「ちゃんとして!」「早くしなさい!」「何回言ったらわかるの!」
一日のなかで、こうした言葉を何度口にしているか数えたことはありますか? 子どものためを思って言っているはずなのに、振り返ると自己嫌悪に陥る。そんな “怒鳴る → 自己嫌悪 → 翌朝また同じループ” に疲れている方は少なくないはずです。
じつは、命令口調の声かけが効きにくいのは、科学的な理由があります。けれど、心理学でいう「リフレーミング」の技術を子育てに取り入れるだけで、子どもの行動も親子関係も驚くほど変わる可能性があるのです。この記事では、リフレーミングを使った声かけの言い換えを、場面別の具体例とともに紹介します。
目次
なぜ「ちゃんとして!」は子どもに届かないのか
理由1 | 「ちゃんと」の中身が子どもにはわからない
「ちゃんとして」「しっかりしなさい」は、大人にとっては明確な指示のつもりでも、子どもにとっては抽象的すぎて “何をすればいいかわからない” 言葉です。発達心理学の観点から見ると、幼児期 〜 学童期前半の子どもは具体的な行動指示でなければ適切に反応できません。
「ちゃんと座って」ではなく「背中をイスの背もたれにくっつけてね」と言い換えるだけで、子どもは “何をすべきか” を理解できます。
理由2 | 否定語は脳に「やるな」と伝えられない
「走らないで!」と言われた子どもの頭には、まず “走る” というイメージが浮かびます。脳は否定語を直接処理しにくいため、「やめてほしい行動」を伝えるほど、皮肉にもその行動が頭に残ってしまうのです。
子どもの行動指導を専門とするプログラム「インクレディブル・イヤーズ(The Incredible Years)」でも、「してほしくない行動」ではなく「してほしい行動」を伝えることが基本原則として掲げられています。*1
「走らないで」を「歩いてね」に言い換えるだけで、子どもの脳には “歩く” という明確な行動イメージが残ります。
理由3|ネガティブな声かけの蓄積が親子関係を壊す
心理学者のジョン・ゴットマン博士が数千組の人間関係を観察した研究から生まれた「マジックレシオ(魔法の比率)」という概念があります。これは、安定した良好な関係を維持するためには、ネガティブなやりとり1回に対して、ポジティブなやりとりが5回以上必要だというものです。*2
この比率が逆転すると、子どもは親の言葉をノイズとして処理するようになり、本当に大切なときの注意すら耳に入らなくなってしまいます。

リフレーミング声かけの基本「否定→肯定」「抽象→具体」
リフレーミングとは、物事の捉え方の「枠組み(フレーム)」を変えることです。子育ての声かけでは、以下2つの変換を意識するだけで劇的に変わります。
- 結果ではなく存在を認める | 「あなたがいてくれてうれしい」
- 失敗したときこそ味方に | 「失敗してもあなたの価値は変わらないよ」
- 毎日のスキンシップ | 抱きしめる、頭をなでる、目を見て話す
場面別・リフレーミング声かけ実践ガイド
【朝の支度】「早くしなさい!」→ 時間を “見える化” する
「早く」も子どもにとっては抽象的な言葉です。時計を指さしながら「長い針が6のところに来るまでに着替えよう」と伝えれば、子どもは具体的なゴールを認識できます。できたときに「時間内にできたね!」とプロセスを認める言葉を添えると、スタンフォード大学のキャロル・ドゥエック博士が提唱する「成長マインドセット」を育てることにもつながります。*3
【食事中】「こぼさないで!」→ やり方を “教える”
「こぼさないで!」と叱る代わりに、まず子どもの名前を呼んで注意を引き、「こうやって持つとこぼれないよ」と正しいやり方を見せます。上手にできたら「上手に持てたね!」と認めて、注意を学びの機会に変えましょう。
【片づけ】「散らかさないで!」→ ゲームに “変換” する
「片づけなさい!」と命じる代わりに、「赤いものから箱に入れてみよう。ママは青いものを入れるね」と遊びに変換します。子どもは「命令された」と感じずに自然と体が動きます。
【きょうだいゲンカ】「やめなさい!」→ 気持ちに “名前をつける”
「やめなさい!」と制止する前に、「〇〇ちゃんは、おもちゃを取られて悔しかったんだね」とまず気持ちを言語化してあげましょう。これは「感情のラベリング」と呼ばれる手法で、脳の扁桃体の活動を鎮め、子どもの気持ちを落ち着かせる効果があることが研究で示されています。気持ちが落ち着いてから「どうしたらふたりで遊べるかな?」と解決策を一緒に考えるステップに進みます。
