からだを動かす/親の関わり 2026.3.12

最初の5分でスイッチON。散歩中の「しりとり」で子どもの脳が3つ同時に育つ——道具も教材も不要の“歩く知育”

編集部
最初の5分でスイッチON。散歩中の「しりとり」で子どもの脳が3つ同時に育つ——道具も教材も不要の“歩く知育”

「り、り……りんご!」「ごま!」「まくら!」

散歩の途中、なんとなく始まるしりとり。たいていの家庭で一度はやったことがあるでしょう。あまりにもシンプルで、あまりにも身近な遊び。

ところが近年、この「しりとり」が脳科学や発達心理学の研究者から注目を集めています。道具も教材もアプリもいらない、この昔ながらの言葉遊びが、子どもの脳にとって驚くほど複合的なトレーニングになっていることがわかってきたのです。

この記事では、しりとりが鍛える「3つの脳の力」と、散歩中にちょっと工夫するだけで効果がさらに上がるコツをご紹介します。

しりとりが同時に鍛える「3つの脳の力」

しりとりの何がすごいのか。それは、子どもの脳の重要な機能を3つ同時に使わせている点です。

1. 音韻認識(おんいんにんしき)|言葉を「音の単位」でとらえる力

しりとりをするとき、子どもは「りんご」の最後の音が「ご」であることを瞬時に切り出さなければなりません。これは「音韻認識(phonological awareness)」と呼ばれる能力で、言葉を意味のかたまりではなく「音の単位」として分解・操作する力のことです。

しりとりに必要な音韻認識について調べた研究では、この遊びを成立させるためには、単語を拍(モーラ)に分割する力と、拍を手がかりに頭のなかの辞書から言葉を引き出す力の両方が必要であることが示されています。*1

そして音韻認識は、読み書きの土台になる力として知られています。全米リーディングパネルのメタ分析では、音韻認識のトレーニングが子どもの読み能力の向上に有意な効果をもたらすことが確認されました。*2

つまり、しりとりで遊んでいるだけで、読み書きの準備運動をしているようなものなのです。

2. ワーキングメモリ|頭のなかで情報を保持しながら操作する力

しりとりの最中、子どもの脳ではたくさんの作業が同時に走っています。「相手が言った言葉の最後の音を覚えておく」「その音から始まる言葉を探す」「すでに使った言葉を思い出して避ける」「”ん”で終わる言葉を言わないようにする」など、これらを一度にこなすには、ワーキングメモリの力が欠かせません

ワーキングメモリとは、情報を一時的に頭の中に保持しながら、同時に別の処理を行う脳の機能です。脳機能イメージング研究によると、しりとりを行うとき、前頭葉(計画・抑制・切り替えを担う領域)と上側頭回(音韻処理を担う領域)が広範囲にわたって活性化することが確認されています。*3

8 〜 10歳の子どもを対象にした研究でも、言葉を一定のルールに従って次々に生み出す課題(語流暢性課題)の成績を予測する最も重要な要因のひとつが、ワーキングメモリであることが明らかになっています。*4

しりとりは、まさにこのワーキングメモリを自然に鍛えているわけです

3. 語彙検索(ごいけんさく)|頭のなかの辞書から素早く言葉を引き出す力

「ご」で始まる言葉は何だろう? しりとりでは、限られた条件(特定の音で始まる)のもとで、頭のなかに蓄えられた膨大な語彙から適切な単語を素早く引き出す必要があります。

この「語彙検索(lexical retrieval)」のスピードは、会話力や読解力の基盤です。子どもの語流暢性を調べた研究では、語彙検索の速さが課題の成績を最もよく予測する因子であることが報告されています。*4

