「また泣いてる……」スーパーで、公園で、夕方の家のなかで。わが子の涙に、ため息をつきたくなる瞬間はありませんか。周りの目が気になったり、「泣き虫のままで大丈夫かな」と心配になったりするのは、わが子の将来を真剣に考えているからこそ。
でも、じつは心理学の研究が示しているのは、意外な事実。「よく泣く」ことは弱さの表れではなく、感情を外に出せる力の表れであり、その力こそが、のちの感情コントロールの土台になるというのです。今回は、「涙」と「心を整える力」の関係を、研究をもとに紐解いていきます。
目次
「泣かないで」が逆効果になる理由
まず知っておきたいのは、感情を抑え込むことのコストです。悲しい映像や愉快な映像を見るときに表情を抑えるよう求められた人は、自然に見た人と比べて、心臓血管系の交感神経の活動が高まる傾向が示されました。(スタンフォード大学、心理学者のジェームズ・グロス氏ら)*1 つまり、感情を「出さない」ことは、心が静まることを意味しません。表面は静かでも、体の内側はむしろ緊張が高まりうるのです。
「泣かないの!」と涙にふたをさせることは、一見「がまん強い子」への近道に見えます。けれど、感情そのものが消えるわけではない以上、出口をふさぐだけになってしまう可能性があるのです。涙は、子どもにとってもっとも原始的で正直な感情の出口。まず「出せている」こと自体を、悪いことではないと捉え直すところから始めてみましょう。
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涙に寄り添われた子は、感情調整が育ちやすい
では、泣いている子にどう関わればよいのでしょうか。ヒントになるのが「エモーション・コーチング」という考え方です。就学前の子ども56名の家庭を追った縦断研究では、子どもの悲しみや怒りを否定せず、感情に気づき、寄り添いながら言葉にする関わりをする親の子どもほど、感情を調整する力が育ち、それを介して学業や友だち関係にもよい影響が及ぶという関連が示されました。(ワシントン大学、心理学者のジョン・ゴットマン氏ら)*2
ポイントは、泣きやませることがゴールではないということ。「悲しかったんだね」「悔しかったよね」と、涙の奥にある気持ちを一緒に見つけてあげること自体が、子どもの心のトレーニングになっているのです。よく泣く子は、それだけ練習の機会が多い子。親が寄り添うたびに、「感情は感じてよいもの」「感じたあとに立て直せるもの」という経験が積み重なっていきます。
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「言葉にする」と脳は落ち着く
寄り添いの言葉がけには、脳科学的な裏づけもあります。成人30名を対象にしたfMRI研究では、感情を表す顔写真を見て「怒り」「怖い」などの言葉でラベルづけをすると、不安や恐怖に関わる扁桃体の反応が弱まり、代わりに前頭前野の一部が活性化することが示されました。(カリフォルニア大学ロサンゼルス校、心理学者のマシュー・リーバーマン氏ら)*3 感情に名前をつけるだけで、脳のなかでは「感じる」モードから「捉え直す」モードへの切り替えが起こると考えられているのです。
これは大人を対象にした研究ですが、家庭での言葉がけに応用できる知見です。泣いている子に「悲しいんだね」「びっくりしたね」と名前を手渡すことは、泣いている子に「悲しいんだね」「びっくりしたね」と名前を手渡すこと。最初は親の言葉を借りて、やがて自分の言葉になっていきます。

今日からできる、涙への3つの関わり方
1. まず「出せたね」と受け止める 泣きやませようとする前に、ひと呼吸。「悲しかったね」と気持ちを言葉にして返すだけで大丈夫です。解決やアドバイスは、涙が落ち着いてからで間に合います。
2. 気持ちに合う言葉を一緒に探す 「悲しかった? 悔しかった?」と2つ並べて聞いてみましょう。子どもが自分で選ぶことが、感情の解像度を上げる練習になります。
3. 落ち着けた事実を言葉で残す 泣きやんだあとに「自分で気持ちを立て直せたね」と伝えます。「泣かなかったこと」ではなく「立て直せたこと」をほめるのが、感情コントロールを育てるコツです。
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涙もろいわが子に手を焼く日々は、裏を返せば、感情の練習に付き合える機会がたくさんあるということ。泣くたびに寄り添い、名前をつけ、立て直しを見届ける。その繰り返しが、10年後の「自分の気持ちと上手に付き合える人」をつくっていきます。今日の涙も、心が育っている証拠。肩の力を抜いて、隣に座ってあげるところから始めてみてくださいね。
FAQ(よくある質問)
Q. 泣くたびに寄り添っていたら、泣けば思い通りになると学びませんか?
A. 寄り添うのは「気持ち」であって「要求」ではありません。「悲しかったね。でもお菓子は買わないよ」のように、感情の受容と行動の線引きは両立できます。
Q. 小学生になってもよく泣きます。遅れているのでしょうか?
A. 感情調整の発達には大きな個人差があります。低学年で涙が多いのは珍しいことではなく、立て直しにかかる時間が少しずつ短くなっていれば、育ちは進んでいます。
Q. 人前で泣かれると、つい厳しく言ってしまいます……。
A. 周囲の目が気になるのは自然なことです。その場では場所を移すだけでも充分。気持ちへの言葉がけは、家に帰って落ち着いてからでも遅くありません。
(参考)
*1 Gross, J. J., & Levenson, R. W. (1997)|Hiding feelings: The acute effects of inhibiting negative and positive emotion. Journal of Abnormal Psychology, 106(1), 95-103.
*2 Gottman, J. M., Katz, L. F., & Hooven, C. (1996)|Parental meta-emotion philosophy and the emotional life of families: Theoretical models and preliminary data. Journal of Family Psychology, 10(3), 243-268.
*3 Lieberman, M. D., Eisenberger, N. I., Crockett, M. J., Tom, S. M., Pfeifer, J. H., & Way, B. M. (2007)|Putting feelings into words: Affect labeling disrupts amygdala activity in response to affective stimuli. Psychological Science, 18(5), 421-428.









