教育を考える 2019.10.23

子どもは「自分の伸ばすべきところ」を知っている――タイミングはその子次第

子どもは「自分の伸ばすべきところ」を知っている――タイミングはその子次第

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子ども教育に関心が強い人なら、「モンテッソーリ教育」という言葉を聞いたことがあると思います。数年前に、イギリスのウィリアム王子とキャサリン妃がモンテッソーリ教育を行う幼稚園に子どもを通わせはじめたことでも話題になりました。そんなモンテッソーリ教育とは、どういうものなのでしょうか。モンテッソーリ教育を掲げる、「吉祥寺こどもの家」の園長である、百枝義雄先生にお話を聞きました。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)

すべての子どもは自分を伸ばす力をあらかじめ持っている

近年、モンテッソーリ教育の注目度が高まっていることは間違いありません。その大きな要因は、旬な有名人がかつてモンテッソーリ教育を受けていたことが多く報じられていることです。日本なら将棋棋士の藤井聡太君。アメリカではGoogle、Amazon、Facebook、Wikipediaなどのとんがったファウンダーがこぞってモンテッソーリ教育を受けていたということで、モンテッソーリ教育が再評価されています。

ただ、その風潮に対してわたし自身は疑問も持っています。というのも、藤井聡太君が受けていたからモンテッソーリ教育がすごいというのなら、ほかの優秀な人間が受けていた別の教育手法も同じように評価されてしかるべきだからです。そう考えれば、その本質を理解しないまま、「モンテッソーリ教育を受けさせておけばすごい人間に育つ」と盲信することは危険ともいえます。

では、その本質とはどういうものでしょうか。モンテッソーリ教育とは、イタリアの医学博士であるマリア・モンテッソーリによって20世紀初頭に考案された教育手法です。ただ、日本の他、世界中に広まるうちに、根っこは同じであっても教育機関によって考え方はまったくことなるものとなりました。つまり、これからお伝えすることはあくまでもわたしの考え方だということを先にお断りしておきます。

さて、わたしが考えるモンテッソーリ教育の根幹にあるのは、「すべての子どもは自分を伸ばす力を持っており、かつ、いま自分の伸ばすべきところを知っている」ということになります。つまり、基本的には大人は子どもになにかを教える必要などありません。大人の役割は、子どもが持っている自分を伸ばす力を十分に発揮できるように環境を整えることなのです。

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子どもの知的好奇心を育てる3つのポイント
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子どもがなにをするかは子ども自身の欲求に任せる

「子どもが自分の伸ばすべきところを知っている」という点について、興味深い話をお伝えしましょう。子どもは生まれた瞬間に「オギャー」と泣きますよね。それから、すぐにおっぱいを飲むようになります。なぜこんなことができるかというと、胎児のときにお母さんのお腹のなかで練習をしているからです。胎児は羊水を肺に入れて吐くことで呼吸、つまり泣く練習をし、指しゃぶりをしておっぱいを飲む練習をしているのです。この事実は、まさに「子どもが自分の伸ばすべきところを知っている」ことの証といえるでしょう。

でも、生まれたあとはどうかというと、子どもに対して親が「こういうふうに育ってほしい」「こういうこともできるようになってほしい」と、さまざまなことを求めて教育をしようとします。親は「いい子育てをしたい」と思うものですし、それも一概に悪いこととはいえません。でも、残念なことに、「タイミングがおかしい」ということが多すぎるのです。

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何歳くらいでつかまり立ちをするとか、しゃべりはじめるといった子どもの発達についての一覧表のようなものがありますよね? だけど、それはあくまで一般論であって、すべての子どもに合致するわけもありません。むしろ、その表に完全に合っている子などほとんどいないでしょう。そんなものと自分の子どもを比較する、まして一喜一憂する必要などありません。そもそも、子どもは自分の伸ばすべきところを知っているわけですから、なにをするかという判断を子どもに任せるべきだというのが、わたしが考えるモンテッソーリ教育の基本となります。

では、大人がやるべき「環境を整える」とはどういうことかというと、子どもを観察して、「あ、いまはこういうことをやりたいのだな」「そこを伸ばしたいのかな」と思ったら、その力を伸ばす手助けになる「もの」を周囲に置いてあげるということです。間違っても「与える」のではありません。与えてしまうと、「やりなさい」ということになりますからね。

