ワールドカップの中継やニュースで、たびたび名前を目にする優勝候補・スペイン。「無敵艦隊」の愛称で知られる、世界屈指のサッカー強国です。そしてこの国には、サッカーと並んで世界的に有名な、もうひとつの文化があります。お昼寝の習慣「シエスタ」です。
「お昼寝かあ。うちの子、まだ昼寝が必要なのかどうか、悩ましいのよね」「休日に昼寝させると、夜なかなか寝てくれなくて……」。そんなふうに、お昼寝との付き合い方に迷っている方も多いのではないでしょうか。
じつはこの「昼間に眠る」という習慣、子どもの学びを支える働きがあることが、近年の研究からわかってきています。今回は、ワールドカップを入り口に、スペインという国のこと、そしてシエスタの文化から見えてくる「休むことの価値」を、一緒に見ていきます。
目次
スペインって、どんな国?
試合の前後に子どもと話せるよう、スペインの基本をまとめてみました。ヨーロッパの南西、イベリア半島にある国です。
| 首都 | マドリード |
| 有名な都市 | マドリード、バルセロナ(サグラダ・ファミリアの街) |
| 人口 | 約4,800万人(日本の約4割) |
| 言葉 | スペイン語(世界で約5億人が話す言葉) |
| 有名な食べもの | パエリア、トルティージャ(じゃがいものオムレツ)、チュロス |
| サッカー | 2010年W杯優勝。「無敵艦隊」の愛称で親しまれる |
スペインを語るうえで欠かせないのが、首都のマドリードと、地中海に面した街バルセロナです。サッカー好きのお子さんなら、「レアル・マドリード」と「FCバルセロナ」というチーム名を聞いたことがあるかもしれません。
このふたつの街のチームが対戦する試合は「エル・クラシコ(伝統の一戦)」と呼ばれ、世界中のファンが注目します。バルセロナには、140年以上つくり続けられている教会「サグラダ・ファミリア」もあり、「まだ完成していない建物があるんだよ」と話すと、子どもは目を丸くするはずです。
子どもと盛り上がりやすいのは、やっぱり食べものの話です。パエリアは、お米を魚介やお肉と一緒に大きな鍋で炊き込む料理。「スペインの人も、お米を食べるんだよ」と伝えると、遠い国がすこし身近に感じられるかもしれません。おやつのチュロスも、もともとはスペイン生まれです。

シエスタって、なんだろう? スペインの一日をのぞいてみる
シエスタ(siesta)は、昼食のあとにとる昼寝や休憩のこと。日ざしの強いスペインでは、一日でいちばん暑い午後の時間帯に無理をせず、体を休めてから夕方の活動に向かう暮らしが、長い時間をかけて根づいてきました。スペインの子どもの一日を、日本と比べてみましょう。
| 時間帯 | 日本の子ども | スペインの子ども |
| 14時ごろ | 午後の授業や習いごと | 昼食。一日でいちばん大きな食事。そのあとはシエスタ(昼寝・休憩) |
| 夕方 | 帰宅、宿題、夕食の準備 | 広場(プラザ)で友だちと外遊び |
| 19時ごろ | 夕食 | まだ外で遊んでいることも |
| 21時ごろ | おふろ、そろそろ就寝 | 家族そろって夕食。そのままおしゃべり |
「夜9時にごはん?」と驚いてしまいますが、これはスペインの気候が生んだ、その国なりのリズム。昼にたっぷり休むからこそ、夜まで元気に過ごせるのです。大人のシエスタは近年少なくなってきたと言われますが、「休むことは、さぼることではない」という感覚は、いまもスペインの暮らしに息づいています。
そしてこの感覚、子どもの育ちを考えるうえで、とても大切な視点だということがわかってきました。

お昼寝は「学びの続き」だった、シエスタの科学
日本では、保育園の年中・年長くらいになると、お昼寝の時間を減らしたりなくしたりする園が増えてきます。家庭でも「昼寝すると夜に響くから」と、休日のお昼寝をなんとなく切り上げさせている方も多いかもしれません。その判断が間違いというわけではありません。ただ、お昼寝にはこんな働きがあることも、知っておいて損はなさそうです。
園でのお昼寝には、その日の午前中に学んだことの記憶を定着させる働きがあることが、幼児を対象にした実験で示されています。(アメリカ マサチューセッツ大学アマースト校、レベッカ・スペンサー教授ら)*1
この実験では、幼児が午前中に覚えた内容を、お昼寝をした日としなかった日とで比べました。すると、お昼寝をした日のほうが、覚えたことをよく思い出せたのです。しかも興味深いことに、昼寝を逃した分を夜の睡眠で取り返すことはできませんでした。
効果がとくに大きかったのは、ふだんからお昼寝の習慣がある子どもたち。つまり、眠っている時間はただの空白ではなく、午前中の学びを頭のなかで整理している「学びの続き」の時間だった、というわけです。
子どもがすやすや眠っている横顔を見て、「この時間に何かさせたほうがいいのかな」と焦りを感じたことがある方にこそ、届けたい研究結果です。眠っているその子は、いま、休みながら学んでいます。

