芸術にふれる/アート 2020.2.3

解説は読むな、◯◯展を狙え! “子連れ” 美術鑑賞 5つのコツ

三重野一
解説は読むな、◯◯展を狙え! “子連れ” 美術鑑賞 5つのコツ

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奥行きを感じる
色に艶がある
見る角度によって違うふうに見える

これらは、美術館で実際のアート作品に出会った子どもたちの発言です。

これまで、対話型鑑賞のメリットや家庭での親子の作品鑑賞の仕方について、6回にわたってお話ししてきました。7回目となる今回は、美術館で作品を対話しながら鑑賞するコツをお話しましょう。

作品の筆のタッチや大きさ、配置や照明、鑑賞する際の距離の違いーー美術館で展示されている実際の作品からは、図版や作品集・スクリーンで鑑賞するのとは異なり、より多くの驚きと感動を得ることができるでしょう。

“子連れ” 美術鑑賞 5つのコツ2

親子で挑戦! 美術館での美術鑑賞

一口に美術館といっても、展示作品のジャンル(絵画、彫刻、写真など)から、作品が作られた時代や国、展示の仕方、美術館の周囲の環境や建造物によって、さまざまな成り立ちを持っています。ぜひいろんな美術館に足を運び、親子でアート鑑賞を楽しんでいただきたいと思います。

とはいっても、子どもが飽きてしまわないか、騒いでしまわないか、悩みは尽きないもの。そんなときは、子ども向けのプログラムがあるところから始めてみるのもいいでしょう。全国各地の美術館には子ども向けのプログラムがたくさん用意されています。

特に、横浜美術館や東京都府中市の府中市美術館のプログラムは充実しています。まだ数は多くないものの、なかには「対話型鑑賞」の企画があるところもあります。たとえば愛媛県美術館では、定期的に対話型鑑賞プログラムを行なっています。

各美術館でどのような企画が催されているかは、それぞれの美術館のホームページで確認できます。機会があり、対象年齢を満たしていれば、そのようなプログラムに参加するのもおもしろいでしょう。

ただ、必ずしもタイミングが合うとも限りませんし、近くの美術館に子ども向けのアート鑑賞プログラムがない場合も多いでしょうから、ここでは個人的に親子で対話しながら鑑賞するコについてお話しします。

好きなときに親子で美術館に足を運び、対話を通して自由に美術鑑賞を味わうーーそんな楽しみ方もあるのです。

“子連れ” 美術鑑賞 5つのコツ3

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1. “子連れ” 美術鑑賞を成功させるための、美術展の選び方

美術展を選ぶ基準は、保護者の方の好みに合わせてかまいません。ただ、印象派の画家の展覧会のような人気の高い美術展は混んでいて、ひとつの作品の前に長い時間いづらかったり、親子でゆっくり対話しにくい空気感があったりします。お子さんとの鑑賞目的で美術館に足を運ぶときは、混雑が予想される展示や、混み合うタイミングを避けることをおすすめします。

大きな美術館では、常設展示(美術館が所蔵する作品の展示)と特別展(作家やテーマに沿った展示)の両方を準備しています。常設展示のほうが比較的空いていて対話しやすいので狙い目です。

ジャンルとして特におすすめなのは現代芸術。現代美術の展示会場では、比較的対話しやすい自由な雰囲気で鑑賞できます。絵画だけではなく、彫刻や映像作品など多岐にわたるので、小さな子どもも飽きずに楽しめるでしょう。空間全体を作品とし、見ている者が作品の中に入り込めるインスタレーション作品などもあり、子どもたちにとってたくさんの刺激となる機会が得られるはずです。

近くに複数の美術館や企画展示がある場合、どこに行くべきか迷ってしまうことも多いもの。どこの美術館でどのような美術展が催されているかを知りたいときは、個別の美術館のホームページで検索する前に、美術雑誌で確認するのも手です。