わたしの園では、本当にさまざまな教具やおもちゃを用意しています。わたしは「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる戦法」と呼んでいますが……(笑)。子どもたちは自分が興味を持ったものを自由に使ってもいい。もちろん、つまらない、難しいと感じたらすぐにやめてもいい。「集中して!」なんて声をかける必要なんてありません。そのうち、子ども自身が「これだ!」と感じるものを見つけたら、勝手に夢中になって遊びはじめます。それが、子どもがいま伸ばしたい力を伸ばしている瞬間なのです。

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子どもだけの小さな縦割り社会で育つことの意義

そういう点で、モンテッソーリ教育の園は、基本的には一斉保育ではなく自由保育ということになります。また、わたしの園でもそうですが、子どもたちを年齢による横割りではなく、縦割りにしているところが多いのもモンテッソーリ教育の特徴です。もちろん、これにははっきりした狙いがあります。横割りの場合だと、どうしても競争意識が生まれて「できる子はえらい」というふうに互いを評価し合い、「同じ年なのにできない自分は駄目だ」なんて子どもに思わせるようなことになってしまいます。

でも、縦割りの場合は、上の子どもたちと比べれば下の子どもはできないことがあってあたりまえです。すると、誰にでも得意なことや不得意なこと、できることとできないことがあるとおおらかにとらえることができる。また、下の子どもたちは上の子どもに憧れて、「僕もできるようになりたい」とさまざまなことに対して高いモチベーションを保つことができます。一方、上の子どもからすれば、下の子どもに憧れられることで背筋が伸びる。しかも、かつての自分の姿を振り返りながら下の子どもたちに接しますから、優しくなれますし、自分の育ちも実感できるわけです。

この縦割りの効果を家庭に持ち込むことは実際には難しいと思いますが、いずれにせよ、「○○ちゃんはもうひらがなの練習をしているのに……」なんていうふうに自分の子どもを別の子どもと比べて、子どもが求めてもいないようなことを無理強いするようなことだけはやめましょうあなたの子どもは、自分の伸ばすべきところを知っていますし、そうする力も持っているのですから

※本記事は2019年10月23日に公開しました。肩書などは当時のものです。

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「集中できる子」が育つモンテッソーリの紙あそび
百枝義雄・百枝知亜紀 著/PHP研究所(2019)
「集中できる子」が育つモンテッソーリの紙あそび

■ 吉祥寺こどもの家園長・百枝義雄先生 インタビュー一覧
第1回:子どもは「自分の伸ばすべきところ」を知っている――タイミングはその子次第
第2回:「おしごと」と「集中現象」とは? “親にしかできない”もっとも重要なこと
第3回:はさみを上手に使うには、背中と腰の運動が重要? 器用な子どもにするために親ができること
第4回:親が待つことができれば、子どもの「考える力」は育つ。理想の家庭教育は追い求めない!

【プロフィール】
百枝義雄(ももえだ・よしお)
1963年10月23日生まれ、長崎県県出身。吉祥寺こどもの家園長。東京大学教養学部教養学科第一表象文化論分科卒業。日本モンテッソーリ教育綜合研究所教師養成センター卒業、モンテッソーリ教師(3歳〜6歳)資格取得。横浜国際モンテッソーリ乳児アシスタントコース卒業、AMI乳児アシスタント資格取得。2002年度より2006年度まで日本モンテッソーリ教育綜合研究所教師養成センターの実践講師として3歳〜6歳のモンテッソーリ教師養成に携わる。2007年、同センターで0歳〜3歳のモンテッソーリ教師養成コースを立ち上げ、2011年3月まで4期にわたり実践講師を担当。現在は、モンテッソーリ・ラ・パーチェ トレーニングコース代表、モンテッソーリ家庭教育研究所研究員、日本赤ちゃん学会会員も務める。著書に『「自分でできる子」が育つモンテッソーリの紙あそび』(PHP研究所)、『「1人でできた!」を助けるおうちでモンテッソーリ子育て お母さんはラクになり、子どもの未来が輝く』(PHP研究所)、『父親が子どもの未来を輝かせる』(SBクリエイティブ)などがある。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。