教育を考える/インタビュー 2026.6.22

ABC『おはよう朝日です』も注目。合格率98%の幼児教室代表が語る、AI時代の子どもに本当に必要な力

ABC『おはよう朝日です』も注目。合格率98%の幼児教室代表が語る、AI時代の子どもに本当に必要な力

難関小学校への合格率98%、テキストは門外不出。近年注目を集めている、東京の幼児教室・つくし会。2025年にはABCテレビ『おはよう朝日です』のコーナー「おきトレ」を監修し、関西の家庭にもそのメソッドを届け始めました。

その教室を運営し、自身も教育者として現場に立つのが、株式会社LOCOK代表の石井大貴さんです。30年以上の歴史を持つつくし会で、石井さんがいちばん大切にしているのは「コミュニケーション」だといいます。

「コミュニケーション」と聞けば、ありふれた言葉に思えるかもしれません。けれど、長年子どもと向き合ってきた石井さんがその言葉に込める意味は、世間でよく言われる “話し上手” や “社交性” とは、少し角度が違います。同じ「人とかかわる力」でも、石井さんはそれをどう捉えているのか。その人となりと原点から、ひもといていきます。

構成・取材/STUDY HACKER こどもまなび☆ラボ編集部

【プロフィール】
石井 大貴(いしい だいき)
株式会社LOCOK 代表取締役/金沢工業大学大学院 准教授/博士(メディアデザイン学)
慶應義塾大学法学部を卒業後、TBSテレビに15年勤務し、一流のアスリートや経営者、文化人と接するなかで「教育」の本質を学ぶ。慶應義塾大学大学院で博士号を取得すると同時に株式会社LOCOKを創業し、「あらゆる人に教育を通して無限の可能性を提供する」ことを掲げて教育プロデュース事業を展開。30年以上、独自カリキュラムを実践する「つくし会幼児進学教室」の運営や、千葉ロッテマリーンズなどプロアスリート大手企業向けのリーダーシップ教育を手がける。著書に『“目標”を“現実”に変えるたった3つのルール』(プレジデント、2021年)など。

コミュニケーションは、人を幸せにするためにある

石井さんにとって、コミュニケーションとは何のためにあるのか。答えは、いたってシンプルだ。人を幸せにするため——。この一点に、石井さんの考え方のすべてが根ざしている。

そう言い切れるのは、思いつきではない。振り返れば、その感覚を石井さんは幼い頃から持っていた。原点は、あまり格好のいい話ではないという。小学校の帰り道の出来事だ。

前を歩いていたのは、足が速くてクラスの人気者だった同級生のふたり。石井さんはたまたま同じ方向で、後ろから追いつくかたちになる。声をかけると、ふたりは当然のように、こう言った。

「お前、俺たちと一緒に帰りたいんだろう——そう言われたんです」

自分たちは人気者なのだから、お前は一緒に帰りたいに決まっている。そんな思い込みで、一方的に放たれた言葉が耳から離れない。こちらにそんなつもりは、まるでないのに。子どもながらに「許せない」と——これまで感じたことのない感情がこみ上げてきたという。

なぜ、そこまで腹が立ったのか。理由がわかったのは、ずっとあとのことだ。それは、「自分なら絶対にしないこと」を、されたからだった。

「人と話すなら、相手を楽しい気持ちにしたい、幸せにしたいと思っている。その正反対のことをされたから、あんなに腹が立ったんです」

裏を返せば、石井さんは、幼い頃から「人を楽しませたい、幸せにしたい」という思いを強く持っていた、ということだ。怒りの原体験は、自分の行動哲学を映す鏡でもあった。

その思いは、ふだんの振る舞いにも表れていた。

「小学校に入った頃から、組織の中でのポジショニングについて考えていました。自分はどこにいれば、みんなが一番盛り上がるのか。空気がよくなるのか。そればっかり考えていたんです」

当時は「自分は気が小さいだけ」と思っていた。だが、教育の道に進んだいま振り返れば、それは弱さではなく、人と人との関係を無意識に観察し、整えようとする力だった。周りの状況や空気を察する子は、人間関係をよく見ている子でもある。思いの面でも、振る舞いの面でも、石井さんは幼くして「人を幸せにするコミュニケーション」の芽を持っていたのだ。

