幼稚園や保育園と違い、毎日の時間割に加えて学習用具も増え、持ち物の管理が課題になってくる小学生。「小学校に入ったら、忘れ物ばかり」「お友だちはこんなに忘れ物していないみたい」などと頭を抱えている親御さんの声もよく耳にします。
だからといって、我が子のためと思って親がすべてを管理したり、また忘れ物しがちなことを悲観しすぎたり叱ってばかりいたりするようでは、改善の余地はありません。大人である自分だって忘れ物をすることはあるのだから……と大きな心で、原因と対策を考えていきましょう。
忘れたことを責めるのはもってのほか
うちの子は特別に忘れ物が多い子なのでは? と思い悩んでいる親御さんは少なくないと思いますが……そもそも、多くの子どもは忘れ物をするもの。そういうものだ、と割り切って考えることも必要です。
何かに夢中になっていると、忘れ物をしてしまう子どもたちはたくさんいます。気を配らなければいけないことがたくさんあると、忘れてしまうこともあります。忘れてしまったことを叱るよりも、どうしたら忘れないか、考えることが大切です。
(引用元:小笠原恵著(2011年),『うちの子、なんでできないの? 親子を救う40のヒント』, 文藝春秋.)
また、低学年の子どもの場合、子ども自身でも忘れ物を減らしたいとは思っているけれど、忘れ物をしないための対処法がわからず繰り返してしまうということもあります。
だからこそ、好き好んで忘れ物をしたわけではないのに厳しく責められたら、子どもは「自分はダメな子なんだ」と自信を失くしてしまう場合があるので要注意です。忘れたこと自体がショックなのに、さらに叱責までされるのは、大人でも子どもでもひどく落ち込んでしまいますから。
忘れ物対策が学力向上にもつながる
もう小学生なのだから、勉強や運動、習い事などほかのことに意識を向けたいのに。忘れ物のことばかりで思い悩むなんて……と気落ちするのはもったいないことです。忘れ物への対策を練る時間は、決して無駄ではありません。
「忘れ物をなくそう」という意識がウッカリすることやケアレスミスを減らし、忘れ物をしないようになることで、学習や物事への取り組みが積極的になり、先を読む力も養われ、子どもにとってプラス面がたくさんあります。
(引用元:SHINGA FARM|忘れ物と学力は関係する!? 子どものタイプ別で正しい対応法をご紹介!)
子ども能力開花くらぶ代表の田宮由美氏によると、忘れ物を減らそうとする努力は学力向上にもつながるのだそう。次の日の持ち物をしっかり確認する、朝にもう一度持ち物チェックをするなどが習慣化されると、テストのときも「最後に答えを確認しておこう」となるのです。いつも取りこぼしていたケアレスミスがなくなれば、テストの点数はもちろん上がりますよね。
続いてご紹介する忘れ物対策は、学習環境を整える・親子での意識を高めるという意味でも有効なものばかり。具体策を講じて忘れ物が減った頃には、生活面も学習面もよりよいものになっているはずです。
忘れ物をなくすために親子でできること
東京学芸大学教育学部特別支援科学講座准教授の小笠原恵氏は、忘れ物も「子どもが大きく成長するチャンス」と言います。「次はどうしたら失敗しないで済むか、具体的に教えてあげることは、ただ叱るより有効な場合が多くあります」とのこと。
忘れ物ばかりする子どもを叱るよりも、どうすればいいのかを教えたり一緒に考えたり、親子で具体的に策を練って実行に移してみましょう。
■朝に持ち物を点検できるくらいの余裕を持つ
夜にしっかりと準備をしていたとしても、朝になって時間に追われドタバタと玄関を出るようでは、忘れ物をする可能性も大きくなります。ランドセルの中身はそろっていても、上履き袋を持って出るのを忘れたり、体操着袋を置いていってしまったり。玄関を出る直前にもう一度手荷物を確認することができるくらいの時間の余裕が必要です。
■日頃から整理整頓を心がける
机の周りやランドセル置き場などは、定位置を決めたり、学習教材を教科ごとに分類したり、よく使うものが取り出しやすいようにしておいたりということが重要です。見た目上はスッキリしていたとしても、重要なプリントが適当なノートに挟まっていたり、毎日のように学校に持っていく教科書が引き出しの奥に入っていたりするようではNG。一度親子で片付けをしながら、いろいろな物の置き場所の見直しをしてみるのもいいかもしれません。
