教育を考える 2019.10.29

親の失敗を見せると子どもが伸びる。超重要スキル「非認知能力」の簡単な高め方5選

編集部
親の失敗を見せると子どもが伸びる。超重要スキル「非認知能力」の簡単な高め方5選

教育に関心のある方であれば、一度は目や耳にしたことがあると思われる「非認知能力」。しかし、その意味や重要性をきちんと理解し、子どもに身につけさせようと試みている方は、あまり多くないかもしれません。

そこで、今回は、あらためて非認知能力の意味や重要性をご説明したうえで、子どもの非認知能力を育む具体的な方法をご紹介します。

非認知能力って何? なぜ必要なの?

一般的に、テストなどで測定できる能力「認知能力」測定しにくい能力「非認知能力」といいます。前者は読み・書き・計算などの学力が代表的なものといえますが、後者は「これ!」というものがひとつに決まっているわけではありません。そのため、わかりにくいと感じる方も多いでしょう。

慶應義塾大学准教授の中室牧子氏は、下記のとおり、非認知能力の具体的なものを9つのグループに分けて紹介しています。

自己認識:自分に対する自信がある、やり抜く力がある
意欲:やる気がある、意欲的である
忍耐力:忍耐強い、粘り強い、根気がある、気概がある
自制心:意志力が強い、精神力が強い、自制心がある
メタ認知ストラテジー:理解度を把握する、自分の状況を把握する
社会的適正:リーダーシップがある、社会性がある
回復力と対処能力:すぐに立ち直る、うまく対応する
創造性:創造性に富む、工夫する
性格的な特性:神経質、外交的、好奇心が強い、協調性がある、誠実

(引用元:conobie|幼児期にもっと伸ばしておきたい「非認知能力」ってどんな能力?

これら非認知能力が注目されるきっかけのひとつとなったのは、ノーベル経済学賞を受賞したシカゴ大学教授のジェームズ・ヘックマン氏が研究・分析した「ペリー幼稚園プログラム」という社会実験です。対象は58世帯の恵まれない家庭で育った就学前の子どもたち。子どもたちは、毎日2時間半ずつ授業を受け、週に一度は教師が家庭訪問して90分間指導をする「質の高い幼児教育を受けるグループ」「受けないグループ」に分けられます。そして就学前教育の終了後、約40年にわたって人生を追跡調査されました。

その結果、質の高い幼児教育を受けたグループは、IQが高くなりますが、4年ほど経つと効果はすっかり薄れてしまい、「就学前の認知能力に対する早期教育はあまり意味がない」という結果となったそう。しかし、最終的な追跡調査では、質の高い幼児教育を受けたグループは、受けなかった子どもよりも学歴・収入・持ち家率が高く、逮捕率が低かったのです。

このプログラムによって、早期に非認知能力を身につけると、その効果は薄れることなく、将来の人間形成に多大な影響をもたらすということがわかりました。

また、日本でも、東京大学社会科学研究所が行なっている「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査」で、非認知能力が将来の所得と関連することがわかっています。同研究所の教授である石田浩氏いわく、「非認知スキルが高いと学歴が高くなり、大人になってからの高い所得に結びついていると考えられる」のだそう。

つまり、早期に子どもの非認知能力を高めておくことは、その子の将来の学力、経済力に大きな影響を及ぼすのです。

超重要スキル「非認知能力」の簡単な高め方5選2

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非認知能力を育む具体的方法

では、子どもの非認知能力を育むために、親は何をすればよいでしょうか。専門家が提案する具体的な方法をご紹介します。

失敗談をシェアする

ライフコーチであり、娘のスカイさんが「全米最優秀女子高生」に選ばれたボーク重子氏によると、親の行動をシェアする際には、「失敗こそシェアする」と心がけることが大切なのだそう。失敗を見せることで、子どもは「失敗は通過点であってやり直しができる」「ひとつの方法が駄目でも、ほかの選択肢や可能性を試せばいい」といったことを学んでいけると同氏は言います。

「子どもは親の姿を見て育つ」ということは、誰もが認識しているはず。だからこそ、多くの親は自分の格好悪いところを子どもに見せようとはしません。しかし、ボーク氏は、失敗する姿からも学ぶことがあり、それが「回復力」「やり抜く力」といった非認知能力を高めることにつながるといいます。ポイントは、失敗までの経緯や、その後どうしたのかというところまで見せること。まずは、そんな話ができる関係づくりから始めるといいかもしれませんね。

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「対話型鑑賞」を取り入れる

アート・プロデューサーの三重野一氏は、「対話型鑑賞」によって非認知能力が育まれると述べています。

「対話型鑑賞」とは、対話を介してグループでアート作品を観ること。三重野氏は、定期的に親子で一緒にひとつのアート作品を鑑賞し、感想や印象を話し合うことで、子どもの非認知能力が育まれるといいます。ポイントは、子どもに自身が抱いた印象を自発的に語らせること。また、子どもの発言を受け入れ、「どうしてそう思うの?」と理由をたずねることで、子どもの論理的思考力を引き出します。週1回、10分程度から始めるとよいでしょう。

