2023年の夏、アメリカ・カリフォルニアのスタジアム。テイラー・スウィフトのコンサート会場に、目のまわりをハート形のラメで飾り、腕にビーズのブレスレットを重ねづけした男性がいました。Meta(旧Facebook)のCEO、マーク・ザッカーバーグ。娘たちの「推し」のライブに、本気の装備で参戦した姿です。
一方で、私たちはどうでしょう。子どもが夢中になっているアニメ、アイドル、恐竜、電車。「正直、何がそんなにいいのかわからない」。そんな本音を抱えたことはありませんか。大丈夫です、その感覚はごく自然なもの。そして発達研究の世界では、親が同じ熱量になれなくても、子どもの「好き」を育てる方法があるとわかってきています。
今回は、世界有数の富豪の「ラメ」から始まる、楽しい子どもの応援の話です。
目次
世界有数の富豪、目のまわりをキラキラにする
2023年7月、ザッカーバーグは妻のプリシラ・チャンさんと娘たちを連れて、カリフォルニア州サンタクララで開かれたテイラー・スウィフトの「エラス・ツアー」に出かけました。当時、長女のマックスちゃんは7歳、次女のオーガストちゃんは5歳。生まれて4か月の三女アウレリアちゃんもいる、にぎやかな一家です。
注目したいのは、その行動です。目のまわりにはハート形のキラキラしたフェイスジュエル。腕には、ファン同士が手づくりして交換し合う「フレンドシップブレスレット」を何連も重ねづけ。ビーズには、アルバムのタイトルがつづられていました。つまり彼はこの日、「保護者」だけではなく、本気のファンとして会場にいたのです。
インスタグラムに投稿された写真には、「Life of a girl dad(女の子のパパの人生)」という言葉が添えられていました。会場へ向かう道中の投稿は、「13通のメールをチェック中」。13は、ファンにはおなじみのテイラー・スウィフトのラッキーナンバーです。
ほほ笑ましい話ですが、じつはそれだけではありません。「親が、子どもの好きな世界に入っていく」ことには、発達の面から見ても確かな意味があるのです。
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子どもが何かに興味を持つのは、発達の仕様
そもそも子どもは、なぜあんなに何かにハマるのでしょうか。電車の名前を覚えつくす、恐竜図鑑を毎晩ながめる、同じ曲を無限にリピートする。心当たりのあるご家庭は多いはずです。
この興味、じつは発達心理学では研究テーマになっています。
つまり、わが子の「またそれ?」は、困ったことでも珍しいことでもなく、多くの子どもに備わった発達の仕様。しかも子どもは、大好きな対象を入り口に、言葉を増やし、物を分類し、比べ、覚える練習を積み重ねています。
電車の型番も、恐竜の長いカタカナの名前も、推しの曲名も、頭のなかでは立派な研究活動の材料。「ママ、見て見て!」と聞き手に選ばれているのは、じつは光栄なことなのです。

親は「同担」にならなくていい
とはいえ、です。「わが子の推しに、親も本気でハマりましょう」と言われたら、それはそれで荷が重い。そもそも時間もない毎日のなかで、私たちにできることは何でしょうか。
安心してください。研究が示す親の役割は、「同担」(同じ推しをもつファン仲間)になることではありませんでした。
ポイントは、興味が続いた子の親が「詳しい先生」でも「同じ熱量のファン」でもなかったこと。曲名を全部覚える必要も、キャラクターの名前テストで100点をとる必要もありません。
関連する本を1冊、手の届くところに置いておく。話をきいて「へえ!」と受け取る。できそうなら、関係のある場所へ連れて行く。それだけで、子どもの「好き」は続きやすくなっていました。
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子どもの「好き」を親を応援する
「でも、うちの子はすぐ飽きるし……」という心配にも、研究はヒントをくれます。
大切なのは、どんなに深い「好き」も、最初は小さなきっかけから始まるということ。テレビでたまたま見た1曲、友だちの持っていたシール、図鑑の1ページ。そして生まれたての興味は、まわりの人の反応というささやかな風で、燃え上がりもすれば、消えもします。
だから、親にできることはシンプルです。子どもが目を輝かせて推しの話を始めたら、内容がわからなくてもいいので、「へえ、どこが好きなの?」「ママにも教えて」と返してみる。車での移動中に、子どもの好きな曲を1曲だけ一緒に聴いてみる。描いた推しの絵を、冷蔵庫に貼ってみる。お迎えの帰り道に、「今日、推しの新しい発見あった?」と聞いてみるのもいいですね。
どれも、ラメを入れるよりずっと簡単です。でも子どもにとっては、「自分の好きな世界に、大好きな人が遊びに来てくれた」という喜びが、次の「きっかけ」を探しに行くエネルギーになります。
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ザッカーバーグのラメは、たしかに満点の方法かもしれません。でも、満点でなくていいのです。「教えて」のひとこと、1曲だけの相乗り、冷蔵庫に貼った1枚の絵。にわが子が推しの話を始めたら、心のなかでそっと目にラメを入れて、話を聞いてみてください。
FAQ(よくある質問)
Q. 子どもの推しに、どうしても興味がもてません。冷たい親でしょうか?
A. いいえ、ごく自然な感覚です。研究が示す親の役割は、同じ熱量のファンになることではなく、関連する本やおもちゃを用意したり、話をきいたりする「支え役」でした。推しそのものに興味がもてなくても、「夢中になっているわが子」に関心を向けられていれば、それで充分です。
Q. アニメやアイドルなど、勉強に関係なさそうな「好き」でも意味はありますか?
A. あります。強い興味は、言葉を覚える、分類する、比べる、集中を続けるといった学びの土台を動かすエンジンです。ジャンルが「ためになりそう」かどうかより、夢中になれている事実そのものに価値があります。「好き」の対象は、成長とともに次の世界へ橋渡しされていきます。
Q. すぐに「推し変」します。飽きっぽい性格でしょうか?
A. 幼児期の興味は、生まれては入れ替わっていくものです。興味は段階を追って深まるもので、初期の「おっ」の多くが入れ替わるのは自然なこと。いろいろな「おっ」を試す経験そのものが、いつか長く続く「好き」に出会うための探索になっています。安心して見守ってあげてください。
(参考)
*1 DeLoache, J. S., Simcock, G., & Macari, S. (2007)|Planes, trains, automobiles–and tea sets: Extremely intense interests in very young children. Developmental Psychology, 43(6), 1579-1586.
*2 Leibham, M. E., Alexander, J. M., Johnson, K. E., Neitzel, C. L., & Reis-Henrie, F. P. (2005)|Parenting behaviors associated with the maintenance of preschoolers’ interests: A prospective longitudinal study. Journal of Applied Developmental Psychology, 26(4), 397-414.
*3 Hidi, S., & Renninger, K. A. (2006)|The four-phase model of interest development. Educational Psychologist, 41(2), 111-127.









