非認知能力 2026.9.3

オランダの子どもが「世界一幸せ」な理由は非認知能力にあった。日本の家庭が真似できるたったひとつ

オランダの子どもが「世界一幸せ」な理由は非認知能力にあった。日本の家庭が真似できるたったひとつ

「幸せな子に育ってほしい」。
勉強ができるかどうかより先に、親なら誰もがそう願うと思います。でも、毎日の宿題や習い事、忘れ物のチェックに追われていると、「幸せかどうか」を考える余裕がなくなってしまう。そんな日が続いていませんか。

じつは、子どもの幸福度が世界でいちばん高いと言われる国、オランダの家庭には、特別な教育法があるわけではありません。あるのは、非認知能力の土台になる、ごくありふれた習慣でした。この記事では、その根拠となる国際調査と研究を読み解き、日本の家庭がそのまま真似できることをひとつだけお伝えします。

「幸せな子に育ってほしい」その願いが、いちばん大事

ユニセフが2020年に発表した先進38か国の子どもの幸福度調査で、日本の子どもは「身体的健康」が1位でした。一方、「精神的幸福度」は37位。健康で、安全で、給食も充実している国の子どもが、心の面では下から2番目だったのです。*1

この数字を見て、「うちの子は大丈夫かな」と不安になった方もいるかもしれません。でも、まずお伝えしたいのは、これはお母さんひとりの育て方の問題ではないということ。社会全体の空気が、子どもの心に影響しているのです。

だからこそ、家庭でできることを知っておく意味があります。順番に見ていきましょう。

アムステルダムの街並み

オランダの子どもが「世界一幸せ」と言われる根拠

同じ調査で総合1位だったのがオランダです。15歳の子どもに「いまの生活にどのくらい満足しているか」を聞いたところ、10点満点で6点以上と答えた割合は、オランダが90%、日本は62%でした。*1

項目(38か国中) オランダ 日本
総合順位 1位 20位
精神的幸福度 1位 37位
身体的健康 9位 1位
生活満足度が高い15歳の割合 90% 62%

オランダの子どもは、2013年の調査でも総合1位でした。つまり一時的な結果ではなく、10年以上続いている傾向です。

では、オランダの家庭は何が違うのでしょうか。手がかりは、オランダの研究者自身が国内の子どもを追い続けたデータにあります。

オランダの家庭に共通する「親に話しやすい」という空気

オランダでは、2005年から2017年まで4回にわたり、全国の11〜16歳の子ども約2万2千人を対象にした調査が行なわれました。その分析では、オランダの子どもが欧州のなかで一貫して高い幸福度を保っている背景として、「親と話しやすい」と感じている子どもの多さと、学業のプレッシャーの低さが関連していたと報告されています。(オランダ ユトレヒト大学、研究者マルフレート・デ・ローゼ氏ら)*2

この「親に話しやすい」という感覚は、非認知能力と深くつながっています。

研究メモ|「話しやすい親」が育てる非認知能力

非認知能力とは、テストでは測れない力の総称です。自己肯定感、感情のコントロール、やり抜く力、人と関わる力などが含まれます。子どもが「困ったことを親に言える」と感じているとき、その子は自分の気持ちを言葉にする練習をし、受け止めてもらう経験を重ね、「自分は大切にされている」という感覚を育てています。これらはすべて非認知能力の土台です。

「話しやすい親」と聞くと、いつも笑顔で、怒らない親を想像するかもしれません。でも、研究が見ているのは「子どもが困ったときに、この人に言えると思えるかどうか」。怒ることがあっても、話を聞いてもらえた経験が積み重なっていれば、子どもは「話しやすい」と感じます

風車前で親子3人で立っている様子

「一緒に食べる」だけで、非認知能力の土台ができる

では、「話しやすい親」になるために、何か特別なことをする必要があるのでしょうか。ここで注目したいのが、オランダの家庭に多い「家族そろっての夕食」です。オランダでは夕方の早い時間に家族で食卓を囲む習慣が根づいていると言われます。

家族の食事と子どもの心の関係を、大規模に調べた研究があります。カナダの11〜15歳の子ども2万6千人あまりを対象にした調査では、週に家族で夕食をとる回数が多いほど、子どもの生活満足度や情緒的な健康が高く、問題行動が少ない傾向が、回数ゼロから週7回まで段階的に見られました。この関連は、性別や年齢、家庭の経済状況にかかわらず一貫していたと報告されています。(カナダ マギル大学、フランク・エルガー教授ら)*3

献立が豪華である必要はありません。同じ食卓で、同じ時間を過ごす。それだけで、子どもが話しはじめる場ができます。研究者たちは、食卓が「子どもが心配ごとを口にし、大切にされていると感じる場」になっていることが、この関連の背景にあると考えています。