たとえば、月刊誌『芸術新潮』(新潮社)、『月刊ギャラリー』(ギャラリーステーション)、隔月刊誌『美術手帖』(美術出版社)などが定期的に刊行されています。これらの雑誌には、全国の美術館の展示スケジュールや展示内容が紹介されていることも多く、子どもと行きたい展示を選ぶのに使えます。

特に『芸術新潮』1月号には、東京のミュージアム100「子どもと行きたい美術館」特集があるので、東京近辺にお住まいの方々の参考になるでしょう。

『芸術新潮』1月号

2. 家族で1日楽しめる! 芸術祭も◎

各地で開催されているビエンナーレ(2年に一度の芸術祭)やトリエンナーレ(3年に一度の芸術祭)もおすすめです。

たとえば昨年は、65万人以上が来場した「あいちトリエンナーレ2019」や、瀬戸内海の島々を舞台に開催される現代美術の国際芸術祭「瀬戸内国際芸術祭2019」が開催され、話題となりました。

今年は、横浜の「ヨコハマトリエンナーレ2020」(7〜10月)・さいたまの「さいたま国際芸術祭2020」(3〜5月)をはじめ、東京・千葉・長野・北海道・広島・兵庫・奥能登など、全国各地で芸術祭が開催される予定です。家族のお出かけスポットとしても楽しめるはずですよ。

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3. この時期のおすすめは「美術大学卒業制作展」

毎年1月から3月にかけて、全国の美術系大学や専門学校で卒業・終了制作展が開かれています。著名な作家の作品ではありませんが、美大生の豊かで斬新な感性や勢いを感じ取ることができます。自由に対話できる空気感もあり、実際に制作に携わった学生と話す機会も得られます

全国の美術系大学・学部の卒業制作展のスケジュールは、PARTNERというサイトのこちらのページから簡単に調べられます。また東京都六本木の国立新美術館では、多摩美術大学・女子美術大学・東京造形大学・日本大学芸術学部・武蔵野美術大学による「東京五美術大学連合卒業・終了制作展」が2020年2月20日(木)~3月1日(日)まで開かれています。

美術大学の卒業制作展はいわゆる学園祭的な空気感もあり、楽しく自由に鑑賞することができるので、ぜひ親子で足を運ばれることをおすすめします。

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4. 美術館での「対話型鑑賞」のコツ

これまでお話した通り「対話型鑑賞」では、素直な眼で作品にふれることを大切にします。事前に作品について話し合ったり、美術館内の解説に頼ったりすることは避けましょう

展示室に入ったらまず、初めから終わりの作品までさっと一通り目を通してみましょう。そして気になった作品の前に戻ります。展示会場内を逆走してもかまいません。鑑賞する作品を決めたら、親子で印象を語り合いましょう。特に子どもの発言を大切にし、復唱しながら対話を進めてください。

子どもが作品の印象について話してくれたときは、なぜそう感じたか、理由も聴いてあげるといいですね。作品との距離を変えてみたり、観る角度を変えてみたりすることも、新たな気づきにつながります。

美術館内で親子で対話しながら鑑賞することは禁じられてはいませんが、周囲の観客の妨げにならないように気をつけましょう。海外の美術館では、対話しながら鑑賞していると見ず知らずの観客も話に加わるといった自由な空気がありますが、残念ながら日本では、まだまだほかの観客との交流は持てない傾向が強く残っているようです。

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5. 時間と空間を超えた「知の形成」のために

鑑賞を終えたら「図録」を購入することをおすすめします。卒業制作展など、展示によってはない場合もありますが、美術館にはたいてい図録が用意されています。もちろん常設展にも美術館収録作品図録が用意されています。

ぜひ図録を入手し、家庭に戻ってから、一緒に対話しながら鑑賞した作品を観てみてください。現物と図録での違いに気づいたり、鑑賞したときの印象を思い起こしたりすることに役立ちます。時間と空間を越えての知の形成が期待できるでしょう。

そこで初めて作品についての説明を読み、作家や作品の背景についての知識面に触れるといいですね。得られた知識から作品に対する理解が深まり、さらに豊かな対話となることでしょう。