「タブレットの勉強が中心なら、字を書く練習はそれほど必要ないですよね?」
最近、字を書くことをあまり重視しない親が増えてきていると感じています。確かに、子どもたちの学習環境は大きく変わってきています。文部科学省の「GIGAスクール構想」により小学生一人一人にタブレットが配られ、デジタル学習が当たり前になりました。
でも、ここに大きな誤解があります。私は12年間、小学校の教師として子どもたちと向き合ってきましたが、入学後すぐに「この子、学習力が高いな」と感じる子どもたちには、ある共通点があることに気づきました。それは「鉛筆を正しく持てる子」そして「筆圧がしっかりある子」です。この筆圧の問題は、さまざまな研究で思考力や学習意欲とも深く関係していることがわかっています。こうしたデジタル時代だからこそ、幼児期のうちに鉛筆学習の準備が必要だと感じています。
目次
東大生の8割が鉛筆を正しく持てる?!
実際の教室では、学年に関係なく「筆圧が薄い」という子をよく見かけます。なんと書いてあるのか読み取れないのです。そういった子どもたちに多くみられるのが、「鉛筆を正しく持てない」「集中力が続かない」といった特徴です。小学校1年生の「書写」の授業では、鉛筆の持ち方や姿勢について学びますが、すでに持ち方の癖がついている子は、なかなか直せません。
東大生の約8割は、鉛筆を正しく持てているということがわかっています。これは、東大合格生のノート分析を行った太田あや氏の著書『東大合格生のノートはどうして美しいのか』で紹介されている事実です。適切な筆圧で文字を書けることは、学力や長時間の集中力を保てるかどうかと関係しているということも最近の研究でわかってきていることです。一方、神奈川県立保健福祉大学の笹田哲氏の研究によると、普通学級に正しく鉛筆を持てている子は2割しかおらず、また「このままの持ち方を続けていると早く書けない、書くのに疲れると思われる子どもは半数近くいる」と指摘しています。
さらに笹田氏は、鉛筆の持ち方が上手でない子どもは、靴の着脱やカバンを持って歩くといった他の動作も不器用なケースが多いといいます。鉛筆で文字を書くという行為は、私たちが想像する以上に、脳と手先の重要な訓練となっているのです。
正しい鉛筆の持ち方って?
鉛筆は後ろの方で持つと、筆圧が弱くなり、文字が薄くなったり、途切れたりしてしまいます。反対に、先端近くを持って力任せに書くと手が疲れやすくなります、その結果、授業に集中できなくなってしまいます。まずは、正しい鉛筆の持ち方から見直してみましょう。
- 親指と人差し指と中指の3本の指をつかいます。
- 削った根元から1cm位の所を親指と人差し指でつまみます。
親指は人差し指よりも少し上の方をつまみます。 - 人差し指をえんぴつにピッタリとそわせる。
中指はえんぴつの下に寝かせる。
薬指と小指は軽くまるめる。 - 正しい持ち方が出来ていると、えんぴつの先端から見たときになだらかな三角形ができます。
(引用元:三菱鉛筆株式会社|鉛筆の持ち方を知りたい)
また持つ位置は、削った根元から1cm位の所を持つのがよいでしょう。力のコントロールがしやすく、手首の動きも自然になる位置です。
書く力を育てるために大切な鉛筆選び
正しく鉛筆を持てる子は、自然と適切な力加減で文字が書けるようになり、筆圧もしっかりしてきます。これは「運筆力」が育っているということ。運筆力というのは、適切な筆圧で文字をスムーズに書く力のことです。
この運筆力を育むために、まずは子どもの発達段階に合った鉛筆選びから始めましょう。
- 鉛筆の硬さ選び
→最初は6Bや4Bなど、柔らかめの芯から。筆圧が弱くても濃く書けるため、子どもの意欲を保ちやすい。徐々に2B、HBへ。 - 持ちやすい形状
→三角軸の鉛筆は握りやすく、正しい持ち方の習得にも効果的。年齢や手の大きさに合った太さを選ぶことも重要。 - 補助具の活用
→鉛筆の持ち方を補助する器具や、短くなった鉛筆用の延長ホルダーなども効果的。
また、子どもが握りやすく、スムーズに書く力を育む子ども用の鉛筆がたくさん発売されれています。ただ「もっと濃く書きなさい」と言うのではなく、正しい持ち方が身につく道具選びをし、子どもの「書きたい!」という気持ちも大切にしていきましょう。以下におすすめの鉛筆や補助具をまとめました。
✏️学研ステイフル 鉛筆 消しゴム 鉛筆削り さんかくえんぴつ はじめてのセット
このセットは、初めて鉛筆を使う子どもに最適です。三角軸の鉛筆は正しい持ち方を自然に身につけることができ、鉛筆削りや消しゴムも付属しているので便利です。柔らかい芯が使われており、軽い力でもスムーズに書けるため、書くことへの抵抗感を軽減します。
✏️くもん出版 こどもえんぴつ 6B&専用えんぴつけずりセット
6Bという柔らかい芯を採用した鉛筆で、筆圧が弱い子どもでも濃く、きれいに書けます。鉛筆は短めで太さもあるため、小さな手でもしっかり握りやすい設計です。さらに専用のえんぴつけずりが付いており、芯を常に適切な形に整えられるのも魅力です。
✏️こどもえんぴつ もちかたサポーター
鉛筆の正しい持ち方をサポートする補助具です。指を自然に正しい位置に導くため、握り方が安定しやすく、運筆力の向上に効果的です。さまざまな鉛筆に装着できるため、成長段階に応じて長く使い続けられるのもポイントです。
正しい持ち方ができるようになってきたら、楽しく書く練習を始めてみましょう。まずは線を引いたり、形を描いたりする遊びから始められます。また、この時期に自分の名前が書けるようになっておくと、入学後の学校生活がより楽しくなりますよ。
- なぞり遊び:点々やぐるぐるなどの線をなぞる
- お絵かき:好きな動物や食べ物を描く
- 線つなぎ:点と点を線で結んで形を作る
- 名前の練習:親が書いたものをなぞる
こういった遊びの中で、自然と鉛筆を使う力が育っていきます。焦らず、楽しみながら続けていくことが大切です。
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正しい持ち方でしっかり文字が書けることは、入学後の学習の大切な土台になります。幼児期のうちから、子どもと一緒に楽しみながら文字を書いて楽しんでみましょう。正しい持ち方を意識し、遊びの中で少しずつ練習を重ねていくことで、子どもの学びの力は着実に育っていきます。
デジタルと手書き、それぞれの良さを活かしたバランスの取れた学習が大切です。焦らず、楽しみながら、両方の良さを活かしていけたらいいですね。
(参考)
StudyHackerこどもまなび☆ラボ|「自分の名前だけ書ければいい」はウソ? 12年間の教室で見てきた入学準備の大切さ
NIKKEI STYLE|正しく鉛筆を持てる子は2割 入学前に教えたいこと
Area dot.|子どもの「手書き離れ」で学力低下の恐れ 筆圧も低下傾向で「書いてあることが判別できない」
日本経済新聞|正しく鉛筆を持てる子は2割 入学前に教えたいこと
三菱鉛筆株式会社|鉛筆の持ち方を知りたい