シエスタだけじゃない、「休む」と「遊ぶ」がセットの暮らし
スペインの一日の表を、もう一度見てみてください。シエスタでたっぷり休んだあと、子どもたちは夕方の広場(プラザ)へ飛び出していきます。スペインの町には必ずと言ってよいほど広場があり、そこでは大人に指示されない自由な遊びがくり広げられます。この「大人が仕切らない時間」にも、意味があるようです。
習いごとのような大人主導の活動より、自由度の高い時間を多く過ごしている子どもほど、自分で目標を立てて行動する力(自己主導的な実行機能)が高い傾向が示されています。(アメリカ コロラド大学ボルダー校、ユウコ・ムナカタ教授ら)*2
そして一日の締めくくりは、21時ごろからの家族の夕食。スペインには「ソブレメサ」といって、食べ終わっても席を立たず、家族でおしゃべりを続ける習慣があります。
この食卓での会話も、子どもが語いを増やし、お話や説明をつくって理解する練習になることが示されています。(アメリカ ハーバード大学、キャサリン・スノー教授ら)*3
休む、遊ぶ、話す。スペインの子どもの一日は、この3つがゆったりとつながってできています。予定をぎっしり詰めることだけが、子どものためではないのかもしれません。

今週末からできる「わが家のシエスタ」
とはいえ、スペインのまねをして毎日お昼寝の時間をつくる必要はありません。いまの生活リズムはそのままで大丈夫。そこに「プラスひとつ」だけ、シエスタのエッセンスを足してみませんか。
おすすめは、週末の午後の「ごろんタイム」です。昼ごはんのあと、10分でよいので、親子でごろんと横になる。眠らなくてもかまいません。カーテンを少し閉めて、部屋をすこし薄暗くして、静かに過ごすだけ。眠くなった子はそのまま眠り、眠くない子は天井を見ながらぼんやりする。それで充分です。
まだお昼寝が必要な年齢のお子さんなら、この時間がそのまま記憶の定着タイムになります。お昼寝を卒業した子にとっても、「何もしない時間があってもいい」と体で知ることは、これから先、がんばりすぎない力になっていきます。そして横で一緒にごろんとしているあなた自身の体も、この10分でひと息つけます。
休むことは、さぼることではない。シエスタの国の知恵は、子どもだけでなく、毎日を走り続けるあなたにも向けられています。
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ワールドカップで「スペイン」の名前を見かけたら、思い出してみてください。情熱のサッカーの国は、休むことを大切にする国でもあります。「スペインの子はね、お昼寝の時間があるんだって」。そんなひとことから、今週末の「ごろんタイム」を始めてみませんか。すやすや眠るわが子の横顔は、休みながら、今日の学びをそっと自分のものにしています。
FAQ(よくある質問)
Q. 休日に昼寝をさせると、夜なかなか寝てくれません。
A. 昼寝の時間帯と長さを調整してみてください。夕方近くの昼寝や長すぎる昼寝は、夜の眠りに影響しやすくなります。昼食後の早い時間に短めに、が基本です。それでも夜に響くようなら、その子は昼寝を卒業する時期に来ているのかもしれません。眠らない「ごろんタイム」に切り替えるのもひとつの方法です。
Q. もうお昼寝をしなくなった年長の子に、無理にさせたほうがよいですか?
A. 無理にさせる必要はありません。研究でも、お昼寝の効果がとくに大きいのは、ふだんからお昼寝の習慣がある子どもだと報告されています。自然に卒業した子は、夜の睡眠を充分にとれていれば心配いりません。日中に静かに休む時間があるだけでも、体と心のリセットになります。
Q. 小学生になっても、昼寝はしてよいのでしょうか?
A. 週末などに眠そうにしていれば、短い昼寝をとること自体は問題ありません。ただ、小学生で毎日強い眠気がある場合は、夜の睡眠時間が足りていないサインかもしれません。まずは就寝時刻を見直して、夜の睡眠をたっぷり確保することを優先してみてください。
(参考)
*1 Kurdziel, L., Duclos, K., & Spencer, R. M. C. (2013)|Sleep spindles in midday naps enhance learning in preschool children. Proceedings of the National Academy of Sciences, 110(43), 17267-17272.
*2 Barker, J. E., Semenov, A. D., Michaelson, L., Provan, L. S., Snyder, H. R., & Munakata, Y. (2014)|Less-structured time in children’s daily lives predicts self-directed executive functioning. Frontiers in Psychology, 5, 593.
*3 Snow, C. E., & Beals, D. E. (2006)|Mealtime talk that supports literacy development. New Directions for Child and Adolescent Development, (111), 51-66.









