企業が選考時に重視する要素として、16年連続で1位となっている「コミュニケーション能力」。2018年に行なわれた調査では、82.4%の企業が重視していると回答しており、社会で必要不可欠な能力だということがうかがえます。
しかしながら、世間では「今どきの若者はコミュニケーション能力が低い」という意見が目立ち、自分の子どものコミュニケーション能力に不安を感じている保護者も少なくありません。
では本当に、今の若者や子どもたちのコミュニケーション能力は低下しているのでしょうか? 今回は、若者たちのコミュニケーションの実態と、これからの時代に必要なコミュニケーション能力、その高め方についてご紹介します。
若者たちはコミュニケーションを楽しんでいる
JTBコミュニケーションズが2017年に行なった「コミュニケーション総合調査」によれば、コミュニケーションを得意とする大学生(46.2%)は、苦手とする大学生(53.8%)よりやや少ないことがわかりました。しかし、だからといって「若者のコミュニケーション能力が低下している」とはいえません。なぜなら、60歳を超えた「リタイア層」においても、同様に苦手(55.7%)が得意(44.3%)を上回るからです。
また、同調査では、1年間楽しくコミュニケーションが取れた大学生が66.2%いたこともわかっています。つまり、「コミュニケーションを苦手としながらも楽しんでいる」という大学生が一定数いるということです。なお、「リタイア層」の同項目は51.1%でした。これは、コミュニケーションをより楽しんでいるのは、年長者よりもむしろ若者のほうであるということを示します。
これらの調査結果を見ると、若者たちのコミュニケーション能力が際立って低いとは考えにくいのではないでしょうか。実際、「若者のコミュニケーション能力が低い」と明確に示すデータは確認されていないともいわれています。つまり、「今どきの若者はコミュニケーション能力が低い」は事実ではなく、単なるイメージに過ぎないのです。
世代間のコミュニケーションの違いとは
では、なぜこのようなイメージを抱かれてしまうのでしょうか。その原因のひとつとして、コミュニケーションに対する意識が変わってきていることが挙げられます。年長者と若者では、コミュニケーションの能力の高さではなく、とり方に関する意識が大きく違うのです。同様のことを、複数の著名人や研究者が指摘しています。
そもそも、若者のコミュニケーション能力が低いのではなくて、彼らにはスタンドプレーをしてまで、他人とコミュニケーションをとろうとする強い欲求がない、あるいはあまり必要性を感じていない、というのが実態です。要するに、いまの若い子たちは、人を押しのけてまで何かをするというところがないのです。
(引用元:現代新書|コミュニケーション能力の「ある人」と「ない人」【ビジネス篇】)
劇作家・演出家の平田オリザさんが年長者と若者の違いとして挙げたのは、コミュニケーション欲求の高さです。
これまで、年長者が当たり前のようにとってきたコミュニケーションでも、「必要ない」と避けてしまう若者たちがたくさんいます。たとえば、いわゆる「飲みニケーション」の機会が減っているのも、それが原因ではないでしょうか。若者が先輩の誘いを断るのは、コミュニケーションの能力が低いからではなく、その誘いに乗る必要性を感じていないからだとも考えられるのです。
立教大学経営学部教授の中原淳さんは、以下のように、自分の頭で考えたり行動したりする「主体性」の有無を挙げています。
要するに
「若者が、自分の思い通りに動かない事態=コミュニケーション能力がない」
「若者が、自分と同じように考えない=コミュニケーション能力がない」
「若者が、自分を察して行動しない=コミュニケーション能力がない」
ということが意図されて、先ほどの「コミュニケーション能力がない」が発話されている場合が少なくない、ということです。
(引用元:Yahooニュース|「最近の若者は、コミュニケーション能力がない!」は本当か!?:嘆く前に少しだけ考えてみたいこと)
従来の日本には、コミュニケーションをとる際、相手や周りの空気を読んで、それに合わせて行動することが良いとされる雰囲気がありました。
