「片付けなさい」と言っても聞かない。「お友達を叩いちゃダメだよ」と伝えても笑って誤魔化す。何度注意しても同じことを繰す——こうした「大事なことが伝わらないもどかしさ」に、多くの親御さんが悩んでいるのではないでしょうか。
今回、こんなお悩みが届いています。
危ないことをしたときや、お友達に意地悪をしたときなど、大事なことを伝えたいのですが、注意をしても笑って誤魔化したり、「わかった」と言いながらまた同じことを繰り返したりします。真剣に話を聞いてほしいのですが、どうやったら伝わるのでしょうか。(4歳男の子ママ)
じつは、子どもに話が伝わらない原因は、「何を言うか」ではなく「どこで、どう伝えるか」にあるのかもしれません。
じつは周囲が明るく刺激の多い場所では、子どもは無意識に「注意される」と身構えてしまい、防衛的な反応が出やすくなります。一方、寝室のような落ち着いた環境では、心理学で「暗闇効果」と呼ばれる現象が働き、子どもの心に言葉が届きやすくなるのです。
今回は、叱らずにあえて寝る前に伝える「寝室でのコミュニケーション術」を紹介します。
監修者プロフィール
特別支援通級指導教員
特別支援通級指導教員歴8年の現役教師。情緒障害教育を専門とし、ADHDやASD、自閉症児など多くの子どもたちを担当する。家庭では、特性をもつ2児の父親。遊びや経験を通して、子どもたちが「安心できる場所」「自分らしくいられる瞬間」を感じられるよう日々模索中。趣味は家族旅行。
目次
なぜ寝室だと”叱るより伝わる”のか?
昼間のリビングには、テレビの音、おもちゃ、窓の外の景色など、刺激がいっぱい。子どもは大人よりも周囲の刺激に敏感なので、いろんなものが目に入る環境では、親の話に集中しづらくなってしまいます。*1
さらに、正面から話しかけられると、人は無意識に「怒られている」と感じて、防衛的に。*2 だから笑って誤魔化したり、「わかった」と言いながら聞き流したりするのです。
一方、寝室はどうでしょう。寝室には、子どもの心に言葉が届きやすくなる3つの条件が揃っています。それは、
- 暗くて、気が散らない
照明の研究では、暗い場所のほうが人との距離が縮まり、心を開いた会話がしやすくなることがわかっています。*3 - 寝る前で、心が落ち着いている
夜になると自然に体が「休息の状態」に切り替わり、昼間のような緊張感が和らぎます。*4 - 横並びで、安心感がある
これも「スティンザー効果」の一つで、横並びの位置は協調的で、相手を受け入れやすい関係をつくることが明らかになっています。*5
だからこそ、寝室は「説教」よりも「気持ち」が届きやすい場所なのです。
では、寝室で大事な話をするとき、実際にどのように伝えればよいでしょうか? 今日からできる4つのコツをお伝えします。

寝室で伝えるコツ① 声量を落とす
寝室で話すときは、いつもより声のボリュームを落としましょう。
暗くて静かな環境では、小さな声でも十分に届きます。むしろ、静かな声で話すことで、子どもは「よく聞かなきゃ」と自然に集中してくれます。
さらに、小さな声には不思議な効果があります。大きな声は相手を緊張させますが、小さな声は安心感を与え、「怒られているんじゃない」と感じさせることができるのです。
■ 具体的な声のかけ方
- 「ねえ、ちょっと聞いてほしいことがあるんだけど」
- 「今日、○○があったよね。ママ、ちょっと悲しかったんだ」
- 「パパとお話ししようか」
いつもの半分くらいの声量で話しかけてみましょう。囁くように話すことで、子どもはママ・パパの言葉を「大事な話」として受け止めてくれます。

