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前編では、日本のストリートダンス界の第一人者マシーン原田さんに、「夢をつかむ人」はいったいどのような姿勢でものごとに向き合い、実際の行動へ変えているのかをご自身のダンスとの出合いをもとに聞きました。後編では、ダンスに限らず、夢をつかむために欠かせない失敗や挫折との向き合い方や、夢に向かって走る子どもの可能性を引き出すために、親が心がけておきたいことについて伺いました。
構成/岩川悟 取材・文/辻本圭介
実現したい「夢」はなかった
ただ、世界一うまく踊りたかっただけ
高校時代にブレイクダンスと衝撃的な出合いを果たしたマシーン原田さん。それからは持ち前の「ハマり症」の性格を存分に生かし、ひたすらダンスの練習を繰り返す日々を送ります。海外からカリスマダンサーのビデオを集めて、コマ送りにしながら動きの研究をすることにも余念がなかったそう。
「でも、夢を実現するために踊っていたわけではまったくなかったんですよ。『プロダンサーになる』というような具体的な夢もなかったし、そもそもブレイクダンス自体が世のなかにほとんど広まっていない時代でしたからね」
当時ストリートダンスやブレイクダンスといえば、路上に集まった少年たちがグループで威嚇し合いながら「どちらがうまいか」を競っていた、いわば“不良”たちの踊り。世間からの目線は冷たく、とてもネガティブなものだったそうです。それでも原田さんを突き動かしていたのは、ただブレイキングを「踊りたい」という情熱と、「やるからには誰よりもうまくなる」という強い思いでした。
「わたしはいまでも『夢をつかんだ』なんて思ってもいません。ただ、自分の夢へ近づくためになにが必要なのかはわかります。それは、『まっすぐな努力』。心の底からそれを『やりたい!』と思えるかどうかがすべてだと考えているのです。そして、それを自分の理想とするレベルに到達させるために、愚直な努力を続けられるかどうか。それしかないし、それがすべてなのです。夢に近道なんてものはなく、夢を持つことに理由も必要ありません。よく『成功するために』『お金を稼ぐために』と言う人もいますが、そんな理由をつけた瞬間に、夢はその理由のためのものに成り下がってしまいます」
ブレイクダンスを始めてほどなく、原田さんは「オレは、世界一のダンサーになる」と誓います。「プロになる」「ダンスでお金持ちになる」ではなく、ただ「世界一うまくなる」と心に誓ったのです。そして現在では、日本最大のストリートダンス大会『JAPAN DANCE DELIGHT』や、ブレイクダンスの世界大会『Battle of the year』の日本予選である『Battle of the year Japan』をはじめ、数々のダンス大会を主催する世界的なオーガナイザーとなりました。
「ダンサーとして世界一を目指している途上で、年齢的なものもありますが次第に世界的な大会をオーガナイズするほうが面白いと気持ちが変わっていきました。もちろん、自分が愛するストリートダンスを、この社会でポジティブな存在にしたいという野心ももっていました。ただ、すべては『やりたいこと』に向かって愚直に進んでいく姿勢こそが、わたしをここまで運んできたことは疑う余地がありません」
※伝説のチーム・ANGEL DUST BREAKERSで活動していた1996年ころの原田さん(写真一番手前)
挑戦しなければ成功も失敗も起こり得ない
失敗することで、成功へと近づいていける
ブレイクダンスをこよなく愛する原田さんでも、長年ダンスを続けていると多くの失敗を経験するし、どんなに好きなことでも飽きを感じるときはあったはず。そんなとき、原田さんはどのようにして自らの気持ちを立て直していったのでしょう。
「自分よりうまい人を見るとやっぱり落ち込むし、『もうやめよう……』と思ったことは幾度となくありました。でもなぜか、落ち込めば落ち込むほど、その都度『やりたい』という強い衝動が湧いてきた。なぜなら、自分がダンスをやめたときのことを想像しようとしても、なにもイメージできなかったからです。もう明日からなにをして生きていったらいいのか、それすらもわからなかった(笑)。だからこそ、どれだけ落ち込んでもダンスに戻っていきました。つまり、自分が一番やりたいことがはっきりしていたので、それを続けることを最優先することができたのです」
失敗や挫折をしても、自分が大好きなダンスと素直に向き合えたのがダンスを続けることができた一番の理由。だからこそ、越えられないように思える壁がやってきて、否応なく自分と向き合うことになっても、愚直にまっすぐ努力する道を選びました。
