子どもに体を動かしてほしい。本を好きになってほしい。料理に興味を持ってほしい。そう願って、ことばを工夫したり、教材を選んだり、ときには「やってごらん」と背中を押したりしてきたはずです。
それでも、なかなか食いついてくれなくて、自分の伝え方が下手なんだろうかと、自分を責めてしまう夜もあるのではないでしょうか。
今日のお話は、その方向を、ふと反対側に置き換えてみる研究です。教える前に、まず親であるあなたが楽しんでいる、その姿のほうが、じつはずっと早く子どもに届いていた、というお話です。
目次
「教える」より、「先に楽しむ」のほうが届いていた
子どもにある活動を好きになってほしいとき、わたしたちはついことばで説明したり、メリットを伝えたり、ちょっとやらせてみたりします。でも子どもの目はじつは、言葉よりも先に、親の表情や声のトーンを見ています。
心理学では、夢中になって取り組んでいる人のそばにいると、その「夢中」そのものが周囲の人へ伝染していくことが指摘されてきました。フローと呼ばれる「夢中の状態」にある教師のそばで、生徒にもフローが伝わっていく現象が、感情伝染という枠組みで確かめられています。(オランダ ユトレヒト大学、アーノルド・バッカー教授)*1
つまり、子どもにとって重要なのは、上手な教え方以上に、楽しそうにしている親の後ろ姿だったということです。
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「一緒に活動した日」が、子どもの行動を動かしていた
6 〜 15歳の子どもとその親、計2,424組を対象に縦断調査を行ったデータがあります。そこで、子どもの運動量に何がいちばん効いたかを追ったところ、いままで運動量の少なかった子が動きはじめるかどうかを予測した最大の親側の要因は、「親が一緒に活動した回数」でした。(中国 上海交通大学)*2
親が子と一緒に身体を動かしていた家庭の子は、そうでない家庭にくらべて、運動量が増える傾向が強かったといいます。ここで効いていたのは、親が運動の正しさを語ったことでも、運動の大切さを教えたことでもなく、ただ「一緒に活動した」回数でした。
つまり、「やりなさい」のひとことよりも、横で笑顔で走っているお母さん、汗をかいているお父さん、その姿がそのまま、子どもにとっての “動きはじめの合図” になっていたのです。
そして、楽しんでいるあなた自身も、満たされていた
じつは、親自身にも注目した研究があります。2歳から12歳までの子をもつ親832人の日常を細かく追いかけた調査では、親子で関わる時間に「楽しい」「夢中になれた」と感じた日ほど、親自身の幸福感も、自分への信頼感も、子育てへの満足感も高くなることが報告されています。(イスラエル ヘルツリーヤ学際センター、アナット・ショシャニ教授ら)*3
楽しんでいる姿が子どもに届くだけでなく、楽しんでいる時間そのものが、いまここにいるあなた自身を、いちばん満たしてくれていた。子のために我慢して、自分の楽しみは後回しにしてきた日々を、ちょっと違う角度から見直してくれる研究です。
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「教えなきゃ」を、ひとつ下ろしてみる
子どものために何かしてあげなきゃ、と思うとき、いつのまにか「教える側/教えられる側」のかたちに、わたしたちは知らずに立っています。でも研究が見せてくれるのは、子どもが本当に動きはじめるのは、命令や説明ではなく、親が一緒に笑っている瞬間だったということ。
そして、あなたが好きなことに夢中になっているその時間こそ、子どもにとっても、一番よくできた「教育」の場でした。
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今日、もし子どもにやってほしいことがあれば、ちょっとだけ言葉を引っ込めて、まず自分が楽しんでみましょう。子どもはあなたが想像しているより、ずっとよくあなたを見ています。あなたが楽しそうだと、子どもの世界もすこし広くなり、あなた自身もすこし救われる。それが、いちばん効く教育のかたちなのです。
FAQ(よくある質問)
Q. わたし自身、特に趣味と呼べるものがありません。何から始めればよいですか?
A. 大きな趣味を見つけなくて大丈夫です。お茶を淹れる、好きな曲をかける、窓を開けて深呼吸する。研究で効いていたのは、ジャンルではなく「楽しんでいる姿そのもの」でした。一番ほっとした瞬間を、子どもに見えるところでやってみる、そのくらいから始められます。
Q. 子どもが見ていないところで楽しむのではダメですか?
A. もちろん「自分だけの時間」も大切です。ただ研究で効いていたのは、子どもの視界の片隅で親が楽しんでいる、その目撃の積み重ねでした。隠れる必要はなくて、リビングで好きな本を開いている、台所で鼻歌をうたっている、それで充分に伝わっています。
Q. つい「自分が楽しむのは申し訳ない」と思ってしまいます。
A. その気持ちは、子どもを思う親ほどよく抱くものです。でも研究が見せていたのは、親が楽しんでいる姿こそ子の行動を動かし、その時間が親自身の心も満たしていたという事実でした。あなたが楽しむことは、家族みんなにとっての贈り物になっています。
(参考)
*1 Bakker, A. B. (2005)|Flow among music teachers and their students: The crossover of peak experiences. Journal of Vocational Behavior, 66(1), 26-44.
*2 Liu, Y., Ge, X., Li, H., Zhang, E., Hu, F., Cai, Y., & Xiang, M. (2023)|Physical activity maintenance and increase in Chinese children and adolescents: the role of intrinsic motivation and parental support. Frontiers in Public Health, 11, 1175439.
*3 Shoshani, A., & Yaari, S. (2022)|Parental Flow and Positive Emotions: Optimal Experiences in Parent–Child Interactions and Parents’ Well-Being. Journal of Happiness Studies, 23(2), 789-811.









