2021.1.26

子どもの心を豊かに育むスキンシップ。皮膚は「露出した脳」だった――

編集部
子どもの心を豊かに育むスキンシップ。皮膚は「露出した脳」だった――

(この記事はアフィリエイトを含みます)

抱っこにおんぶ、頭をなでたり、ぎゅっと抱きしめたり、手をつないでお散歩したりと、子どもが小さいうちは親子で四六時中触れ合っているものです。しかし、子どもが成長するにつれて、直接肌に触れる機会はどんどん減っていきますよね。

今回は、親子のスキンシップがもたらす「子どもの心と脳への影響力」について解説していきます。

皮膚は「露出した脳」!?

みなさんは、子どもの頃に親から抱きしめられたり、頭をなでられたりしたことを覚えていますか? あまり覚えていないという人も多いかもしれません。ですが、肌に触れられた記憶というものは、私たちが思っている以上にしっかりと脳や心に刻み込まれているようです。

桜美林大学リベラルアーツ学群教授で臨床発達心理士の山口創先生は、著書『子供の「脳」は肌にある』(光文社新書)のなかで、「幼いころの肌の接触は、単に見たり読んだりした経験に比べると、その後の人生にとってははるかに大きな意味をもつ。そして、知らず知らずのうちに、私たちの生き方や人間関係に大きな影響を与えているのである」と述べています。

山口先生は皮膚は『露出した脳』であり、皮膚に直接刺激を与えることで脳が育つと言います。なぜ「露出した脳」なのかというと、皮膚と脳は同じ「外胚葉(がいはいよう)」という細胞からつくられているそう。そのため皮膚からの情報は、視覚情報や聴覚情報とは違い、ダイレクトに脳へと伝わり、脳を大いに刺激することがわかっているのです。

そして重要なのが、一見「脳」からかけ離れている「肌」という体の末端部への快い刺激こそが、子どもたちの心を豊かに育むことにつながっているということ。山口先生は、親との触れ合い経験が不足している子どもは、愛情の形成が不十分になり、のちに人間関係にさまざまな問題が出てくると指摘します。

例えば、幼児期に母親から添い寝などを通じて肌にたくさん触れられて育った子どもは、成長してからも情緒が安定しており、社交性が高く、他人を攻撃する傾向も低い。反対に母親とのスキンシップが少なかった子どもは、人間不信や自閉的傾向が高く、自尊感情も低いことなどがわかりました。

(引用元:致知出版社|「スキンシップ」が子どもの脳と心を育てるーー山口創が語る最新科学が明らかにした子育てのヒント

このように、肌の触れ合いは、子どもたちの人生に大きな影響を与えるのです。

スキンシップと愛情ホルモン02

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愛情ホルモン「オキシトシン」のすごい効果

なぜ肌に触れることで子どもの心が満たされるのでしょうか? それには、「愛情ホルモン」と呼ばれる「オキシトシンが大きく関わっています。

先ほどもお伝えしたように、じつは密接につながっている皮膚と脳。人間の脳はスキンシップにより、いわゆる「愛情ホルモン」と呼ばれる神経伝達物質・オキシトシンを分泌する働きがあります。このオキシトシンこそが、ストレスへの反応を和らげたり、他人への信頼を強めたり、安心感をもたらして幸せを感じさせたりする効果を生み出すのです。

では、親子のスキンシップによってオキシトシンが分泌されると、具体的にどのような効果が表れるのでしょうか。

オキシトシン効果1:挑戦する力が育つ

普段からスキンシップをしているということは、親子関係が安定している証拠。それゆえに子どもの心は常に落ち着いており、新しいことに挑戦しようという気持ちの余裕がもてるようになります。また、オキシトシン効果で不安な気持ちを抱え込みにくくなり、なんにでも臆することなくチャレンジできるように。

オキシトシン効果2:集中力が高まる

不安や心配事に心がとらわれていると、集中力が下がるのは周知のとおり。日常的に触れ合うことによってオキシトシンが出やすくなると、心身のリラックス効果がもたらされます。目の前のことに集中し、結果を出したいと思っているのなら、まずはスキンシップを!

オキシトシン効果3:コミュニケーション能力がアップする

オキシトシンは人を信頼し、人との絆を強める働きをしてくれるホルモンでもあります。「友だちとうまく遊べない」「衝動的になることが多くトラブルを起こしやすい」という悩みを抱えている子の多くは、家で親に甘えられなかったり、スキンシップが極端に少なかったりする傾向があるそうです。

東京慈恵会医科大学名誉教授の前川喜平先生は、身体的接触は、安心感と親密さを増し、信頼関係を築きやすくなると述べています。実際に、スウェーデンの保育園や学校で子どもたちにマッサージを受けてもらったところ、落ち着きが出て、他者との関わり方が穏やかになっていったそう。なかでも、乱暴な言動で困らせていた男の子は、タッチケアによって攻撃的な振る舞いが減少したと言います。

また、乳幼児期に母親とのスキンシップが不足していた子どもは、高校生になったときに衝動的に他者を攻撃する、すなわち「キレやすい」傾向があることも判明。それは「皮膚レベルの欲求が満たされていない」ことが原因であり、「皮膚の欲求不満が、生まれてからずっと続いていたに違いない」と山口先生は指摘しています。

スキンシップを増やして不満を解消することで、問題行動が軽減された実例もたくさんあることから、子どもの心の問題は親とのスキンシップと密接に関わっていることがうかがえるでしょう。