あごに手をあてて考え込む男の子

ところが、コミュニケーションでつまずいた

ところが——その石井さんが、大人になってコミュニケーションでつまずく。

「一時期、コミュニケーションイップスになったことがあるんです」

イップスとは、スポーツ選手が、それまで当たり前にできていた動作を、急にできなくなってしまう現象のこと。石井さんの場合、それが人とのかかわり方に起きた。飲み会でお酒をつぐタイミングがわからない。どう場を盛り上げればいいのかもわからない。人とどう接していいのか、何ひとつ手応えがつかめなくなってしまったのだという。

背景には、学生時代に身を置いた、大学体育会の世界がある。場への入り方、先輩への気配り、盛り上げ方——気を回そうとすればするほど、その距離感がかえってわからなくなっていった。

「小さい頃から、自分は周囲と比べるとボーっとして気が利かないというコンプレックスがありました。それも相まって、ですね」

人を幸せにしたいという思いはある。なのに、肝心のやり方がわからない。理想と現実のあいだで、石井さんは立ち往生していた。

「可愛がられる人」を分析し、名前まで変えた

石井さんが立ち往生から抜け出すきっかけは、まわりで「可愛がられている人」をこっそり観察し、何が違うのかを分析することだった。

見えてきた共通点は、ふたつ。ひとつは、みんな下の名前で呼ばれていること。もうひとつは、リアクションのスピードだ。ちょっといじられても、間髪入れずリアクションする。「やめてくださいよ」「〜じゃないですか」と笑って返す。人懐っこくて、ちょっと甘え上手なくらいがちょうどいい——。

分析できれば、あとは実行に移すだけ。ここで石井さんは、なかなか思い切った手を打つ。自分の名前を、変えたのだ。

「本当は『大貴』と書いて『ともたか』と読むんです。でも四音だと、どうも呼ばれにくい。だから三音にして、『ダイキって呼んでください』と、自分から名乗るようにしたんです」

「プリーズコールミー、ダイキです」。そう言って、自分から下の名前で呼んでもらう。あわせて、リアクションスピードを上げ、いじられたら笑って返す“キャラ”を、意識して演じるようにした。我ながら戦略的だった、と石井さんは笑う。

もちろん、最初からうまくいったわけではない。ぎこちなく、空回りもした。それでも続けるうちに、少しずつ、コミュニケーションイップスを克服したという。

この試行錯誤を通して、石井さんはひとつの核心にたどり着く。人を幸せにするコミュニケーション——その入口にあり、これからの時代にこそ必要なのは、「可愛がられる力」だ、と。下の名前で呼ばれ、気持ちの良くスピーディーなリアクションをして、すっと相手の懐に入る。そうやって人に好かれることが、良い関係を結ぶ出発点になる。

信頼関係を結ぶように握手を交わす二人の手元

コミュ力は、「可愛がられる力」になる

石井さんは、この「可愛がられる力」こそ、これからの子育てに意味を持つと考えている。

「利害関係を超えた人間関係というものが、より価値の高いものになっていく気がします。コミュニケーションって、そういうことかなと」

AIが多くの仕事を引き受け、「賢さ」や「正解を出す力」だけなら、機械がいくらでも肩代わりしてくれる時代。そんな時代に最後までその子の財産として残るのは、人と信頼関係を結ぶ力だ——石井さんはそう見ている。

こうした力は、近年「RQ(関係性知能)」と呼ばれることもある。IQ(知能指数)やEQ(心の知能指数)の先にある、人と良質な関係を築く力のことだ。石井さんがいう「可愛がられる力」は、まさにそのRQの土台といえる。つくし会でも、子どもたちに願うことは一貫している。

「『可愛がられる子になってね』と、いつも言っているんです。挨拶ができて、目を見て話を聞けて、ありがとうやごめんなさいが言える。根源的なことだけど、それができる子には可愛がられる力がある。スタート地点を高く設定できるんです」

可愛がられれば、まわりがいろいろなことを教えてくれる。信頼され、もっと深いことも任される。人とのかかわり方は、その子の世界を広げていく「パスポート」になる、というわけだ。

そして何より心強いのは、その力が「生まれつき」で決まるものではない、ということ。石井さん自身が、つまずきながらも、観察し、まねて、自分の手で「可愛がられる力」を育ててきた。わが子が人見知りでも、口下手でも、決めつける必要はない。観察し、まねて、慣れていけば、その力は確かに育っていく。かつてコミュニケーションに立ち往生していた人が、人を育てる人になった——その事実が、何よりの証拠なのだから。

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次回は、石井さんが教室でいちばん大切にしているという、もうひとつの言葉について。「やれば、できる」——ありふれて聞こえるこの言葉を、石井さんは私たちとはまるで違う解像度で捉えていました。泣いて帰ってきた娘に、父がしたこととは。