教育を考える 2021.7.5

伸びる子は “ワクワク” しながら生きている! 興味関心が「持続しやすい子」と「発散しやすい子」

編集部
伸びる子は “ワクワク” しながら生きている! 興味関心が「持続しやすい子」と「発散しやすい子」

(この記事はAmazonアフィリエイトを含みます)

何かに挑戦しようとするとき、原動力となるのはワクワクする気持ちです。そして「ワクワク」は、子どもの心、体、頭を育むだけでなく、想像以上の教育効果をもたらしてくれることがわかっています。今回は、ワクワクが大切な理由についてたっぷり解説していきましょう。

ワクワクドキドキした心の状態=「プレイフル」の驚くべき効果

子どもはもともと好奇心旺盛で、どんなことでも楽しむ天才です。「これの何がそんなに楽しいの!?」と大人が思うようなことでも、子どもにとっては新鮮でワクワクする貴重な体験になりうるのです。

教育工学を専門とする上田信行氏は、著書『プレイフル・シンキング』(宣伝会議)のなかで、次のように述べています。

何かにワクワクするのは、それがまだ誰も見たことのないものだったり、誰も成し遂げていないことだったりするからだ。その反面、前例がないため失敗のリスクと背中合わせでもある。だから、不安でドキドキする。ワクワクドキドキすることをやりきろうとするのは、はっきり言って、いばらの道だ。それでもあきらめずに前進し続けたら、世の中の人々を「あっ」と驚かせるようなことを成し遂げられるかもしれない。そのときの感動も大きなものになるはずだ。

(引用元:上田信行(2020),『プレイフル・シンキング[決定版]働く人と場を楽しくする思考法』, 宣伝会議.)

ワクワクドキドキする気持ちは、自分を成長させるための原動力にもなるのですね。上田氏は、知的好奇心や興味のスイッチが入って、夢中になってチャレンジしている状態プレイフルと定義しています。「プレイフル」とは、直訳すると「遊びであふれている状態」。何かに没頭して夢中になっている、ワクワクする気持ちがあふれている状態をイメージするといいでしょう。

「楽しさ」は脳への報酬となり、意欲を増進させます。さらに、「おもしろい」と感じたことは脳に記憶されやすく、楽しみながら学んだことほど脳に定着するのです。「口角を上げると脳のなかでドーパミンという快楽物質の分泌が盛んになり、記憶効率が高まりスキルアップしやすくなることがわかっている」と、脳科学者の篠原菊紀氏が述べるように、ワクワクして「楽しい!」と勉強したときほど、学習が結果に結びつくのです。

勉強以外でも、子どもの体や心が健やかに成長するためには「ワクワク」が欠かせません。もちろん大人になってしまった私たちだって、ワクワクしない毎日を過ごすより、ワクワクがあふれた日々を送るほうが何倍もいいはずです。

いいことだらけの「ワクワクする気持ち」。子どものワクワクがどんな効果をもたらすのか、また、子どものワクワクを引き出すために親ができることについて、あらゆる角度から考えていきましょう。

ワクワクが大切な理由02

子どもの知的好奇心を育てる3つのポイント
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ワクワクドキドキ体験は体と心の発達を促す!?

保育・教育現場の先生たちの声を反映する「子どものからだの調査」では、最近の子どもについて、「すぐに『疲れた』と言う」「夜なかなか眠れず、朝起きられない」「いつもソワソワ、キョロキョロして落ち着きがない」「よく転んで骨折しやすい」などの声が寄せられているようです。その理由を日本体育大学教授の野井真吾氏は「やる気や意欲が乏しく、すぐに『疲れた』と言う背景には、日々の生活に満足感や充足感をもっていないという点もある」と指摘しています。

では、どうすれば、子どものやる気や意欲が刺激されるのでしょう? そうです、その答えは、「ワクワクドキドキ体験」です。ある幼稚園では、毎朝20分程度「じゃれつき遊び」と称して、引っ張り合ったりくすぐったり、先生や両親に抱っこや肩車をしてもらったりして、体を密着させながら遊ぶことを試みました。すると、すぐに「疲れた」と言う子や、ソワソワして落ち着きのない子が減り、興奮と抑制のバランスが身についた子どもが約50%を占めるほどになったそうです。