スキンシップと愛情ホルモン03

子どもの肌に触れるときに気をつけたいこと

ここまで読んで、「子どもと積極的にスキンシップをとらなくちゃ!」と意気込む人もいるかもしれません。しかし、親子のスキンシップは、日常的かつ自然に取り入れないと意味がないのです。それどころか、逆効果になってしまうこともあるので要注意。ここでは、オキシトシンを増やす触れ合い方のポイントを紹介していきます。

親の気持ちよりも子どもの気持ち優先で

自分の機嫌がいいときや手があいて暇なときなど、親の都合で無理に子どもを抱きしめたり、スキンシップをとったりしていませんか? 残念ながら、子どもが求めていないのに触れ合っても、オキシトシンは増えません。子どもから「だっこして」と求めてきたり、体をくっつけてきたりしたら、「ちょっと待って」「あとでね」などと言わずにすぐに受け入れてあげましょう。

日常のコミュニケーションにさりげなく取り入れる

本を読んであげるときに膝の上に座らせる、お手伝いをしてくれたときに「いいこいいこ」と頭をなでてあげる、添い寝しながらトントンするなど、普段の生活のなかでスキンシップをとれる瞬間はたくさんあるはず。毎日の習慣にすることで、子どもだけでなく親もオキシトシンが分泌されやすくなります。その結果、ストレスが軽減して気持ちが安定するという相互効果も期待できますよ。

子どもの肌を優しくマッサージする習慣を

子どもは手のひらで優しくマッサージしてもらったり、トントンとリズミカルに皮膚を刺激されたりすると喜びます。小児看護を専門とする原田眞澄教授(中国学園大学)によると、「肌に触れることは、する側・される側のどちらにとっても情緒が安定する効果がある。また親子の絆も深まる」のだそう。お風呂上がりに保湿クリームやローションを手のひら全体で伸ばして塗ってあげると、親子の楽しいひとときにもなるのでおすすめです。

抵抗感があるなら遊びの延長から

そうはいっても、さまざまな理由から「どうしてもスキンシップが苦手」と感じている人もいますよね。そのようなタイプの人は、無理に触ろうとすればするほど体がこわばって、不自然な触れ方になってしまいます。そこで、親子で体を使った遊びを取り入れてみましょう。こちょこちょくすぐり合う、抱き上げて飛行機ごっこなど、自然なかたちでスキンシップがとれる遊びがおすすめです。

保育の現場でも、子どもの情緒を安定させる目的で、手遊び歌やわらべ歌、触れ合い遊びを推奨しています。以下は『保育ハンドブック』(大修館書店)で紹介されている例です。

  • 一本橋
  • でこやまでこちゃん
  • えんやら桃の木
  • ちぎりばっちり
  • いちりにり
  • ラララぞうきん
  • おすわりやす
  • ちょちちょちあわわ

YouTubeなどの動画サイトでも、プロの保育士による、子どもが喜ぶ手遊び歌がたくさん紹介されているので、親子で楽しめる触れ合い遊びを見つけてみてくださいね。

スキンシップと愛情ホルモン04

スキンシップの効用をもっと詳しく知りたい人におすすめの本

肌と心の関係の奥深さについて、知れば知るほど興味が湧いてきた人も多いのではないでしょうか? そんな方にぜひおすすめしたいのが、次に紹介する4冊です。

◆『触れることの科学:なぜ感じるのか どう感じるのか』

ジョンズ・ホプキンス大学医学部教授で神経科学者の著者による、触れることと感じることの関係性を科学的に解き明かす衝撃の一冊。少し専門的な内容ですが、より深く、詳しく知りたいという人にはぴったりです。

◆『幸せになる脳はだっこで育つ。-強いやさしい賢い子にするスキンシップの魔法-』

前出の山口創先生による、育児に悩む保護者の方に向けた「スキンシップ育児のコツ」が満載の本著。0歳から思春期まで幅広い年代に対応しているので、子どもの成長にずっと寄り添ってくれる一冊です。

◆『皮膚感覚の不思議ー「皮膚」と「心」の身体心理学』

普段あまり意識することがない「皮膚の不思議」について詳しく解説している一冊。ツボ押しの「痛気持ちいい」感覚や、どうしても我慢できない「かゆみ」の正体、触られる相手によって正反対の感情が湧き上がる謎など、皮膚と心の密接な関係が解き明かされます。

◆『第三の脳ーー皮膚から考える命、こころ、世界』

著者は資生堂ライフサイエンス研究センター主任研究員であり、皮膚研究のスペシャリスト。「皮膚は脳にも匹敵する、いまだ知られざる思考回路」というように、皮膚の潜在的可能性についてたっぷり語られています。

***
「幸福学」の第一人者である慶應義塾大学大学院教授の前野隆司先生は、「文化的にスキンシップが少ない日本人、とくに子育て中の親は、意識的に子どもとのスキンシップを増やす必要がある」と述べています。照れや気恥ずかしさがあるかもしれませんが、スキンシップによって子どもへの愛情がさらに伝わりやすくなります。ぜひ試してみてください。

(参考)
山口創(2004),『子供の「脳」は肌にある』, 光文社新書.
PHPのびのび子育て, 2020年8月特別増刊号, PHP研究所.
致知出版社|「スキンシップ」が子どもの脳と心を育てるーー山口創が語る最新科学が明らかにした子育てのヒント
公益財団法人 母子健康協会|「タッチケアで絆を育む」…安らぎの物質オキシトシン
中国学園リポジトリ|子どもへのタッチングに関する考察
大修館書店|保育ハンドプック
STUDY HACKER こどもまなび☆ラボ|「子どもは宝物だ」という思考が危うい訳。子を思うなら親は“自らの幸せ”を追求すべき