芸術にふれる/演劇 2018.2.28

海外では一般的な、コミュニケーション力・表現力・集中力・想像力を高める「演劇教育」

編集部
海外では一般的な、コミュニケーション力・表現力・集中力・想像力を高める「演劇教育」

海外で取り入れられているのに、日本ではまだあまり知られていない教育、それは「演劇教育」です。演劇教育とは、演技の勉強だけをするのではありません。演劇をとおして、読み書きや歴史の勉強、ディスカッションなど、さまざまなことを学ぶことができます。

演劇教育は、子どもたちのコミュニケーション力や表現力、集中力、想像力、学力を総合的に鍛える素晴らしい教育方法だといえるでしょう。

海外では一般的な演劇教育

海外では、日本の美術や音楽のように「演劇」の授業が一般的で、専任の先生が指導に当たっています。演劇教育が、教育現場で積極的に取り入れられているのです。

特にイギリス、アメリカ、オーストラリアは、演劇教育が盛んです。「コミュニケーション手段の習得」「アイデンティティ形成」「コミュニティ形成」など、ひとりひとりがその個性をいかしチームの一員として活躍することが求められています。その背景には、人種や階級の多様性による人種問題や貧富の差、教育や職業格差があるといえるでしょう。

それに比べ、日本では演劇教育がまだ一般的ではありません。平成22年度に文部科学省が、「国際社会を生き抜く異文化コミュニケーション能力、世代間コミュニケーションの問題を克服する能力、そして、楽しい学校生活を送るための人間関係を形成していく能力、多様なコミュニケーション能力」を育成するため、芸術表現を通じたコミュニケーション教育を推進しているのにもかかわらず。また、国公立の大学に演劇学科がない国は、先進国では日本だけなのです。

劇作家・演出家で、文部科学省コミュニケーション教育推進会議委員の座長を務める、平田オリザさんは、以下のように話しています。

『ある日、40代の日本通のイギリス人と話していた時、日本の小中学校では演劇はほとんど習いません、と言ったら、「えー!」と驚かれました。そのあとに、「あ、だからですね」と彼が言ったのです。つまり、日本人のコミュニケーションが下手ということや、しっかりと自分の意見を言えないのは演劇をやっていないからだ、というのがイギリス人の感覚なのです。演劇とコミュニケーション能力の学問的な相関性をどれくらい証明できるかは分かりませんが、イギリス人にとっては感覚として、演劇をやっていない=コミュニケーション能力が低いということなのです。イギリスでは、そのために演劇を勉強するのです。

(引用元:EDUPEDIA|平田オリザ氏に聞く 演劇を用いたコミュニケーション教育(実践編)

なるほど、演劇教育を受けたということは、コミュニケーション教育を受けたということに等しいのですね。ではその演劇教育とはいったいどのような内容なのでしょう。

イギリスの演劇教育

イギリスは演劇教育の歴史が古く、学校教育の中に演劇が当たり前のように存在します。イギリスの子どもたちは、5歳から「ドラマ」という演劇教育を授業で活用することが義務付けられているのだそう。学校には「ドラマ」という科目があり、「ドラマ」の教員免許を持つ先生が指導に当たります。日本で言えば、「音楽」の先生は「音楽」の教員免許を持っていますよね。それと同じなのです。中学・高校ではドラマ専用スタジオが設置されている学校も多く見られるほどで、いかに演劇教育が重視されているかがわかりますね。

イギリスにおける演劇教育は、「ドラマ」によって生徒が能動的かつ活動的に学習するアクティブラーニングのひとつであり、読み書きや、表現能力の育成のための総合的な学習ツールなのです。

劇作家・演出家であり、俳優の育成にも力を入れている別役慎司さんは、イギリスのサイト「Digital Theatre Plus」を自身のブログで紹介しています。

「Digital Theatre Plus」は学校対象の演劇学習素材を提供するサイトです。シェイクスピアなどの一流の作品を用いて、どのような演劇教育ができるのかが、教育関係者向けに文章や動画などで紹介されています。

