芸術にふれる/演劇 2018.10.20

観劇に出かける親子は驚異的に少ない。メリットだらけの演劇鑑賞、しないなんてもったいない!

編集部
観劇に出かける親子は驚異的に少ない。メリットだらけの演劇鑑賞、しないなんてもったいない!

演劇は、子どもの表現力やコミュニケーション能力を高める絶好の教育法だとよく言われます。その文脈において重視されているのは、子どもが演劇を「する」こと。ですが、子どもに演劇をさせるのは、少しハードルが高いと感じませんか? 学校で取り組むならともかく、家庭だと子どもを劇団に入れることくらいしか、できることは思いつきませんよね。

演劇を「する」のに比べて手軽なのが、演劇を「見る」ことです。子どもが演劇鑑賞することの教育効果について、説明していきます。

「観劇に出かける親子」の圧倒的な少なさ

演劇を「する」ことはおろか、実際には「見る」ことすらも、多くの子どもにとってハードルが高い――。そんなことを示すデータがあります。厚生労働省が全国の18歳未満の子どもがいる世帯を対象に実施した、「平成21年度 全国家庭児童調査」結果です。

この調査で、対象世帯の親に子どもたちとよく一緒にすることを尋ねたところ、映画や観劇、音楽会へ行くと答えたのは30.7%。このうち未就学児だけを見ると、その割合は21.6%で、他の年齢の子どもに比べ目立って低いという結果でした(小1~3:35.4%、小4~6:39.2%、中学生:33.8%、高校生:28.5%)。演劇鑑賞はこの選択肢の一部にすぎないことを踏まえると、親子で観劇に行く幼少期の子どもは非常に少ないことが分かります。

また、特に未就学児の場合、「映画や観劇、音楽会へ行く」という活動をする親子の割合は、他の様々な活動に比べ突出して低かったのです。家庭で手軽にできる外遊びやお家遊びに比べて割合が低いのは当然だとしても、旅行やハイキングよりも割合が低いという結果。小1~3でもその傾向はほぼ同じです。

「静かにしていなければならない」というイメージの強い観劇は、幼い子どもにとって優先順位が相当低い活動であるようです。

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演劇を「見る」だけでも教育効果がある

演劇の教育効果に関しては、「演じる」ことによる効果がよくクローズアップされます(詳しくはこちら:海外では一般的な、コミュニケーション力・表現力・集中力・想像力を高める「演劇教育」)。

ですが、「演じる」ことにしか教育効果がないわけではありません。演劇を「見る」ことも、教育上大いに効果的です。これについて、演劇をはじめとする芸能の振興・教育を手掛ける日本芸能実演家団体協議会は、次のように解説しています。

昨今は、子どもたちが自ら体験する参加型事業が注目されるようになってきたとはいえ、舞台芸術鑑賞が芸術体験として劣るということはありません。

鑑賞と表現は、息を吐き出すのに、まず吸うことが必要な呼吸と一緒で、自ら表現できるようになるには、まず受け止めること、感じることです。

優れた芸術表現に触れて心が動く体験なくして豊かな表現力は育まれないでしょう。

(引用元:公益社団法人日本芸能実演家団体協議会|花伝舎 鑑賞教室の現状と課題

誰しも、見たこともないものを実践することなどできません。子どもが「演じる」ことによる教育効果を最大限得るためには、まずは演劇を「見て」心を動かされる経験をすることが大切なのですね。

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演劇鑑賞の教育効果

次に、演劇鑑賞が子どもにもたらすメリットを紹介します。

1. 様々な感情を体験し、感情表現が豊かになる

演劇を鑑賞すると、感情が揺さぶられる体験をすることができます。舞台上の人物に感情移入したりストーリーに引き込まれたりして、心が大きく動かされるのです。現代演劇の振興事業を行なう日本劇団協議会が次のように解説しています。

演劇を鑑賞すると、鑑賞者はその物語を通じて、感情が揺さぶられる。これは、日常で体験するコミュニケーション内でより、ダイナミックな感情の動きである。一方であくまでも疑似体験であるため、ある意味安全に様々な感情が抽象的に体験される。

