2018.9.28

子どもの人生を充実させる前向き思考の「自己肯定感」――体験によって養う「自信」と「立ち上がる力」

子どもの人生を充実させる前向き思考の「自己肯定感」――体験によって養う「自信」と「立ち上がる力」

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我が国の青少年の健全育成を図ることを目指す、独立行政法人国立青少年教育振興機構。その主な活動は「教育的観点から青少年に体験活動の機会や場を提供する」というもの。2017年4月から理事長を務める鈴木みゆきさんは、「さまざまな体験、そして家族の愛情が子どもの自己肯定感を高める」と語ります。そもそもなぜ、自己肯定感が子どもにとって重要なのか——。そんな話からお聞きしました。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹(ESS) 写真/玉井美世子

「自己肯定感が弱い=悪い」とは言い切れない

子どもを持つ親なら、「自己肯定感」という言葉を耳にすることがどんどん増えているでしょう。近年、それだけ子どもたちにとって重要なものだと考えられはじめているということですね。自己肯定感は、以前、わたしもメンバーのひとりだった内閣府の教育再生実行会議でも頻繁に取り上げられたテーマでもあります。

そして、よく指摘されるのが「日本は外国に比べて若者の自己肯定感が弱い」ということ。実際、内閣府が13歳から29歳の若者を対象におこなった意識調査でもそれが数字に表れています。

子どもの人生を充実させる前向き思考の「自己肯定感」2
(内閣府「平成26年版子ども・若者白書」より)

このデータによると、日本の若者は欧米諸国の若者に比べて自己肯定感が格段に弱いことがわかりますよね。とはいえ、これをそのまま鵜呑みにはできないとも思っています。日本には謙虚であることを良しとする文化がありますから、そもそも「わたしが一番!」という意識を持ちづらいということもあるでしょう。また、実際には自分を肯定していながらも、謙虚さを持ち併せているがゆえに、「自分自身に満足しているか」という問いに「そう思う」とは答えなかった若者たちもいたと思うのです。

そして、自己肯定感が弱いことがそのまま悪いことであるかのように決めつけられる風潮にも、わたしは疑問を持っています。みんながみんな「わたしが一番!」という人間ばかりだったらどうでしょうか? 謙虚な姿勢を重んじる日本社会の場合、そういう人間は煙たがられることもあるでしょう。謙虚さが、社会生活を円滑なものにしているもののひとつでもあるはずです。外国人に比べて日本人の自己肯定感が低いからといって、必要以上に卑下する必要はないと思うのです。

でも、「わたしが一番!」というものではなく、自分が好きだとか、なにかに挑戦するときに「わたしにはできる!」と思うだとか、そういう前向き思考につながる自己肯定感は、子どもにとってすごく重要なものですよね。他人と比べるのではなく、「自分が大事な存在だ」「自分はここにいていいんだ」と自分を認める意識——。それが、長い人生を充実したものにしていく力を子どもたちに与えてくれるのです。

子どもの人生を充実させる前向き思考の「自己肯定感」3

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転ばぬ先の杖を用意せず「子どもを野に放て!」

自己肯定感が子どもに与えてくれる力にはさまざまなものがありますが、なかでもわたしは「立ち上がる力」がもっとも重要だと考えています。一生、まったく傷つくことなく生きていくのは難しいもの。傷ついたときにはぺしゃんこにへこんでもいいんです。でも、そこからまた立ち上がることができなければなりません。「明けない夜はない、朝は必ずやってくる」という気持ち、立ち上がる力を子どもに持たせてあげることが大切なのです。

子どもの人生を充実させる前向き思考の「自己肯定感」4
写真提供/国立青少年教育振興機構

そして、子どもたちが自己肯定感を高めるために必要なことは、まず誰かから愛されるということでしょうね。特に、周囲からの愛情によって自己肯定感の基礎を築いていく年齢である3歳から小学生くらいの子どもにとっては重要なことです。幼い子どもがいる親御さんは、子どもに存分に愛情を注いであげてください。

わたしたちの調査では、親を含めた家族の愛情が子どもの「立ち上がる力」を高めていることもはっきりとわかっています。加えて、親自身が自己肯定感を高めることも重要ですね。親の自己肯定感が強いほど、その子どもの自己肯定感も強くなる傾向にあるのですから。

子どもの人生を充実させる前向き思考の「自己肯定感」5
子どもの人生を充実させる前向き思考の「自己肯定感」6
(国立青少年教育振興機構調べ)

また、誰かから愛情を受けて育つことと並んで、子どもの自己肯定感を高めるために重要なことが「体験」です。そして、子どもがなにかを「やりたい!」と思ったときがやらせどきだと考えてほしいですね。たとえば、子どもが「包丁を使ってみたい」と言ったら、それが何歳のときであってもやらせてあげるべきです。

もちろん、注意は必要ですよ。最初は豆腐をさいの目に切るようなことからはじめて、徐々にキュウリの薄切りやタマネギのみじん切りをさせるというふうにステップアップさせていく。そして、そこに親が関わり、やれたことを褒める、やろうとしたことを褒めることが大事。その繰り返しのなかで、子どもたちは生きていく自信や力、スキルを身につけていくのです。

包丁を使うなど危険を伴う行為をやらせるにあたって、子どもを心配するのは親として当然ですが、やはり心配し過ぎないようにすることも大切です。子どもを大事に大事に扱って「転ばぬ先の杖」を用意し続けると、それこそ「立ち上がる力」を身につけることがないまま大人になってしまいますから。親御さんたちには子どもを野に放て!とお伝えしたいですね。

※本記事は2018年9月28日に公開しました。肩書などは当時のものです。

国立青少年教育振興機構施設利用案内

■ 『早おきからはじめよう
鈴木みゆき 著/ほるぷ出版(2008)
早おきからはじめよう

■ 国立青少年教育振興機構・鈴木みゆき理事長 インタビュー一覧
第1回:「体験」が、子どもたちのやり抜く力や感じる力を育んでいく――子どもに自然体験をさせることの教育効果
第2回:「大人の愛」と「協働力」が子どもを大人に導いていく――親以外の人との交流によって広がる子どもの視界
第3回:子どもの人生を充実させる前向き思考の「自己肯定感」――体験によって養う「自信」と「立ち上がる力」
第4回:「お手伝い」が子どもにもたらすいくつものメリット――お手伝いの習慣が高い学力につながる理由

【プロフィール】
鈴木みゆき(すずき・みゆき)
1955年6月30日生まれ、東京都出身。お茶の水女子大学大学院家政学研究科児童学専攻修了。医学博士。和洋女子大学人文学群こども発達学類教授を経て、2017年4月に独立行政法人国立青少年教育振興機構理事長に就任。過去には文科省中央教育審議会幼児教育部会委員、厚労省社会保障審議会保育専門員会委員、内閣府教育再生実行会議専門調査会委員などを歴任した子ども教育のスペシャリスト。現在、国立教育政策研究所評議員も務める。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。