2018.3.16

自己表現とコミュニケーション能力は身体で学ぶ。小学校低学年の「表現リズム遊び」授業

編集部
自己表現とコミュニケーション能力は身体で学ぶ。小学校低学年の「表現リズム遊び」授業

学校の授業で学ぶ“ダンス”について、みなさんはどのようなイメージを抱いていますか? おそらく一般的には、中学以降に必修とされているヒップホップなどの現代的なリズムのダンスを思い描くのではないでしょうか。そのようなダンスの授業に関しては、ニュースなどでもたびたび取り上げられて大きな話題になりましたよね。

しかし、その前段階である小学校でも、1年生から6年生までダンスが必修科目になっていることはあまり知られていないのではないでしょうか。現在では小中高で一貫性を持たせる目的でダンスや武道を教育に取り入れる方針のもと、低学年・中学年・高学年と3段階に分かれたカリキュラムが組まれています。

今回は、低学年(1・2年生)が体育で学ぶ「表現リズム遊び」が一体どのようなものなのか、またこの授業が子どもたちにどのような影響を与えるのか見ていきましょう。

小学校低学年から中学・高校へとつながるダンスの道

小学校低学年では、「表現リズム遊び」として身体を使った自己表現を身につけるための授業が行われています。

文部科学省の資料によると、その授業内容は下記の通りです。

  • 身近な動物や乗り物などの題材の特徴をとらえて、そのものになりきって全身の動きで表現する
  • 軽快なリズムの音楽に乗って踊る
  • 友だちといろいろな動きを見つけて踊ったり、みんなで調子を合わせて踊ったりして楽しむ

 
友だちと一緒に音楽に乗って動物の動きを真似る。楽しそうな内容ですね。ではその目的とは一体何なのでしょうか?

文部科学省では平成20年の小学校学習指導要領改訂において、「集団的活動や身体表現などを通じてコミュニケーション能力を育成すること」を体育の授業の基本方針としています。

そして「『表現遊び』と『リズム遊び』の両方の遊びを豊かに体験する中で、中学年からの表現運動につながる即興的な身体表現能力やリズムに乗って踊る能力、コミュニケーション能力などを培えるようにする」というねらいが明確に記されています。

つまり、小学校低学年の「表現リズム遊び」は、子どもが楽しみながら無理なく身体表現を習得し、中学校・高等学校体育の本格的なダンスの授業へとつながる道のスタートラインであるとも言えるでしょう。

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表現リズム遊びがもたらす想像以上のメリット

子どもは何かに「なりきる」ことが好きですよね。アニメのキャラクターや動物はもちろん、乗り物など人間以外のものになりきって遊ぶこともあります。その習性をうまく活かして「表現リズム遊び」を学ぶことで、内面的に著しい変化を遂げる子も多いようです。

奈良女子大学が小学校1・2年生を対象に、「表現リズム遊び」による自己表現や相互交流について独自に実験した結果、次のようなことがわかりました。

1年生当初、何になるかを課題にしていた子どもたちが、どう動くかに視点を移していく中で、他者との動きの交流が生まれた。そして、動きを主導する役を交代して互いが互いを模倣しあう段階を経て、グループ全体でひとつのモノになる表現が見られるようになった。また、2年生後半には、他者と動きの質を共有しながら即興的に動く経験が、自分自身や他者の感情に気づくきっかけになっていた。

(引用元:青木惠子・成瀬九美(2014),「『表現リズム遊び』にみられる相互交流の変容:小学校1・2年生での実践事例から」, 奈良女子大学スポーツ科学研究, 16号, pp.31-19.)

つまり、他者と一緒に踊る活動を通して、他者に共感したり、自分との相違点を具体的に認識したり、他者の視点から自分を見つめたりする力が育まれることがわかったのです。

たとえまだ小さい低学年の子どもでも、客観性を養うことは充分可能です。自分を中心に物事を考えて行動するのではなく、集団の中における自分の“ポジション”のようなものを意識することができれば、大きな内面的成長が期待できるでしょう。

小学校低学年の表現リズム遊び2

「他者と自分の違い」と「他者への理解」を身体で学ぶ

中学校のように本格的なダンスの授業に進んではいないものの、小学校に入学した時点で身体を使った自己表現を学ぶ子どもたち。それは一見遊びのようですが、友だちとのコミュニケーションを充実させて、客観性を身につけることで自己の内面と向き合う能力を高める効果があることがわかります。

先ほどご紹介した奈良女子大学の同調査でも次のようにまとめられています。

身体表現によるコミュニケーションの体験を充実させ、身体感覚や身体知を高めることこそが、他者と関わることの基盤になる。(中略)ダンス学習の中で自分のイメージを身体で表現したり他者の表現に応えることと並行して、その表現過程を振り返り、自分の言葉でその体験を表わし直す学びが、真のコミュニケーション能力を育てることにつながるのではないだろうか。

(引用元:同上)

たくさんの友だちと関わり合いながら外遊びをする機会が減ってきている現代では、この「表現リズム遊び」を通して自己表現対人スキルを磨き、相手の気持ちを理解する力が育まれていくのかもしれませんね。

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なりきり遊び、リズム遊び、表現遊び。「遊び」と付くとなんだか楽しそうですね。あまり知られてはいませんが、実は小学校低学年のうちから、中学校で必修化されているダンスの授業につながる取り組みをしているのです。それは長い目で見て、子どもたちの身体の成長だけではなく、内面の成長にも大きな影響を及ぼしているのではないでしょうか。

(参考)
文部科学省|小学校体育(運動領域)まるわかりハンドブック
青木惠子・成瀬九美(2014),「『表現リズム遊び』にみられる相互交流の変容:小学校1・2年生での実践事例から」, 奈良女子大学スポーツ科学研究, 16号, pp.31-19.