アート作品を入手する際には、オンラインが手軽でおすすめです。アメリカの一部の美術館では、オンラインで無料で所蔵作品を閲覧できるサービスを展開しています。ニューヨークのメトロポリタン美術館「The Met Collection」や、シカゴ美術館「Discover Arts & Artists」では、一度は見たことあるような有名作品を数多く閲覧できますよ。会員登録などは不要で、ワンクリックでダウンロードできるので、英語が苦手でも大丈夫。プリントアウトして、ご家庭でアート鑑賞を始めてみてはいかがでしょうか。

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自然体験をさせる

独立行政法人国立青少年教育振興機構理事長の鈴木みゆき氏によると、海や山といった自然の中でさまざまな体験をすることによって「たくましく生きていく力」が育っていくそう。

たとえば、山を登ったり、カヌーを漕いだりすることで「やり抜く力」、家族や友だちとともに野外炊事などの体験をすることで「関わる力」「耐える力」「乗り越える力」などが培われます。子どもに体験の機会を与えるのに最適なタイミングは、本人が自発的に「やってみたい」と言ったときだそう。そのベストタイミングを見逃さずに、自然体験をさせましょう。

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子どもの望む習い事をさせる

教育ジャーナリストのおおたとしまさ氏は、子どものやり抜く力を伸ばすためには、習い事が効果的だと言います。習い事の種類は問わず、「親がやらせたいもの」ではなく、「子どもがやりたいもの」にすることが重要なのだとか。

子どもは自分のやりたいことを習い始めると、夢中になって取り組みます。やがて目標を達成したり、逆に挫折したり、それを乗り越えたりといったことも経験するでしょう。おおた氏によれば、「夢中、達成、挫折、そして乗り越える——」という一連の経験こそが、「やり抜く力」を育ててくれるのだそうです。もしも、子どもが習い事に興味を持ったら、前向きに検討してみてはいかがでしょうか。

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努力をほめる

子どもが100点を取ったとき、「100点なんてすごい!」なんてほめ方をしてはいませんか? じつはそれ、NG発言。非認知能力を育むためには、能力ではなく、「よく頑張ったね!」と努力をほめることが大切です。

EQWELチャイルドアカデミー主席研究員の浦谷裕樹氏いわく、能力をほめられた子どもたちは、点数が下がったときに「自分に能力がないからだ」ととらえ、勉強へのやる気を失ってしまうそう。対照的に、努力をほめられた子どもたちは、点数が下がっても「努力が足りなかったからだ」「もっと頑張ろう!」ととらえることができるのだとか。

子どもが良い成績を取ったり、スポーツで活躍したりしたときには、「○○なんてすごいね!」ではなく、「よく頑張ったね!」「たくさん練習してえらかったね!」といった言葉に変換してほめるとよいでしょう。

***
自分の失敗談を子どもに話したり、一緒にアートを観たり、子どもの努力をほめたりすることは、いずれも普段から親子のコミュニケーションが取れていないと難しいことです。また、習い事や自然体験も、子どもの「あれやってみたい!」「あそこに行ってみたい!」というサインを見逃してはならないため、やはりコミュニケーションが欠かせません。

日頃から、子どものことをよく見て、たくさん会話を交わすことが、子どもの非認知能力を育むための第一歩となるのではないでしょうか。

(参考)
StudyHackerこどもまなび☆ラボ|子どもが親の失敗から学ぶもの。「やり抜く力」を育むなら“格好悪い親”であれ
StudyHackerこどもまなび☆ラボ|アートで非認知スキルを伸ばす! 週に一度、10分間を親子の対話型鑑賞に捧げよう
StudyHackerこどもまなび☆ラボ|「体験」が、子どもたちのやり抜く力や感じる力を育んでいく――子どもに自然体験をさせることの教育効果
StudyHackerこどもまなび☆ラボ|学力は人並程度あればいい。「新たな時代」を生き抜くためには“3つの力”が必要だ
StudyHackerこどもまなび☆ラボ|お説教は「○分以内」で。子どものEQを高める“叱り方の正解”とは
EdTechzine|用語集「非認知能力」
Conobie|幼児期にもっと伸ばしておきたい「非認知能力」ってどんな能力?
StudyHackerこどもまなび☆ラボ|親子で絵を語ろう! おうちで楽しめる「対話型鑑賞」のやり方とアート素材の入手方法5選
東洋経済オンライン|「幼児教育」が人生を変える、これだけの証拠
大豆生田啓友・大豆生田千夏(2019), 『非認知能力を育てる あそびのレシピ 0歳~5歳児のあと伸びする力を高める』, 講談社.
「東大生184人「頭のいい子」の育て方」, プレジデントFamily, 2019年10月号.