21世紀型能力という言葉を聞いたことはあるでしょうか。AI技術が発展し、グローバル化が進み、先の見えない社会を生きていく子どもたちにとって、21世紀型能力は必須のスキルです。
21世紀型能力とは何か、また、家庭で21世紀型能力を伸ばす方法について詳しくご紹介します。
世界各国で重視される「21世紀に必要な能力」
21世紀型能力とは何なのでしょうか。まずは、諸外国で提唱されている「21世紀型スキル」(21st Century Skills)についてご紹介しましょう。
2009年にイギリス・ロンドンで、250人以上の研究者や専門家、医師によって構成される国際団体「Assessment & Teaching of 21st Century Skills」(ATC21S)が発足しました。同団体は、以下の4領域10種類のスキルを、IT技術の発展やグローバル化の進む21世紀以降の社会で活躍するために必要なスキルとして定義しています。
- 思考の方法(Ways of thinking)
- 創造力、イノベーション(Creativity and innovation)
- 批判的思考、問題解決、意思決定(Critical thinking, problem-solving, decision-making)
- 学びの学習、メタ認知(Leaning to Learn, metacognition)
- 仕事のツール(Tools for working)
- 情報リテラシー(Information literacy)
- 情報通信技術に関するリテラシー(Information and communication technology literacy)
- 仕事の方法(Ways of working)
- コミュニケーション(Communication)
- チームワーク(Collaboration)
- 社会生活(Ways of living in the world)
- 地域と国際社会での市民性(Citizenship – local and global)
- 人生とキャリア設計(Life and carrer)
- 文化の認識や需要を含む、個人と社会の責任(Personal and social responsibility – including cultural awareness and competence)
同様にアメリカでも、2002年に非営利団体「21世紀型スキルパートナーシップ」(Partnership for 21st Century Skills)が発足。全ての学生が21世紀に必要な能力を身につけられるよう、21世紀型スキルが提唱されています。
こうした21世紀に求められる能力を定義する流れを受け、国立教育政策研究所が、文部科学省の提唱する「生きる力」を育むための具体的な方向性として2013年に提唱したのが「21世紀型能力」です。
21世紀型能力とは
国立教育政策研究所の提唱する「21世紀型能力」は、日本の学習指導要領の理念である「生きる力」の獲得を目的としたもの。「基礎力」「思考力」「実践力」の三層から成っています。具体的な内容は以下の通りです。
基礎力
基礎力は、言語・数量・情報を、道具として目的に応じて使いこなすための力です。21世紀型能力の土台とも言えます。以下のように、従来の「読み・書き」「計算」に加えて「情報を扱う力」も必要なスキルの中に含まれている点が特徴です。
- 言語スキル
- 数量スキル
- 情報スキル
思考力
国立教育政策研究所は、思考力を「一人一人が自ら学び判断し自分の考えを持って、他者と話し合い、考えを比較吟味して統合し、よりよい解や新しい知識を創り出し、さらに次の問いを見つける力」と定義しています。具体的には以下のスキルです。
- 問題解決
- 発見力
- 創造力
- 論理的・批判的思考力
- メタ認知
- 適応的学習力
実践力
これから先の見えない社会を生きていく子どもたちにとって、問題解決のための基本的なスキルや、自分で考え、他者と話し合うスキルに加えて、それらを実践につなげるためのスキルも必須です。具体的には以下のスキルが挙げられます。
- 自律的活動力
- 人間関係形成力
- 社会参画力
- 持続可能な未来づくりへの責任
21世紀型能力は、上記の3種類の要素から成り立つ、変わりゆく未来を生きていく子どもたちにとって非常に重要なスキルなのです。
21世紀型能力の伸ばし方:1 批判的思考力を鍛えるには
21世紀型能力を伸ばすにはどうしたらよいのでしょうか。今回は、これからの社会で特に重要視されている「批判的思考力」「創造力」のふたつのスキルの育て方をご紹介しましょう。
インターネットが普及し、膨大な量の情報が得られるようになった現代。誤った情報や不必要な情報に惑わされることなく、自分で考え、問題を解決するために批判的思考力は非常に重要です。では、どうすれば批判的思考力を鍛えることができるのでしょうか。ご家庭でも簡単に実践できる取り組みをご紹介しましょう。
仮説を立て、試させる
大学講師や幼児教室主宰として、幅広い年齢と文化背景を持つ乳幼児から青年までの育ちを20年間指導してきた、子育て研究家の長岡真意子氏によると、批判的思考力を鍛えるためには、日常生活の中で仮説を立てさせるのが有効なのだそう。
たとえば、スーパーで買い物をしたあとには「袋はいくつ必要かな?」、片付けをする際には「この箱の中に全部入るかな?」などと尋ね、「ふたつ要ると思う」「入ると思う」と推測させてから、実際に検証させてみましょう。
ほかにも、「どうしたら崩れにくい泥団子が作れるかな?」「どんな順番で積み木を重ねたら、高く積めると思う?」など、遊びを通して子どもに仮説を立てさせ、実践させるのも効果的です。