寝室で伝えるコツ② 長く話さない
大事なことだからこそ、ついつい長々と説明してしまいがち。でも、話は短くが鉄則です。
4歳の子どもが集中できる時間は、4〜5分程度。長く話せば話すほど、子どもの頭には入っていきません。
寝室で伝えるなら、1〜2分で終わるくらいがちょうどいいのです。
■ 短く伝える例
- お友達を叩いた場合:「今日、お友達を叩いちゃったよね。痛かったと思うよ。嫌なことがあったら、叩くんじゃなくて、言葉で言おうね」
- 片付けをしなかった場合:「今日、おもちゃ片付けなかったね。ママ、足で踏んで痛かったよ。明日は一緒に片付けようね」
- 嘘をついた場合:「さっき、嘘ついちゃったね。ママは正直に言ってくれたほうが嬉しいな」
これくらいシンプルに。あれこれ付け加えたくなる気持ちをぐっとこらえましょう。
「どうして〜」「何度言ったら〜」「いつも〜」といった言葉は、つい出てしまいがちですが、子どもには説教に聞こえてしまいます。事実と、親の気持ちと、次にどうしてほしいか――この3つだけを伝えれば十分です。

寝室で伝えるコツ③ 結論はひとつ
短く話すことと関連しますが、一度に伝えることは一つだけにしましょう。「お友達を叩かないこと」「片付けをすること」「ご飯を残さないこと」——。一度にいくつも言われると、子どもは何が一番大事なのかわからなくなってしまいます。
今日伝えたいことは何か。それだけに絞って話しましょう。
■ 「今日はこれだけ」を決める
たとえば、今日一日を振り返って、こんなことがあったとします。
- 朝、着替えをぐずぐずした
- 保育園でお友達とケンカした
- 夕飯を残した
- お風呂を嫌がった
全部言いたくなりますよね。でも、今日寝室で伝えるのは「お友達とケンカしたこと」だけ。
ほかのことは、また別の日に。一日一つのルールで、確実に伝えていくほうが、結果的に早く身につきます。どうしても複数伝えたい場合は、「今日は○○の話だけね。他のことはまた明日ね」と前置きすると、子どもも「今日はこれだけでいいんだ」と安心します。

寝室で伝えるコツ④ 「あなたは」より「ママは/パパは」
最後のコツは、主語を変えること。
「あなたは○○しちゃダメでしょ」ではなく、「ママは○○されると悲しいな」と伝えてみましょう。
「あなたは」で始まる言葉は、子どもにとって「責められている」と感じやすいもの。
一方、「ママは/パパは」で始まる言葉は、親の気持ちを伝えるだけなので、子どもは素直に受け止めやすくなります。
■ 言い換えの例
- × 「あなたはお友達を叩いちゃダメでしょ」
○ 「ママは、お友達を叩くのを見て悲しかったな」 - × 「あなたはなんで片付けないの」
○ 「パパは、片付けてくれたら嬉しいな」 - × 「あなたは嘘ばっかりつく」
○ 「ママは、本当のこと言ってくれると安心するよ」 - × 「あなたはいつもわがまま言う」
○ 「パパは、○○ちゃんが困ってるときは助けてあげたいな」
この言い方なら、子どもは「ママ・パパの気持ち」として受け取ることができます。「怒られている」ではなく、「ママ・パパがこう感じている」という情報として届くので、防衛的にならずに聞くことができるのです。
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大事な話ほど、言葉の強さではなく環境が影響します。寝室は叱る場所ではなく、気持ちを伝える場所。暗くて静かで、横に並べる寝室だからこそ、子どもは親の言葉を素直に受け取ることができるのです。
今回ご紹介した4つのコツは、お友達とのトラブル、片付け、嘘など、あらゆる場面で応用できます。できそうなことから一つずつ試してみてください。
(参考)
*1 学研教室|子どもの集中力はいつまで続く?集中力を高めるコツとは
*2 日本の人事部|「スティンザー効果」とは?
*3 小林研究室|コミュニケーションを促すあかり
*4 むらいクリニック|睡眠と自律神経
*5 アイシティ|デートをするときはどんな席がいい? ケンカにならない視線の心理学













