春4月、時には肌寒いときもありますが、初夏の匂いもかすかにするようになってきました。こんにちは、難波です。国語教室の連載3回目となりました。
記述問題の正解を導き出す複数の条件
前回は大学入試が大きく変わることをお話しました。大学入試センター試験に代わって大学入学共通テストが導入され、今までマークシート式の設問だけだったところに、記述式の設問が加わることになるのでした。
さてこのことについて、誰が採点するのか、採点基準はどうするのか、と疑問や不安を持たれる方も多いと思います。ただ採点については、すでに文部科学省が積み重ねてきた実績があります。それは、全国学力・学習状況調査の11年(10回分)の蓄積です。
先日(4月17日)、全国学力・学習状況調査、いわゆる全国学力テストが行われました。この調査は、日本中の小学校6年生と中学3年生は必ず受けるものです。これは子どもたちの成績や進路とは直接関係しませんが、その学校の学習達成状況や市町村/都道府県の学習達成状況がわかるものであり、国の教育行政に大きな影響を与えてきました。
ついこのあいだ行われた全国学力・学習状況調査の国語Bの問題の一部をみてみましょう。国語Aは基礎的な問題、国語Bは応用(今風の言葉で言えば活用)の問題とお考え下さい。
今年(2018年)の国語Bには、記述式の問題が多く出されています。その中の問題2の二を見てみましょう。その問題文の最後はこのように終わっています。
<条件>
- 【紹介する文章】と【保健室の先生の話から分かったこと】から言葉や文を取り上げて書くこと。
- 【おすすめする文章】 にふさわしい言葉を用いて書くこと。
- 書き出しの言葉に続けて、五十字以上、八十字以内にまとめて書くこと。なお、書き出しの言葉は字数にふくむ。
問題文を全部載せていないのでわかりにくくて申し訳ありません。ここでみなさまに見ていただきたいのは、「あとの条件に合わせて」ということばと、そのあとの条件のところです。
この問題の答えを書くためには、ここに示された条件をすべて満たさなければなりません。全ての条件を満たしたものだけが正解で、条件を一つだけ落としたものも含めて、それ以外はすべて不正解なのです。
このパターンは、実は大学入学共通テストのプレテストの記述問題とそっくりです。前回示した記述問題をもう一度見てみましょう。今回は前回省いた条件も載せています。
(1) 二文構成で、八十字以上、百二十字以内で書くこと(句読点を含む)。なお、会話体にしなくてよい。
(2) 一文目は「確かに」という書き出しで、具体的な根拠を二点挙げて、部活動の終了時間の延長を提案することに対する基本的な立場を示すこと。
(3) 二文目は「しかし」という書き出しで、部活動の終了時間を延長するという提案がどのように判断される可能性があるか、具体的な根拠と併せて示すこと。
(4) (2)・(3)について、それぞれの根拠はすべて【資料1】〜【資料3】によること
この問題も、全ての条件((1)〜(4))を満たさないと正解になりません。その正解率は、0.7%だったことは前回お話しました。
おわかりでしょうか。大学入学共通テストの記述問題は、全国学力テストの11年間の成果に立って作られようとしているのです。
そしてその成果とは、記述問題では複数の条件を明確に出し、その条件すべてを満たしたものを正解とする、というものなのです。
記述問題をこのようにしておけば、記述問題を採点するときも困りません。条件を満たしているかどうかをみればいいだけだからです。
ところが、このような記述問題に、日本の子どもたちはまだ慣れていません。そのことは、正解率にはっきりと表れていました。
なによりも求められるもの。それは「素直に聞く力」
では、このような記述問題をしっかり解くためには、どのような国語力を身につければいいでしょうか。
それは「聞く力」です。「素直に聞く力」です。
意外と思われたでしょう。相手が求めている条件をすべて踏まえて書くために、どうして聞く力、素直に聞く力が必要なのでしょうか。
先程の大学入学共通テストのプレテストの記述式問題の正解率は0.7%でした。それに対して無回答は6%程度であり、あとの90%以上は、どれかの条件が欠けている解答でした。つまり、条件がはっきりと明示されているのに、落としてしまっているのです。
このことは、相手が出した条件を一つ一つ踏まえながら考えていない、ということを表しています。言い換えれば、どこか「一人よがり」で考えているということでもあります。
これは、相手の話をちゃんと聞かず、途中から自分の枠組みで人の話を聞いてしまい、その結果、相手の求める条件を落としてしまうことと同じ状態です。
このような状態を、ダウンローディングといいます。ダウンローディングとは、マサチューセッツ工科大学のオットー・シャーマー教授が考えた学習の理論、U理論の用語です(U理論についてはこれからの連載で何回か触れていきます)。
ダウンローディングとは、相手の真の姿を見ようとせず自分の考え方(思考の枠組み)で相手を捉えようとする姿です。自分の思考の枠組みを相手に押し付けて(ダウンロードして)考えるので、ダウンローディングといいます。
ダウンローディングしながら人の話を聞いたり文章を読んだりしていると、いつも自分の枠組みで考えてしまうので、相手の求めるものを落としたり相手の真の姿が見えなくなったりします。
「素直に聞く」とは、ダウンローディングとは正反対の姿勢です。自分の枠組みを押し付けず、まずは相手の話を素直に聞くということです。自分のものさしで相手を測ろうとせずに聞くということでもあるでしょう。
たくさんの条件を踏まえて記述式問題を解くためには、相手の求める条件をまずは素直に聞くことが大切です。聞いた後自分の考えを動かせばいいのです。
しかし多くの人々は、相手が話している間に(テストなら問題を読んでいる間に)自分の枠組みを発動させてしまい、結果的に相手の求める条件を見失ってしまうのです。
では、素直に聞くという国語力を育むためには、どうすればいいでしょうか。家庭でできることはないでしょうか。
あります。それは「読み聞かせ」です。このことについては、次回以降詳しくお話しましょう。