「勉強は得意だけど、友だちづきあいがうまくいかない」「テストはいつも高得点なのに、新しい挑戦を嫌がる」──こんな子どもの姿を見て、「なぜだろう?」と疑問に思ったことはありませんか? これには「非認知能力」の高低が関係しています。
じつは、テストの点数などで評価される “認知能力” だけでは、人生を生き抜く力を十分に育めないのです。問題解決力・自制心・協調性など、数値化しにくい “目に見えない力” こそが、子どもの将来を大きく左右すると言われています。これがいわゆる「非認知能力」。近年の教育現場ではもちろん、社会のあらゆる場面で重要視されていることをご存じでしょうか。
なぜいま、「非認知能力」がこれほど注目を浴びているのか。子どもたちは何をきっかけに、学力だけでなく自信・やる気・協調性などを伸ばしていけるのか――。
本記事では、玉川大学教授・大豆生田啓友氏や教育イノベーター・本山勝寛氏など7名の専門家が語る「非認知能力の育て方」をまとめました。ぜひ最後までご覧ください。
非認知能力とは? 定義と重要性
近年、子育てや教育の場で注目を集める「非認知能力」。テストの点数などで測ることができて、目に見えるかたちで評価しやすい「認知能力」に対して、目に見えにくい力を「非認知能力」と言います。具体的には、次のような力です。
【非認知能力に含まれる6つの要素】
-
- 自己制御力(感情のコントロール)
- 意志力と自己肯定感
- やり抜く忍耐力
- コミュニケーション能力
- 他者への思いやり
- 創造性と探究心
また、知能テストで測定する「IQ」に対して、「EQ」とも呼ばれる非認知能力。EQWELチャイルドアカデミー主席研究員の浦谷裕樹氏は、「IQが高いからといってEQが高くなるとは限らないが、EQが高ければIQはさらに高くなることから、学力をはじめ、人間としてのさまざまな力を伸ばしていく土台にあたる力」だと述べています。
非認知能力が注目される3つの理由
1. 時代の変化による子どもの経験機会の減少
玉川大学教育学部教授の大豆生田啓友氏は、非認知能力に注目が集まる理由として、時代の変化を挙げています。昔は豊かな自然のなかで遊んだり、異年齢の子どもたちや異世代の大人とも触れ合ったりと、さまざまな経験を通じて、思いやりや忍耐力、コミュニケーション能力などの力を獲得できていました。つまり、非認知能力は普段の遊びや子育てのなかで勝手に育まれていたのです。しかし、現代ではどうでしょうか?
大豆生田氏は、「習い事などで忙しく、遊ぶ機会が激減した結果、遊びを通じて非認知能力を得る機会がほとんどない」ことや、「大人たちが子どもになるべくケンカをさせないようにしている」ことなど、子どもたちが非認知能力を身につけるチャンスが失われつつあることを危惧しています。
2. 2020年からの教育改革での重視
また、2020年から始まった教育改革も、非認知能力が注目を集めることとなった要因のひとつ。これからは「学びに向かう力・人間性」が重視されるようになり、表現を変えれば「主体性・多様性・協働性」が求められるようになりました。これらはつまり、非認知能力そのもの。幼児教育ブームや価値観の多様化、生活環境の変化など複合的な要因によって、非認知能力の重要性はますます注目されるようになったのです。
3. 将来の成功との強い相関関係
非認知能力の高い人と低い人では、子ども時代を含む人生全般にどのような差が生じるのでしょうか? その違いについて、浦谷氏が簡潔にまとめています。
非認知能力が低い場合 | 非認知能力が高い場合 |
---|---|
・感情コントロールが困難 ・友人関係でトラブルが多い ・やる気が持続しない ・マイナス思考に陥りやすい |
・良好な人間関係を築ける ・学習意欲が高い ・新しいことに積極的に挑戦 ・学力も自然と向上 |
上記のような非認知能力が高い子どもが成長にしたら、どうなると思いますか? 何かをしようと思ったときにそれらをスムーズに実現できるでしょう。さらに自分とまわりの人間の能力を最大限に引き出し、よいかたちで実現することもできるはずです。つまり、自分の思いをかたちにする「自己実現」ができる人間になれるということ。
このように、将来よい人生を送るためにも、子どものうちから非認知能力を高めることは大切です。次項では、非認知能力との向き合い方や、子どもの非認知能力を高めるために親ができることについて、各専門家の意見をまとめています。
非認知能力は日常生活で育める身近な力【大豆生田啓友氏】