(引用元:公益社団法人日本劇団協議会|「芸術団体における社会包摂活動の調査研究」報告書

演劇で見る世界は、あくまでも疑似的なもの。そのため、戦争のように実際には体験できない/したくないような出来事による感情変化など、様々な感情を体験することができるのです。

演劇が鑑賞者の感情にもたらす効果は脳科学的にも認められており、認知症治療の現場では「演劇情動療法」という形で実際に役立てられています。認知症患者は、演劇鑑賞によって感動する(=情動機能を刺激される)と、表情が豊かになったり会話が増えたりして情動機能が回復するほか、認知機能の回復にもつながっていくのだそう。

この療法自体は、認知症患者のために実践されているものではありますが、演劇鑑賞が情動機能を活性化することは事実。演劇鑑賞は、子どもの感受性、感情表現にも良い影響をもたらすと見てよいはずです。

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2. 共感する力、社会性が育まれる

演劇鑑賞には、子どもの共感性、社会性を育む効果があります。東海3県を中心に学校公演をはじめ多数の子ども向け演劇を展開する「劇団うりんこ」は、演劇鑑賞が子どもにもたらす効果について次のように述べています。

(学校でつけられる成績は)弱いものを助けることができるかとか、美しいものに感動できるかとか、不正義を怒ることができるかとか、人の身になれるかどうかなど、世の中へ出てから一番必要な力は、誰も計っていません。そしてそういうものを養うことができるのが芸術、なかんずく演劇なのです。

演劇は関係の芸術です。人開がどのような人間関係の中でどのように変化するかを、舞台上に見続ける中で、舞台に自分や自分を囲む人間関係を投影させて見ることになります。ぼくみたいだ。ぼくだったらああはしない。よせ、やめろ。よくやるなあ。等々、さまざまな内なる言葉とともに、子どもの中に思いが生まれます。

(引用元:劇団うりんこ|学校で演劇を上演することの意味)カッコ内は編集部にて補った

子どもたちは演劇を鑑賞することにより、人とのかかわり方、自分の意見の持ち方などを考えることができます。演劇鑑賞は、学力としては測ることのできない共感力や社会性などを養うことができる絶好の機会なのです。

3. 家族間のコミュニケーションが促進される

演劇鑑賞には、家族とのコミュニケーションを促進する効果もあります。

子どもと芸術文化などが専門の古賀弥生・九州産業大学教授が、子ども向け演劇を鑑賞した0~5歳の乳幼児とその親を対象に、演劇鑑賞により子どもおよび親子間にどのような変化が見られたかを研究しました。それによると、演劇鑑賞をした子どもには、公演の感想を親と話し合う、劇中の歌や手遊びなどを再現し親と遊ぶ、同行しなかった家族に公演の様子を話す、といったように、演劇鑑賞をきっかけとしたコミュニケーションをとる傾向が見られたのだそう。

演劇鑑賞は、家族間のコミュニケーションをより豊かにするツールだとも言えそうです。

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演劇鑑賞は何歳から?

はじめに紹介した調査で見たように、多くの未就学児にとって、演劇鑑賞をするという選択肢は優先順位が低いもの。「小さい子どもに演劇鑑賞をさせるのはまだ早い」「演劇なんて難しそう」「乳幼児でも効果はあるの?」などと感じる親御さんは多いでしょう。

実は、演劇鑑賞の効果は赤ちゃんでも得ることができるのです。

上述の古賀教授の研究によれば、演劇鑑賞をした0~5歳の子どものうち、公演中に「集中して見る」「笑う」「身体を動かす・行動する」といった好反応を見せた子どもの割合は、0歳児において最も多かったのだそう。また、展覧会やコンサートなどを含む芸術体験を過去にしたことがない子どもでも、演劇鑑賞においてはじゅうぶん好反応が見られたほか、公演後の親子間のコミュニケーションは0歳児においても見られたのだとか。