また別の小学校では、始業前の約15分間を使って、ボール遊びや鬼ごっこなど体を思いきり動かして遊ぶ「ワクワク・ドキドキタイム」を設けました。こちらも同様に、実施してから5年間で落ち着きのない子どもが半分近くに減ったのだそう。「やらされていると思って遊ぶのではなく、主体的に自ら遊びたいと思うことが重要で、そのことが脳を刺激し、発達を促すことにつながる」と野井氏が言うように、楽しく遊んで芽生えた「ワクワク」が、体や心の発達を促すのです。

しかし、「子どもには本来、楽しく遊んで、心が揺さぶられる体験をしたいという欲求が備わっている」にもかかわらず、いまの時代は「時間・仲間・空間」がなくなってきていますよね。ですから、ワクワクドキドキする環境を大人が用意してあげることが必要です。本記事の最後に「子どものワクワクを引き出すために親ができること」をまとめているので、ぜひ参考にしてください。

ワクワクが大切な理由03

「学び」と「遊び」に境界線はない。ワクワクが学びにつながる!

先に述べたように、脳の発達のためにも、勉強で結果を出すためにも「ワクワク」は欠かせません。ところが、立命館大学大学院准教授の荒木寿友氏によると、これまで教育界では、ワクワクすることは避けられていたように感じる」のだそう。その理由として、「勉強とは苦しみながら努力して身につけていくもの」というマインドが根本にあったということが挙げられます。

しかしいまでは、学びの「着火剤」としての役割が「ワクワク」にあることを多くの指導者が説いています。学びの興味関心を育てる学習塾エイスクール(a.school)代表の岩田拓真氏もそのひとり。

岩田氏は著書『「勉強しなさい」より「一緒にゲームしない?」』(主婦と生活社)のなかで、『遊び』と『学び』に境界線はないと断言しています。勉強と遊びをイコールに近づけるために欠かせないのは「夢中」、つまり「ワクワクする気持ち」。親が「遊び」と「学び」を切り分けず、子どもの「ワクワク」を尊重することで、子どもは自発的に学ぶようになります。

「楽しさのなかにこそ学びがある」という考えは、まさにプレイフル・ラーニングです。慶應義塾大学環境情報部教授の今井むつみ氏は、「子どもが興味をもっていないのに、大人が設定した場に子どもを押し込んでもプレイフルではないときっぱり。逆に、「はたから見れば遊んでいるようには見えなくても、子ども本人が楽しんでいれば、その学びはプレイフル・ラーニングと言える」とのこと。

つまり、子ども自身が楽しいと思えるか、楽しみながら取り組めるか、という点が何よりも重要だということ。人間の集中力や記憶力には限界がありますが、自分が興味をもっていることに対してはとことん集中してのめり込めるのだそう。今井氏も主体的に働きかけて疑問に思ったことや、知りたいと思って調べたり聞いたりして発見したことは確実に残ると述べています。

たとえば、書店などで子ども向けのドリルを選ぶときも、「ワクワクしながら取り組めるかな?」と考えてみるといいでしょう。『わくわく!小学生の考えるパズル(かんたん)』『わくわく!小学生の考えるパズル(とってもかんたん)』(世界文化社)は、楽しみながら集中力が身につくだけでなく、自ら考える力を養うことができるドリルです。「かんたん」は小学校低学年から、「とってもかんたん」は入学準備段階の児童から取り組めます。

ワクワクが大切な理由04
小学校低学年向け「かんたん」編。自分自身で考える力が身につけば、学びの時間がワクワクに変わります。

ワクワクが大切な理由05
入学前の児童向け「とってもかんたん」編。自分なりに工夫して理解しようとすることでワクワクが育まれます。

習い事は、ワクワクが原動力になればぐんぐん伸びる!

