「うちの子、もしかして空間認識能力が低いかも」と思っていませんか? 空間認識能力(空間認識力・空間認知能力・空間把握能力)は、男女問わず、子どもが生きていくのに欠かせない力です。地図や図形を正しく理解するのに必要な空間認識能力が低いと、自分がどこにいるのかわからず迷子になったり、自分と自動車との距離がはかれず事故に遭ったりするかもしれません。
右脳と関係がある、などともいわれる空間認識能力とは、具体的にどのような能力なのか? 空間認識能力が低いと、子どもはどうなってしまうのか? 子どもの空間認識能力が低いかも、と心配する皆さんの疑問にお答えします。
空間認識能力とは
空間認識能力が低いことの問題を語る前に、空間認識能力とは何なのかを明らかにしておきましょう。小学館の「デジタル大辞泉」は、「空間認識力」を以下のように説明しています。
三次元空間における物体の状態や関係(位置・方向・形状・姿勢・間隔・速度など)を、すばやく正確に把握する能力。
(引用元:コトバンク|空間認識力)
そもそも、「空間」とは「三次元の広がり」を意味します。空間認識能力とは、「三次元空間で、人やモノはどのような状態にあるか」を正しく理解できる能力のことなのです。
そんな空間認識能力が低いと、どのような問題が起こるのでしょうか?
空間認識能力が低いとどうなるか
空間認識能力が低いと、さまざまなデメリットが生じます。
絵がうまく描けない
空間認識能力が低いと、思いどおりに絵を描くことは難しいでしょう。空間認識能力が低いということは、モノの形がどうなっているか、モノが空間にどう置かれているか、正しく理解できないということだからです。
デッサン講師の松原美那子氏によると、空間認識能力は、絵を描くうえで非常に重要なのだそう。三次元空間に存在する「モノ」を、平面――つまり二次元である「紙」のなかで表現するには、「三次元をしっかりイメージする」ことが必要だからです。
お子さんが小さいうちはあまり気にならないかもしれませんが、小学校高学年になると、学校の授業で風景や静物の写生に取り組むことになります。空間認識能力が低いと、見たものをうまく紙上に表現できず、悔しい思いをすることになるかもしれません。
スポーツで苦戦する
空間認識能力が低いと、体育の授業や趣味のスポーツ活動で、思うように活躍できないかもしれません。『12歳までの最強トレーニング』(実業之日本社、2018年)などの著書をもつパーソナルトレーナーの谷けいじ氏によれば、子どものうちに空間認識能力が養われないと、将来的に「スポーツ全般の能力が伸びにくくなる」のだそう。
空間認識能力とは、「空間におけるモノの位置・方向・形状・姿勢・間隔・速度などをすばやく正確に把握できる能力」でしたね。つまり、たとえばサッカーだと、空間認識能力によって以下をはじめとする要素を把握できます。
- 味方チームの選手たちはどこに立っているか
- 敵チームの選手はどの方向に走っているか
- 敵チームはどのようなフォーメーションを組んでいるか
- 敵チームの選手は次にどう動くか
- ゴールポストまでどれくらいの距離があるか
- 敵チームの選手に追いつかれるまでに味方にパスを出せるか
上記のような複雑な要素を瞬時に把握できるのが、空間認識能力。反対に考えると、空間認識能力が低い人は、フィールド内で自分や味方チーム・敵チームがどう動いているかをなかなか把握できないため、活躍しにくいでしょう。2018年、サッカーの本田圭佑選手が「空間認知能力を高めるトレーニング」として動画を投稿したことからも、サッカーで活躍するには空間認識能力が必要なことがうかがえます。
空間認知能力を高めるトレーニング。子供には特にいいんで、毎日1、2回くらいでいいので、トライしてみてください。 pic.twitter.com/gPilOpkcZY
— KeisukeHonda(本田圭佑) (@kskgroup2017) November 8, 2018
交通事故に遭いやすい
空間認識能力の低い子は、交通事故に遭いやすいかもしれません。谷けいじ氏は、子どものうちに空間認識能力が育たないと、「道路を走っている車や自転車と自分の距離がつかめずに事故に遭いやすくなる」とも警鐘を鳴らしているのです。
