「ねえ、なんで空は青いの?」「なんでお月さまはついてくるの?」
夕飯の支度をしているときに、立て続けに飛んでくる「なんで?」。最初は答えていても、5回目あたりで「なんでだろうね」と流してしまう。正しく答えられない自分にも、少しもやもやする。そんな日があります。
相対性理論で知られる物理学者アルベルト・アインシュタインは、4歳か5歳のころ、父に見せてもらった方位磁針のことを、60年以上たっても忘れずにいました。両親は物理学者ではありません。それでも、息子の「不思議」が育つ場所を、暮らしのなかに用意していました。
目次
60年以上たっても覚えていた、父が見せてくれたもの
アインシュタインは1879年、ドイツ南部のウルムで生まれ、ミュンヘンで育ちました。父のヘルマンは弟と電気関係の会社を営み、母のパウリーネはピアノをよく弾く人でした。1921年にはノーベル物理学賞を受けています。ノーベル賞については、こどもまなびラボのノーベル賞とは? 子どもにわかりやすく話せる基本|6つの種類と選ばれ方の記事で、親子で話せる形にまとめています。*1
67歳のころに書いた自伝的な文章のなかで、アインシュタインは幼い日の驚きを振り返っています。4歳か5歳のとき、父が方位磁針を見せてくれた。どちらに向けても、針は決まった方角を指す。その動きは、それまで知っていたどんなものとも合わなかった、と。
本人は「覚えている、あるいは覚えていると思う」と少し慎重に書き添えていますが、この体験は深く長く心に残り、物事の奥には何か深く隠れたものがあるはずだと感じた、とも書いています。

1. 答えより先に、「不思議」を手渡した
父がしたのは、磁力の仕組みを教えることではなく、方位磁針を見せることでした。驚いたのは息子自身で、その驚きは誰かに教わったものではありません。
子どもの「なんで?」に、親がいつも完璧に答える必要はありません。まずは、問いを本気で受け取ってみる。分かる範囲で短く答える。分からないときは「どうしてだと思う?」と聞き返して、子どもなりの説明を聞いてみる。それだけでも、会話は続いていきます。
たとえば「なんでお月さまはついてくるの?」と聞かれて、「どうしてだと思う?」と返す。「お月さまが、わたしのこと好きだから」。大人から見れば的外れでも、それはその子が自分の頭で組み立てた、最初の説明です。「そう考えたんだね。明日、違う道でも見てみようか」と続ければ、問いは次の日まで持ち越されます。
方位磁針は、いまなら100円ショップでも手に入ります。机の上で回しても北を指し続ける針は、いまの子どもにとっても充分に不思議なものです。
日本の幼稚園教育要領でも、幼児期の終わりまでに育ってほしい姿のひとつとして、自然に触れて感動する体験を通して、好奇心や探究心をもって考え、言葉などで表現することが挙げられています。*2
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2. 好きになるまでの時間を、急がなかった
アインシュタインは6歳のころ、母のすすめでバイオリンを習い始めました。けれど、はじめから夢中になったわけではありません。何年ものあいだ、練習は気の進まない「やらなければいけないこと」だったといいます。
変わったのは13歳のころ。モーツァルトのバイオリン・ソナタに出会い、そこから音楽は生涯の楽しみになりました。大人になってからも、研究の合間にバイオリンを弾き続けています。6歳から13歳まで、およそ7年。好きになるまでには、それだけの時間がかかっていました。
習い事を前にした子どもが、楽しそうに見えない時期はあります。続けるかどうかは、それぞれの家庭で決めてかまいません。ただ、「いま楽しそうではない」と「向いていない」は、同じではないのかもしれません。好きになるきっかけは、何年もあとにやってくることもあります。
迷ったときは、「行きたくない」が練習の日だけなのか、先生や友だちに会うこと自体がつらそうなのかを分けて見てみるのもひとつの手です。前者なら、少し時間を置く選択もありますし、後者なら、場所を変えることも考えられます。
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3. 食卓に、新しい世界を運んでくる大人を迎えた
アインシュタインが10歳のころから約5年間、一家の食卓には毎週、ひとりの医学生が招かれていました。マックス・タルムードという21歳の青年です。学生を毎週の食事に招くのは、当時のユダヤ人家庭の習慣でした。
