「ママ、歯みがきしたよ」——していないのに平然と言う。子どものウソに気づくと「ウソつきになるのでは」と不安になりますよね。しかし発達心理学は逆のことを教えてくれます。ウソをつけるようになるのは、脳が大きく成長しているサインなのです。
目次
ウソをつくには高度な脳の力が必要
子どもが初めてウソをつくのは2 〜 3歳頃。この時期にウソをつける子は認知能力テストで高い得点を示すことがわかっています。*1
ウソには「相手の知っていること」は自分とは違うと理解する「心の理論」が必要です。加えて、本音を抑える抑制制御、真実とウソを同時に保つワーキングメモリ、場面に応じた柔軟性といった「実行機能」もフル稼働します。ウソは「悪知恵」ではなく、重要な認知能力が育っている証拠なのです。

だます練習で認知力が向上した実験
トロント大学のLee教授らは、まだウソをつけなかった平均3歳4か月の子ども42人を2グループに分け、かくれんぼゲームに4日間取り組ませました。一方にだけだます方法を教えたところ、心の理論と実行機能の両方が有意に向上したのです。*2
これは「ウソを教えよう」という話ではありません。「ウソ=問題行動」と決めつけると、認知発達を見誤る可能性があるということです。
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使い道を決めるのは「親の温かさ」
ではウソをつく力が高い子はウソつきになるのか。Ding教授らが3 〜 6歳116人を調べたところ、親の温かさが高い家庭では心の理論が育った子ほどウソをつかず、温かさが低い家庭では逆にウソをつきやすいという結果でした。*3
同じ能力でも、親が温かければ「正直」に、冷たければ「自己防衛」に使われる。ウソをつく力は中立的な道具であり、使い道を決めるのは親子関係なのです。
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ウソを見つけたときの対応
① 頭ごなしに叱らない
② ウソの動機に目を向ける
③ 正直に言えたらほめる
④ 温かい関係を土台にする
「ウソをつく力」を育てながら「ウソをつかない子」に育てる——それができるのは、研究でも理論でもなく、毎日の「大丈夫だよ」という親の温かさだけです。
***
子どもの小さなウソを見つけたとき、それは脳の成長を喜ぶチャンスであり、関係を深めるサインでもあるのです。
よくある質問(FAQ)
Q. 2歳でウソをつくのは早すぎませんか?
A. むしろ認知発達が順調なサインです。この時期のウソは単純で、だまそうという意図がないことも多く心配は不要です。
Q. 毎日ウソをつくので困っています。
A. 頻度より「なぜか」に注目しましょう。叱られる恐怖が原因なら、安心できる環境づくりで減ることがあります。
Q. 「ウソは絶対ダメ」と教えるのは逆効果ですか?
A. ルールとして伝えること自体は大切です。ただ「正直に言えると気持ちいいよね」とポジティブに導くほうが効果的です。
(参考)
*1 Ding, X. P., Wellman, H. M., Wang, Y., Fu, G. & Lee, K. (2015). Theory-of-mind training causes honest young children to lie. Psychological Science, 26(11), 1812–1821.
https://doi.org/10.1177/0956797615604628
*2 Ding, X. P., Heyman, G. D., Sai, L., Yuan, F., Winkielman, P., Fu, G. & Lee, K. (2018). Learning to deceive has cognitive benefits. Journal of Experimental Child Psychology, 176, 26–38.
https://doi.org/10.1016/j.jecp.2018.07.008
*3 Ding, X. P., Tay, C., Goh, S. J. & Hong, R. Y. (2023). Parental warmth moderates the relation between children’s lying and theory-of-mind. International Journal of Behavioral Development, 47(5), 432–441.
https://doi.org/10.1177/01650254231175835









