセントの穴に驚く。知らないことを知る喜びに、年齢も学力も関係ないのだと教えられます。
「勉強しなさい」と言う前に、まず親子で「へー!」と言い合ってみる。学びの入り口は、そんなところにあるのかもしれません。
※後編では、取材中に見せていただいた「家でできる驚きの実験」とともに、わが子の興味の入り口の見つけ方、そして親が絶対にやってはいけない、たったひとつのことを聞きます。
【尾嶋好美さん ほかのインタビュー記事はこちら】
- 【夏休み自由研究にも】黒いペンを水につけたら、親子で「マジすか!」。『めくってオモロい マジすか科学』監修者が見せてくれた、家でできる驚きの実験(※近日公開)