しかしながら、近年は「主体性」を重視した教育が強化されています。周囲に合わせて「イエス」というのではなく、自分の頭で考えて「ノー」と主張することが大切だと教えられているのです。そんな若者たちの行動が、「空気が読めない=コミュニケーション能力が低い」と年長者たちの目に映ってしまうのかもしれませんね。
家庭でできるコミュニケーション能力アップ法
このように、コミュニケーションに対する意識が変わりつつある今、これからの時代を生きる子どもたちに対して、保護者はどうするべきなのでしょうか。どうすれば、時代に合ったコミュニケーション能力を高めていくことができるのでしょう。
ここでは、挨拶や言葉のキャッチボールといった基本的なコミュニケーションに加え、現代だからこそ必要なコミュニケーション能力を高めるために、家庭ですべきことをご紹介します。
親が子に100%寄り添う
教育学博士号を持つアグネス・チャンさんは、コミュニケーション能力の低い子どもには、「自信を持たせる」ことが最も大切だと述べています。自信のない子どもは、相手に拒否されて傷つくことを恐れ、人付き合いを避けようとしてしまうからです。それでは、不要なコミュニケーションを避ける今どきの傾向に追い打ちをかけてしまいます。
では、どうすれば自信を持たせることができるのでしょうか。アグネスさんによれば、親が子どもを100%信頼し、受け入れることで、自信が育まれるのだそう。
具体的には、子どもが興味を持ったことに対し、一緒になって興味を持ったり、時間をかけて遊んだりすること。逆に、物事に対してあまり興味を持たない子であれば、一緒になって何もせず寄り添うことが大切なのだそう。
好きなことを思う存分やらせる
本当のコミュニケーションスキルとは、自分から話しかけられるようにしゃべりがうまくなるのではなく、人が話しかけたくなるようなスキルのことだ。手品が上手だったら話しかけられることもあるだろう。そして、その人しか持っていない知識やスキルがあれば、誰かに必要とされるはずだ。(中略)面白いと感じること、好きなことを追いかけて得た、多少の努力では真似できないようなスキルこそが人を惹きつけるのだ。
(引用元:BEST TIMES|ホリエモンは「コミュニケーションスキル」をこう考えた)
※太字は筆者が施した。
上記は、実業家の堀江貴文さんが語ったコミュニケーション能力の本質です。これからの時代に必要なコミュニケーション能力を「人が話しかけたくなるようなスキル」と定義し、それを身につけるためには、「面白いと感じること、好きなことを追いかけて」得ることができる「その人しか持っていない知識やスキル」が必要だと言います。
つまり、子どもが何か面白がったり、好きになったりするものがあれば、それを深く追究していくことがコミュニケーション能力を高める大切な一歩となるのです。大切なのは、子どもに思う存分やらせてあげること。子どもの「面白い」や「好き」を、どうすれば「その人しか持っていない知識やスキル」にまで持っていけるか考え、協力してみてはいかがでしょうか。
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「100%寄り添って、自信を高めること」「好きなだけやらせて、唯一無二の知識やスキルを身につけさせること」——一見、コミュニケーションとは関係のないことのように感じられるかもしれません。しかしこれは、これからの時代に必要な、新しいコミュニケーション能力の高め方なのです。
とはいえ、まずは親子間できちんと挨拶や会話、スキンシップなどの基本的なコミュニケーションを取ることも忘れてはなりません。それだけは、これからもずっと変わらない、コミュニケーションの土台を築く、一番大切なものといえるのではないでしょうか。
(参考)
Jtb Communication Design|コミュニケーション総合調査<第3報>発表
ReseMom|経団連が新卒採用調査、企業が重視する2位「主体性」16年連続1位は?
現代新書|コミュニケーション能力の「ある人」と「ない人」【ビジネス篇】
Yahoo!ニュース|「最近の若者は、コミュニケーション能力がない!」は本当か!?:嘆く前に少しだけ考えてみたいこと
学びの場.com|アグネスの教育アドバイス「コミュニケーション能力は大丈夫?」
BEST TIMES|ホリエモンは「コミュニケーションスキル」をこう考えた