いわゆる「賢い子」には、どのような特徴があるのでしょう? 子育てをしている立場だと、やはり「賢くない」よりは「賢い」人間になってほしいと思うのではないでしょうか。
しかし、「賢い」とはあいまいな言葉です。「賢さ」とは何でしょうか。勉強が得意であるという、いわゆる「学力」の高さ? それとも「地頭」のよさ? もしくは、IQとイコールなのでしょうか。
今回は、「知的好奇心」に着目し、「賢い子供」の特徴を考察していきます。自分の興味を追求することを大切にすると、「賢い子」への道が開けるかもしれません。
「賢さ」とは
「賢い子」の特徴について話す前に、まずは「賢さ」の意味を確認しておきましょう。三省堂の『大辞林』によると、「賢い」とは以下のような様子を指すようです。
頭の働きがよく知恵がすぐれている。賢明だ。
要領がよい。抜け目がない。
(引用元:コトバンク|賢い 太字による強調は編集部が施した)
「賢い」とは、いわゆる「勉強ができる」ことも、「物事をうまくこなせる」ことも指すのですね。「頭がよい」とも言い換えられそうです。
上記のように、「賢さ」が具体的にどのような能力を意味するかはあいまいです。そのため、時代によって、あるいは個人によって、「賢さ」の解釈は変化します。
ご存知のとおり、AIの普及によって、「AIに仕事を奪われる」「AI社会で必要とされる能力を身につけるには」という話題が盛んですよね。米バージニア大学で経営学を教えるエドワード・ヘス教授も、AIが競争相手となる社会では、「認知と感情に関わるスキルのレベルをいっそう高める必要がある」と考えています。そして、この「アップグレード」は、「賢さ(to be smart)」の定義を変えることで始まるのだそう。
かつての「賢さ」とは、ミスを極限まで減らして良い成績を収めることでした。しかし、ミスをしないという意味での「賢さ」において、人間はAIに勝てません。ヘス教授は、新時代の「賢さ」について、以下のように述べています。
The new smart will be determined not by what or how you know but by the quality of your thinking, listening, relating, collaborating, and learning. Quantity is replaced by quality. And that shift will enable us to focus on the hard work of taking our cognitive and emotional skills to a much higher level.
(訳:新しい「賢さ」を決定づけるものは、何をどれくらい知っているかではなく、思考・傾聴・関連づけ・協働・学習の「質」だ。「量」は「質」に取って代わられる。その変化によって我々は、認知と感情に関わるスキルのレベルをいっそう高めるという難題に注力できるようになるのだ。)
(引用元:Harvard Business Review|In the AI Age, “Being Smart” Will Mean Something Completely Different 太字による強調は編集部が施した)
キーワードは「量より質」。一定時間でどれだけ計算問題をこなせるか、漢字をいくつ書けるか……このような「量」という観点では、現代の「賢さ」は測れそうにありません。「質」――すなわち「どれくらい深く考えられるか」が、「賢さ」の尺度だといえるでしょう。
では、新時代の「賢い子」には、どのような特徴があるのでしょうか?
「賢い子」の特徴
「賢い子」の特徴は、「好奇心が強い」ことのようです。脳画像解析学を専門とし、著書『16万人の脳画像を見てきた脳医学者が教える 「賢い子」に育てる究極のコツ』で知られる瀧靖之教授(東北大学脳科学センター)は、以下のように語っています。
私がいう「賢い子」というのは、「ちゃんと好奇心が育っている子」のことです。
(引用元:瀧靖之(2016),『16万人の脳画像を見てきた脳医学者が教える 「賢い子」に育てる究極のコツ』, 文響社. 太字による強調は編集部が施した)
好奇心のおもむくまま、好きなことに一生懸命取り組んだ子どもは、好奇心を満たすうえで必要性が生じたら、自分から勉強するようになるのだそう。そのため、親が「勉強しなさい」などと強要しなくても、「自分で自分の力を伸ばしていくことができる」とのことです。
たしかに、心からおもしろいと感じるものであれば、自分から調べようとしますよね。結果として、知識や技能の向上につながった、という経験は、皆さんにもあるのではないでしょうか。
- 海外の俳優の大ファンになった!→その人のSNSやブログを読みたい→外国語を勉強する
- 鉄道にハマった!→いろいろな駅に行きたい→地名の読み方や路線を覚える
- ゲームっておもしろすぎる!→自分でも作ってみたい→見よう見まねでソースコードを書いてみる
反対に、「勉強に関係ない本は読んじゃだめ」「いつまでも子どもみたいなことしてないで」などと親から言われ、好奇心が育つ機会を奪われたらどうでしょう。興味を追求する喜びを知らず、「やれと言われたからやる」「やらないといけないからやる」という義務感だけでは、勉強を楽しんで続けることはできません。勉強が嫌になってしまい、結果として成績は伸びないでしょう。
空調メーカーとして知られるダイキン工業株式会社の取締役会長・井上礼之氏も、「純粋な好奇心」を重視しています。好奇心に従って行動を起こし、楽しんだり失敗したりすることによって、「持って生まれた自分自身の固有の資質」が磨かれるとのことです。
人生の関心事はできるだけ広範囲のほうがよい。それが自分の人間としての幅を広げ、多面的に考え、難しい局面での決断能力につながっていくのだと思います。
(引用元:プレジデントオンライン|オフの時間は”純粋な好奇心”に従って動く 太字による強調は編集部が施した)
井上氏による上記の言葉は、ヘス教授の「認知と感情に関わるスキルのレベルをいっそう高める必要がある」という主張にも通じるのではないでしょうか。好奇心を追求する過程で、多角的に考える能力が身につき、達成感も味わうことができます。結果として「賢さ」が身につくのです。
つまり、現代における「賢い子」の特徴には、好奇心が挙げられるといってよいでしょう。
「賢い子」にするには
「賢い子」の特徴である好奇心を育てるには、どうすればよいのでしょうか?