子どもの空間認識能力が低いと、自動車・自転車にぶつかるだけではありません。子どもが自転車に乗っているとき、自分で事故を起こしてしまうかもしれないのです。
高次脳機能障害のリハビリテーションを専門とする渡邉修教授(東京慈恵会医科大学)の論文「認知機能と自動車運転」によると、「視空間認知機能」は、運転における以下の行為をつかさどっているそう。
- 車間距離の維持
- スピード調節
- 人や障害物の回避
上記は、自転車にも当てはまるでしょう。つまり、空間認識能力が低いと、自転車の運転中に、以下の恐れが高まるのです。
- ほかの自転車や自動車にぶつかってしまう。
- スピードを出しすぎてしまう。
- 歩行者やガードレールに激突してしまう。
空間認識能力が低いと、これ程までに恐ろしい事態を招きかねないのです。
職業選択の可能性が狭まる
空間認識能力が低いことのデメリットは、まだあります。子どもが大人になってから、高い空間認識能力が必要とされる職業に就けなくなるかもしれないのです。
一般社団法人・コンピュータ教育振興協会が主催する、「3次元CAD利用技術者試験」というエンジニア向けの試験があるのですが、1級と準1級では、「2次元図面から3次元空間上の形状認識が正確にできるか」が試されます。つまり、高い空間認識能力が要求されているのです。
「3次元CAD利用技術者試験1級」に合格した人の進路は、自動車や機械の設計者だそう。設計やデザインの仕事に就きたいなら、優れた空間認識能力が必要なのですね。建築関係の仕事でも同様でしょう。
しかし、空間認識能力が低いと、図面を読み取って立体を想像したり、逆に想像した立体を図面に落とし込んだりできないわけですから、上記のような仕事に就くのは困難そうです。
低い空間認識能力を高める方法1:言葉遣いを意識する
空間認識能力が低いことで生じるデメリットは、皆さんの想像より大きかったのではないでしょうか。では、上記のような事態を回避するため、どうすれば子どもの空間認識能力を伸ばせるのでしょう? 家庭でできる3つの方法をご紹介します。
ますは、親であるところの皆さんが、意識的に声をかけてみること。子どもの発達に関する情報を精力的に発信しているグウェン・デューワー博士は、子どもの「空間的思考」を刺激する方法として、以下のように質問してみることを挙げています。
- どっちが左?
- シーツをベッドにかけるには、どっちの向きがいいかな?
- 買ったものは、ひとつの袋に入るかな?(スーパーマーケットで)
- いつもと違う向きにパンを切ったら、どんな形になるかな?
私たちにとって、三次元の空間で活動するのは当たり前のこと。空間認識能力を高めるには、「向き」や「形」に意識を向けてみましょう。低い空間認識能力を高めるには、言葉による表現に気をつけてみてください。
低い空間認識能力を高める方法2:鬼ごっこで遊ぶ
低い空間認識能力を高めるには、鬼ごっこで遊んでみませんか? 谷けいじ氏は、空間認識能力を養う遊びとして、鬼ごっこを挙げています。鬼から逃げたり、障害物をよけたりすることが、空間認識能力の発達に役立つそうです。
たしかに、空間認識能力は「空間におけるモノの位置・方向・形状・姿勢・間隔・速度などをすばやく正確に把握できる能力」なのですから、以下のことを意識する必要がある鬼ごっこは、空間認識能力を鍛えるのに役立ちそうですね。
- ほかの参加者たちはどこにいるか
- どの方向に逃げるべきか
- 鬼から距離をとるには、どの障害物を利用するべきか
- 鬼と自分との距離はどれくらいあるか
- 鬼は自分に追いつきそうか
最近は、子どもが走って遊べる広いスペースが、昔より見当たらなくなっているように思います。今の子どもたちは、親の世代に比べ、鬼ごっこで遊んだ経験が少ないのではないでしょうか。
走り回って遊ぶ経験の少なさは、空間認識能力の低下につながります。低い空間認識能力を高めるため、晴れた日は家族で運動公園に行き、鬼ごっこで思い切り遊んでみては?
