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認知度が高まっている「モンテッソーリ教育」では、「子どもがやりたいことをやりたいときにやらせることでさまざまな能力を伸ばせる」といわれています。その「やりたいこと」を、紙あそびという視点で本にまとめたのが、モンテッソーリ教育を掲げる幼稚園「吉祥寺こどもの家」の園長である百枝義雄先生と奥さまの百枝知亜紀先生です。共著書『「集中できる子」が育つモンテッソーリの紙あそび』『「自分でできる子」が育つモンテッソーリの紙あそび』(ともにPHP研究所)に込めたふたりの思いを聞きました。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)
紙あそびは自己肯定感や挑戦意欲を育てるひとつの手段
義雄先生:わたしたちの共著である『「集中できる子」が育つモンテッソーリの紙あそび』『「自分でできる子」が育つモンテッソーリの紙あそび』(ともにPHP研究所)には、まずは子どもたちに自由に手を使えるようになってほしいという気持ちを込めています(第3回インタビュー参照)。
そして、もうひとつの重要な願いは、子どもたちに「学ぶよろこびを知ってほしい」ということ。知らなかったことを知る、できなかったことができるようになるという学びのよろこびによって子どもは自己肯定感を得て、たとえ失敗したとしても「またやろう!」という意欲を持って成長していくからです。
ただ、これは紙あそびに限ったことではありません。わたしたちの本では、見本の型紙をつけられる書籍という媒体の特性上、紙あそびをテーマにしただけのことです。たとえば、紙あそびではなくても木登りだってなんだっていい。子どもは夢中になって木に登るうちに、同じように「できた!」という達成感、「もっと頑張ろう!」という意欲を手に入れます。
ところが残念ながら、親というのは本当に視野が狭いものです。水泳をやれば○○力が育つ、音楽教室に通えば△△力が育つ、紙あそびをすれば……というふうに考えがちです。でも、入り口はちがっても、結局のところ、それらで育つ力は同じなのです。
前提として、子どもが相手だとしても、その相手はひとりの人間だということをあらためて認識してほしいですね。大人が相手であれば、自分がこういえば相手は必ずこう思う、自分がこう振る舞えば相手は必ずこうするなんて決めつけられるわけがないですよね? それなのに、なぜか自分の子どもに対してはそのように考えがちです。子どもは工業製品でも親の作品でもありません。ひとりの人間として向き合い、尊重して、子どもの「やりたい」を大事にしてほしいのです。
心と行動で子どもに共感を示し、最強の応援団になる
知亜紀先生:その「やりたい」を大事にするという意味では、親としては「待つ」ことがなにより重要になります。悩んだり、迷ったり、考えたりすることも子どもの「やりたい」なのですから、親が「早くしなさい」なんていわずに待てるといいですね。親が待つことができれば、はさみを使って「どこから切りはじめたらいいか」と子どもが悩み、試行錯誤するうちに「考える力」が育つということにもなるはずです。
義雄先生:親がやるべきこととしては「待つ」こと、そして「共感」が挙げられます。楽しんでなにかを成し遂げた子どもの「できた!」「やった!」という気持ちに寄り添って「できたね!」「やったね!」といってあげるだけで、子どもには大きな力を与えることができます。
また、そういうふうに心に寄り添うことではなく、共感には「行動で示す共感」もあります。子どもが紙あそびに夢中になって、次々に仕上げていくとします。子どもは「もっともっとやりたい!」という気持ちになっているわけです。だとしたら、親はどんどん見本をコピーして渡してあげるべきです。親は子どもにとっての最強の応援団です。応援はなにも声をかけることだけではありません。子どもがやりたいことをサポートする、行動で応援してあげることも大切なのです。
そういう点でいえば、紙あそびをしたいという子どもには、「子ども用のはさみ」を用意してあげることも立派なサポートといえます。安全面が考慮されていて、指を挟んでも切れないようになっているはさみが販売されていますから、子どもにケガをさせないためにも購入してほしいですね。