心理学者の榎本博明氏は、親の知的好奇心が子どもに影響すると考察しています。国立教育政策研究所の「全国学力・学習状況調査」(2017年度)によって、「経済的不利にあっても子どもが高い学力を達成している家庭」には、以下をはじめとする傾向があるとわかったからです。
- 子どもに本や新聞を読むようにすすめている。
- 子どもと読んだ本の感想を話し合ったりしている。
- 本を読む(漫画や雑誌は除く)。
- 新聞の政治経済や社会問題に関する記事を読む。
- 地域や社会で起こっている問題や課題、出来事に関心がある。
知的好奇心の強い上記のような親の行動や、親が作り出す家庭環境が、子どもの知的好奇心を育んでいるというわけです。そのため、榎本氏は「まずは親自身が知的好奇心をもち、知的刺激を求めるように心がけることが大切」だと結論づけています。
塾講師の経験がある「教育YouTuber」の葉一さんも、「親も一緒に勉強するのがとても有効」だと強調しています。プライドを捨てて「一緒に勉強をやろうよ」と誘う姿勢が大事とのことです。
「賢い子」の特徴である好奇心を育てたいなら、まずは親が、自身の知的好奇心に目を向ける必要がありそうです。以下のような習慣を取り入れてみてはいかがでしょうか。
- 本を読む
- 新聞を読む
- 美術館や博物館に行く
新聞を読むメリット
「賢い子」の特徴である好奇心を育む方法がわかったところで、そのひとつである「新聞を読む」ことに着目してみましょう。
大人にとっても子どもにとっても、新聞は好奇心を育むのに最適なツールです。本と比べ、新聞には以下のように多彩なコンテンツが含まれています。
- 報道(政治、経済、国際、社会、環境、スポーツ…)
- インタビュー
- 書評
- コラム
- 読者の投稿
- 地域の情報
- 映画や展覧会の案内
- 小説
- クイズ
これだけ多様なコンテンツがあるのですから、興味をひかれるものがひとつは見つかるはずです。もちろん、新聞の全記事を読む必要はありません。見出しに目を通し、おもしろそうだと感じた記事や、必要な記事のみを読み込めばよいのです。
「ニュースなら、インターネットで無料で見ればいい……」と思うかもしれませんが、新聞を講読することには、ほかにはないメリットがあります。それは、毎日強制的に届けられること。
読まなかったネットニュースは流れていくだけですが、読んでいない新聞はどんどん積み上がっていきます。たまった新聞の山を見ることで、「最近、情報収集をサボってしまっているな。読まなければ……」と気づけるわけです。「新聞をためないようにしよう」と意識すれば、新聞を毎日読む習慣が自然と身につきますよ。
NIE(Newspaper in Education)という、学校などで新聞を教材として活用しようという取り組みがあります。日本新聞協会のNIEコーディネーターである関口修司氏は、小学校の校長だったころ、5年生たちと以下のようなやりとりをしたそうです。
関口氏「新聞を読んでいたよ」
子どもたち「おもしろいの?」「読んだことないよ」
関口氏「じゃあ見てごらん」
子どもたち「わっ、気持ち悪い!」
関口氏「……どうして気持ち悪いの?」
子どもたち「いっぱい字が並んでいるのを見ただけで、気分が悪くなる」
「気持ち悪い」という、想像を絶する反応を見せた子どもたち。しかし、新聞を読んで興味のある記事を切り取り、要約したり感想を書いたりという「NIEタイム」を学校に導入して半年後、子どもたちは新聞を囲んで「どこにおもしろい記事があるの?」「これはテレビのニュースでもやっていたな」と、積極的に興味を示すようになったそうです。
関口氏は、「1日30分間、お子さんに本や新聞を読ませてください」と提案しています。新聞には、報道だけでなく、論説や広告、スピーチ、条文などさまざまなタイプの文章のほか、写真やグラフといった資料も掲載されているため、総合的な読解力を鍛えられるからです。
小学校低学年のお子さんには、漢字にふりがながついている「朝日小学生新聞」がおすすめ。政治のニュースだけでなく、自然科学の話題も豊富なので、子どものさまざまな興味関心に応えられます。
紙面はわずか8ページですし、写真や漫画がふんだんに使われているので、活字に不慣れな子でも大丈夫。月額購読料はわずか2,100円(税込)なので、試しに申し込んでみてはいかがでしょうか。新聞を読む習慣をつけることで、「賢い子」の特徴である好奇心が育ちやすくなりますよ。
「賢い子」の特徴である好奇心について掘り下げました。「おもしろい!」という感情を大切にすることで、自分でもっと調べよう、工夫してみようという気持ちが湧くのですね。「やらなければいけないこと」にまい進するのも必要ですが、「おもしろそう!」「やってみたい!」という純粋な好奇心も大事にしてみてください。
(参考)
コトバンク|賢い
Harvard Business Review|In the AI Age, “Being Smart” Will Mean Something Completely Different
瀧靖之(2016),『16万人の脳画像を見てきた脳医学者が教える 「賢い子」に育てる究極のコツ』, 文響社.
プレジデントオンライン|オフの時間は”純粋な好奇心”に従って動く
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