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「叱りすぎても大丈夫? 5:1の法則で親子関係を立て直す」
ここまで読んで、「そうはいっても、毎回冷静に言い換えるなんて無理」と思った方もいるでしょう。大丈夫です。ゴットマン博士の研究が教えてくれるのは、ネガティブなやりとりをゼロにする必要はないということ。大切なのは、叱ったあとのリカバリーです。そのあとに、小さなポジティブなやりとりを5回意識してみてください。
「おかえり」のハイタッチ、「今日の給食なんだった?」という会話、ぎゅっとハグ、「お、もう歯磨きしたの?」という気づきの声かけ、寝る前の「今日も一日がんばったね」など、どれもほんの数秒でできることです。
怒鳴ってしまった自分を責める時間を、小さなポジティブの積み重ねに変える。それだけで、親子関係は着実にプラスへ向かいます。
声かけを変えると、子どもの「動き方」が変わる
命令口調をリフレーミングする技術は、子どもを甘やかすことでも、叱らなくなることでもありません。「やめてほしいこと」を伝える代わりに「やってほしいこと」を伝える。 この一点を意識するだけで、子どもの行動は変わり、親のストレスは減り、親子の信頼関係は厚くなっていきます。
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今日の夜、ひとつだけ試してみてください。いつもの「ちゃんとして!」を、「〇〇してくれると嬉しいな」に言い換えてみる。たったそれだけで、子どもの反応がいつもと少し違うことに気づくはずです。
よくある質問(FAQ)
Q1. リフレーミングで言い換えても、子どもが言うことを聞いてくれません。
A. 言い換え始めてすぐに効果が出るとは限りません。これまで命令口調が続いていた場合、子どもは親の言葉を “また叱られる” と身構えるクセがついています。まずは1週間、肯定形の声かけを続けてみてください。
Q2. 危険な場面でも「〜しないで」と言ってはいけないのですか?
A. 道路への飛び出しや火の近くなど、安全に関わる場面では「ダメ!」「止まって!」と即座に制止して構いません。リフレーミングは日常の生活習慣に関する声かけで使う技術です。危険を回避する短い制止語と、日常の行動指示を使い分けることが大切です。
Q3. 夫婦(パートナー間)で声かけの方針がずれています。片方だけ変えても意味がありますか?
A. 意味があります。ゴットマン博士の研究でも、関係のなかで片方がポジティブなやりとりを増やすだけで、全体の比率が改善することが示されています。まずは自分の声かけを変えるところから始め、「こう言い換えたら子どもの反応が変わったよ」と具体的な成功体験をパートナーに共有するのが効果的です。
Q4. つい怒鳴ってしまったとき、子どもにどうフォローすればいいですか?
A. 怒鳴ってしまったあと、「さっきは言い方がきつかったね、ごめんね」と素直に謝りましょう。親が自分の非を認める姿は、子どもにとって「間違えても修復できる」という強力なお手本になります。そのうえで、「〇〇してほしかったんだ」と本来伝えたかったことを穏やかに伝え直すと、子どもは “怒鳴られた記憶” ではなく “何をすればよいか” を記憶に残すことができます。
Q5. 何歳くらいから効果がありますか?
A. 肯定形への言い換えは、言葉を理解し始める2歳頃から有効です。ただし、抽象的な指示を具体化する声かけ(「長い針が6に来るまでに〜」など)は、時計や数の概念がわかる5 〜 6歳以降に効果が高まります。お子さんの発達段階に合わせて、言い換えの “具体度” を調整してみてください。
*1 | Incredible Years, Inc.|Webster-Stratton, C. (2011). The Incredible Years: Parents, Teachers, and Children’s Training Series.
*2 | The Gottman Institute|Gottman, J. M. & Silver, N. (1999). The Seven Principles for Making Marriage Work – The Magic Relationship Ratio
*3 | Professor Carol Dweck|Dweck, C. S. (2006). Mindset: The New Psychology of Success









