スーパーのお菓子売り場で、ひっくり返って泣き叫ぶわが子。なだめても、叱っても、火に油。家に帰ってから、どっと疲れて「なんでうちの子だけ……」とため息が出る。そんな日、ありますよね。
「この子はキレやすいのかな」「私の育て方のせいかな」。そんな考えが頭をよぎることもあると思います。
じつは、子どもの激しい爆発って、性格でもしつけの失敗でもなく、「言葉が、気持ちに追いついていないだけ」なのかもしれません。そういう見方があるんです。これは我が子だけの話ではなくて、公園で、電車で、すれ違いざまに泣き叫んでいるどこかの子も、たぶん同じ。今日はその理由と、いまから試せる声かけを具体的にお話しします。
目次
「キレている」のではなく、「言葉を探している」
大人は、もやもやしたとき「疲れてるな」「これは悔しいんだな」と、心のなかでなんとなく言葉にできます。この “名前をつける” 作業があるから、感情は爆発せずにすみます。
でも、小さな子はまだ持っている言葉が少ない。胸のなかで「いやだ」「こわい」「思い通りにならない」「寂しい」が、整理されないまま混ざり合って、出口が見つからない。大人なら数秒でできる気持ちの仕分けが、子どもにはまだ重労働なんですよね。その行き場のなさが、泣き叫ぶ・たたく・ひっくり返る、という形であふれ出ます。
自分の状態を言葉にできないって、考えてみるとかなり苦しい状況です。胸がいっぱいなのに、それが何なのか自分でも分からない。説明できないから、誰にも分かってもらえない。大人だって、寝不足と空腹と心配ごとが重なった日には、つい強い口調になってしまうことがあります。言葉も経験も大人よりずっと少ない子どもが、感情の渋滞を起こすのは、むしろ自然なことなのです。
つまり子どもは、親に反抗しているわけではない。家で爆発するのは、ここが安全だと知っているから。そう考えると、あの激しさが、少し違って見えてくる気がします。
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足すのは「気持ちに名前をつける」ひとことだけ
ここで、やめることを増やす必要はありません。足すのは、たったひとつ。子どもが爆発したとき、その気持ちを大人が代わりに言葉にして、名前をつけてあげることです。
コツは、評価や説教を混ぜないこと。「だからダメでしょ」「もう知らないよ」が一滴でも入ると、子どもは責められていると感じて、心を閉じてしまいます。ここでは、気持ちにそっと名前をつけるだけで十分です。
言いがちなひとことと、名前づけのひとこと。並べてみると、向きの違いが見えてきます。
| つい言いがち | 名前づけのひとこと |
|---|---|
| 「いいかげんにして!」 | 「まだやりたかったんだね」 |
| 「泣かないの!」 | 「悲しかったんだね」 |
| 「なんで怒ってるの!」 | 「思いどおりにならなくて、いやだったね」 |
正解を当てにいかなくて大丈夫。外れていたら、子どもが「ちがう!」と教えてくれます。その「ちがう」も、立派な言葉にする力の一歩です。大事なのは、気持ちには名前があって、言葉にしていいんだと知ってもらうこと。親の声が、そのお手本になります。
とはいえ、夕飯の支度に追われ、下の子が泣き、自分も限界の夕方に、しゃがんで穏やかに名前をつけるなんて、できなくて当たり前。むしろ、できる日のほうが少ないかもしれません。声をかけられない日は、かけなくていい。その場を離れて深呼吸するだけでも、無言でとなりにいるだけでも、子どもには伝わるものです。

「言葉にする」は、脳の上でも効いている
気持ちを言葉にすると、感情が和らぐ。これは気のせいではなく、脳の働きとしても確かめられています。
大人を対象にした研究では、こわばった表情の写真を見て不安が高まったとき、その感情に「これは怒り」などと言葉のラベルをつけるだけで、脳の警報装置である扁桃体の反応がしずまり、考える力をつかさどる前頭前野が働くことが分かりました。(アメリカ カリフォルニア大学ロサンゼルス校、マシュー・リーバーマン教授ら)*1 気持ちを言葉にする行為そのものに、高ぶりをしずめるブレーキの働きがあるんです。
そして、その言葉のストックは、子どもの感情とともに育っていきます。スペインで子どもを4年間追いかけた研究では、幼いころに自分で使える言葉(表出語彙)が豊かだった子ほど、数年後に自分の気持ちをうまく調整できるようになっていました。(スペイン バルセロナ大学、マリ・アギレラ博士ら)*2
言葉と感情のコントロールが手をつないで伸びていくことは、別の研究でも示されています。就学前の子どもを1年間観察した調査では、最初に多くの言葉を持っていた子ほど、その後、指示に沿って行動したり、いらだちをやわらげたりする力が伸びていました。(チリ・カトリック大学、ピラール・アラモス博士ら)*3 言葉が増えることは、気持ちを御するハンドルが増えることでもあるわけです。