「WHAT?」「WHY?」「HOW?」の3つを問いかける
一般社団法人教育デザインラボ代表理事、都留文科大学特任教授の石田勝紀氏は、「考える」ことは「WHAT?」「WHY?」「HOW?」の3つのアプローチによって始まると述べています。家庭で以下の3つを問いかけることを習慣にし、子どもの批判的思考をサポートしてあげましょう。
WHAT? 「つまりどういうことだろう?」と尋ね、自分の言葉で語らせる
たとえば、食中毒のニュースが流れていたとすれば、「どういうことだろう?」「腐ったものを食べてお腹を壊したのかな」と自分にとってわかりやすい言葉で言い換えさせたり、算数の問題を解いたあとに「どうやって解いたのかな?」と自分の言葉で説明させたりと、自分で語らせることで頭が動き始めるのだそう。
WHY? 「どうして?」「なぜだと思う?」と理由を尋ねる
たとえば、チョコレートが好きなのだとすれば「どうして好きなの?」と尋ねたり、読み聞かせのあとに「どうして主人公は泣いてしまったのかな?」と問いかけたりすることで、深く考えることを促せます。
HOW? 「どう思った?」「どうしたらいいと思う?」で解決策を引き出す
たとえば、友だちともめごとがあったときには「○○ちゃんはどう思った?」「じゃあどうしたらいいかな?」と問いかけることで、自分の頭で解決のための道筋を考えさせることができます。
21世紀型能力において特に重要と言える批判的思考も、ご家庭でのちょっとした習慣で鍛えることができるのです。
21世紀型能力の伸ばし方:2 創造力を育てるには
AI技術が発展し、今よりさらに、あらゆる作業が機械によってこなされるようになる未来を生きていくには、21世紀型能力の中でも、機械にはない人間特有のスキルである創造力が非常に重要です。家庭で創造力を育てる方法をご紹介しましょう。
過干渉せず、自由な時間を与える
教育熱心な親御さんは特に、自宅で子どもとふたりになると「私がこの子の相手をしなくては」と一生懸命に構いすぎてしまう方が多いのではないでしょうか。しかし、教育の専門家であるマイク・ランザ氏いわく、子どもたちは、自分たちで自由に遊ぶときに先天的な創造力を発揮するのだそう。親が過保護であると、創造力を削いでしまうと同氏は言います。
親子で一緒に遊ぶ時間ももちろん大切ですが、子どもの創造力を育てるためには、子どもを自由に遊ばせることも大切なのです。たまには思い切ってひとりにさせてみてはいかがでしょう。初めは退屈そうにしていたり、何をして遊べばいいのかわからず戸惑っていたりすることもあるかもしれませんが、そうした時間が創造力を育てていくのです。
ブロックで遊ぶ
「ブロック」が、教育効果の高いおもちゃだということをご存じでしょうか。レゴジャパンが2018年3月に「レゴと知育の関連性に関する調査」の結果を発表しています。レゴジャパンは、東京六大学出身者を対象に、子どもの頃のレゴとの関わりやレゴによる知育効果について調査しました。その結果、東大出身者の68%がレゴブロックで遊んだ経験があることがわかったのだそう。
教育ジャーナリストのおおたとしまさ氏は、レゴブロックの効果について以下のように述べています。
パズルやテレビゲームのように、あらかじめ設定されたゴールがありません。学校の勉強は、あらかじめ決められた正解に速く正確にたどり着くことを目的にしがちです。それが子供たちの学びの意欲をそいでしまうことがあります。でもレゴの場合、正解は自分の中にあります。旧来の学校の勉強ではなかなか伸ばせない探究心・創造力を、レゴは刺激してくれるのだと考えられます。
(引用元:PR TIMES|東京六大学出身者600名に聞いた「レゴと知育の関連性に関する調査」 3月10日は東大合格発表!東大出身者の約70%がレゴ経験あり!“レゴ育”が東大入学への近道だった!?)
ブロックを思い思いに組み合わせ、形にしていくことによって、探究心や創造力が育てられるのです。
ちなみに、前述の調査結果によると、レゴブロックで遊んでいた東大生のうち94%が、説明書なしで自由に組み立てるタイプのレゴを好んでいたのだそう。ブロックは、さまざまなものを組み立てて楽しみながら、21世紀型能力をはじめとしたあらゆるスキルを磨くことができる、非常に教育効果の高いおもちゃなのです。
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これからの社会に必須の能力である21世紀型能力は、ご家庭でのちょっとした習慣や、遊びを通しても鍛えられるもの。お子さんの将来のために、できることから実践してみてはいかがでしょうか。
(参考)
学びの場.com|意外と知らない”21世紀型スキル”(vol.2)
ATC21S|About the Project
Psych Central|9 Ways to Support Your Child’s Creativity
PR TIMES|東京六大学出身者600名に聞いた「レゴと知育の関連性に関する調査」 3月10日は東大合格発表!東大出身者の約70%がレゴ経験あり!“レゴ育”が東大入学への近道だった!?
NEA|Partnership for 21st Century Skills
Partnership for 21st Century Skills|P21 Framework Definitions
国立教育政策研究所|平成25年度プロジェクト研究調査研究報告書
東洋経済オンライン|「考える力がない子」を変える3つの問いかけ
All About|生活の中で子どもの「考える力」がみるみる伸びる工夫