知亜紀先生:それから、短冊状の細い紙も用意してあげてほしい。というのも、幼い子どもははさみを閉じることはできても、開くための筋肉がまだまだ発達していませんから、「ジョキジョキ」と長い距離をはさみで切ることができないからです。親がはさみを開いてあげて、子どもには「パチン」と1回だけ切らせてあげる。そういう練習からはじめましょう。
理想の子育てなんてものは存在しない
義雄先生:最後にみなさんにお伝えしたいのは、「理想の子育てなんてあるわけがない」ということ。大人になって成功した人間の親の子育てが理想の子育てのように取り上げられることもよくありますよね? それは単に、その親子にとってはベストだったのでしょう。ですが、どんな子どもにも必ず効果を発揮するような子育てはあり得ません。
真面目な親ほど、「いい親にならなければ」「いい子育てをしなければ」と理想の子育てを追い求める傾向にあります。ただ、そんなことより親がすべきことは、とにかく「笑顔」でいることです。一度、自分の顔を鏡で見てみてください。理想の子育てを追い求めるあまり、険しい顔になっていませんか? 親がそんな顔をしていたら、子どもが安心できるわけもありません。親がニコニコして温かい穏やかな雰囲気が家庭に満ちていることのほうが、理想の子育てを追い求めることなんかよりよっぽど大事
なことです。
知亜紀先生:子どもはまわりの大人を模範として育つしかありません。つまり、お父さんはひとりの男性として、お母さんはひとりの女性として幸せに生きている姿を見せてあげることが、なによりの家庭教育なのではないでしょうか。
『「集中できる子」が育つモンテッソーリの紙あそび』
百枝義雄・百枝知亜紀 著/PHP研究所(2019)
■ 吉祥寺こどもの家園長・百枝義雄先生 インタビュー一覧
第1回:子どもは「自分の伸ばすべきところ」を知っている――タイミングはその子次第
第2回:「おしごと」と「集中現象」とは? “親にしかできない”もっとも重要なこと
第3回:はさみを上手に使うには、背中と腰の運動が重要? 器用な子どもにするために親ができること
第4回:親が待つことができれば、子どもの「考える力」は育つ。理想の家庭教育は追い求めない!
【プロフィール】
百枝義雄(ももえだ・よしお)
1963年10月23日生まれ、長崎県出身。吉祥寺こどもの家園長。東京大学教養学部教養学科第一表象文化論分科卒業。日本モンテッソーリ教育綜合研究所教師養成センター卒業、モンテッソーリ教師(3歳?6歳)資格取得。横浜国際モンテッソーリ乳児アシスタントコース卒業、AMI乳児アシスタント資格取得。2002年度より2006年度まで日本モンテッソーリ教育綜合研究所教師養成センターの実践講師として3歳?6歳のモンテッソーリ教師養成に携わる。2007年、同センターで0歳~3歳のモンテッソーリ教師養成コースを立ち上げ、2011年3月まで4期にわたり実践講師を担当。現在は、モンテッソーリ・ラ・パーチェ トレーニングコース代表、モンテッソーリ家庭教育研究所研究員、日本赤ちゃん学会会員も務める。著書に『「自分でできる子」が育つモンテッソーリの紙あそび』(PHP研究所)、『「1人でできた!」を助けるおうちでモンテッソーリ子育て お母さんはラクになり、子どもの未来が輝く』(PHP研究所)、『父親が子どもの未来を輝かせる』(SBクリエイティブ)などがある。
百枝知亜紀(ももえだ・ちあき)
1969年12月22日生まれ、東京都出身。吉祥寺こどもの家主任。モンテッソーリ・ラ・パーチェ トレーニングコース講師。目白学園女子短期大学国語国文科卒業。玉川大学文学部教育学科幼児教育課程修了。日本モンテッソーリ教育綜合研究所教師養成センター卒業、モンテッソーリ教師(0歳?3歳、3歳?6歳)資格取得。2007年、同センターで0歳?3歳のモンテッソーリ教師養成コースの立ち上げに参加すると、2009年まで3期にわたりアシスタントを務め、2010年度には実践講師として指導にあたる。大手メーカー在職中に幼稚園教諭免許を取得し、小さき花の幼稚園、麻布子どもの家勤務を経て現職。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。