別役さんは、このサイトを称賛するとともに、イギリスの演劇教育について以下のように述べています。

イギリスの演劇教育は本当に進んでいて、上記のように、講師が演劇を使って教えている動画もあります。
ここでは、生徒が、体を使い、声を使い、シェイクスピアに触れながら、より自信をもって表現していく力や、頭を使って考える力、五感を使って感じる力を養っているのが見て取れます。
講師もパフォーマンス力があって、とても導き方がうまいので、日本とのレベルの差をすごく感じます。

(引用元:別役慎司のブログ|イギリスのDigital Theatre Plusが演劇教育E-learningとしてすごい

このような最先端を行くイギリスの演劇教育の様子を知ると、日本がいかに遅れをとっているかがわかりますよね。

アメリカの演劇教育

アメリカでも、子どもたちの表現力や想像力を育てるために、演劇教育は学校教育のなかに組み込まれています。

アメリカの演劇教育「クリエイティブ・ドラマ(創造的なドラマ活動)」は、先生が台本や配役、演出を担当し、子どもたちがセリフを丸暗記するといった日本の学芸会とは全く異なり、保護者への発表を最終目的にはしていません。子どもたちが自発的に取り組んでいると感じられるような、生徒主導の学習活動という位置づけなのです。

例えば、「歴史を活用したドラマクラス」。暗記科目になりがちな歴史の勉強を、演劇という方法でアウトプットすることで、立体的に歴史を理解することができます。その理由は、歴史的背景や影響などをクラスメートとディスカッションしなければならないから。そうすることで、「ただの年表上の出来事」ではなく、「歴史を自分事化」することになり、より深い理解を得ることができるのです。

このように暗記ではなく、大きなストーリーの中で歴史をとらえることができれば、きっと記憶に残り続けるでしょう。暗記よりも学習効果がかなり高いといえるのでは?

日本における演劇教育の取り組み

前出の文部科学省コミュニケーション教育推進会議委員は、役者や演出家、劇作家や舞台照明家などの芸術家と教師が連携した、芸術表現体験活動を実施しています。

ある小学校では、簡単な身体表現による創作を行いました。「場所」を身体で表現し、お互いに鑑賞。その後、ふりかえりとして難しかったことや楽しかったことについて発表をしました。

その効果について、文部科学省が発表したレポートには以下のことが書かれています。

≪実施の効果≫
課題を乗り越えることに対して、全体で助け合うという様子が見られ、児童同士
の関係性がよりよいものになった。また、聞く態度にも変化が見られた。非常に高
い集中力を長時間保持できるようになった。

(引用元:文部科学省|子どもたちのコミュニケーション能力を育むために

コミュニケーションだけでなく、さまざまなスキルが得られるのであれば、演劇教育を取り入れない手はないですよね。日本でも早く演劇教育が一般的になり、他者との違いや多様性を認め合えるような感性を持つことができたら、もっともっと子どもたちが活躍できるのではないでしょうか。

(参考)
文部科学省|コミュニケーション教育推進会議
文部科学省|子どもたちのコミュニケーション能力を育むために
文部科学省|芸術表現を通じたコミュニケーション教育の推進
Japan In depth|[渋谷真紀子]教育現場に進出する“演劇”〜日本とアメリカのいま
Japan In depth|[渋谷真紀子]<アメリカの演劇教育>歴史の勉強を「演劇」という手法で立体的に理解する
学びの場.com|教育インタビュー
EDUPEDIA|平田オリザ氏に聞く 演劇を用いたコミュニケーション教育(実践編)
演劇百貨店|店長が行く!第8回「イギリスの演劇教育と、読み書き計算」
ブライアン・ラドクリフ 著,‎佐々木英子 訳(2017),『ドラマ教育ガイドブック—アクティブな学びのためのアイデアと手法』.新曜社.
帝京大学教育学部紀要1|英米のドラマ教育の視点からみる低学年における劇活動