教育を考える 2024.12.31

子どもの ”失敗” どのくらい見てられる?|親の『見守り力』が子どもに与える6つのこと

編集部
子どもの ”失敗” どのくらい見てられる?|親の『見守り力』が子どもに与える6つのこと

「宿題は大丈夫かな」と持ち物を確認し、「転んだら危ないから」と手を引き、「できないかも」と先回りする……。子育てのなかで、子どもに手を出しすぎてしまう親は少なくありません。

でも、子どもに手を出すタイミングはいつがいい? 子どもの見守り方は? 手伝いはどこまでするべき? 特に、受験や習い事など、早期教育の選択に向き合う現代の親たちにとって、この悩みは切実です。

しかし、教育の専門家たちは異口同音に警鐘を鳴らします。子どもの成長に本当に必要なのは、むしろ「失敗する機会」だと。では、子どもが自分でやりたがるとき、どう見守ればいいのか。過保護になりすぎず、かといって放任にならない関わり方を、具体的な場面に即して考えていきます。

1. 手を出しすぎないことで育つ、子どもの成功の土台「自責の力」

少子化が進んだいま、子どもに手を出しすぎてしまう親が増えていると、教育ジャーナリストの中曽根陽子氏は指摘します。それは、必要以上の手助けによって、子どもが自分で考え、責任をとる力を奪ってしまうことへの警鐘です。

大人の世界で成功する人に共通するのは、失敗や困難に直面したとき「自分に何ができたか」を考える「自責」の姿勢です。この大切な力は、じつは幼い頃からの積み重ねで育まれていきます。

たとえば、子どもの持ち物の準備。どこまで手伝うべきか、多くの親が悩むポイントです。すべて親が用意していると、忘れ物をしたとき「ママが準備してくれなかったから……」と他人のせいにする「他責」の習慣が身についてしまいます。反対に、自分で準備する機会があると、失敗したときに「次は忘れないように、自分でちゃんとチェックしよう」と、自分の責任として考えられるようになります。

子どもに手を出すタイミングと子どもの見守り方を工夫することは、単なる「自立」だけでなく、将来の成功にも関わる重要な土台づくりなのです。過保護になりすぎず、かといって放任せず。そのバランスは簡単ではありません。でも、少しずつ手を放していくことで、子どもは失敗を自分の経験として受け止め、次に活かせるようになります。

【ポイント】
  • 失敗は学びのチャンス。つい手を出したくなる気持ちをグッと抑え、まずは見守る。
  • 失敗したら叱るのではなく、「次からどうすればいいかな?」と一緒に考える。
  • 持ち物の準備など、身近なことから少しずつ任せる。

 

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2. 挑戦への見守りが育む、子どもの「非認知能力」

非認知能力とは、テストの点数では測れない回復力、やり抜く力、自信、自己肯定感などの総称です。この重要な力を育むには、子どもに手を出すタイミングが重要だと、ライフコーチのボーク重子氏は指摘します。

しかし近年、「子どもに手を出しすぎて、挑戦できない子どもが増えている」とボーク氏は警鐘を鳴らします。自身も中学時代、数学の成績が急落した際に完全に勉強を放棄してしまった経験があり、その原因を「それまで必要以上に手伝ってもらい、非認知能力が育っていなかったから」と分析しているからです。

子どもが自分でやりたがるとき、親はどこまで手伝うべきか。ボーク氏は、過保護になりすぎず、子どもの挑戦を見守ることが重要だと指摘します。実際にボーク氏は、アートギャラリー立ち上げの際の試行錯誤を娘さんに積極的に話したとそうです。どこで悩み、どこまで人に手伝いを求めたのか、そのプロセスを子どもと共有することで、失敗は成長のステップだという理解が、娘さんのなかで自然と育まれていきました。

子どもの見守り方に悩む親は多いものです。「危ないから」「できないから」と先回りするのではなく、「どうしてそうしたいの?」と子どもの考えを聞いてみましょう。そして、子どもが自分でやりたがることに、どこまで手を出すべきか、一緒に考えていきます。

