あたまを使う/教育を考える/親の関わり/非認知能力 2025.12.29

“断れる子” は将来強い。「やりたくない」を否定しない親の声かけ

“断れる子” は将来強い。「やりたくない」を否定しない親の声かけ

「ピアノやりたくない」「公園行きたくない」「お風呂入りたくない」子どもの「やりたくない」に、つい「やりなさい!」と言ってしまう。毎日のことだと、正直イライラしますよね。

でも、この「やりたくない」と言える力、じつはとても大切なスキルなのです。

自己決定力、自己主張力、そして自分を守る力——将来、子どもが自分の人生を自分で切り拓くための土台が、この「NO」を言う力にあります。今回は、子どもの「やりたくない」を尊重することが、なぜ成長につながるのかを解説します。

「やりたくない」と言えるのは健全な発達の証

💡 ポイント

「NO」が言えるのは、自我が育っている証拠。むしろ言えない子のほうが心配です。

2〜3歳のイヤイヤ期は、発達心理学では「第一次反抗期」と呼ばれます。これは「反抗」というよりも、自分と他者を区別する第一歩。「ママの言うことと、自分の気持ちは違う」と気づき始めた証拠です。

ケンブリッジ大学の研究では、親が子どもの自律性をサポートした場合、24ヶ月時点での問題行動が減少することが明らかになっています。*1 つまり、「やりたくない」という意思表示を適切に受け止めることが、子どもの健全な発達につながるのです。

逆に、常に親の言うことに従う「いい子」は、自分の気持ちを抑え込んでいる可能性があります。心理学では「過剰適応」と呼ばれ、思春期以降に問題になるケースも少なくありません。*2

ぐずりそうな子ども

「NO」を言える子が将来強い理由

🎀 「NO」が育てる3つの力
自己決定力
自分で選び、自分で責任を持つ力。進路選択や人生の岐路で必要になる
自己主張力
自分の意見を伝える力。仕事でも人間関係でも不可欠
自己防衛力
嫌なことから身を守る力。いじめや性被害の予防にもつながる

心理学者のデシとライアンが提唱した「自己決定理論」によると、人は「自分で決めた」と感じられるときに、最も意欲的に行動できるとされています。*4 つまり、子どもの頃から「やりたくない」を言える環境で育つことが、将来の自己決定力を育てるのです。

また、子どもの頃から「NO」を封じられてきた人は、大人になっても断ることが苦手になりがちです。望まない誘いを断れない、理不尽な要求にも従ってしまう——そんな「断れない大人」にならないためにも、自己主張力自己防衛力を育てることが大切です。

実際、「NO」を言う訓練が思春期の子どもの自信を高めることがわかっています。*5

嫌がっている子ども

尊重すべき「やりたくない」と、対応が必要な「やりたくない」

尊重してOKな「やりたくない」

・習い事の選択(ピアノより絵が描きたい)
・遊びの内容(公園より家で遊びたい)
・食べ物の好み(ある程度は)
・服の選択(自分で選びたい)
・友達との関わり方

🔧

交渉・工夫が必要な「やりたくない」

・生活習慣(お風呂、歯磨き、着替え)
・安全に関わること(チャイルドシートなど)
・健康に関わること(睡眠、食事)
・社会的なルール(挨拶、順番を守る)

見極めのポイントは、「命・健康・安全に関わるかどうか」

お風呂に入らなくても死にませんが、衛生上の問題があります。歯磨きをしなければ虫歯になります。これらは「交渉」の対象です。

一方、「ピアノよりサッカーがしたい」「今日は公園じゃなくて家で遊びたい」といった希望は、子ども自身が決めていいこと。ここを親が決めてしまうと、子どもは「自分で決める経験」を積めません。

