「やれば、できる」。子育てで、いえ、人生のあらゆる場面で耳にする言葉です。ありふれていて、誰もが知っている。だからこそ、わかった気になりやすく、本気で「実装」している人は、意外なほど少ないのかもしれません。
合格率98%の幼児教室・つくし会を運営する、株式会社LOCOK代表の石井大貴さん。その教室がいちばん大切にしているのが、まさにこの「やれば、できる」です。ただし石井さんのそれは、この言葉を、私たちよりずっと高い解像度で捉えたものでした。
ありふれたひとことを、ここまで深く突き詰めるとどうなるのか。前回の「可愛がられる力」に続き、今回はその “育て方” に迫ります。
構成・取材/STUDY HACKER こどもまなび☆ラボ編集部
【プロフィール】
石井 大貴(いしい だいき)
株式会社LOCOK 代表取締役/金沢工業大学大学院 准教授/博士(メディアデザイン学)
慶應義塾大学法学部を卒業後、TBSテレビに15年勤務し、
目次
つくし会が、いちばん大切にしている言葉
つくし会の教育の中心には、ひとつの言葉がある。
「つくし会でいちばん大切にしているのは、『やれば、できる』ということです」
ただし、ここで言う「やれば、できる」は、気合いや根性で乗り切れという話ではない。同じ言葉でも、石井さんが見ている解像度は、私たちのそれとは桁が違う。石井さんが指すのは、幼いうちに「頑張ったら、できた」という実感を、小さくてもいいから積み重ねておくことだ。
昨日できなかったことが、今日できる。その手応えと、まわりに認められた経験。それが積み重なると、子どもは「自分はやれば、できる」と思えるようになる。三つ子の魂百まで、というわけだ。
とはいえ、ただ「やれば、できるよ」と声をかけるだけでは、子どもはできるようにならない。では、どうやって「できる」へ導くのか。そこに、石井さんならではの方法がある。
「顕微鏡」ではなく「望遠鏡」で見る
石井さんがよく使うのが、「顕微鏡」と「望遠鏡」というたとえだ。
「みんな、顕微鏡でしか見なさすぎなんじゃないか、と思うんです。望遠鏡で見るからこそ、何が根源的な問題の真因なのかがわかる」
目の前で起きている問題に、どう対処するか。多くの人は、そこにばかりに時間を割く。それは顕微鏡を使うようなものの見方だ。けれど、本当に物事を動かす人は、望遠鏡も併せ持っている。全体を俯瞰し、遠くのゴールから逆算して、いま何をすべきかを見定める。
これは、子育てでも同じだという。目の前のテストの点数、今日できなかったひとつのこと——顕微鏡だけで見ていると、つい一喜一憂してしまう。そうではなく、「そもそも、何を大切にしたかったんだっけ」と、一度引いて考える。その望遠鏡があってはじめて、日々やるべきことが定まる。

娘が、泣いて帰ってきた日
石井さんが、わが子との間で実際にやってみせたことがある。運動を大切にしてきた石井さんは、娘さんと毎日のように坂道ダッシュをしてきた。海辺の練習では、砂の硬さまで一緒に確かめたという。大井埠頭は砂が硬い、お台場はふかふかしている——どこで走れば練習になるかを、ふたりで選んだ。
その娘さんが小学二年生のとき、リレーの選手決めで負けて、号泣しながら帰ってきた。玄関先で三十分も泣き止まないほどだった。
石井さんがまずしたのは、励ますこと。多くの事象は、「感情の問題」と「それ以外の問題」に分けないと、たいてい解決しない、と石井さんは考えている。だから、まず気持ちを落ち着かせてあげる。泣き止んでから、ようやく問いかけた。これから、どうしたい——。
「『もっと頑張る』なんて、誰だって言えます。どう頑張るか。一緒に目標を立てよう、と」
そこで石井さんは、望遠鏡を取り出す。小学校生活の最終ゴールを、六年生でリレーの選手になること、と定めた。そこから逆算する。では五年生では、せめてクラスで二番に入っていたい。さらに分解する。そのために、坂道ダッシュ、腕の振り方、足の運び——。
「望遠鏡で見るからこそ、顕微鏡で、いまやるべきことが決まってくるんです」
ゴールから逆算してブレイクダウンしていくと、「毎日やること」がはっきりしてくる。それ以来、娘さんは毎日自分で工夫をしてトレーニングするようになったという。
ポイントは、これを子どもひとりにやらせなかったことだ。年齢が小さいほど、親が担う比重は大きい。二年生のときは、石井さんが六、七割を考え、娘さんに三、四割を考えさせた。ゴールを紙に書き出すのも、親の仕事。その紙を、娘さんは三年間、貼って毎日眺めていたそうだ。
ここで立ち止まりたいのは、石井さんがこのとき娘さんに渡したものの中身だ。それは、慰めや応援だけではない。自分が二十五年間、立て続けてきた「五か年計画」という手法を、小学二年生に、その場で実装してみせたのである。
「自分が25年間、五か年計画を立て続けてきたので。どこかで子どもにも伝えたいと思っていたんです」
二年生に、五か年計画。普通なら「まだ早い」「わかるはずがない」と尻込みする話だろう。だが石井さんは、泣いて帰ってきたその日を逃さなかった。一度この “型” が身につけば、抜けないと知っているからだ。決めたことを、毎日淡々と続けられる子になる。石井さんが娘さんに手渡したかったのは、リレーの順位そのものではなく、この「できるまでの道のりを、自分で描く力」だった。

「できた」は、体で覚えさせる
もうひとつ、石井さんが幼児期に重んじるのが「身体性」だ。「やれば、できる」を実感させるのに、身体ほど分かりやすいものはない、という。
「昨日できなかったことが、今日できる。それを、一番わかりやすく表現してくれるのが身体なんです」
だからつくし会は、コーディネーショントレーニングなど、運動機能を伸ばすことに力を入れている。たとえば、と石井さんは言う。
「グーパー、グーパーと指を折って数える。これ、最初はみんなできないんです」
大人は驚くかもしれないが、小さな子はグーパーや、指を折って十まで数えることがうまくできない。でも、毎日コツコツ続ければ日々上手になっていく。そして、できた瞬間の手応えがはっきり残る。体で「できた」を積むことが、「やれば、できる」の最初の一歩になる。
石井さんにとって、目標を決めるとは、やることを決めることだ。
「毎日やることを、きちんと決める。あとは、たまに自分の成長を確認する。それが一番大事だと思います」
遠くのゴールを描き、そこへの道を毎日の小さな行動に分け、身体で「できた」を重ねていく。特別な才能はいらない。
「毎日コツコツやる力があれば、みんな成長できる。成長しない人なんて、いないと思うんです」
わが子に「やれば、できる」と伝えたいなら、言葉だけでは足りない。親にできるのは、遠くのゴールを一緒に描き、そこへの道を、今日やることまでブレイクダウンしてあげること。そして石井さんは、できたときの関わり方も大切だと話していた。大げさに喜ぶより、まず「できたね」と認める。
そのうえで、次の一歩を示してあげる。喜びで終わらせず、次へとつないでいくこと。その積み重ねの先に、「自分はやれば、できる」と信じられる子が育っていく。
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次回は、いよいよ最終回。「可愛がられる力」も「やれば、できる」も、その土台にあるのは家庭です。共働きで忙しい時代に、親が家庭で手放してはいけないものとは何か。子どもの力の話から一歩進んで、親自身の話に迫ります。










