あたまを使う/教育を考える 2018.12.22

「間違った褒め方」していませんか? 子どものやる気を維持させる「褒め方」メソッド

「間違った褒め方」していませんか? 子どものやる気を維持させる「褒め方」メソッド

子育てにおける心がけとして常套句のひとつとなっているのが、「褒めて育てる」。常套句になっているくらいですから、実感としてその効果を感じている親御さんも少なくないでしょう。脳科学者の篠原菊紀先生によれば、この言葉は脳科学の観点から見ても正しいのだそうです。では、どんな褒め方がより効果的なのか。「子どものやる気を維持する」ための褒め方を教えてもらいました。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹(ESS) 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)

やる気アップのために具体的な「行動」を褒める

褒めて育てるという言葉がありますが、それは脳科学の観点からも大いに有意義なことだと言えます。そもそも「やる気」とはなにかといえば、「行動と快楽の結びつき」です。そして、その結びつきを司るのが脳の線条体(せんじょうたい)と呼ばれる部分と腹内側前頭前野(ふくないそくぜんとうぜんや)です。そして、線条体の最大の特徴として、「予測的な活動をする」ことが挙げられます。

なんらかの行動をしたら快楽を与えてあげる。たとえば、子どもが勉強をしたら褒めてあげる。そうすると、子どもの線条体は「勉強をすれば褒められるんじゃないか」と予測するようになります。つまり、褒められるという快楽を得たいがために、勉強に対するやる気がアップするというわけです。

ただ、「褒めて育てる」と言っても、「素質」を褒めるのか「行動」を褒めるのかといった議論もあります。自信を失ってしょげてしまっている子どもを励ましたい、子どもの自己肯定感を高めてあげたい——さまざまな場面で褒めることは効果的ですが、勉強好きにさせたい、サッカーがうまくなってほしいといったなんらかの方向性を持って子どものスキルアップを図りたいのであれば、その議論の答えは明快です。

線条体は「行動」と快楽を結びつける器官。つまり、ある「行動」をする際の線条体の活動を高めたいと思ったら、その方向性に沿った具体的な「行動」を褒めなければ意味がない、子どものやる気アップにはなかなかつながらないということです。

「適当に」気が向いたときに褒めるくらいでいい

とはいえ、褒め方には注意も必要です。ここで、イギリスのシュルツという学者がおこなったサルを使った実験を紹介しましょう。シュルツは、どのような条件下なら、サルの脳にドーパミンという快楽物質が出るかを調べました。まずはジュースを舌に垂らす。サルはジュースが大好きですから、ジュースが垂らされた瞬間、ドーパミンが出ます。

次に、赤いランプが点灯して、レバーを押すとジュースがもらえるという装置をつくってトレーニングを繰り返しました。当初はどうすればジュースがもらえるのか予測できないので、ジュースをもらったときだけドーパミンが出る。でも、トレーニングを繰り返すうちにサルは学習し、ランプが点灯すると必ずレバーを押すようになります。すると、ランプが点灯しただけでドーパミンが出るようになり、実際にジュースをもらったときにはドーパミンは出なくなるのです。

これがどういうことかを理解するために、レバーを押すことを「勉強すること」、ジュースをもらえることを「褒められること」に置き換えて考えてみましょう。つねに子どもを褒め続けてしまうと、子どもが「勉強をすれば褒められるんじゃないか」と予測したときには快楽を感じるが、実際に褒められたときにはそうならなくなってしまうということ。褒められることが、子どもにとってよろこびではなくなるわけです。

しかも、褒められそうだと思ったのに褒められなかった場合には、むしろ怒りに転化することもある。大人ならば、給料日に給料が入金されていなかったようなものですから、それも当然ですね。こまめに子どもを褒めることは大事ですが、子どもにとって「勉強したら必ず褒めてもらえる」があたりまえになると、褒めることの効果は薄れてしまうので、注意が必要です。

では、どうすればいいかというと、ギャンブル条件というものを使ってほしい。レバーを押してジュースをもらえる確率を50~70%にする。ジュースをもらえるときもあれば、そうじゃないときもあるようにするわけです。こうした不確定な状況がギャンブル条件です。そうすると、ランプが点灯したときもジュースをもらえたときも、ドーパミンが出るようになるのです。

子どもを褒めることでいえば、それこそサイコロでも振って、褒めたり褒めなかったりする。「間引く」ことが重要なのです。とはいえ、あまり考え過ぎる必要はないかもしれませんね。親御さんも仕事に家事に忙しいでしょうし、子どもが勉強したら100%必ず褒めるなんてことは、やろうと思ってもそうできるものではありません。自然に間引くことができているのではないでしょうか。

子どもを褒めることの重要性は知っておいて損はありませんが、あまり意図的にコントロールしようとするのではなく、「気が向いたときに褒める」くらいの適当さが、褒めることの効果を高め、結果的には子どものやる気を維持させることにもつながるのだと思いますよ。

男の子がさいごまでできる めいろ
女の子がさいごまでできる めいろ

篠原菊紀 監修/KADOKAWA(2018)

■ 脳科学者・篠原菊紀先生 インタビュー一覧
第1回:記憶力の要は「記憶の仕方」にあり。親が知っておくべき「記憶の脳科学」
第2回:子どもの「やる気」と「集中力」を引き出す脳科学的テクニック
第3回:子どもの気質をテストで診断。脳のタイプ別「“勉強好き”に育てる方法」
第4回:「間違った褒め方」していませんか? 子どものやる気を維持させる「褒め方」メソッド

【プロフィール】
篠原菊紀(しのはら・きくのり)
1960年生まれ、長野県出身。東京大学教育学部卒業、同大学院教育学研究科修了。東京理科大学諏訪短期大学講師、助教授を経て、現在は諏訪東京理科大学工学部情報応用工学科教授、地域連携研究開発機構・医療介護・健康工学部門長、学生相談室長。「茅野市縄文ふるさと大使」という肩書も持つ。応用健康科学、脳科学を専門とし、「遊んでいるとき」「運動しているとき」「学習しているとき」など日常的な場面での脳活動の研究をしている。教育関連の他、アミューズメント、自動車産業などとの共同研究も多数。子どものための「脳トレ」に関する著書も数多い。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。