わが子がワクワクしながら取り組むことのひとつに「習い事」があります。親やきょうだい、友人の影響、本人の強い希望など、きっかけはさまざまでしょう。ここでも重視すべきは「ワクワクしているかどうか」です。

教育専門家の石田勝紀氏は、「習い事のメリットは、その習い事が上手になるということ以外に、子どもにとって非日常の経験ができることにある」と話します。また、子どもの頃に多様な経験をすることで、将来なりたいものや、進みたい道が見つけやすくなります。子どもにとっての習い事は、親が考える以上にその後の人生に影響を及ぼす可能性があるようです。

だからこそ、習い事とはつらく苦しい体験を強いられるものではなく、ワクワクしながら楽しんで通う場所になってもらいたいですよね。そのために、親としてサポートできることはあるのでしょうか?

東京医療保健大学女子バスケットボール部監督を務める恩塚亨氏は、「やりなさい!」と指示を出すよりも、「(憧れの選手などを例に出して)なりたい自分になろう!」という声かけが、本人のワクワクする気持ちをかき立てると述べています。

習い事を続けていると、成績(タイムや順位)が伸び悩んだり、飽きたりすることもあるでしょう。そんなとき、「せっかく続けているんだから頑張りなさい!」「やる気がないのならやめちゃいなさい!」と追い詰めるのは逆効果。恩塚氏は、なりたい自分になるために、ワクワク感を持ってチャレンジすることの重要性を説き、そのような環境をつくってあげることや、子どもが前向きに取り組めるような声かけを意識することをすすめています。

一方で、「やめ時」を見極めてあげるのも大切です。石田氏は、「親は『継続は力なり』と思っているが、嫌いな状態を継続しても力になるどころか、ますます嫌いになるだけと苦言を呈しています。合わない習い事を、我慢してだらだらと続けているほうが問題です。少しお休みの期間を設けたり、教室を変えたりすることも選択肢に入れましょう。

興味関心が『持続しやすい子』と『発散しやすい子』がいると前出の岩田氏が述べるように、必ずしも持続することだけがよいとは限りません。「興味関心が発散しやすい」というのは、いろいろなことに関心をもって挑戦できるということでもあります。子どもの好奇心の対象を否定せずに、どんなことでも積極的に挑戦させてあげたいですね。

最後に、「子どものワクワクを引き出すテクニック」や「モチベーションの保ち方」について、専門家のおふたりにお聞きしました。

【文化系の習い事】
「好きこそものの上手なれ」という言葉があるように、ワクワク感は上達につながります。また、先生や親御さんからのほめ言葉も、子どものやる気に直結します。「ほめられる→認められて嬉しい→やる気が出る→(書道の場合)さらによいものを書く→ほめられる」この連続が大切。書道では級がついたり、書道誌で発表されたりするので、他者からの評価もモチベーション持続の材料になります。逆に、「怒られた」「ほめてもらえない」「失敗した」などネガティブな感情の蓄積は、ワクワク感が低下する要因に。うまくいったときには「努力の成果」を評価し、大いにほめてあげてください。そして、うまくいかなかったときこそが「レベルアップチャンス」です。そのことを伝え、「頑張っているね」と励ましてあげるといいでしょう。
――宙書道院主宰/並河博子氏
【スポーツ系の習い事】
まず、習い事を始めたきっかけよりも、入会後に教室に来ることに毎回ワクワクできているかが大事です。次第にワクワクが消えてしまう子を見ていると、親御さんの理想が高く、それを押しつけたり、うまくできない子どもを怒ったりしているように感じますね。そうなってしまうと、ワクワクしているときに比べて成長のスピードも遅れていくでしょう。子どもに「できないこと」がたくさんあるのは当然です。子どもは学びながら、成長している途中なのですから。だからこそ、常にポジティブな声かけをしてあげてほしい。「~~をしなさい!」ではなく、子ども自身が「~~を頑張るぞ!」「~~をやりたい!」と思えるような声かけが理想です。
――Sports Intersection Basketball Academy代表/翁長明弘氏

習い事というのは、子どもの忍耐強さを試したり鍛えたりするものではありません。ワクワクする気持ちによって引き出された力が、「自分はできる!」という自信と自己肯定感のもととなり、子どもの人生をより豊かにしてくれるのです。

ワクワクが大切な理由06

子どものワクワクを引き出すために親ができる3つのこと

子どものワクワクを引き出すために、家庭では何ができるでしょう? すぐに実践できる具体例をご紹介します。

ワクワクを引き出す方法1:子どもの「好き」「楽しい」を否定しない!