低い空間認識能力を高める方法3:ブロックで遊ぶ
低い空間認識能力を高めるには、おもちゃも有効です。立体物を認識する力を鍛えられるのは、やはりブロック遊び。子どもの空間認識能力を研究するジェイミー・ジロー助教授(米バージニア大学)らによる2015年の論文によると、4~7歳の子ども847人を調べたところ、パズル・ブロック・ボードゲームで週に6回以上遊ぶ子どもは、週に5回以下の子どもに比べ、空間認識能力が高く測定されたのだそうです。
ブロック遊びは、さまざまな形をしたブロックを縦や横に組み合わせていくもの。モノの形や空間の広がりを理解するのに役立つようですね。
子ども向けのブロックはさまざまなメーカーから売られていますが、特に注目したいのが「cuboro」。日本では「キュボロ」として知られている、スイス製の木製おもちゃです。
cuboroは、溝の彫られたブロックとビー玉のセット。ブロックを構築し、うまく「通り道」を作り上げ、ビー玉を転がして楽しみます。こう書くと、簡単そうに思えるかもしれませんが……以下の公式動画をご覧ください。
ブロックの側面に空いた穴の位置が、それぞれ微妙に異なるのにお気づきでしょうか? cuboroの基本セットには、13種類ものブロックが含まれています。溝の彫られ方がそれぞれ異なるため、よく考えて組み合わせないと、ビー玉が途中で止まってしまうのです。
最初はとまどうかもしれませんが、慣れてくればcuboroのおもしろさにハマってしまうかもしれません。日本では知育玩具として知られるようになりましたが、cuboroは大人も楽しめるもの。巨大な作品だって作れるのです。
では、cuboroシリーズの各製品を具体的に紹介していきます。まずは、初めて遊ぶ人に最適な「cuboro cugolino start」。対象年齢は3歳以上です。
「cuboro cugolino start」の特徴は、溝がブロックの表面に彫られていること。「通り道」がブロック内部に隠れてしまわないので、小さい子やcuboro初心者でも、ビー玉をうまく転がすことができるでしょう。
簡単なセットでは物足りない、という人には、「cuboro basis」もしくは「cuboro standard」。対象年齢は5歳以上です。
「basis」と「standard」の違いは、ブロックの数。「standard」のほうが24個多く入っています。とはいえ、24個のうち、溝が彫られているのは5個のみ。あとの19個は、溝のない普通のブロックです。ビー玉の「通り道」を作るうえでの必要性は低いため、「standard」のほうが作品づくりの自由度が高い、というわけでもありません。「basis」と「standard」の違いは小さいので、在庫が残っているほうを選べばよいでしょう。
cuboroには、ほかにも多くの追加ブロックがあります。ぜひ公式サイトをチェックし、cuboroの奥深さに触れてみてください!
cuboroは、小さいお子さんの空間認識能力や想像力を養うのにぴったりなおもちゃです。もちろん、大人を夢中にさせる魅力も持っています。親子2世代や3世代でいっしょに遊んだら、本当に楽しそうですね!
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空間認識能力が低いことで生じるデメリットと、空間認識能力を高める方法をご紹介しました。楽しみながら空間認識能力を養える方法はたくさんありますので、ぜひチャレンジしてみてください。
(参考)
Jirout, Jamie and Nora Newcombe (2015), “Building Blocks for Developing Spatial Skills: Evidence From a Large, Representative U.S. Sample,” Psychological Science, Vol. 26, Issue 3.
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