| 分かったこと | 出典 |
|---|---|
| 気持ちに言葉のラベルをつけると、脳の警報装置(扁桃体)の高ぶりがしずまる | リーバーマン教授ら *1 |
| 幼いころ自分で使える言葉が豊かな子ほど、数年後に感情をうまく調整できた | アギレラ博士ら *2 |
| 言葉を多く持つ子ほど、その後いらだちをやわらげる力が伸びた | アラモス博士ら *3 |
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今日、できそうなこと
完璧に言い当てようとしなくて大丈夫。今夜、子どもがぐずったら、「〇〇したかったんだね」と、外れてもいいからひとつ言ってみる。それだけで十分です。うまく言えなくても、言いそびれても、明日またやってみればいい。
それと、これは子どものためだけの言葉でもありません。「この子はキレているんじゃなくて、言葉を探しているんだ」とこちらが思えると、こみ上げるいらだちにも、ほんの少し間が生まれます。気持ちに名前をつけるひとことは、子どもの感情と、親の心と、両方をやわらげてくれるはずです。
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代わりに言葉にしてきたぶんは、子どものなかに少しずつ貯まっていきます。やがてその子は、自分の口で「くやしい」「さみしい」と言える日が来る。きょうのひとことは、その未来へつながる最初の一歩です。そして同じまなざしは、いつかどこかで泣いているよその子にも、そっと向けられるようになる気がします。
FAQ(よくある質問)
気持ちに名前をつけても泣きやみません。意味がないのでしょうか?
A.その場ですぐ泣きやませることが目的ではありません。気持ちに名前をつけて受けとめてもらった経験が積み重なることに意味があります。泣きやまなくても、となりで言葉にし続けて大丈夫です。
気持ちを代弁すると、わがままを認めることになりませんか?
A.気持ちを言葉にすることと、要求をのむことは別です。「ほしかったね」と気持ちは受けとめつつ、「でも今日は買わないよ」と線は引けます。感情の肯定と、行動の線引きは両立します。
毎回ていねいに対応する余裕がありません。それでも効果はありますか?
A.毎回でなくて大丈夫です。できる日にひとことかけられれば十分で、子どものなかに少しずつ積み重なっていきます。余裕がないときに無理をするより、親が穏やかでいられる範囲で続けるほうが、結果的に長く効きます。
何歳ごろまで続ければいいですか?
A.明確な区切りはありません。子どもが自分で「くやしい」「さみしい」と言えるようになってきたら、代わりに言葉にする回数は自然と減っていきます。その子のペースで、少しずつ手を離していけば十分です。
(参考)
*1 Lieberman, M. D., Eisenberger, N. I., Crockett, M. J., Tom, S. M., Pfeifer, J. H., & Way, B. M. (2007)|Putting feelings into words: Affect labeling disrupts amygdala activity in response to affective stimuli. Psychological Science, 18(5), 421-428.
*2 Aguilera, M., Ahufinger, N., Esteve-Gibert, N., Ferinu, L., Andreu, L., & Sanz-Torrent, M. (2021)|Vocabulary abilities and parents’ emotional regulation predict emotional regulation in school-age children but not adolescents with and without developmental language disorder. Frontiers in Psychology, 12, 748283.
*3 Alamos, P., & Lecaros, C. (2025)|The interplay between language and self-regulation in early childhood. Journal of Applied Developmental Psychology, 99, 101763.









