子どものお小遣いには、「毎月決まった額を渡す定額制」と、「何かの報酬としてお小遣いを与える報酬制」がありますよね。皆さんのご家庭はどちらの方法をとっているでしょうか。
じつは、お小遣いの与え方によっては、子どもの金銭感覚に悪影響を与える可能性があるのです。今回は、子どものお小遣いについての考え方や、マネー教育についてご紹介しましょう。
日本のマネー教育は遅れている!?
従来の日本では「お金の話は大っぴらにすることではない」「子どもは家計のことなんて知らなくてもいい」という考えがあったせいか、マネー教育に消極的な親が少なくありませんでした。
しかし最近は、事情が変わってきています。ここ数十年で、日本でもキャッシュレス化が進み、クレジットカードや電子マネーといった決済ツールが飛躍的に普及しました。また、2022年4月から、成人年齢が18歳に引き下げられるため、18歳以上であれば親の同意なく自分のクレジットカードを持ったり、ローンを組んだりできる時代になっていきます。「子どもにお金の話なんて」「まだ子どもなんだからマネー教育は必要ない」と避けていては、子ども達が将来困ることになるかもしれないのです。
そうした背景もあり、マネー教育の第一人者である横浜国立大学名誉教授の西村隆男先生は、「子どものマネー教育は早ければ早いほど良い」と述べています。具体的には、小学校入学前から、家庭でもマネー教育をするのが良いそう。
定額制のお小遣いに潜むリスク
マネー教育として、「お小遣いを毎月定額で与えている」「学年×100円として、年齢が上がるごとにお小遣いの金額を増やしていく」といったルールを決めているご家庭も多いのではないでしょうか。しかし、このような定額制のお小遣いには、じつはリスクがあるのです。
『お金が貯まるのは、どっち!?』(アスコム)の著者で元メガバンク支店長の菅井敏之氏によると、「毎月定額性でお小遣いを渡し、年齢が上がるごとに金額を増やす」という方法は、「年次が上がれば、自動的に給料も上がるという典型的な年功序列型の考え」と同じだそう。これは、30年前の日本の考え方であり、仕事のパフォーマンスに応じた対価が給料としてもらえる現代では通用しないと言います。
菅井氏いわく、学年が上がるたびに自動的に金額が上がるお小遣いシステムに慣れた子どもは、「とりあえず従順に働いていれば、給料はもらえる。年齢を重ねれば、なんとなく給料は上がる。だから、命令されれば残業もする」といった社畜的な社員になってしまう恐れがあるのだとか。これでは、子どもの「稼ぐ力」は育ちませんよね。
また、『全米No.1バンカーが教える 世界最新メソッドでお金に強い子どもに育てる方法』(アスコム)の著者である酒井レオ氏も、定額制のお小遣いについて、「もらう前から『次のお小遣いが入ったらアレを買おう』と、頭の中が物欲に支配されてしまう」と警鐘を鳴らします。定額制のお小遣いは、子どもにとって、定期的にもらえるのが当たり前のもの。自分で働いて得たお金だという重みがないために、好き放題に使えてしまうのだそう。そのため、ただお小遣いをもらうだけでは、マネー教育にはならず、物欲が刺激されるだけになってしまうのだとか。
家庭でできるマネー教育
子どもの金銭感覚を養うために、以下のようなマネー教育を取り入れてみましょう。
お小遣いは定額制ではなく、報酬制にするのがおすすめです。前出の菅井氏は、「お金」を「困りごとを自分の経営資源で解決したときにもらえる対価」と称しています。
そのため、お小遣いが欲しいときは、庭の草むしりをする、汚れた網戸を掃除する。祖父母の手伝いをするなど、誰かが困っていることを自ら発見・解決して “お駄賃” という形で、お金を稼ぐのが良いとのこと。こうすることで、これからの社会で必要とされる「稼ぐ力」を養うことにつながります。ただし、普段の家庭でのお手伝いは家族の一員として当然のことであるために報酬対象外としましょう。家庭でのお手伝いには、「普段のお手伝いよりも時間のかかる作業をしたら○円」「言われる前にできたら○円」などのルールを作ると良いそうです。
前出の酒井氏いわく、子どもがおもちゃなどをねだったときは、「1カ月経っても欲しい気持ちが変わらなければ、そのときに考えよう」と答えるのが良いそう。そうすることで、子どもが「本当に必要なのかな?」と冷静に考えられるといいます。
大人でも、一時期「どうしても欲しい!」と思っていたものを、後になって「どうしてこんなものが欲しかったのだろう」と疑問に思った経験はあるのではないでしょうか。欲しいものがあったときに、本当に必要かどうかを考え続けていると、自分が何に価値を感じ、どんなものを手に入れたいと思うかが明確になっていきます。やがて、物欲に振り回されることがなく、物事の本質をシンプルに見極められる人生が手に入る可能性が高まるそう。
ファイナンシャル・プランナーの中上直子氏によると、旅行やお祭り、ホームパーティーといったイベントの買い物を子どもに任せることも、マネー教育として効果的だそう。予算やルールを決めて、ホームパーティー用の飾り付けの買い物を頼んだり、旅行用のおやつの買い物を頼んだりしてみましょう。
金融庁らで組織される金融経済教育推進会議は、「小学生で最低限身につけるべき金融リテラシー」として、「必要なものと欲しいものを区別し、計画を立てて買い物ができる」「お金の役割、勤労、生活への備えを理解し、貯蓄する態度を身に付ける」「お金の貸し借りをはじめとする金融トラブルを知り、調べて商品を選択する。困った時は相談する」を挙げています。予算内で満足できるようによく考えて、時には親に相談しながら買い物をする「イベントの買い物」は、これらの金融リテラシーを身につけるのにぴったりなのです。
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子どものうちに正しい金銭感覚を身につけることは、将来の「稼ぐ力」や自立にもつながります。子どもの将来のためにも、マネー教育について今一度考えてみてはいかがでしょうか。
文/田口るい
(参考)
StudyHackerこどもまなび☆ラボ|「子どもにお金はまだ早い」ではなぜダメなのか。マネー教育不足はこんなにも危険だ
酒井レオ(2019), 『全米No.1バンカーが教える 世界最新メソッドでお金に強い子どもに育てる方法』, アスコム.
プレジデントオンライン|毎月小遣いをもらう子供はいずれ”社畜”になる
マネー現代|わが子が将来お金に困らなくなる「おこづかいのあげ方」とは?
ベネッセ教育情報サイト|小学生のお金教育は「定額のおこづかい」「イベント」「お手伝い」で磨こう