押しつけない親のほうが、子どもは幸せになる

オランダの調査で、幸福度と並んで挙がっていたのが「学業のプレッシャーの低さ」でした。これは「勉強させない」という意味ではありません。子どもの考えや選択を尊重する、という関わり方のことです。

親の「自律性支援」(子どもの気持ちを認め、選択を尊重する関わり)について、36の研究をまとめた分析では、自律性支援が高い家庭の子どもほど、学業成績、内発的なやる気、自分はできるという感覚が高い傾向が示されました。そして、もっとも強い関連が見られたのは「心の健康」でした。(アメリカ テキサス大学オースティン校、研究者アリアナ・バスケス氏ら)*4

◎ オランダの家庭に多い関わり △ 日本で起こりがちな関わり
「今日どうだった?」と聞いて、答えを待つ 「宿題やった?」から会話が始まる
子どもの意見に「そう思うんだね」と返す 「でも」と正しい答えを先に言う
失敗を「それで、どうする?」と聞く 失敗を「だから言ったでしょ」と振り返る
食卓で親も自分の一日を話す 食卓が「注意する時間」になる

右側に心当たりがあっても、落ち込む必要はありません。忙しい毎日で、確認や注意が増えるのは自然なことです。左側を「増やす」のではなく、右側のうちひとつだけを左側に置きかえる。それで充分に変わっていきます。

女性が手を伸ばして、壁に描かれた複数の光る電球の中から大きな電球に触れている。

日本の家庭が真似できること

オランダのように早い時間に家族全員がそろうのは、日本の働き方では難しいかもしれません。だから、真似するのは「夕食を一緒に食べること」そのものではなく、その中身です。

食卓の10分間、「子どもが話す番」をつくる

全員そろわなくても、お母さんと子どもだけでも大丈夫。食べはじめの10分だけ、「宿題」「明日の準備」の話をお休みして、子どもの話を聞く時間にします。

聞き方のコツ

・「今日いちばん面白かったこと、なに?」と聞く(「どうだった?」より答えやすい)

・子どもが話したら「へえ、それで?」と続きを促す

・お母さんも「今日いちばん困ったこと」をひとつ話す(親が話すと、子どもも困りごとを言いやすくなります)

食卓が「注意される場所」から「聞いてもらえる場所」に変わると、子どもは困ったときに「言えばいい」と思えるようになります。これが、オランダの子どもが感じている「親に話しやすい」の正体であり、非認知能力の土台です。

***

オランダの子どもが世界一幸せなのは、特別な教育を受けているからではありませんでした。困ったときに話せる親がいて、押しつけられず、同じ食卓で時間を過ごしている。それだけのことが、非認知能力を育て、幸福度を支えていたのです。

今日の夕食、最初の10分だけ「今日いちばん面白かったこと」を聞いてみる。そこから始めてみませんか。

FAQ(よくある質問)

Q. 共働きで、夕食を一緒に食べられない日が多いです。

A. 研究が示しているのは「回数が多いほどよい」という傾向で、「毎日でなければ意味がない」ではありません。週に1回でも2回でも、その日を「聞く時間」にすれば充分です。朝食や寝る前の10分に置きかえても構いません。

Q. 紹介されている研究は中学生が対象ですが、幼児にも当てはまりますか?

A. 幸福度調査や食卓の研究は11歳以上が対象なので、そのまま幼児に当てはめることはできません。ただ、「親に話しやすい」という感覚は、幼児期に「聞いてもらえた」経験を重ねることで育ちます。いまの習慣が、数年後の「話しやすさ」につながっていくと考えてください。

Q. 日本の子どもの幸福度が低いのは、親のせいですか?

A. 違います。ユニセフの調査は、学校や社会の環境、政策も含めて分析しており、家庭だけの問題とはしていません。親にできるのは、社会を変えることではなく、家のなかを「話せる場所」にしておくこと。それだけで、子どもにとっては大きな支えになります。

(参考)
*1 UNICEF Innocenti (2020)|Worlds of Influence: Understanding what shapes child well-being in rich countries. Innocenti Report Card 16.
*2 De Looze, M. E., Cosma, A. P., Vollebergh, W. A. M., Duinhof, E. L., de Roos, S. A., van Dorsselaer, S., van Bon-Martens, M. J. H., Vonk, R., & Stevens, G. W. J. M. (2020)|Trends over time in adolescent emotional wellbeing in the Netherlands, 2005-2017: Links with perceived schoolwork pressure, parent-adolescent communication and bullying victimization. Journal of Youth and Adolescence, 49(10), 2124-2135.
*3 Elgar, F. J., Craig, W., & Trites, S. J. (2013)|Family dinners, communication, and mental health in Canadian adolescents. Journal of Adolescent Health, 52(4), 433-438.
*4 Vasquez, A. C., Patall, E. A., Fong, C. J., Corrigan, A. S., & Pine, L. (2016)|Parent autonomy support, academic achievement, and psychosocial functioning: A meta-analysis of research. Educational Psychology Review, 28(3), 605-644.