【ポイント】
  • 子どもの「やりたい」という気持ちを大切にする。すぐに否定せず、まずは子どもの考えを聞く。
  • 親自身の失敗体験を隠さない。むしろ積極的に共有し、失敗から学ぶ姿を見せる。
  • 完璧な結果より、挑戦するプロセスを評価する。たとえ失敗しても「よく考えたね」「おもしろい発想だね」と、子どもの工夫を認める。

 

工作でボンドを出している少年

3. トラブル時を見守ることで「感情理解力」を身につけさせる

子どもが自分でやりたがることを支えるには、親との信頼関係が土台となります。東京都市大学人間科学部教授の井戸ゆかり氏は、親が子どもの「安全基地」となることの重要性を説きます。子どもの見守り方を知る親がいるからこそ、子どもは新しいことに挑戦できるのです。

子ども同士のトラブルを例に考えてみましょう。近年、親同士の関係が緊張しているためか、ちょっとした衝突でも親が必要以上に手を出してしまう傾向があります。しかし井戸氏は、こうした経験も子どもの成長に必要だと指摘します。トラブルを通じて、相手の気持ちを理解したり、自分の感情をコントロールしたりする力が育つからです。

ただし、これは親が適切な距離感で見守る環境があってこそ。過保護になりすぎず、かといって放任にならず、子どもが困ったときに「大丈夫、一緒に考えよう」と声をかけられる存在でいることが大切です。

井戸氏は、子どもが料理に挑戦する場面も例に挙げています。目玉焼きを作ろうとしてうまくいかないとき、まずは「自分でやろうとしたね、すごいね」と認めること。そのうえで、どこまで手伝うべきか考え、次の改善策を一緒に話し合います。必要以上に手を出さず、適切なサポートをすることで、子どもの「できた!」という達成感も大きくなります。

【ポイント】
  • トラブルや失敗をすぐに止めない。子どもの様子を見守りながら、必要なときだけ介入する。
  • 「大丈夫、一緒に考えよう」という姿勢をもつ。子どもが困ったときの心の拠り所となる。
  • できなかったことを責めるのではなく、挑戦したことを認める。そこから具体的な改善策を一緒に考える。

 

目玉焼き

4. 遊び場での見守りを通して「レジリエンス」を獲得させる

子どもの遊びの専門家として知られるTOKYO PLAY代表理事の嶋村仁志氏は、子どもが自分でやりたがる遊びの価値を説きます。近年、公園では親が手を出しすぎる傾向にあり、子どもたちの自由な遊びが制限されがちです。しかし、子どもの遊びを見守ることこそが、大切な学びの機会を作るのです。

たとえば、砂場で山をつくろうとして崩れてしまう。水遊びで友だちに水をかけすぎて嫌がられる。このとき、親はどこまで手を出すべきでしょうか。こうした経験は、物事の性質を理解したり、相手への配慮を学んだりするきっかけとなります。

特に注目すべきは、遊びを通じて育まれる「レジリエンス(回復力)」です。子どもが自分でやりたいことに夢中になって、たとえうまくいかなくても、また挑戦する。この繰り返しが、折れない心を育てていきます。

嶋村氏は、過保護な親の増加を懸念しています。遊び方が危険だからと必要以上に手を出すと、子どもたちは自分で考え、工夫する機会を失ってしまうからです。もちろん、大きな事故につながる危険は避ける必要がありますが、それ以外は子どもの様子を見守ることが大切です。

家庭でできることは何でしょうか。まずは、子どもが自由に遊べる環境を整えること。公園では、つい「危ない」と手を出したくなる場面でも、子どもたちがどのように工夫して遊んでいるか、しばらく様子を見守ってみましょう。子どもたちは予想以上に、自分たちで安全な遊び方を考え出すものです。

【ポイント】
  • 子どもの自由な遊びの時間を確保する。スケジュールを詰め込みすぎない。
  • 遊び方に対して過剰に制限を加えない。明らかな危険以外は、子どもたちの工夫を見守る。
  • 失敗や衝突を恐れず、子ども同士の関わり合いを大切にする。

