音楽をたのしむ/楽器 2018.9.20

幼少期に習うヴァイオリンにある4つのメリット――身体面・精神面にもたらされる良い影響

幼少期に習うヴァイオリンにある4つのメリット――身体面・精神面にもたらされる良い影響

ヴァイオリンと言えば、いまもむかしも憧れの習い事ですよね。今回お話を聞いたのは、ヴァイオリニストや指揮者として演奏活動を行う傍ら、自身が開く教室で子どもにヴァイオリンを教える、西谷国登さん。西谷さんによると、ヴァイオリンは身体面・精神面にさまざまないい影響を与えてくれるそう。ヴァイオリンを子どもの習いごとに選ぶメリットについて、詳しく聞いてきました。

構成/岩川悟 文/Tokyo Edit

メリット1――「魅せる楽器」だから姿勢が綺麗になる

わたしは運営している教室「Kunito Int’l String School (KISS)」で、現在たくさんの才能あるお子さんたちに対してヴァイオリンのレッスンをしています。そのなかであらためて、「ヴァイオリンという楽器は、本当に子どもの成長に欠かせない楽器だな」ということを感じます。楽器をはじめたお子さんたちが成長するにつれ、見た目や内面もどんどん洗練されていく気がするからです。ヴァイオリンを習うことと直接的な因果関係があるかどうかはわかりませんが、学校の成績も優秀な子が多い気がします。

まず、ヴァイオリンを習うと姿勢に気をつかうようになります。この場合、姿勢というのはヴァイオリンを構える際の立ち方、持ち方のことです。ヴァイオリンという楽器には、「魅せる楽器」という特性があります。ヴァイオリンは、一方向のみを向いているピアノなどの楽器とちがい、演奏するときにすべての方向に気を配らなければなりません。また、姿勢を正すことで理想の音に近づくことができます。姿勢に気をつかうようになるのも自然なことでしょう。

良い姿勢を保つことは、想像以上に難しいもの。最初は良い姿勢で演奏できていたとしても、難しい曲を演奏したり座って演奏したりして意識が下がると、簡単に姿勢が崩れてきます。また、人間は夢中になるとどうしても前かがみになってきてしまうので、それも姿勢が悪くなる原因のひとつです。そのためか、はじめの1年間、姿勢だけを厳しく教えて、音は出させないという先生も世の中にはいらっしゃいます。

わたしはこれまで30年以上楽器を演奏してきて、おそらく100回以上、持ち方や姿勢の改善、変更を行ってきました。これは、結構大変なことでした。ヴァイオリンの姿勢は変な癖がつきやすく、どうしても姿勢の見直しを何度も行うケースが多いのです。正しい姿勢が身についていないと、見た目や音が悪くなるばかりか、最終的に身体を壊してしまう恐れすらあります。ですが、良い姿勢が崩れたときに毎回きちんと直すことで、悪い癖を正す能力や、良くないことがあればきちんと直すという心の柔軟性が鍛えられるのではないかと思います。

大事なことは「人に見られている」という意識。ヴァイオリンを習っている子どもは、早いうちからこうした意識を持つので、ヴァイオリンに限らず人前でなにかを発表する際にも、良い姿勢を保つことができるでしょう。

幼少期に習うヴァイオリンにある4つのメリット2

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メリット2――共演者とのコミュニケーションで社交性が身につく

最近では家に閉じこもってゲームばかりして、コミュニケーション能力が足りない子どもが多いと聞きますが、それでは社会に出てから苦労することもあるかもしれません。ましてや、これからはグローバル化が進みますから、考え方のちがう人と協力・協働してものごとを進めていく力は、必須になると思います。

その点ヴァイオリンという楽器は、気軽に誰かと一緒に演奏する機会を持てる良さがあります。演奏するためには、必ず練習の過程で共演者とコミュニケーションをとる機会が生まれ、自然と社交性が養われます。また、年齢がちがう子どもと一緒に練習する機会を得られれば、先輩・後輩といった関係性や、疑似的な兄弟のような関係性も学べて、まさに一石二鳥です。

早いうちから師弟関係を学べるという点でも、ヴァイオリンは幼少期に適した習い事ではないでしょうか。ヴァイオリンのレッスンを通して、子どもは早くから「先生」という尊敬すべき存在を見つけ、その目標に向かって努力することができます。目上の人に対する適切な礼儀やふるまいも自然と身につくはずです。

こうした人間関係を学ぶことで、子どもは時間とともに良質な人脈を形成していくことでしょう。社会的信用のある人との関わりは、子どもの人生に良い影響を与えることになると思います。もちろん、その人脈はヴァイオリニストとして音楽大学への入学やオーケストラへの入団を目指すときにも役立つかもしれませんね。