大豆生田氏は、「非認知能力は特別なものではありません」と断言しています。「認知」というたいそうな言葉のイメージで、特別なことをしなければ育たないと考える人もいるかもしれませんが、先述のように本来は日常生活や遊びのなかで自然と身につくものなのです。
私たちの普段の生活でも、ちょっと意識するだけで非認知能力向上のきっかけになることはたくさんあります。「遊び方が決まっている既製品のおもちゃもよいが、空き箱や廃材などを使って想像力と創造力をフル回転させて、自由に遊ぶことで非認知能力が育まれる」と大豆生田氏が述べるように、大人にとってはただのゴミでも、子どもにとっては魅力的なおもちゃになります。
また、小さい子どもがよくやるいたずらも実は重要です。たとえば、ティッシュを箱から全部出して再び詰めるような行動は、専門用語で「探索活動」といいます。このときの子どもは「こうしたらどうなるだろう」と試行錯誤しているのです。一見ただのいたずらに見えるこうした探索活動は、意欲や探究心などの非認知的な力だけでなく、認知的な力を伸ばすことにもつながるので、いたずらを適度に許容できる心のゆとりをもちたいですね。
【非認知能力の伸ばし方】
- 自然のなかでのびのび遊ばせる
- 日常の暮らしで子どもが夢中になって遊べる工夫をする
- 許容できる範囲で自由にいたずらをさせる
もっと詳しく!
大豆生田啓友氏インタビュー『非認知能力は育っているか? 子どもが「目をキラキラさせる世界」があれば安心です』
どんな非認知能力も最初の一歩は「好奇心」から【本山勝寛氏】
教育イノベーターの本山勝寛氏は、「非認知能力のなかでも、これからの時代には『好奇心』がとくに重要」だと指摘しています。その理由は「学校や会社から指示されたことに取り組んでいればよい時代から、自らが主体的に取り組み、創造していくことが求められる時代」になってきているから。
自ら主体的に学び、行動し、創造することを促す原動力は「好奇心」です。なにごとにも興味関心をもって取り組むには、最初の一歩を踏み出す「好奇心」が必要不可欠なのです。
では、どうしたら子どもの好奇心を育むことができるのでしょうか? 本山氏は「親自身もさまざまなものに好奇心をもつ」ことが重要だと述べています。忙しい日々のなかでも、趣味を楽しむ親の姿は、子どもにとってよい見本となります。積極的に外へ出かけて、世界を広げてみましょう。
また、子どもが興味を示したことは、どんなにささいなことでも否定せず認めることが大切です。たとえば虫に興味をもった子に否定的な言葉を発すれば、好奇心は萎んでしまいます。「この虫のどんなところが好き?」「どんな場所によくいるのかな?」など、子どもの思考力や想像力が膨らむようなコミュニケーションを心がけましょう。
【非認知能力の伸ばし方】
- 親自身がさまざまなものに好奇心をもつ
- 子どもが興味を示した物事に対して、自分も関心かあることを子どもにも伝える
- 子どもの好奇心を広げるコミュニケーションを心がける
もっと詳しく!
本山勝寛氏インタビュー『非認知能力のなかで最重要なのは「〇〇心」。実は、日本の子どもは学びへの興味が低い!?』
子どもの視野を広げると非認知能力が育つ【野上美希氏】
「小学生の放課後や長期休みは、非認知能力に磨きをかけるのに最適な時間」と話すのは、一般社団法人キッズコンサルタント協会代表理事の野上美希氏です。学校での授業は、知識を得て、教えられたことをテストで再現する「認知能力」を高めることが中心で、非認知能力を高めるチャンスは限られています。だからこそ、「放課後や長期休みをどのように過ごして『非認知能力』を高めるか」が非常に大切なのです。
野上氏が運営するアフタースクール(学童)では、非認知能力を伸ばすために科学実験や造形教室、外国人講師との英語活動など、多様なカリキュラムを実施しています。
子ども新聞をスクラップして感想を発表したり、「『ドラえもん』の主人公は、のび太くんかドラえもんか」といった身近なテーマでディベートをしたりするのです。プレゼン力やディベート力を伸ばすことは、非認知能力の向上にも直結します。また、異年齢での活動を通して視野を広げられるため、学童は放課後や長期休みの有意義な過ごし方と言えるでしょう。
【非認知能力の伸ばし方】
- 子ども新聞などをスクラップして感想を発表する
- TVを観ながら、ひとつのテーマに沿った対話を行なう
- 同じ年齢の子どもだけと遊ぶのではなく、異年齢との活動をする
もっと詳しく!
