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日本でも徐々に浸透しつつある「アンガーマネジメント」という言葉。一般的には「怒りの感情と上手に付き合うための心理トレーニング」とされ、ビジネスパーソンやアスリートが自己コントロールのために取り入れているほか、いまでは学校教育の現場にも広まりつつあります。その学校教育向けのアンガーマネジメントプログラム開発に深くかかわっているのが、早稲田大学教育学部教授・本田恵子先生です。怒りっぽい子どもに手を焼いているという親のために、家庭でもできるアンガーマネジメントのコツを教えてもらいました。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)
キレやすい子どもが増えている時代背景
アンガーマネジメントが広まっている要因としては、感情をコントロールできない子どもが増えたことも挙げられます。その背景にあるのは環境の変化です。いまはまさにデジタル全盛の時代で、かつてのアナログの時代とは子どもをめぐる環境は大きく変わりました。
携帯電話が普及する前なら、友だちに電話するにも、友だちの親など誰かに取り次いでもらうことが普通でした。そうやって、ふつうにコミュニケーション能力や社会性が育つ時代だったのです。また、当時は「待つ」ということがあたりまえの時代でもありましたよね。電話もすぐつながるわけではありませんし、情報を得るにもニュースの時間や新聞が届くのを待つ必要がありました。
でも、いまは別世界。『LINE』を使うにも、子どもたちの場合はそれこそ「数秒ルール」です。いつも「返信しなきゃ!」と思っていますし、友だちから遅れまいとスマホを介して情報に追われ、つねに不安と興奮をいったりきたりしている状況といえます。そんな状況では、感情が安定するわけもありません。
それこそ、感情をコントロールできる「キレない子ども」に育てるとなると、そういう状況を変える必要があります。たとえば、家族で食卓を囲むときにはテレビを消すとかスマホは使わないといったルールをつくることも有効でしょう。家族のあいだできちんとコミュニケーションができなければ、自分の感情をコントロールして他人と適切な人間関係を築くことなどできるはずもありません。そういう意味でも、親が子どもとしっかり対話することが大切になります。
本来のアンガーマネジメントは多くの時間が必要
親子間の対話におけるポイントを紹介する前に、アンガーマネジメントとはどういうものかをまず知ってもらいたいと思います。
怒りなどの感情をコントロールできない人は、自分の欲求を間違ったやり方で出してしまうという特徴があります。アンガーマネジメントとは、その欲求の正しい出し方を学び直すという時間がかかる教育プログラムであり、本来なら予防的なプログラムでも最低で6回の講習を受けてもらう必要があります。
最低6回のプログラムを受けると聞いて、「そんなに回数が必要なの?」と、ちょっと驚いた人もいるかもしれません。いま、ビジネスパーソンやアスリートに広まっているアンガーマネジメントというのは、そのエッセンスを抜き出して、ちょっと怒りを感じたときなどにその場で対処するための簡易的なテクニックといった側面が強いものですから、意外に思う人がいるのもわかります。
でも、すでにキレやすくなってしまっている子どもの場合、そもそも言葉で自分の行動が制御できない状態になっているのですから、それらの簡易的なテクニックは使えませんし、正しく欲求を表現することを学び直すには本当に時間がかかるものなのです。
キレにくい子どもを育てるために、親は子どもとしっかり対話することが大切だとお伝えしました。そのためには、親が自分と子どもの気持ちや欲求をわけてとらえる力を持っていることが大切になります。「あなた(子ども)のため」といいつつ、実は「わたし(親)のため」に指示を出したり話したりしていることが多いからなのです。
キレやすい子どもに育ててしまう親の言葉
アンガーマネジメントプログラムでは、まず、子どもに対するNGワードを親や教員に学んでもらうことにしています。そのなかから、基本中の基本といえる3つのNGワードをお伝えします。
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- 事実を確認する前に決めつける言葉
例:「あなた、○○したんだって?」「話、聞いてないでしょ」
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- 気持ちの代わりに「なんで?」を使う言葉
例:「なんでここを汚すの?」「どうしてそういうことをいうわけ?」
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- ものごとを否定的に伝える言葉
例:「ルール違反!」「規則を守れないなら、もう来ないで」
1の例を他に挙げてみましょう。たとえば、子どもの部屋を見たときにテレビゲームの電源が入っていたとします。つい、「またゲームしてるの?」といってしまうのが一般的ではないでしょうか。でも、もしかしたら子どもは、そろそろゲームをやめて勉強をしようと思っていたところかもしれません。すると子どもは、「いま、勉強しようと思っていたのに……」「だったらもう勉強はやめた!」と思ってしまう。
決めつけられることを子どもはとても嫌がります。そうではなく、「WHAT」を使って話をしましょう。この場合なら、親からすればたとえゲームをしているところに見えても、「なにしてるの?」と聞くのです。そうすれば、子どもは「いまから勉強するところ」と、安定した状態を保つことができます。
2の場合は疑問形になっていますが、親の本当の気持ちを考えるとどうでしょうか? 多くは理由を知りたいわけではないはずです。ならば、本当の気持ちを伝えてあげればいい。「どうしてそういうことをいうわけ?」では子どもはますます反抗してしまいますが、「そういうことをいわれると、お母さん悲しいな」といわれれば、子どもも素直に「ごめんね」と受け入れてくれます。
3は比較的わかりやすいかもしれませんね。否定される言葉をかけられれば誰しも気持ちいいものではありません。なかでも、「マイナスとマイナスの組み合わせ」の言葉はとくに注意が必要。たとえば、どこかに出かけなければならないのに、子どもがぐずっていたとします。「来ないんだったらもう知らないわよ」なんて怒鳴られれば、そんなに怒っている親がいる場所に子どもが行きたいと思うわけがないですよね。
そこで、その言葉を「プラスとプラスの組み合わせ」に変えてあげればいいのです。この場合なら、「いま来たら、乗りたい電車に間に合うよ!」という感じですね。
きちんと自分の感情をコントロールできる子どもに育てたいという願望は親であれば誰にでもあるものです。日頃からこれら3つのNGワードを使っていないか、ぜひチェックしてみてください。
『キレやすい子へのアンガーマネージメント―段階を追った個別指導のためのワークとタイプ別事例集』
本田恵子 著/ほんの森出版(2010)
■ 早稲田大学教育学部教授・本田恵子先生 インタビュー一覧
第1回:子どもが「キレやすい」人間に育ってしまう、“絶対にNG”な親の振る舞い方
第2回:意外と言いがち! 子どもがますます反抗する、親のフレーズ3パターン
第3回:「10歳の反抗期」に親がすべきこと。子どもは親の思いどおりには育たない!
【プロフィール】
本田恵子(ほんだ・けいこ)
早稲田大学教育学部教授。中学、高校の教員を経験したあと、教育現場にカウンセリングの必要性を感じて渡米。アメリカにて特別支援教育、危機介入法などを学び、カウンセリング心理学博士号取得。帰国後にスクールカウンセラー、玉川大学人間学科助教授等を経て現職。学校、家庭、地域と連携しながら、児童、生徒を支援する包括的スクールカウセリングを広めている。2000年代からは、矯正教育の専門家を対象としたアンガーマネジメント研修の講師も務める。著書に『改訂版 包括的スクールカウンセリングの理論と実践』(金子書房)、『脳科学を活かした授業をつくる 子どもが生き生きと学ぶために』(みくに出版)などがある。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。