食べ物を断る子ども

「やりたくない」への声かけパターン5つ

では、子どもが「やりたくない」と言ったとき、どう対応すればいいのでしょうか。気持ちを受け止めながら、前に進むための声かけを5つご紹介します。

1

気持ちを受け止める

「そっか、やりたくないんだね」——まず否定せず、気持ちを認める。これだけで子どもは「わかってもらえた」と安心します。

2

理由を聞く

「どうしてやりたくないの?」——本当の理由が別にあることも。「怖い」「疲れた」「別のことがしたい」など、本音を引き出す。

3

選択肢を与える

「今やる? ごはんの後にやる?」——「やる・やらない」ではなく「いつやるか」を選ばせると、子どもは「自分で決めた」と感じられます。

4

ハードルを下げる

「全部じゃなくて、ここまででいいよ」——歯磨きなら「前歯だけでいいよ」、着替えなら「上だけ先に着替えよう」。小さなOKを積み重ねる。

5

期間限定で休ませる

習い事なら「1回お休みしてみる?」——完全にやめるのではなく「お試し休憩」。休んでみて気持ちが変わることもあります。

 

 

声をかける親

よくある質問(FAQ)

💭 Q. 全部受け入れていたらわがままになりませんか?

A. 「気持ちを受け止める」と「要求をすべて通す」は違います。「やりたくないんだね、でも歯磨きは虫歯になるからやろうね」と、気持ちは認めつつ、必要なことは説明して促す。この両立が大切です。「NO」を言うこと自体を否定しなければ、わがままにはなりません。

💭 Q. 習い事を「やめたい」と言われたらすぐやめさせるべき?

A. まずは理由を聞きましょう。「先生が怖い」「友達とうまくいかない」など環境の問題なら、教室を変えることで解決することも。「飽きた」「他にやりたいことがある」なら、一度休んでみて様子を見るのも手です。大切なのは、子ども自身に「続けるか、やめるか」を考えさせること。

💭 Q. お風呂や歯磨きを「やりたくない」と言うときはどうすれば?

A. 生活習慣は「やらない」という選択肢はないので、「いつやるか」「どうやるか」で選択肢を与えましょう。「ごはんの前と後、どっちにする?」「今日はどのタオルで拭く?」など。小さな決定権を与えることで、子どもは「自分で決めた」と感じてスムーズに動けることが多いです。

💭 Q. 「どっちでもいい」「なんでもいい」としか言わない子はどうすれば?

A. 選択肢を減らして簡単にしてあげましょう。「今日の夕飯、何がいい?」ではなく「カレーとハンバーグ、どっちがいい?」など。「間違った答えはない」「どっちを選んでもOK」と伝えて、安心して選べる環境をつくることが大切です。小さな選択の積み重ねで、少しずつ「自分で決める」ことに慣れていきます。

「やりたくない」は成長のサイン

🌸 まとめ 🌸

・「NO」が言える子は、自分の人生を自分で決められる子になる
・すべてを受け入れる必要はないが、まず「気持ちを受け止める」
・「命・健康・安全」に関わることは交渉、それ以外は尊重
・子どもの「やめたい」には必ず理由がある
・親も完璧じゃなくていい。一緒に成長していけばいい

子どもの「やりたくない」を聞くたびに、「わがままになるのでは」と不安になるかもしれません。

でも、考えてみてください。大人になったとき、嫌なことを嫌と言えない人と、自分の意思をきちんと伝えられる人。どちらが幸せに生きられるでしょうか。

「やりたくない」は、子どもからの「自分の人生は自分で決めたい」というサイン。毎回受け入れなくても大丈夫。「そっか、やりたくないんだね」と気持ちを認めるだけで、子どもは「自分の気持ちを言っていいんだ」と学びます。その積み重ねが、将来、自分の足で立って歩ける子どもを育てるのです。

(参考)
*1 Cambridge University|Understanding the Terrible Twos: A longitudinal investigation of the impact of early executive function and parent-child interactions
*2 岡田尊司『過剰適応の心理学』(ちくま新書)
*3 PubMed|Self-determination theory and the facilitation of intrinsic motivation, social development, and well-being
*4 Stony Brook University|Assertiveness Training: A Forgotten Evidence-Based Treatment