「なぜまっすぐに努力するのかと言うと、真正面からチャレンジしなければ、なにが成功なのか失敗なのかもわからないからです。たとえ失敗しても、自分のなかには必ずなにかしらの経験値は残ります。逆に言えば、失敗しても『なにかが得られる』とつねに思うことが、夢をつかむためには大切なことなのです」
※『JAPAN DANCE DELIGHT VOL.20』での原田さん。世界的規模のダンスイベントを仕掛け、多くの若者たちが夢を追う環境をつくっている(写真左から4番目)
子どもは「ほめて伸ばす」しかない
大切なのは、認めて勇気づけてあげること
あきらめずに自分なりに好きなことを続けていくと、少しずつ見えてくる風景が変わっていき、他人からの評価も高まっていきます。そんなまわりからのフィードバックも、子どもの才能を伸ばしていくためにはとても重要な要素だと語ります。
「わたしも若いころは単純だったので、『うまいね!』と言われたら、『そうなんだ』と素直に受け止めて(笑)、さらにがんばる気力が湧いてきたものです。子どもにとっては、そうした他人からの評価やほめ言葉はなによりのご褒美になるんですよね。とくに親からの声がけは、とても重要な要素ではないでしょうか」
失敗して落ち込み、挫折しあきらめかけている子どもと接するとき、いいところを探してほめてあげるのがいいのか、あえて厳しく接するほうがいいのかは、親として迷うことが多い場面のひとつでしょう。ほめることが甘えにつながる場合もあると考えると、とても悩ましい問題です。
「でもわたしは、子どもは『ほめて伸ばす』ほうが絶対にいいと捉えています。親は子どもの『いいところ探し』をどんどんしてあげたらいいし、それしか子どもを伸ばす方法なんてないのでは? くらいに思っています。もし子どもが落ち込んでいるときがあれば、『小さな約束事』をするのもいいかもしれない。たとえば、『1週間毎日踊る』といった約束をして、できなかったときだけ状態を聞いてあげる。そのときも、『自分で決めたのだからやりなさい!』と怒るのはよくない。そこで厳しく怒っても、子どもは怯えるだけ。そうではなく、『それだったら仕方なかったね』とか『来週がんばろうか』と勇気づけてあげることが必要なのです。せっかく好きなことがあるのに、怒られてばかりいたら、『怒られるのは嫌だからもうやめよう……』と思ってしまう子どもだっているでしょう。でも、子どもは親のためではなく、あくまでも自分の人生を歩んでいるのです。そんな子どもの夢や可能性をつぶすことだけは、絶対に避けたいですよね」
※たくさんの観客が訪れる原田さんが主宰となるダンスイベント。その熱狂が子どもたちの可能性をどんどん広げていく
■ ストリートダンサー・マシーン原田さん インタビュー一覧
第1回:ダンスを学ぶことで得られるメリット~どんな子が上達して、どんな子が上達しない?~
第2回:ダンス界におけるキッズシーンの未来は明るい! ~ダンスのプロリーグ『DANCE LEAGE』を準備中~
第3回:【夢のつかみ方】(前編)~夢に近づくために「ハマり症」であれ!~
第4回:【夢のつかみ方】(後編)~挑戦しなければ、成功も失敗も起こり得ない~
【プロフィール】
マシーン原田(ましーん・はらだ)
1964年生まれ、大阪府出身。株式会社アドヒップ代表。1980年代前半に、映画『フラッシュダンス』『ワイルド・スタイル』などを見てブレイキングに出会い、ダンサーとしてのキャリアをスタートさせる。伝説のブレイクダンスチームであるAngel Dust Breakersのリーダーとして活躍。その後、世界最大級のストリートダンスコンテスト『JAPAN DANCE DELIGHT』をはじめとし、数多くのダンスイベントを運営するなど大きな発信力と影響力を持つようになる。1994年から22年間にわたり発行したフリーペーパー『DANCE DELIGHT MAGAZINE』は、日本全国のストリートダンスファンを夢中にさせた。著書に『35年間ダンスを踊り続けて見えた夢のつかみ方』(ザメディアジョン)がある。
【ライタープロフィール】
辻本圭介(つじもと・けいすけ)
1975年生まれ、京都市出身。明治学院大学法学部卒業後、主に文学をテーマにライター活動を開始。2003年に編集者に転じ、芸能・カルチャーを中心とした雜誌・ムックの編集に携わる。以後、企業の広報・PR媒体およびIR媒体の企画・編集を中心に、月刊『iPhone Magazine』編集長を経験するなど幅広く活動。現在は、ブックライターとしてもヒット作を手がけている。
『35年間ダンスを踊り続けて見えた夢のつかみ方』
マシーン原田 著
ザメディアジョン(2017)