教育を考える 2019.3.21

「早くしなさい!」と言わないためには? 着替えの時間の『ドラえもん』が効果大な理由

「早くしなさい!」と言わないためには? 着替えの時間の『ドラえもん』が効果大な理由

「早くしなさい!」。つい子どもに言ってしまう言葉のひとつです。強い口調で言ってしまい、自己嫌悪に陥る親御さんも少なくないはずです。では、子どもが自主的にやるべきことをやってくれるようにするには、一体どうすればいいのでしょうか。子どもの自主性・自立性を引き出す独自の授業で注目を集める、東京学芸大学附属世田谷小学校教諭・沼田晶弘先生にお話を聞きました。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)

「音楽」を使い子どもの時間感覚を育てる

まず、親がつい「早くしなさい!」と言ってしまう理由から説明します。すごく単純なことで、親の都合でスケジュールを考えているからです。たとえば、○時までに家を出なくちゃならない、だから子どもには○時までに着替えてほしい。それは親の勝手な都合に過ぎません。自分の子どもはなにをするのにどのくらいの時間がかかるのか、普段からきちんと子どもを見ていれば、それを踏まえたスケジュールを組むこともできるはずです。

そもそも、幼い子どもにはしっかりとした時間感覚がまだ備わっていません。そこで、子どもが時間感覚を早くつかんでいくために周囲の大人ができることもあります。そのために僕が使っているのは「音楽」の力。僕の学級経営には、iPodとスピーカーが欠かせません。

それを使ってどうするのか。たとえば、掃除の時間には決まった曲をかけます。毎日同じ曲を聞くことになるので、子どもたちはあとどれくらいで曲が終わる、つまりあとどれくらいで掃除を終わらせなければならないかがわかるのです。曲が終わりに近づけば、子どもたちは自然に急いで掃除をします。僕は「早くしなさい!」とあまり言わないほうの教員ですが、代わりにiPodの音楽に、「早くしなさい!」と言わせているわけです。

もちろんこれは、家庭と連動してできることでもあります。僕が担任している1年生のクラスでは、体育着の着替えの時間にはいつも『ドラえもん』の曲をかけることにしています。その子どもたちの姿を授業参観で見せたところ、家庭でも『ドラえもん』の曲をかけたら、子どもたちは自然に早く着替えるようになったそうです。

ただ、これはなにも珍しいことではありません。大人でも無意識のうちにやっていることでしょう。僕は学校のそばに住んでいて、いつも遅刻ギリギリに滑り込むのですが……その時間を教えてくれるのが、テレビ番組『ZIP!』の「MOCO’Sキッチン」。速水もこみちさんを見れば、「そろそろ家を出ないとやばいぞ」と思える(笑)。それと同じ状態を、音楽を使って子どもたちにもつくっているだけのことなのです。

ただ、子どもの場合だと、テレビには見入ってしまうものですから、やはりラジオや音楽などが適しているかと思いますね。

自主的にやれば「お得」だという経験を積ませる

そういう時間感覚とはちがう、広い意味での自主性を伸ばす方法についてもお伝えしておきます。子どもがなかなか自分から宿題に取り組んでくれないといった悩みは多くの親御さんが抱えているものでしょう。とくに夏休みの宿題は、教員の僕から見ても量が多く感じますし、大変だろうと思います。でも、そんな夏休みの宿題にだって子どもたちが嬉々として取り組むようにもできるのです。

過去にこんなことがありました。ある年の夏休み前に、本来は夏休みの宿題であるドリルを取り出して、僕は子どもたちに言いました。「来週から夏休みだけど、特別に1週間前にこのドリルを渡すね」と。すると、子どもたちは「うひょーっ!」とよろこんで、夏休みに入る前にそのドリルを終わらせてしまいました。なぜそんなことが起きたのかというと、それまでに「なんでも早くやればお得だ」という経験を子どもたちに積ませていたからです。

いま、僕が担任をしている1年生のクラスは、給食を配るのがとにかく早い。ただ、食べるのは遅い。なぜかというと、残さず全部食べるように指導しているからです。でも、代わりに給食後の掃除が猛烈に早い。そうすることで、昼休みを長く取れて「お得」だと子どもたちが感じているからです。

それは授業でも同じです。みんなが集中して早く授業が終わったら、早めに休み時間にするのです。「率先してやるべきことを早く終わらせたら、たくさん遊べるんだ」。子どもたちがそう理解できれば、自分たちから動きはじめるようになるのです。

親御さんが子どもに自主性を持ってほしいと願うのは、自分の経験からのものでしょう。「子どもの頃にもっと自主的に勉強をしていたら……」といった多少の後悔の念から、「子どもには同じ失敗をしてほしくない」と願うのです。

では、「子どもの頃にもっと自主的に勉強をしていたら」どうなったと考えますか? 「もっと上位の学校に進学できたかもしれない」「もっといい人生を歩んでいたかもしれない」。それは「お得だった」ということですよね? だとすれば、早くからもっと身近な「お得」を感じさせてあげることが、子どもの自主性を伸ばすことにつながるのではないでしょうか。

家でできる「自信が持てる子」の育て方
沼田晶弘 著/あさ出版(2018)

■ 東京学芸大学附属世田谷小学校教諭・沼田晶弘先生 インタビュー一覧
第1回:子どもの「内発的なやる気」を引き出す、たったひとつの方法。
第2回:「早くしなさい!」と言わないためには? 着替えの時間の『ドラえもん』が効果大な理由
第3回:「褒める」にひそむ意外な盲点。本当に褒めるべきこととそうでないことの違い
第4回:「典型的ないい子」を育てるよりも大切な、伸ばしてやるべき子どもの「考える力」

【プロフィール】
沼田晶弘(ぬまた・あきひろ)
1975年9月19日生まれ、東京都出身。東京学芸大学附属世田谷小学校教諭。学校図書生活科教科書著者。東京学芸大学教育学部卒業後、インディアナ州立ボールステイト大学大学院で学び、インディアナ州マンシー市名誉市民賞を受賞。スポーツ経営学の修士課程修了後、同大学職員などを経て、2006年から現職。児童の自主性・自立性を引き出す斬新でユニークな授業が読売新聞に取り上げられ話題となる。教育関係のイベント企画を多数実施する他、教育関係だけではなく企業向けの講演も精力的におこなっている。著書に『「変」なクラスが世界を変える! ぬまっち先生と6年1組の挑戦』(中央公論新社)、『子どもが伸びる「声かけ」の正体』(KADOKAWA/角川書店)、『ぬまっちのクラスが「世界一」の理由』(中央公論新社)、『「やる気」を引き出す黄金ルール 動く人を育てる35の戦略』(幻冬舎)など。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。