子どもが遊びに夢中になっている姿を見て、「くだらないことばかりやっていて心配」「はたしてこの遊びは学びにつながったり役に立ったりするのかな?」と考えたことがあるなら要注意。

前出の岩田氏は、「残念ながら、親が意図的に “させたこと” は、ほとんど探求(夢中になって打ち込むこと)には結びつきませんと指摘します。すべての「探求」は、子どもの「遊び」から始まります。子どもが「おもしろそう!」「やってみたい!」と反応することを、決して否定せずに、尊重して見守ってあげましょう。

親は子どもの探求を手助けする『探求サポーター』になってほしいと岩田氏が述べるように、親の意向を押しつけるのではなく、子どもの興味を優先してサポートしてあげるように心がけてください。

ワクワクを引き出す方法2:親自身もワクワクを忘れない!

発達脳科学・MRI脳画像診断の専門家である加藤俊徳氏によると、親が楽しく物事に取り組む姿を見せることで、子どもの前頭葉をプラスにはたらかせることができるのだそう。脳の前頭葉は、やる気や意志、集中力、判断力、コミュニケーション能力などのはたらきをつかさどっています。

加藤氏いわく、子どもが『物事の楽しみ方=前頭葉の上手なはたらかせ方』を学ぶには、親がいきいきと活動している見本となることが大事とのこと。たとえつらいことがあっても、自分の好きなものに向き合って元気を取り戻す親の姿を見ることで、子どもの脳にも気持ちをもち直す姿勢が自然とインプットされていくのだそうです。

前出の石田氏も同様に、「ワクワクした気持ちで『もっと知りたい!』と自ら学習していくような人間を育てるためには親はどうしたらよいか?」という質問に対して、親が日々ワクワクした気持ちで『もっと知りたい!』と自ら学習していくような人間であればいいと答えています。小学校低学年までの子どもは、非言語のコミュニケーションから大きな影響を受けるので、言葉で伝えるよりも雰囲気や態度、行動を意識するよう心がけましょう。

ワクワクを引き出す方法3:親子で一緒にワクワクする!

親も一緒に何かを楽しむことは、子どもの学びにつながります。前出の今井氏は、子どもは大好きなお父さん・お母さんと一緒に何かをすることが一番嬉しく、ワクワクしながら多くのことを学ぶことができると述べています。

「大人と子どもが何を一緒にやればいいの?」と深く考える必要はありません。子どもが興味をもっているのなら、どんなものでもOK。昆虫でも電車でも、一緒に図鑑やドキュメンタリー番組を見たり、博物館に連れて行ったりすることも、「一緒にワクワクする体験」になります。

好きなものについて一生懸命説明してくれる子どもから、大人が学ぶことも多いはず。それこそが、子どもの学ぶよろこびへとつながっていくのです。逆に、親が好きなものを子どもにすすめてみてもいいですね。親子といえども違う人間。お互いの世界が広がり、新鮮なワクワク感を味わうことができるでしょう。

***
上田氏によると、好奇心の間口を広げていくと『プレイフル』はより活性化するのだそう。時間がない、できるかどうか自信がない、失敗したら恥ずかしいから挑戦しない……。そんなのもったいないと思いませんか? 子どものうちだからこそ、たくさんの「ワクワク体験」をして、楽しい学びへとつなげていきたいですよね。

(参考)
東京医療保健大学
書道家 並河博子
Sports Intersection Basketball Academy
上田信行(2020),『プレイフル・シンキング[決定版]働く人と場を楽しくする思考法』, 宣伝会議.
加藤俊徳 著, 吉野加容子 著(2014),『脳を育てる親の話し方』, 青春出版社.
岩田拓真(2021),『「勉強しなさい」より「一緒にゲームしない?」』, 主婦と生活社.
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