野上美希氏インタビュー『放課後や長期休みに「非認知能力」を高めよう。学童でさまざまな経験を』
「非認知」という言葉にとらわれるのは危険【沢井佳子氏】
目に見えないものだからこそ、「非認知能力」という言葉がひとり歩きしてしまい、一部の保護者が間違った認識に苦しめられているという問題があります。それに警鐘を鳴らしているのは、一般社団法人日本こども成育協会理事の沢井佳子氏です。
沢井氏によると、もともと日本の幼児教育では、「我慢強い子」や「協調性のある子」を育てることを重視してきました。つまり、いま話題の「非認知能力」は、すでに日本の幼児教育の現場で十分に実践されていると言うのです。
しかし近年、「非認知能力」という言葉が一人歩きした結果、新たな問題が生まれています。「小学校以降のハイレベルな教育を先取りさせるために、子どもに負担を強いてしまう親もいる」と沢井氏は指摘します。本来楽しいはずの幼児期を、疲労感で過ごすことになってしまうのです。
では、どのような教育が理想なのでしょうか。沢井氏が参考にしているのが、ハンガリーの幼児教育です。ブダペストの保育園では、3歳から6歳の子どもたちが一緒に「考える遊び」を楽しみます。「考えること」は、運動であり、友だちとのコミュニケーションであり、答えを探すための忍耐もすべて含まれているのです。
この経験を活かし、沢井氏は、幼児教育シリーズ『こどもちゃれんじ』や、幼児教育番組に携わっています。「論理、社会性、物語、数学、運動、音楽などが一体となった教育」を、歌やダンス、アニメを通じて子どもたちに届けているのです。
【非認知能力の伸ばし方】
- 子ども同士でコミュニケーションをとりながら「考える遊び」が実践できる場所へ連れて行く
- 認知と情意性のどちらも育める幼児向けの教育番組や動画を活用する
- 教育性の高い良質なコンテンツ(歌やダンス、アニメ含む)を選ぶ目を養う
もっと詳しく!
沢井佳子氏インタビュー『「非認知能力」という名称の流行が生んでしまった“誤解”と“困った副作用”』
子どもの非認知能力を高める「ほめるコツ・叱るコツ」【浦谷裕樹氏】
前出の浦谷氏は、子どもの非認知能力(EQ)を伸ばすには、その子の存在を丸ごと認めて受け止めることが最も大事だと指摘しています。親に自分の存在を丸ごと受け止めてもらえると、子どもは「自分はここにいていい存在なんだ」と安心感を得ます。この安心感があることで、自信をもって挑戦し、本来の力を発揮できるようになります。
子どものありのままの姿を認めたうえで、ほめるときには「能力ほめ」ではなく「努力したこと」着目してください。「100点とってえらいね」ではなく、「よくがんばって最後までやり抜いたね」といった、努力へのほめ方を心がけましょう。
叱るときは感情任せに怒りを爆発させないことも重要です。「怒る」のではなく、起こしてしまった問題への対処法を「教え諭す」ことで、子ども自身も深く考え、学ぶことができます。非認知能力には感情のコントロールも含まれるので、親自身もよいお手本になりたいですね。叱るときは「1分以内」を心がけ、カッとなりそうになったら物理的に距離をとりましょう。
【非認知能力の伸ばし方】
- ほめるときに「能力ほめ」はNG。努力や過程にフォーカスしてほめる
- 叱るときは「1分以内」を心がける
- 子どもに対して感情が爆発しそうになったら一度その場を離れる
もっと詳しく!
浦谷裕樹氏インタビュー『お説教は「○分以内」で。子どものEQを高める“叱り方の正解”とは』
非認知能力は認知能力の発達を促すが、その逆はない!【増田修治氏】
「朝ごはんを毎日食べる」などの生活習慣や「毎日の勉強時間の目安を決めている」といった学習習慣、困難時に周囲に相談できるコミュニケーション能力も、じつは非認知能力に含まれます。
子ども教育のプロフェッショナル育成に携わる白梅学園大学教授の増田修治氏は、「家庭教育でも非認知能力を伸ばすことを意識すべき」と提言しています。生活習慣や学習習慣の習得には親の経済力や精神的なゆとりが影響しそうですが、環境だけがすべてを決めるわけではありません。
実際に増田氏は、「貧困世帯に育ちながら学力が高い子どもも、こういった基本的な習慣、非認知能力を身につけている」ケースを指摘。「非認知能力がその後の認知能力の発達を促し、その逆は確認できない」という研究結果から、育つ環境は変えられなくても非認知能力を伸ばすことは可能だと述べています。
どの家庭でもできる具体策として、「子どもの話をきちんと聞く」ことを提案。また、「◯時になったら片づけなさい」ではなく「5時になったら片づけられる?」というように問いかけて、子どもに選択権を渡すことで、自発性や意欲、責任感が芽生えます。親子が納得する「一致点」を見出すコミュニケーションが重要なのです。
【非認知能力の伸ばし方】
- 子どもの話にきちんと耳を傾ける
- 子どもに選択権を渡し、自発性や意欲、責任感を養うように促す
- 親子どちらか一方だけの意見を押し通すのではなく、お互いに納得できる「一致点」が見出せるコミュニケーションを心がける
もっと詳しく!