タルムードは、少年アインシュタインに自然科学を紹介する一般向けのシリーズ本や、幾何学の教科書を貸しました。タルムードはのちにアメリカで眼科医になり、少年時代のアインシュタインとの思い出を本に書き残しています。
両親が自分で物理を教えたわけではありません。けれど、息子の知りたい気持ちに応える本を抱えて、毎週、家の食卓に座る大人がいました。
いまの暮らしなら、それは祖父母かもしれませんし、習い事の先生や図書館の司書さんかもしれません。「この子、最近こんなことを不思議がっていて」とひとこと添えるだけで、子どもの問いを受け止める大人がひとり増えます。
図書館なら、「虫のことが知りたいみたいで」と伝えるだけで、司書さんが年齢に合った本を選んでくれることもあります。親ひとりで、子どものすべての「なんで?」に応える必要はありません。
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「なんで?」は、手渡されたものから始まる
アインシュタインの両親は、特別な英才教育をしたわけではありませんでした。方位磁針を見せ、バイオリンを習わせ、学生を食事に招いた。どれも、当時の家庭でできる範囲のことです。
晩年のアインシュタインは、自分には特別な才能はなく、ただ好奇心が人一倍強いだけだ、と友人への手紙に書いたと伝えられています。その好奇心のはじまりには、父が見せてくれた、小さな方位磁針がありました。
夕飯の支度中に飛んでくる「なんで?」に、毎回応えられなくてもかまいません。応えられた日の1回が、方位磁針のように、子どもの心のどこかに残ることもあります。
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次に「なんで?」が飛んできたら、答える前に「どうしてだと思う?」と聞いてみませんか。そして週末には、磁石、虫めがね、氷が溶けていく様子など、身近な「不思議」をひとつ子どもの前に置いてみる。答えは、子どもが自分で探しはじめます。
FAQ(よくある質問)
Q. 子どもの「なんで?」に答えられないときは、どうすればいいですか。
A. 「どうしてだと思う?」と聞き返して、子どもなりの説明を聞いてみるのもひとつの方法です。紹介した研究でも、子どもは答えに納得できないとき、自分なりの説明を言ってみることがありました。図鑑や本で一緒に調べれば、会話の続きにもなります。
Q. 習い事を楽しそうにしていません。やめさせるべきでしょうか。
A. 続けるかどうかは、それぞれの家庭で決めてかまいません。ただ、アインシュタインもバイオリンを好きになったのは13歳のころで、それまでは気の進まない練習だったそうです。いまの様子だけで、向き不向きを決めなくても大丈夫です。
Q. 親が理科や科学に詳しくなくても大丈夫ですか。
A. 大丈夫です。アインシュタインの両親も物理学者ではありませんでした。方位磁針を見せる、話を聞いてくれる大人を家に迎えるなど、不思議に出会う場所をつくることが、親にできることのひとつです。
(参考)
*1 こどもまなびラボ|ノーベル賞とは? 子どもにわかりやすく話せる基本|6つの種類と選ばれ方
*2 文部科学省 (2017)|幼稚園教育要領(平成29年告示)
*3 Frazier, B. N., Gelman, S. A., & Wellman, H. M. (2009)|Preschoolers’ search for explanatory information within adult-child conversation. Child Development, 80(6), 1592-1611.
*4 Hidi, S., & Renninger, K. A. (2006)|The four-phase model of interest development. Educational Psychologist, 41(2), 111-127.
*5 Shah, P. E., Weeks, H. M., Richards, B., & Kaciroti, N. (2018)|Early childhood curiosity and kindergarten reading and math academic achievement. Pediatric Research, 84(3), 380-386.









