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子どもの頃は算数が嫌いで、「数字を見るだけでげんなりした……」という人も多いかもしれません。そういう自らの実体験から、「子どもも算数嫌いになるのではないか?」と心配している親はかなりの割合でいるといいます。「教育の鉄人」とも呼ばれ、カリスマ教師として知られる、東京の公立小学校教諭・杉渕鐵良(すぎぶち・てつよし)先生は、「国語と算数があらゆる学習のベース」だと語ります。では、どうすれば子どもの算数の力を伸ばしてあげられるのでしょうか。子どものやる気を引き出す独自の授業で注目される杉渕先生に、その秘策を教えてもらいました。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)
四則計算が算数を学習するためのベースになる
学校での勉強がはじまる小学校で、とくに重要な教科は国語と算数です。なぜなら、それらが理科や社会などあらゆる他の教科を学習するためのベースとなるからです。
では、子どもの算数の力を伸ばしてあげるにはどうすればいいのでしょうか? あたりまえのことですが、足し算、引き算、掛け算、割り算の四則計算をきっちり身につけることです。算数における四則計算は、ある意味で他の教科に対する国語と算数の存在に似ています。というのも、四則計算がしっかりできなければ、その先にある算数の領域、応用問題に進めないからです。つまり、四則計算は算数を学習するためのベースといえます。
応用問題に臨む場合、たとえその考え方というものを理解できたとしても、四則計算がきちんとできなければ解答にたどり着けずにつまずいてしまいます。逆に、必要な四則計算がぱっとできるのなら、考えることに集中できる。だからこそ、応用問題の理解も深まりますし、その面白さを感じることもできるのです。
スポーツだって同じではないでしょうか。たとえば、テニスをやるにも、素振りすらまったくしていないような基礎ができていない状態なら、まともにボールを打ち返せないでしょう。ボールをラケットで打つスポーツなのに、空振りばかりしていては面白いはずがありませんよね。
最初に「できない」ということをわからせる
でも、じつは逆の考え方もできます。まったくテニスの経験がない子どもにあえていきなり試合をさせてみるのです。もちろん、まともにボールを打ち返せないのですから、子どもは面白くありません。そこで、「きちんとボールを打てるようになったら試合が面白くなるよ」とリードしてあげて、基礎練習をさせる。子どもは試合の面白さを味わいたいがために基礎練習に一生懸命取り組むことになるはずです。
それが、テニスをやりたいといっている子どもに最初から基礎練習ばかりさせてしまうと、「僕はテニスをやりたいのに」と、子どもは不満を抱いて意欲的に練習に取り組めません。そんな心理状態では、大事な基礎練習の成果もなかなかでませんよね?
算数の場合も、まず子どもに応用問題をやらせてみて、それができないということをわからせてみるのです。うまくリードできれば、その面白さを味わおうと子どもは四則計算の習得に励むようになります。とはいえ、四則計算の学習はやはり地味で単純なものが多いので、子どもの集中力がなかなか続かないということもある。子どもが自然に四則計算の勉強をできるようにするには、やはりたくさんの工夫が必要です。
子どもと一緒に楽しみながら四則計算を勉強する
家庭でできることを考えると、日常生活のなかで子どもが楽しみながら四則計算に触れる機会を親がつくってあげることです。「学校の勉強なんて社会に出たら役に立たない」なんてことをいう人もいますが、四則計算は大人なら誰もが日常的に使っていますよね。
たとえば、つねに節約しようと考えているお母さんたちは、スーパーで買い物をするにも何度となく四則計算を繰り返しているはずです。その計算を問題として子どもに出してみましょう。リンゴを買おうとしているときに、「3個で500円のリンゴ」と「2個で400円のリンゴ」があったとします。子どもに、「どっちを買えばお得かな? 教えてくれる?」と相談するのです。子どもは大好きなお母さんの役に立ちたいと、頑張って計算をしてくれるはずです。
自動車でどこかに出かけるときなら、目的地までの距離を教えてあげて、「いま、時速40キロだけど、目的地には何分で着く?」「時速60キロならどう?」というふうに出題することもできるでしょう。
時計を使ってみるのもおすすめです。時計というと、時間を知るためのものと誰もが思い込んでいますが、じつは角度の勉強にも有効です。丸いアナログ時計を使って角度の問題を出すのです。「6時のときの長針と短針の間の角度は何度でしょう?」といった具合です。
家族でおこなうものと考えれば、もっとふざけてみてもいいかもしれませんね。たとえば、「お父さんは3分に1回怒ります。お母さんは5分に1回怒ります。お父さんとお母さんが一緒に怒って大爆発するのは何分後でしょうか?」といったものはどうでしょうか?(笑)。これは紛れもない公倍数の問題ですが、きっと子どもは笑いながら取り組んでくれるにちがいありません。
家庭で子どもに勉強させるときには、「子どもと一緒に楽しむ!」ということをいちばんに意識してほしいとわたしは思っています。勉強をしながらでも、子どもの心からの笑顔をたくさん引き出してあげてください。
『たし算ひき算 10マス計算ドリル 左利き用』
杉渕鐵良 著/学研プラス(2019)
■ 東京都公立小学校教諭・杉渕鐵良先生 インタビュー一覧
第1回:先取り学習はこうやれば効果的。「就学前学習ってどうなの?」に“教育の鉄人”が回答!
第2回:「ちゃんと宿題やりなさい!」に効果がない理由。子どもに“響く”声かけの方法とは?
第3回:子どもを「読書好き」にするきっかけの作り方。国語力アップの決め手は家庭にある!
第4回:算数の力は“楽しく”伸ばす! 地味で単純な「四則計算」を笑うほど面白いものにする工夫
【プロフィール】
杉渕鐵良(すぎぶち・てつよし)
1959年生まれ、東京都出身。東京都公立小学校教諭。小学校教諭となって7年目に子どもたちのやる気を引き出す独自の授業「ユニット授業」を開発。その成果により、「教育の鉄人」と呼ばれ、2011年には「ユニット授業研究会」を設立。若手教員の指導にあたる他、講演のために全国各地を飛び回っている。『小学校教師だからわかる 子どもの学力が驚くほど上がる 本物の家庭学習』(すばる舎)、『全員参加の全力教室2 燃える! 伸びる! 変わる! ユニット授業』(日本標準)、『1日1枚5分でできる 漢字パズル』(すばる舎)、『自分からどんどん勉強する子になる方法』(すばる舎)、『子どもが授業に集中する魔法のワザ!』(学陽書房)など著書多数。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。