幼少期に習うヴァイオリンにある4つのメリット3

メリット3――左右の手を使うことで集中力が身につく

ヴァイオリンはとても集中力が必要な楽器です。ヴァイオリンを演奏するには、右手で弓を操り、左手で弦を押さえなければなりません。左右の手がまったくちがう動きをするので、一瞬たりとも集中を切らすことができないのです。

もちろん幼い子が練習をする場合、はじめのうちは集中力が長く続きません。ですから、無理なく集中力を伸ばすために、段階を踏んでレッスンの時間を長くしていくことを提案します。3歳の子どもの10分は大人の1時間に匹敵すると思います。なので、最初は5分、それができたら10分、30分……と練習時間を延ばしていきます。一般的な小学校・中学校の授業時間は、1時間未満のことがほとんど。集中力が身についていれば、難なくこなせるでしょう。

メリット4――脳の発達に好影響がある

ヴァイオリンはむかしから、子どもの英才教育に用いられてきた楽器です。譜面を見てそれを脳が理解し、体の各部に指令を出す。その結果、手を動かし、音を鳴らす。その音が譜面どおりかどうかを確認しながら、次に弾くべき部分の譜面を読んでいく。この一連の流れは右脳と左脳の両方を使うことから、脳の発達にいいと言われています。ヴァイオリンは、記憶力や計算処理能力、IQなど、子どもが発達していく過程で身につけたいさまざまな能力を伸ばすのに効果的だという研究結果もあるようです。ヴァイオリンを習っている子が学校の成績もいいのは、あながち偶然ではないのかもしれませんね。

■ ヴァイオリニスト・西谷国登さん インタビュー一覧
第1回:子どもの音感を伸ばす3つのステップ――音感はトレーニングによって育てられるもの
第2回:幼少期に習うヴァイオリンにある4つのメリット――身体面・精神面にもたらされる良い影響
第3回:子どもが大成していく「褒める」教育――我が子の才能を伸ばすために親がすべきこと
第4回:ヴァイオリンを通じて見える「理想の親子関係」――子どもをぐんぐん伸ばす親の特徴

【プロフィール】
西谷国登(にしたに・くにと)
1983年2月5日生まれ、東京都出身。ヴァイオリニスト・指揮者。ニューヨーク大学大学院修了(M.M.特別奨学金含む)ポートランド州立大学卒業(B.M.4年連続奨学金授与)。大学入学時より大学オーケストラの首席コンサートマスターを務め、2006年7月、2007年6月、2009年5月に米国各地にてリサイタル(いずれも満席)を行う。2010年、日本に帰国。2012年9月、日本帰国後初リサイタル(1日2回公演)を行う。その後、2014年5月より2016年5月、2018年5月と浜離宮朝日ホールにてリサイタルシリーズを行っている。また、日米のさまざまなオーケストラと共演。5枚のCDアルバムを(株)エス・ツウよりリリース。最近では、NHK-BS、TV Asahi、J:COMに出演するなどメディアでも活躍中。在米中、ニューヨーク大学非常勤講師、ポートランド州立大学非常勤講師、ローズ市音楽学院講師を歴任。また、情熱的で的確な後進の指導には定評があり、国際コンクールを含むコンクールやオーディション等でも入賞等の結果を残している。第25回、第26回「日本クラシック音楽コンクール優秀指導者賞」2年連続受賞。2017年4月、名門米国イリノイ大学、ウェスタンイリノイ大学の各大学に招待され、リサイタルや公開レッスンの他講演を行う。これまでに、田中千香士(元・東京芸大名誉教授)、キャロル・シンデル(Yハイフェッツ愛弟子)、マーティン・ビーバー (コルバーン音楽院教授)の各氏に師事。現在、Kunito Int’l String School (KISS) 教室主宰。石神井Int’lオーケストラ音楽監督。クニトInt’lユースオーケストラ音楽監督。池袋コミュニティカレッジ講師。読売・日本テレビ文化センター講師。日米各地でレクチャー講演や公開レッスンを開催。また、各地でコンクール審査員、講座の監修・公共イベントのプロデューサーを務める。著書に『国登ヴァイオリン教本(全4巻)』(サーベル社)※Amazon売れ筋ランキング弦楽器部門第1位獲得。『ヴァイオリン留学愚痴日記@米国オレゴン州ポートランド』(文芸社) などがある。
西谷国登公式サイト https://nkunito.com

【ライタープロフィール】
株式会社Tokyo Edit
金融・経済系を中心としたメディア、コンテンツの企画・制作・運用を行う。運営するチーム「Tokyo Edit」には、ライターや編集者の他、デザイナーやカメラマン、プログラマーなど、幅広い職種のクリエイターが登録。高品質で結果の出るコンテンツづくりを目指している。