今、幼児教育の分野で注目されている『パネルシアター』。パネルボード上に登場する絵人形を動かしながら物語を展開する児童文化財で、歌遊び、ゲーム、お話など、表現の幅が広いところが特徴です。
「パネルシアター!?」そう思った方は、まずこちらの動画を見てみてくださいね。
機材提供◎アイ企画
子どもたちは、動いて語りかけてくれる絵人形に夢中になり、今度はどんなことが起こるのか、目をキラキラさせながら次の展開を待ちます。そんな子どもたちを引き込む魅力がたくさん詰まったパネルシアターは、子どもの心の発達においてもいいことがいっぱいだそうです。
今回は、大人気パネルシアター作家でもあり、淑徳大学で保育に関わる研究を進めながら、保育者育成にも力を入れている松家まきこ先生に、パネルシアターの魅力を聞いてみました。
コミュニケーションツールとしてのパネルシアター
大学3年生のとき、はじめて見たパネルシアターに衝撃を受け、その日のうちにオリジナル作品を作成したという松家先生。その後もこつこつと作品を作っていたところ、パネルシアター創案者の古宇田亮順(こうだりょうじゅん)氏に見いだされ、学生のうちにパネル作家デビューを飾りました。
今でこそ、全国各地を飛び回り、保育者育成や表現活動に関するセミナーに大忙しの松家先生ですが、「人前で発表なんて大嫌いでしたし、表現することがとても苦手だったんです」と自身の学生時代をふり返ります。しかしそんな性格が、卒業後に就職した幼稚園で役に立ったそう。
「器用な先生はなにもなくても自然に子どもたちとコミュニケーションが取れますが、私にとっては、パネルシアターが子どもたちとのコミュニケーションツールになりました」
「ぼくのことをちゃんと見てくれている」という満足感
「私自身もそうだったのですが……お友だちの輪の中に入ろうととせず、一人で過ごしている子どもって、どのクラスにもいますよね。たとえば毎日恐竜図鑑ばかり見ているような。でも、その子にはその子の自己充実があるんですよね。
とはいえ、幼稚園という場所で、人との楽しい関わりを伝えてあげられたらもっと素敵。そんなときは、その子の好きなものの作品を作って、お帰りの会など、みんなで集まる時間に見せてあげるんです。そうすると『うわ~!』って目が輝いて表情が変わる。スーッと私にくっついて、『ねぇ、また見たい』って言ってくれたり、“先生、ぼくのこと、わかってくれてたんだね”という反応をしてくれます。この『先生が自分のことをちゃんと見てくれている』という満足感が子どもたちにとって重要なのです。
パネルシアターの魅力の一つは、この応答性といえます。見て見て! 聞いて聞いて! という時期の子どもたちにとって、先生に(自分の存在を)受け止めてもらえる体験はとても大切なことですが、一日の限られた時間の中で、ひとりひとりとじっくりと向き合うことは、保育者にとってはなかなか難しい。だけど、パネルシアターなら、全員とのコミュニケーションが一度でできるのです。パネルシアターは子どもと応答しながら進めていくものなので、子どもたちは、保育者に1対1で受け止めてもらえたような満足感を得られるのです。
それに、子どもの年齢や特性、興味関心に合わせて、言葉を変えたり添えたりしていくことができるので、目の前にいる子どもにぴったりな応答が可能なのです」
中央の『そっくりさん(大東出版社)』は子どもたちに大人気の作品。しっぽの形や手の形が違う動物たちが登場しますよ。
こちらの絵人形は手が動くしかけになっています。ほかにも、足が動いたり、食べ物の大きさが瞬時に変わったりと、子どもが喜ぶしかけがいっぱいです。
表現力が豊かになり、観察力や集中力がアップする
実際に、セミナーで松家先生の作品『バーベキュー』を拝見しましたが、歌に合わせた手遊びはなかなか難しいものでした。また、丸、三角、四角などの形や、いろいろな色、動物や野菜の名前などがたくさん使われていて、知的要素がつまっているという印象を受けました。そのことについて松家先生は次のように話しています。
「子どもたちって、ちょっと難しいのが好きなんですよ! 簡単すぎたらつまらないの。でも、難しすぎてもつまらない(笑)。だから、遊んでいるうちに自然に乗り越えられて、楽しくなるくらいの感じがちょうどいいんです。
今まで使ったことのない言葉が出てきたら、まねして使ってみる。そのうちに『言葉のリズムが楽しいな』と感じたり、『今度使ってみよう』と考えたりしますよ。
そしてなんといってもパネルシアターには、視覚的な魅力があります。絵人形が動く、隠れていたものが現れる。子どもたちは究極の期待感を得られると思いませんか? そうやってわくわくどきどきすることで観察力や集中力がアップしたり、知的好奇心が刺激されたりするのです。
また、表現力も豊かになります。子どもたちにとって、“表現を意図的に伝える”というのはずっとあとの段階です。まずは、“思わず心が動く”というのが表現のはじまり。『あ! しっぽが出た!』と、気づきを思わず伝えてしまうような表現があって、それを受けとめてもらえると嬉しくて、『表現してもいいんだ』と感じるんです。
隣の人がエヘヘって笑って……一緒に笑い合えるその存在が嬉しいと思う。そこで人と関わる楽しさや、喜びを分かち合える喜びを味わえるんです。パネルシアターは、そういう非認知能力を育むことができる児童文化財だと私は考えています」
パネルシアターへの愛、未来の保育者である教え子たちへの愛、幼児教育への愛、そして子どもたちへの愛に溢れる松家先生。
子どもの想像力を伸ばす「自宅でパネルシアター」
楽しく遊んでいるうちに、たくさんのことを学ぶことができるパネルシアターですが、実際に体験できるところはあるのでしょうか?
