あたまを使う/国語 2018.5.11
更新日 2025.6.23

なんば先生の国語教室【第5回】国語科の授業が変わっていっている

難波博孝
なんば先生の国語教室【第5回】国語科の授業が変わっていっている

こんにちは、難波です。ゴールデンウイークは皆さんいかがお過ごしになったでしょうか。私は子どもたちの手も離れ、夫婦でゆっくり過ごしました(といってもこの連載を書いたりしています)。

さて、前回までは大学入試が変わることや、読み聞かせが国語力の基盤を作ることなどをお話してきました。

今回は、学校の国語科授業が変わっていっていることをお話したいと思います。

ライタープロフィール

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難波博孝

広島大学教授

広島大学学長特任補佐、大学院教育学研究科教授、博士(教育学)文学修士(言語学)
1958年兵庫県姫路市生。京都大学大学院文学研究科言語学専攻、神戸大学大学院教育学研究科国語教育専攻を修了、愛知県立大学文学部児童教育学科講師・助教授を経て、2000年広島大学に移り、現在に至る。
専門は国語教育全般(論理の教育、文学教育、コミュニケーション教育)
現在、小学校教員や中高教員との勉強会、企業研修のプロとの共同研究、西安交通大学・台北市立大学などとの共同研究を行う。
授業アドバイザーとして、年間30校園以上の幼小中高を訪問し授業を観察し、100本以上の学習指導案へのアドバイスを行う。全国大学国語教育学会全国理事、一般社団法人ことばの教育理事、言語技術教育学会理事、初等教育カリキュラム学会理事。2016年度読書科学学会研究奨励賞受賞。
著書に『ナンバ先生のやさしくわかる論理の授業―国語科で論理力を育てる−』明治図書(2018)、『母語教育という思想』世界思想社(2008)『楽しく論理力が育つ国語科授業づくり』明治図書(2006)、『臨床国語教育を学ぶ人のために』世界思想社(2007)がある。

変わるのは大学入試だけではない

2020年度から、つまり、現在の高校一年生が受験する時から、大学入試が大きく変わることはお話してきました。実はそれと連動して、というよりも先行して、保育所・幼稚園・こども園が担当する幼児教育から小学校・中学校・高等学校の教育までが、実は大きく変わろうとしています。

この改革の流れは、どこから始まったのでしょう?
それは大学教育から始まりました。

何年か前から、大学はとても忙しい職場になりました。もちろん大学教員は研究者ですから、研究をすること(論文を書くことなど)が大事な仕事です。その忙しさは昔も今も変わりません。しかし、教育(大学の授業やゼミなど)については、昔はそれほどうるさく言われませんでした。

今は大学も教育にとても大きな力を注ぐようになりました。学生からの授業評価はもちろん、大学教員や院生が他の教員の授業を見る批評会などが頻繁に行われるようになっています。

これら大学授業改革の、ひとつのキーワードが「アクティブ・ラーニング」だったのです。

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小学校の授業で重視される「言語活動」

アクティブ・ラーニング」は、最初は大学の授業改革から生まれました。一方通行の講義式授業を変えるべく、文部科学省が主導してグループ学習ICT導入、予め予習してきて授業に臨む学習(反転学習などとも言われます)、グループが離合集散を繰り返すジグソー学習(私も、ジグソー学習に関する本を書いています(『ジグソー学習を取り入れた文学を読む力の育成』難波博孝(明治図書))。この流れが、高校以下に降りてきたのです。

一方小学校では、10年以上前から、すべての教科で言語活動が重視されるようになってきました。言語活動とは、国語科だけではなく、算数や理科など全ての教科において、自分の言葉で発表したり、自分の考えを文章に書いたり、友達と対話しながら問題を解決したりする活動のことです。

たとえば算数の授業では、答えを出すことよりも、解き方が重視されるようになっています。その解き方についても、ただ式を並べるだけではなく、自分の言葉でプレゼンテーションしたり、まだわかっていない友達に書いて説明したりするという言語活動で行うのです。これは、言語活動を行いながら教科の力を伸ばすことにつながります。

つまり、あらゆる教科において、言語活動の力<国語力>が求められているというわけです。

大学からは「アクティブ・ラーニング」が降り、小学校からは「言語活動」が上がってきます。そう、これらの授業改革の真のターゲットは、中等教育、とくに高等学校の授業だったのです。

急がれる高等学校の授業改革

小学校から始まった「言語活動」は次第に中学校にも広がっていきました。中学校でも、グループ学習やプレゼンテーション発表が当たり前になってきたのです。しかし、高等学校の授業はなかなか変わらず、講義式の授業が大部分でした。

そこに現れたのが「アクティブ・ラーニング」です。大学で行われている授業が高校で取り組む先行的な実践として行われるようになりました。

そしてその流れを決定づけたのが、大学入試改革だったのです。大学センター試験に代わって実施される大学入学共通テストのプレテストには、記述式の問題が取り入れられます。高等学校の授業でも、あらゆる教科において、プレゼンテーションしたり、書いて説明したりすることが求められるようになっています。しかし、高等学校の授業改革はまだ始まったばかりです。

ただ、授業改革の動きはますます加速されることが予想されます。2020年度に大学入試が変わることは何度もお話していますが、同じ年に小学校で新しい学習指導要領を元にした授業が始まります。

ここでは英語科や道徳など新しいことも始まりますが、他の教科については現在とそれほど大きな変化はありません。そして翌年の2021年度には、中学校で新しい学習指導要領での授業が始まりますが、ここも大きな変化はありません。

なんば先生の国語教室第5回2

実用的かつ論理的な力をつける目的とは?

しかし、2022年度に行われる予定の高等学校における新しい学習指導要領に基づく授業は、大きな変化があります。国語科で言えば、次のような科目の変化があります。

<現在>

  • 国語総合(必修)
  • 国語表現(読むこと、話すこと聞くこと)
  • 現代文A・現代文B
  • 古典A・古典B

<2022年度以後>

  • 現代の国語(必修)
  • 言語文化(必修)
  • 論理国語
  • 文学国語
  • 国語表現
  • 古典探究

大きく変わることは一目瞭然ですね。この中で特徴的なのは、「現代の国語」と「論理国語」です。

現代の国語」では、連載第2回でお伝えしたような実用的な文章も学習します。契約書や規則、広告の文章などを適切に読む力も育てます。

また、「論理国語」では、論理的な文章を読んだり書いたりする力を育てることになります。この科目は選択科目ですが多くの高等学校が選択すると考えられます。

つまり、高等学校の新しいカリキュラムでは、古典や難しい評論文を学ぶだけではなく、実用的な文章の読み書きや、論理的な表現の仕方を学ぶようになるのです。

高等学校では、先に(2020年度に)大学入試が改定され、そのあとでこのような授業改革が行われます。こうなると、高等学校の授業も変わらざるを得ません。

これらのことからも、小学校から大学まで、読む・書く・聞く・話すという国語力は、ますます重視されてくるでしょう。

実は、保育所・幼稚園・こども園が担当する幼児教育でも、それらを育むための改革が始まっています。幼児教育では、今までなかった「ことば遊び」をするという項目が加わりました。「ことば遊び」をして言葉への関心を高める保育活動をすることが必須になったのです。

このように、今後の学校教育では、幼児教育も含めて<国語力>があらゆる教科・領域でますます求められていきます。

それでは、ご家庭ではどのような心づもりをしていけばいいでしょうか。まずは読み聞かせだということは前回お話しましたね。その他に大切なことについて、次回からお話したいと思います。

キーワードは、「通じ合い」です。