別の観点からも説明しましょう。子どもの自主性を育む教育法として知られるモンテッソーリ教育では、特定のことに強い感受性が現れる「敏感期」という考え方があります。乳幼児期の6歳くらいまでは、五感が著しく発達する「感覚の敏感期」。この時期に本物の芸術に触れさせることで、子どもの様々な感覚・感性が磨かれるのだそう。舞台芸術は、演じている人の迫力や客席に響き渡る音、周囲の観客の反応など、五感を刺激するものであり、感覚の敏感期にはぴったりです。

「うちの子どもはまだ幼いから」と演劇鑑賞を敬遠するのは、とてももったいないことだと言えるでしょう。

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子ども向け演劇を見よう

演劇鑑賞の効果を理解したなら、親子でぜひ観劇に出かけましょう。

全国に子ども劇場」「おやこ劇場と名のつく劇場が多くあります。子ども向け演劇の企画制作を手掛ける想造舎のサイトでは、全国の子ども劇場、おやこ劇場の一覧が掲載されています。ぜひお近くの劇場を探してみてください。
※子ども劇場での公演は基本的には会員向けのものなので、希望する子ども劇場への入会が必要です(会費は劇場により異なります)。

■ 想造舎|子ども劇場・おやこ劇場 関連団体リスト

あの有名な劇団四季でも、「ファミリーミュージカル」として子ども向け演目を全国公演しています。赤ちゃんからでも安心して観劇できますよ。演目の紹介や公演場所・スケジュールなどは、劇団四季のサイトで確認してみてください。

■ 劇団四季|心を育む 劇団四季ファミリーミュージカル

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演劇鑑賞は「親こそ」楽しむべき

子どもにはまだ早いと思われがちな演劇鑑賞ですが、実は多くの大人にとってもハードルが高いようです。内閣府が平成28年9月に実施した「文化に関する世論調査」によれば、1年以内に演劇鑑賞をした大人の割合はたったの8.5%にとどまっていました。

子どもに演劇鑑賞のメリットを享受させたいのならば、親自身も劇場に足を運び、演劇を楽しむべきです。劇作家・演出家の平田オリザ氏は、次のように述べています。

僕がよく申し上げているのは、親自身が、ちゃんと人生を楽しむということです。親がコンサートや美術館に行く家庭でないと、子どもが勝手に行くことはありません。それに、親が子どもの教育だけに集中するのは、とても危険な状態。仕事や趣味を通して社交的に活動し、親が、子育て以外の社会を持つことが大切です。

(引用元:NIKKEI STYLE|平田オリザ「子どものために、親自身も人生を楽しむ」

親が演劇を楽しめば、子どもはその姿を見て一緒に楽しむことでしょう。演劇鑑賞が、子どもの心を成長させるだけでなく、親も感動し心が洗われる機会となれば、一石二鳥ですね。

***
子どもの情操教育に多くのメリットが期待できる演劇鑑賞。ぜひ親子で、観劇に出かけてみてはいかがでしょうか。

(参考)
厚生労働省|平成21年度 全国家庭児童調査 結果の概要
公益社団法人日本芸能実演家団体協議会|花伝舎 鑑賞教室の現状と課題
StudyHackerこどもまなび☆ラボ|海外では一般的な、コミュニケーション力・表現力・集中力・想像力を高める「演劇教育」
公益社団法人日本劇団協議会|「芸術団体における社会包摂活動の調査研究」報告書
NPO法人 日本演劇情動療法協会|NPO法人 日本演劇情動療法協会とは(設立趣旨書)
大垣市スイトピアセンター|認知症症状を改善する「演劇情動療法」演劇情動療法士 前田有作インタビュー (NPO 法人日本演劇情動療法協会)
劇団うりんこ|学校で演劇を上演することの意味
古賀弥生(2012),「芸術文化事業の意義に関する考察 : 「はじめての芸術との出会い」事業を例として」,活水論文集,活水女子大学 現代日本文化学科編 55, pp. 68-88.
ぎゅってweb|芸術鑑賞デビューは1~6歳が効果的。幼児期の経験はリアルな知識に
千葉わくわく保育園|初めての方へ
想造舎|子ども劇場・おやこ劇場 関連団体リスト
劇団四季|心を育む 劇団四季ファミリーミュージカル2018
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