■否定的な言葉を使わず、頑張っていることを褒める
日頃から「いつも忘れるんだから」「うっかりしてばかり」などという決めつけの言葉は使わないようにしましょう。親がそう言い聞かせることで、子ども自身が「自分は忘れ物ばっかりする子どもなんだ」と思い込んだり、周りからもそのような先入観で見られるようになったりしてしまうことも。ただ忘れ物をするだけの事実よりも、その思い込みから脱却することのほうが、子どもにとっては困難なもの。「忘れ物しないように、最近頑張っているね」など、前向きになる言葉かけを心がけましょう。
親が学校まで届けるかどうかは臨機応変に
子どもが登校したあとに忘れ物をしたことに気がついたら、届けるか届けないか……。悩みどころだと思いますが、届けてしまえば、忘れた当人は「次は忘れないようにしよう」という意識が低下します。
保育士として15年以上保育業務に携わる市川由美子氏は、「忘れ物をすると自分が困るといった経験をしておかないと、『忘れ物をしないぞ』という責任感が芽生えません。とはいえ、忘れ物の種類によっては、届けてあげないと周りに迷惑がかかる物もありますので、臨機応変に対処しましょう」と言っています。
お弁当や水筒などの貸し借りができない必需品や、衛生的に困るものなどは届けないと大変なことになりますが、教科書などは隣の席の子に見せてもらうなどして切り抜けられます。また、上履きや体育の帽子などは、学校側が忘れた子ども用に用意している場合も多いものです。事前に「もしも忘れてしまったら」の対処法を親子で確認し合っておく、というのもいいかもしれません。
肯定し、前向きに捉えることも大切
忘れ物の原因と対策についてまとめました。親があまりにも思い詰めたり、子どもへの関わりが忘れ物のことばかりに集中しすぎてしまったりするのは、親の精神衛生上もよくありませんし、親子関係を悪化させる原因にもなりかねません。
花まる学習会代表でNPO法人子育て応援隊むぎぐみ理事長の高濱正伸氏と、花まるグループ西郡学習道場代表の西郡文啓氏は、共著書『ちゃんと失敗する子の育て方』で、「しょっちゅう忘れ物をするのは『それくらい抜けているほうが、世の中生きやすい』というように、注意したくなるようなことも見方を変えれば『良いところ』かもしれません」と述べています。
心配だからと言って、子どもの人生の道筋をつけてやったり、親の言う通りに生きて行くように育てたりすることが親の役目ではありません。
めざしたいのは、子どもが自分で考えて正しい道を選択できるように、失敗しながらも自力で立ち上がって歩いていけるようにすること。
もし「自分は心配しすぎる傾向にあるかも?」と思ったら、いっそのこと、ちょっと子どものことを考えるのをやめてみましょう。
(引用元:楠本佳子(2016),『12歳までに「勉強ぐせ」をつけるお母さんの習慣』, CCCメディアハウス.)
そして忘れ物をせずに過ごせた日は子どもにとって「あたりまえ」の日ではく、花マルの日。「今日は忘れ物しなかったね」と褒めてあげれば、忘れ物で困ることもないだけでなく成功体験だと認識するようになり、忘れ物をしないよう自発的に心がける姿勢を見せてくれるようになるはずです。
***
「子どもの忘れ物だけに目を向けるのではなく、整理整頓を促したり、日頃から関心を持ち、親子の会話があれば、持ち物や授業に必要な教材などについて、忘れることを予防できるはず」と言うのは、前出の田宮由美氏。親子のコミュニケーションを密に取りながら、少しずつ忘れ物を減らして自立へとつなげていけるといいですね。
文/酒井絢子
(参考)
All About|子どもの忘れ物が多いのは親の責任?! 親子の会話3STEPで忘れ物対策
ベネッセ教育情報サイト|子どもの忘れ物、防止するコツとやってはいけないこととは?
SHINGA FARM|忘れ物と学力は関係する!? 子どものタイプ別で正しい対応法をご紹介!
楠本佳子(2016年),『12歳までに「勉強ぐせ」をつけるお母さんの習慣』,CCCメディアハウス.
小笠原恵(2011年),『うちの子、なんでできないの? 親子を救う40のヒント』,文藝春秋.
高濱正伸・西郡文啓 (2018年),『ちゃんと失敗する子の育て方』,総合法令出版.