増田修治氏インタビュー『非認知能力が高い子どもは、「認知能力」も伸びていく。ではその逆は――?』
■努力する姿も失敗体験も親子でシェアしよう【ボーク重子氏】
ライフコーチのボーク重子氏は、非認知能力を育てるために重要な要素として「失敗経験」を挙げています。失敗を恐れて挑戦しなければ傷つくことはありませんが、自分の意思で挑戦すれば、たとえ失敗しても「また頑張ろう」というやる気や、「次は違う方法でやってみよう」といったリカバリー力が身につきます。非認知能力を育てるには、この失敗経験が不可欠なのです。
さらにボーク氏は、学校での教育よりも家庭教育の方が重要だと述べています。子どもにとって親は最も身近な人生の先輩であり、よいことも悪いこともお手本にせざるを得ない存在です。
だからこそ、親自身も非認知能力の向上に努めることが大事です。頑張っている姿を子どもに見せることで、子どもは大人が仕事や趣味に精一杯取り組む姿や、失敗しても前を向く姿から学んでいきます。
また、非認知能力の基盤となる自己肯定感を育むため、お手伝いをたくさんさせましょう。自分の行動で誰かが「ありがとう」と喜んでくれれば、「自分は誰かの役に立てる!」という自信につながります。お手伝いをしてくれたら、「ありがとう!」と伝えてたくさんほめてあげてください。
【非認知能力の伸ばし方】
- 「親は子のロールモデル」なので、親が頑張っている姿を見せる
- 「失敗体験」も積極的に子どもに話す。失敗から得た学びを生かす大切さを伝える
- お手伝いをしてくれた子どもに「ありがとう」と伝えてたくさんほめる
もっと詳しく!
ボーク重子氏インタビュー『子どもが親の失敗から学ぶもの。「やり抜く力」を育むなら“格好悪い親”であれ」』
『「親の態度」がカギを握る。子どもの自己肯定感を高める行動、低める行動』
***
非認知能力は決して特別なものではなく、日常生活のなかでも育むことは可能です。本記事で紹介した専門家のアドバイスを参考に、ぜひご家庭でも取り入れてみてくださいね。
文/野口燈
(参考)
STUDY HACKER こどもまなび☆ラボ|非認知能力は育っているか? 子どもが「目をキラキラさせる世界」があれば安心です
STUDY HACKER こどもまなび☆ラボ|かわいい子には“いたずら”をさせよ!? 「自由に遊んでいいよ」で子どもは学ぶ
STUDY HACKER こどもまなび☆ラボ|非認知能力のなかで最重要なのは「〇〇心」。実は、日本の子どもは学びへの興味が低い!?
STUDY HACKER こどもまなび☆ラボ|幼児教育ブームのなかで今注目の「EQ、非認知能力」って何のこと?
STUDY HACKER こどもまなび☆ラボ|「頭の力」には「心の力」が必要。EQが高いと優秀な子に育つ納得の理由
STUDY HACKER こどもまなび☆ラボ|放課後や長期休みに「非認知能力」を高めよう。学童でさまざまな経験を
STUDY HACKER こどもまなび☆ラボ|「非認知能力」という名称の流行が生んでしまった“誤解”と“困った副作用”
STUDY HACKER こどもまなび☆ラボ|お説教は「◯分以内」で。子どものEQを高める”叱り方の正解”とは
STUDY HACKER こどもまなび☆ラボ|非認知能力が高い子どもは、「認知時能力」も伸びていく。ではその逆はーー?
STUDY HACKER こどもまなび☆ラボ|子どもが親の失敗から学ぶもの。「やり抜く力」を育むなら“格好悪い親”であれ
STUDY HACKER こどもまなび☆ラボ|「親の態度」がカギを握る。子どもの自己肯定感を高める行動、低める行動