インタビュー/教育を考える 2025.4.7

【放置は絶対にNG】愛着障害にもつながる「子どもをかわいいと思えない」問題

【放置は絶対にNG】愛着障害にもつながる「子どもをかわいいと思えない」問題

「上の子かわいくない症候群」という言葉を知っているでしょうか? 下の子が生まれたことで上の子がかわいいと思えなくなってしまう現象を指す言葉です。意外に思う人も多いかもしれませんが、この問題に悩む人は決して少なくありません。「上の子かわいくない症候群」の背景にはなにがあるのでしょうか。欧米で学んだ心理学をベースに母親たちをサポートしている公認心理師の佐藤めぐみさんが、その危険性や対処法について解説してくれました。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)

「上の子かわいくない症候群」が急増中

みなさんは、自分の子どもを心からかわいいと思えていますか? 「親なのだから当然」という人からすると驚くかもしれませんが、「自分の子どもをかわいいと思えないなんて、わたしは親失格なのではないか」と悩む人は意外なほど多いのが実情です。

しかも、近年は増加傾向にあります。その要因としては、下の子が生まれたことで上の子がかわいいと思えなくなってしまう現象を指す、「上の子かわいくない症候群」という呼称が広まったことが考えられます。

おそらく、これまでもそのような悩みを抱えていた親御さんはたくさんいたのだと思いますが、「子どもをかわいいと思えない」なんてことを他人に言ったり相談したりできなかったのでしょう

でも、「上の子かわいくない症候群」という呼称が知られたことで他人に相談しやすくなり、これまでなら自分の心の内に秘めていた問題が顕在化し、結果的に増加しているように見えるのではないかと思います。実際、いまは私への相談事例の3分の1ほどを、この悩みが占めています。

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「上の子かわいくない症候群」の要因

その要因はさまざまですが、そのひとつとして、「子どもがいうことを聞かない状況にさらされている」ことが挙げられます。日々の生活のなかでつねにストレスにさらされますから、かわいいと思えなくなるのも当然かもしれません。

それから、「子どもと相性が合わない」ことも要因のひとつです。子どもとはいえ他人ですから、気質が合わないために子どものことが理解できない、そしてかわいく思えないというところに至るようです。

「子どもが自分と似ている」というケースもあります。自分のなかでコンプレックスに感じていることが子どもにも見られると、自分の短所を突きつけられたように感じて受け入れられなくなるのです。

そして、先に「上の子かわいくない症候群」とお伝えしましたが、じつは「下の子かわいくない症候群」は少数派です。私への相談事例でいうと、親が「かわいくない」と思う対象はほぼすべて上の子で、かつ同性です。父親なら上の息子、母親なら上の娘をかわいく思えないことが多いということです。同性という部分は、おそらく先に触れた「子どもが自分と似ている」というところからきているのでしょう。

一方の上の子に限られている理由は、下の子ができたことで上の子が生意気に映ることにあると見ています。4、5歳にもなれば、親の言葉に対して大人びた言葉でいい返してくることも珍しくありません。でも、下の子はまだ十分にしゃべれませんから、上の子が生意気に思えてくるというわけですね。

また、よくある話かもしれませんが、「お兄ちゃんだから」「お姉ちゃんだから」という見方が出てくることも、上の子がかわいく思えなくなる要因でしょう。「お兄ちゃん」「お姉ちゃん」という言葉が、「さすがお兄ちゃんだね、よく我慢したね」というようなポジティブな方向で使われるのなら問題ありません。

でも、「お姉ちゃんなんだから、できてあたりまえ」といったかたちで使ってしまうと、そうできなかったときに「どうしてできないの!」とネガティブな見方につながるのです。

弟に勉強を教えるお姉ちゃん

最大のポイントは「できることからはじめる」こと

この「上の子かわいくない症候群」を放置しておくことは、とても危険です。なぜなら、その状態が長期間になり、しかも度合いがひどくなれば、「愛着障害」につながる可能性があるからです。愛着障害とは、養育者(親)との愛着が形成されないことで、子どもの情緒や対人関係に問題が生じることを指します。具体的には、強い不安や怒りを感じる、対人関係をうまく築けない、あるいは攻撃的な行動をとるといった、さまざまな問題が生じるのです。

愛着障害の原因にはいくつかありますが、いわゆる「ネグレクト(育児放棄)」もそのひとつです。子どもをかわいくないと思うと、親は「子どもとかかわりたくない」と考えるようになります。それがネグレクトを招き、その結果として愛着障害につながることがあるというわけです。

しかし、だからといって「好きにならなければならない」と考えるのはおすすめしません。恋愛だってそうだと思いますが、「好き」「嫌い」といった感情はコントロールできるものではないからです。「子どもを好きになろう」と考えてそうできなかったら、「わたしは駄目だ」と自分を責めるところに精神的なエネルギーを使ってしまい、改善する余力が残らなくなってしまいます。

母親にハグする娘

ですから、「できることからはじめる」ことが、大きなポイントです。子どもをかわいく思えない人のなかには、子どもと手をつなげない、子どもに触りたくないといったケースも見られます。そうであるなら、たとえば冬なら「手袋をして手をつなぐことならできるかもしれない」というように、できることを探すのです。愛情を込めてギューッとハグをすることは無理でも、「行ってらっしゃい」といいながら儀式的に軽くハグすることならできるかもしれません。子どもの好物をつくってあげることも、できることのひとつです。

そして、先の儀式的なハグにもいえることですが、できることを「ルーティン化する」のもポイントです。寝る前に絵本を読むといったことも、本来なら「かわいいから読んであげよう」という感情からスタートするのですが、子どもをかわいいと思えない人にはその感情が生まれません。ですから、ルーティン化することで、子どもとかかわる時間を増やしていきます。感情が戻ってくるのはそのあとです。まずはルーティンや習慣を通し、子どもと接することを増やしていきましょう。

繰り返しになりますが、「上の子かわいくない症候群」は子どもへの影響が大きいので、自分のなかに閉じ込めて放置してはいけません。ここまでにお伝えしたことを実践しても解決できない場合は、私のような専門家や、地域の子育て支援センターなどにサポートを求めてください。多くの人が思っている以上に深刻な問題だと認識してほしいと思います。

佐藤めぐみ先生

■ 公認心理師・佐藤めぐみさん インタビュー一覧
第1回:無自覚のまま「虐待」していませんか? 子育て中のイライラ、3つの要因と対処法
第2回:「比較病」の心理構造と克服ポイント|なぜ、わが子とほかの子を比べてしまうのか?
第3回:【放置は絶対にNG】愛着障害にもつながる「子どもをかわいいと思えない」問題

【プロフィール】
佐藤めぐみ(さとう・めぐみ)
公認心理師。英・レスター大学修士号取得。育児相談室・ポジカフェを運営。専門は0~10歳のお子さんを持つご家庭向けの行動改善プログラム、認知行動療法ベースの育児ストレスの支援。また、子育て心理学を学ぶ場としてポジ育ラボを主宰。ブログにて毎日の育児に役立つ心理学を発信中。https://megumi-sato.com/

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。