「幼稚園や保育園でも取り入れられていますし、子育て支援センターなどの施設でも機会があれば参加することができますが、自宅でのパネルシアターもおすすめです。壁に画びょうでパネル布を留めればパネルボードの完成! もうそこがパネルシアターです(笑)。
我が家の子ども部屋も壁がパネル布なんです。私の娘は、幼い頃よくパネルでお人形遊びをしていました。子どもって、絵人形をいくつか置いておくだけでお話が作れるんですね。パネルが全部自分のキャンバスになって、好きなストーリーを作っちゃう。絵人形を動かしながら、『けんかをしました、え~んえん』『仲直りをしましょう、はい、握手』なんてね。子どもの想像力って素晴らしいですよ!」
アイ企画さんからは『おあそびパネルシアター』が発売されています。お母さんやお父さん、お友だちと一緒に、ひとりでも遊べるB5サイズのパネルシアターです。パネルシアターデビューにいかがですか?
また最近は、小学校の道徳教育でもパネルシアターが取り入れられているそうです。集団の中での自分の位置や、配置を変えるだけで状況が変わってしまうということなど、絵人形を使って可視化することで、客観的な視点に立ってたくさんの気づきを得られるとのこと。
可能性が無限に広がるパネルシアターは、これから教育の場でどんどん活用されることでしょう。
【プロフィール】
松家まきこ(まつか・まきこ)
パネルシアター作家。淑徳大学専任講師。
学生時代よりパネルシアターのオリジナル作品制作及び公演活動を開始。大学4年生の時に新人作家集『うたってパネルシアター』(大東出版社)でデビュー。東京都公立幼稚園教諭を経て家庭教育相談員の資格を取得。現在、大学で講師を勤めながら、ふれあいタオル遊びとパネルシアター講師として、全国各地での保育者研修会、保育者養成校での講義、公演を行う。新沢としひこをはじめ、著名な作曲家や遊び歌作家とのコラボ作品も多数ある。親子教室「ぴょんぴょんくらぶ」代表。日本幼児教育研究会講師。
〈著書〉『保育いきいきパネルシアター』『保育いきいき!季節の歌のパネルシアター』『パネルシアターで遊ぶコブタヌキツネコ』『ワンツースツテップパネルシアター』『パネルシアター保育実践講座』(大東出版社)、『実習に役立つパネルシアターハンドブック』(萌文書林) 、『子どもと言葉』(大学図書出版)他多数。
〈カラー印刷商品〉『そっくりさん』『バーベキュー』『びよ~ん』『く~るくる』『もしもどんぐりのぼうしがね』『アイスクリームの歌』『変身マントマン』(大東出版社)『ぐんぐん大きくなった!』『誰のあしあと?』『せんたく変身しゃわらららん』『だるまさん』(アイ企画)、食育パネルシアター『ワンタくんのお弁当づくり』(メイト)『ブラックパネルシアターおばけセット』『いたいのいたいのとんでいけ』アスクミュージック)「012歳のかんたんパネルシアターキット」(ひかりのくに)『どろろん!忍者学校』『変身おばけちゃんのはらぺこ大冒険!』『モクモクくものレストラン』(成美堂出版)他多数。
〈CD教材〉「みんなでいっしょにふれあいタオル遊び」「親子からだ遊びCD大好きっちゅ」(メイト)
〈CDブック〉『あそびうた ぴよぴよ』『あそびうたジャジャーン』ん新沢としひこ監修、 山野さと子、山田リイコ、川崎やすひこ、松家まきこ共著(アスクミュージック)他多数。
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実際に体験してみて感じたこと――、パネルシアターの魅力はやはり応答性なのではないでしょうか。「とうもろこしの次はなに食べる~?」「お肉~!」「よ~し、じゃあ次はお肉を焼いちゃいましょう~♪」と、演じ手とたくさん応答しながら、自分の表現を受け入れてもらうことは大人でも嬉しいものです。声を出したり、体を動かしたり、たくさん笑ったり、子どもたちがとにかく楽しめるパネルシアターをぜひ一度体験してみてくださいね。