しかも、しりとりで新しい言葉に出会う場面は意外と多いもの。親が使った言葉を「それ何?」と聞くことで語彙そのものも増えていきます

ピンクの線で描かれた脳のシルエットと、青いネットワーク線

散歩中のしりとりが「最強」である理由

では、なぜ「散歩中」のしりとりが特にいいのでしょうか

ひとつは、歩くという行為自体が脳の血流を増やし、認知機能を高めることが多くの研究で示されていることです。歩きながら考えるという「デュアルタスク」の状態は、座って遊ぶときよりも脳に適度な負荷をかけ、ワーキングメモリのトレーニング効果を高めてくれます

もうひとつは、散歩中の風景がヒントになることです。「あ、犬がいる! い、い……いちご!」のように、目に入ったものが連想の手がかりになる。これは、視覚情報と言語情報を結びつける力——いわゆる「言語と知覚の統合」——を鍛える効果もあります。

そして何より、散歩中のしりとりは「お勉強感」がゼロです。子どもは遊んでいるつもり、親もリラックスしている。この「楽しんでいる状態」でこそ、脳は最もよく学ぶのです

通学路で、両親と手をつないで歩くランドセルの女の子

効果をさらに高める「しりとりアレンジ」5選

基本のしりとりに少し工夫を加えるだけで、鍛えられる力がさらに広がります。

1. カテゴリしりとり

「食べ物だけ」「動物だけ」のように、ジャンルを限定するしりとり。語彙検索の難易度が上がり、頭のなかの意味ネットワーク(どの言葉とどの言葉が仲間か)を鍛えられます。

2. 3文字しりとり

「3文字の言葉だけ」という制約を加えるバージョン。音の数を数える作業が加わるため、音韻認識がさらに強化されます。

3. さかさましりとり

「りんご」→ 次の人は「り」で終わる言葉を言う(例「くじら」)。通常とは逆方向の音韻操作が必要になるため、認知的柔軟性(考え方を切り替える力)が鍛えられます。

4. 見えたものしりとり

散歩中に目に見えるものだけでしりとりをするバージョン。「ポスト」→「トラック」→「くも」のように、周囲の観察力+語彙検索力が同時に伸びます。

5. おはなししりとり

しりとりで出てきた言葉を使って短いお話をつくるバージョン。「りんごを食べたゴリラが、ラッパを吹いて……」。語彙力に加えて、物語構成力(ナラティブ能力)も鍛えられます。

たった5分の散歩が、最高の「脳トレ教室」になる

特別な教材も、習い事の送迎も、月謝もいらない。必要なのは、子どもと一緒に歩く5分間と、「しりとりしよう」のひと言だけ。
***
この記事を読んだ今日の帰り道に、ぜひ「しりとりしようか」と声をかけてみてください。子どもが「り……りんご!」と答えたその瞬間、音韻認識、ワーキングメモリ、語彙検索という3つの脳の力が、同時に動き始めています。

よくある質問(FAQ)

Q. しりとりで同じ言葉ばかり繰り返します。語彙が少ないのでしょうか?

A. 語彙の少なさだけが原因とは限りません。ワーキングメモリがまだ発達途中のため、「すでに使った言葉」を覚えておくのが難しいのです。「さっき言ったね、別のにしてみよう」と声をかけるだけで、記憶を振り返る練習になります。楽しみながら続けていれば、自然と使える言葉は増えていきます。

Q. 4歳の子がしりとりのルールを理解できません。まだ早いですか?

A. しりとりに必要な音韻操作の力は4 〜 5歳頃に育ち始めますが、個人差があります。まだ難しそうなら、「最後の音あてクイズ」から始めてみてください。「バナナの最後は?」「ナ!」など、この遊びが十分にできるようになれば、しりとりに移行する準備は整っています。

Q. 車の中やお風呂でも効果はありますか?

A. もちろんあります。しりとりの脳トレ効果は場所を選びません。ただし、散歩中は「歩く」という身体活動が加わることで脳への血流が増え、さらに周囲の風景がヒントになるという追加のメリットがあります。場所ごとの良さを活かして、いろいろな場面で楽しんでみてください。