 

取っ組み合いをする2人の男の子

5. 適度な距離感で見守れば、子どもの「挑戦力」が育つ

子どもにどこまで手を出すべきか。筑波大学附属小学校元副校長の田中博史氏は、親子関係を磁石に例え、「くっつきそうでくっつかない絶妙な距離感」が重要だと言います。近すぎると子どもは親の顔色をうかがって自分でやりたがらなくなり、遠すぎると適切な手伝いが届きません。

田中氏によれば、子どもを見ていて「うちの子、まんざらでもないな」と余裕をもって思えるとき、それが適切な見守り方のサインです。反対に、イライラを感じるときは、手を出しすぎるか関わりが少なすぎるかのどちらかです。特に現代の親は過保護になりがちで、必要以上に手を出して、子どもの挑戦を阻んでしまいがちです。

重要なのは、親が適切な距離で見守れる環境で、子どもが自分でやりたがることに挑戦させること。ひとりで抱え込ませるのではなく、親がどこまで手伝うべきか判断できる場面で経験を重ねることで、次第に自力で困難を乗り越える力が育っていきます。

具体的には、公園やショッピングモールのキッズスペースなど、子どもがほかの子どもと交流する場面で実践できます。つい手を出したくなる気持ちを抑え、少し離れた場所から見守ってみましょう。子ども同士のやりとりを、夫婦で「あ、ボールを取られちゃったね」「でも、自分で工夫して遊べているね」などと見守ることで、適切な距離感が自然と身についていきます。

【ポイント】
  • 親の過度な心配や先回りは控えめにする。子どもの様子を余裕をもって見守る。
  • 子ども同士の関わりに必要以上に介入しない。問題解決の機会を奪わない。
  • 失敗したときは、その場にいて支援できる環境を整える。ただし、すぐには手を出さない。

 

砂場で遊ぶ子ども

6. 長期的な視点が、子どもの「多様な経験値」を上げる

教育ジャーナリストのおおたとしまさ氏は、受験期の子どもをもつ親に向けて、重要な指摘をします。学力向上を目指すこと自体は悪いことではありません。しかし、勉強だけに目を向けて、子どもが自分でやりたがることを制限してしまうことには警鐘を鳴らしています。

学歴の価値は確かにありますが、その効果は以前より下がってきているとおおた氏は分析します。むしろ着目すべきは、勉強漬けにすることで失われている経験の価値です。親が必要以上に手を出さず、友人との交流や課外活動、時には恋愛も含めて子どもの見守り方を工夫すること。そうした経験が、人として大切な力を育むきっかけとなるでしょう。

そして興味深いことに、自分で考え、挑戦する力をもった子どもは、結果的に受験でもよい成果を残すことが多いと、おおた氏は指摘します。なぜなら、困難に直面しても諦めない精神力が身についているからです。

では、受験期の子どもに対して、どこまで手を出すべきでしょうか。おおた氏は、夜10時には就寝できるような余裕のある受験勉強を推奨します。親は過保護にならず、日中の時間に友人と交流する機会をもち、幅広い経験ができる環境を整えること。少し成績が下がっても、長期的な視点で見守る姿勢が大切です

【ポイント】
  • 受験勉強と生活体験のバランスを重視する。夜更かしをしてまで勉強させない。
  • 友人関係や課外活動での失敗を過度に心配しない。むしろ成長の機会として捉える。
  • 偏差値だけでなく、困難に立ち向かう力を育てる視点をもつ。

 

***
子どもの失敗を見守るのは、親として勇気のいることかもしれません。どこまで手を出すべきか、いつ手伝うべきか、迷うことも多いでしょう。でも、失敗こそが子どもたちの大切な「学びの種」です。

日常の小さな場面で、つい手を出したくなる気持ちを少し抑えてみると、子どもたちは失敗を重ねながらも、意外なほどたくましく成長していくはず。今日から、子どもの「できた!」の瞬間を、少し離れた場所から見守ってみませんか? その過程での小さな失敗も、きっと大切な糧となりますよ。

(参考)
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